修練の時間
少し修正しました。
旅立ちから2日目、私達はエトーリアへの旅路の最中である。
あせる気持ちもあるが、時間上今からではもうどうしようもないこともあり、皆、あせる気持ちは薄れていった。
それに、まだ間に合わないわけではない。
タイムリミットまでおよそ数ヶ月、それまでに出来る事をしなければならない。
現在、私達はネーネからの魔術の講習を受けている。
理由は先日の訓練の際、ベオがネクさんから受けた指摘。ボルト系魔術の取得を目指しているからだ。
同時に私は回復魔術を勉強している。
「いいですかぁ~。ボルト系の魔術は基礎魔術にして極めることが難しいといわれているんですよぉ~。先ずは魔力で矢弾を作成するところからですぅ~」
なんでも、ボルト系魔術とは、炎だと【炎の矢弾】氷だと【氷の矢弾】と言うように、様々な属性に対応できる基礎魔術だそうだ。
基礎ゆえに、取得自体は簡単なのだが、それを極めようとするととたんに難易度が跳ね上がるという。
「無属性の矢弾さえ作ることが出来たらぁ~、後は各属性をつければいいだけなんですからぁ~」
「ぐぐぐぐううううううううぅぅぅ」
ベオは唸りながらも魔力を精製し、手の中に矢弾を作ろうとしていた。
半ば力任せな魔力の操作だが、それでも目で見えるほどの魔力が手の中に集まっている。
この魔力操作だが、基本課程の目標は手のひらに魔力弾を作成し、それを撃ち出すことである。
これは【ルイン】と呼ばれる基礎魔術で、この魔術を手のひら以外で作成し、矢状にして高速で射出するのが【ボルト】だそうだ。
これらの魔術、1発の威力こそ弱いものの、大きなメリットが存在している。
それは魔術の呪文詠唱が不要であること。
そもそも魔術の詠唱とは、世界に書き込まれた呪文を読上げ、魔力を捧げることによって発動するらしい。
“らしい”と言うのは、ネーネから聞いた話であることと、その呪文そのものを誰も見たことが無いからだ。
ネクさんから貰ったこの神眼でも見えないことから、私としては多少懐疑的なのだが、目に見えることだけが、私達の常識だけが真実ではないのは、十分体験している。
なので、私とベオは魔術を取得すべく、ネーネに教えを請うているのだ。
ちなみに、私の回復魔術習得だが、一向に光が見えない。
回復魔術は基礎として、相手の患部に触れ、魔力を流して回復を促がす方法と、 詠唱を行い、対象となった者を癒す方法の2通りある。
前者は私のスキルの『簡易治癒』と組み合わせて発動できるようにはなったのだが、後者が全く上手くいかない。
魔術理論を理解出来て居ないのと、魔力操作が下手なのが原因のようだ。
二兎追うものは……とは言うけれども、私もボルト系魔術を勉強すべきだったか?と思ってしまう。
と、言うのも。コレには理由がある。
先日の訓練の際。私達はネクさんにこっぴどく、ボロボロになるまでヤラレタのだが。
ネクさんが取った戦闘手段の中に、無詠唱でのボルトと近接戦闘を組み合わせたものが有ったのだ。
あの時はベオを重点に攻めていたから、恐らくはベオに習得させたい戦闘スタイルがアレなんだとおもう。
当のベオもそこは理解しているらしく、今まで取得した矢弾系スキルとボルト系魔術にリンクも視野にいれた訓練を行っているのだ。
「でもぉ~、実際にスキルと魔術がリンク出来れば大幅な強化ができますからねぇ~」
とはネーネの言葉だ。
そんなネーネだが、本人は何もして居ないわけではなく、私達に魔術を教える傍ら、横を向いておしゃべりをしている。
誰と話しているかなどはベオの目には見えないだろうが、私の目には宙に浮く3つの光球が見えている。
その光球の正体だが、それは訓練の際にネクさんから譲り受けた精霊の幼体である。
幼体と言っても、与えた魔力のによって絶大な効果を発揮する風精霊である。
