出発の朝
俺の過去話なんて退屈なだけだったろう。
そう思いながら語ったことだが、彼らにとっては本来知りえないだろう話だったので、貴重な話と喜んでいた。
後にクラスを創り、人界の住人に授けはした。だが、俺はあの少女の願いを叶えることは無かったのだ。
「しかし、その少女を含め、集落の者をネクさんは蘇らせなかったのですか?」
俺の話に少し疑問を感じたのか。
自身も元死者であるシアが、そう訊ねてきた。
なるほど、俺の権能を知る者であればそう思うだろう。
「あの頃は、神族・魔族問わず、制約は一切なかったんでな。魔族が人里を襲うことなど日常でな。そしてそいつ等に喰われるというのは、存在そのものを喰われるとう事と同じなんだ」
つまり、彼らは魂ごと存在を喰ってしまった。なので、召喚で存在を喰われたミアの父親同様。俺でも蘇生をさせることが出来なかった。
俺の蘇生も万能ではない。こういう存在そのものを喰た者には対応できないのだ。
「あの時、魔族が持っていた権能は『魂喰い』肉体に傷をつけず、魂だけを喰い殺す権能だ。この手の能力で命を落とせば俺の権能でも蘇生出来ないからな。覚えておけ」
今だこの権能を持つ魔族も存在し、下位のEXスキルも現存している。
話のついでとはいえ、注意を促がすのだった。
「話が少し逸れたな。二人にクラスを授ける」
俺は少し無理やり気味だが話しを戻すとクラスを授けることにした。
クラスチェンジさせようと、二人を見ると既に変更の条件が揃っていた。
所属がこの都市に変わっているのと、どうやら信仰神も俺に改宗しているようだ。
何か心に変化があったのだろう。
先ずはレクスからだ。
「人族:レクス・ホムラビ。[盾闘士]のクラスを授ける。役立てて見せろ。」
「はい、必ず!」
盾闘士は盾の使用を念頭に置いたクラス。
今日の訓練を活かす事ができれば大いに役に立つだろう。
本来は『絶対防御』を取得できるよう設計したのだが、そこまでたどり着けるか。
他にも、ファフニールが使っているスキルも経験次第で獲得できるだろう。
後はカウスだな
「人族:カウス・ホムラビ。[剣闘士]のクラスを授ける。役立てて見せろ。」
「はい、わかりました」
対して、カウスに授けたクラスは剣闘士は武器近接重視のスタイルだ。
名前に剣の字が入っているが、その実、剣に拘らず、様々な武器の補正を得られ、また無手でも戦えるほどの補正スキルが設定してある。
才能豊かなカウスには通常のクラスでは器用貧乏に収まってしまう。
武器近接重点という指向性を与えることと、より上位のクラスを与えること。この2つで経験を積めばカウスの才能は大きく伸びることだろう。
「クラスを授けたが、コレだけで強くなったわけではない。各々が理解し、修練を積むことで初めて人は強く成れる。日々の鍛錬を忘れないように」
二人にクラスを授けた後、翌日は出立なのでそろそろ解散するか。
周りでスヤスヤ寝ている年少組を見ながらそう思っていると、シアと目があい、 思っても見ない質問を投げかけられた。
「ネクさん、ミアを眷属とされたという事ですが、あの子で良かったのですか?」
不意の質問な上、意図が読めない。
レクスもカウスも話が読めないようだ。
「ふむ? ミアでは代価を支払うことが出来ないからな。払えないなら払えるように条件を変えただけだが?」
俺もまだ意図が読めない。
「いえ、ネクさんには断るという選択肢や、本当は他にも代価を要求できる方法が有ったのではありませんか?」
シアはそこに疑問を感じたのか。だが、更に言葉を続ける。
「それに、あの子。小さい頃もそうでしたけど。先日話を聞いたのと、今朝方の模擬戦を見て、大きくなっても何ていいますか。少し足りない気がして」
シアは「私に似てしまったので……」と呟いていた。
その言葉に思い当たる節が有るのか、レクスとカウスも目を伏せる。
俺も多少、いや、かなり思うことが有る。
「まぁ俺から見ても、冒険者に向いてないと思う。恐らく、普通に生活し、ただの村娘とかとして一生を終えることが出来ていたら、人が言うところの“幸せな人生”を送れていたのだと、俺は思う」
俺のこの告白に皆、黙って聞き入る。
そう、ミアは言っては悪いかもしれんが、センスや才能と言ったものが無い。
コレほどまでに冒険者に向かない人間も久しいだろう。
「だが、十年にも及んで一つの願いをひたすらに胸に抱き、此処まで来た。そう、此処まで来れたのだ。
確かに、多くの手助けや思惑があった上での結果だろう。
あのまま、願いを断るのは俺は選択したくなかった。かといって代価を支払えない。
俺のメリットと今後を考え、眷族という形を取ったのだ。
何より、何か目的を目標を持たないと。人は生きる意味を失う。
ミアは家族との再会を胸に、それだけの為に生きてきたと言って過言ではないだろう。
故に、ソレが果たせなくなった時や、果たした後のビジョンを一切持っていなかった。
手段が目的になってしまっていたのだと、俺は後になって思うのだ。
だからこそ、この選択は双方にとって有益なものとなりうると思っている」
俺は長くなったが思いを口にした。
シアは納得してくれたのだろうか、「解かりました」と口にすると微笑み、レクスとカウスに
「ミアがお世話になっています。これからもご迷惑をおかけするでしょうが、どうかよろしくお願いします」
そう母としての願いを口にするのだった。
翌日、朝も早いうちに皆起きだして出発の用意をしている。
皆、よく眠れたようで顔色は善い。
あの後、夜の宴会は解散となり、皆2階の部屋へと戻っていった。
俺は1人片付けを終わらせ、朝の食事の用意へと勤しむ。
シアが手伝おうとしたのだが、壊滅的に家事が苦手なので逆に足手まといになったため、そのまま、ミアの元へと返した。
ちなみに、シアはついては行かず、この都市に留守番という形である。
二人はしばしの別れを惜しみ、準備をしながらも会話を愉しんでいる。
俺はレクスに渡すモノがあるので、彼の元へ歩みを進める。
「レクス、よく眠れたか?」
その声に気がついたのか、顔を上げると
「おかげさまで、昨日の片付けを手伝わず申し訳有りません」
「それは気にするな、それより、渡すものがある」
俺は苦笑するとレクスにあるモノを渡す。
「コレはなんですか?」
俺が渡したものは腰に付けられる大振りの鞄のようなものだった。
何の変哲もないように見えるが、実は大事なアイテムである。
「これは“収納鞄”だ。収納数はそこまで多くは無いが。冒険時には役に立つだろう」
まぁ、多くは無いといっても重量換算で2~300kgは入るモノだ。
ただ、制限として、鞄の口に入るモノという条件がある。
人界では貴重な物だろうが、こちらでは割と簡単に手に入る。
それを聞いてレクスは子供のように目を輝かせ喜ぶ。
「ありがとうございます、大切にさせていただきます」
大事に使ってくれそうでなによりだ。
皆準備が終わったのか、馬車の荷台へと装備などを詰め込んでいく。
ここまで来るときに使っていた馬車はそのまま残っており、引き続き彼らの足となってくれるだろう。
俺は見送りと共に、転移門への道を進む。
この転移門はトラフ爺に頼んで創ってもらったものだ。
転送先は彼らが来るときに使った場所だ。
そこからフラクペネイトを目指し旅をすることとなる。
「皆。気をつけるように。ミア、情報の収集、頼んだぞ」
「はい!わかりました!ネクさん、母をよろしくお願いします」
ミアの言葉に俺は頷くと、シアがミアの側まで行きなにやら話している。
家族の話に入り込む野暮はせず、おれはレクスとカウスに声をかける。
「いつ事態が動くか解からない、気をつけてくれ。それから、ミアとベオ、ネーネの3人の事を頼んだ」
俺は不安が残る年少組を2人に頼む。
「了解しました」
「任されました」
二人は俺に笑顔でそう答える。
きっと大丈夫だろう。
俺は皆を送り出す。
彼らは転移門の中へ、周囲から溢れる光とともに進んでいった。
此処から彼らの新しい冒険がはじまる。
◇◆◇
「さて、送り出したことだし、こちらでは受け入れの用意をしなければならない」
「お手伝いいたしますよ」
俺の言葉にシアがつき従う。
一抹の不安はあるモノの。俺は都市の開発拡張に乗り出した。
これでネク視点の話はしばしオヤスミです。
次からは○○視点のお話が始まります。