とはいえ、ネーネに憑いているため、ネクさんが使っていたような効果は発揮出来ないそうだ。
その事を残念がっているか、と思えば、そんなことは一切なく、さも当然のように受け入れていた。
一応、ネーネもネクさんから戦闘の合間にアドバイスを貰っていたのだが……
「ねぇ。ネーネは結局名前をつけないの?」
そのアドバイスの1つが名前である。
精霊は名前をつけると、それに込められた思いに沿って成長していくそうだ。
それゆえ、ネクさんからも落ち着いたら名前をつけることを奨められているのだが。
「なかなか言い名前がおもいつかなくてぇ~。それに彼らの一生を左右してしまうことですしぃ~」
と、苦笑いを浮かべながら、迷っていることを明かす。
当の本人はなかなか踏ん切りがつかない様だ。
そのため、もう1つネクさんから提示されているアドバイスにしたがって今、手を動かしている。
「だから代わりに、ソレなのね。・・・…私がそういうのが上手ければ手伝えるのになぁ~」
私はネーネの動く手を見ながらそうぼやく。
本当に私はこういったモノが苦手でいけない。
「だいじょうぶですよぉ~。それにコレは自分で作ることに意味があるんですからぁ~」
そう言うネーネは話しながらでも手を動かしている。
ネーネの手の中には、まだまだ未完成ながらも、人形が作られていた。
全くもって、私が言えた事ではないのだが、その人形はお世辞にも上手く出来ているとか、可愛いとかは言い難い。
それでも、思いを込めて作るのが大事だとネクさんが言っていた。
この人形は、精霊の依り代として機能する予定なのだ。
これは精霊魔術の応用の1つで、自身や武具に憑依させるのではなく、人形に憑依させ使役する方法である。
更にこの人形と一体化すると受肉までいくのだが、そこまでの作品を作ることは難しいだろう。と言われていた。
本来、この技術体系は『精霊魔術士』でなく、『人形士』や『傀儡士』『死霊術氏』の分野だと注意がされていた。
それでもこの技術は有効だという事で概要をおしえて貰っていたのだ。
無論。その際はネクさんが作った人形を相手取っていたのは言うまでも無い。
デメリットとして、ステルス性の消失や、魔術使用時の魔力のロス率上昇などがあるものの、
精霊の安定。自立運動、長期活動などが挙げられる。
そ のため、ネーネは人形造りに励んでいるのだ。
「まぁ~。当分は荷台に揺られるようですしぃ~。1体は造りあげたいですねぇ~」
まだまだ掛かる移動。
その間に作ってしまおうという意図がみえる。
がしかし、その考えを打ち砕く声が前方より届く。
「残念だが、そうも言っていられないようだ。今経路を確認していたが少し問題があってな。エトーリアに到着後、数日間ほどダンジョンに篭ることになる、そのつもりで居てくれ」
何が有ったかは判らないが、どうやら、のんびりは出来ないようだ。
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そこは贅を凝らした1室
その部屋にある大きなソファに座り、大男がワインを片手に報告を聞いている。
「それは確かな情報か?」
「はい、転移門周辺でかの神の縁者と思わしき存在を確認、うち、1名は獣人と確認が取れています」
「……進行ルートは?」
「はい、まっすぐ北上し、エトーリアへ向かうと思われます。その後の行動ですが、フラクペネイトまで向かう可能性は否定できないかと」
報告を述べた部下の話を聞いて考えをめぐらす。
「よし、直ぐにエトーリアへ手の者を派遣しろ。ただ、関連が疑われないよう 、魔獣を利用し……奴らを消せ」
「御意」
その剃頭の大男命をうけ、部下は音も無く部屋から消える。
かの男が何を考えているのか……その表情からは窺い知る事ができない。
直ぐ側まで危機が迫ってきていることに、旅をする彼らは気がついていない。




