過去と今と
あの後、訓練はそれこそ、皆の足腰が立たなくなるまで続いた。
皆、スキルの獲得はできなかったようだが、戦闘方法や立ち回りなどを学ぶことはできたようだ。
まぁ、俺の攻撃をひたすらに捌いていただけだったのだが。
今は皆、汗や血で汚れた身体を洗いうため、温泉に行っている。
湯につかり、心身を癒している頃だろう。
訓練開始前は昼頃だったのに、今では日も暮れてしまった。
俺は皆が温泉に行っているその間に、夕食をつくっている最中である。
折角なので、と。俺は宴会が出来るだけの量を用意した。
彼らは明日にはこの都市を立ち、ベオの故郷、フラクペネイトを目指すことになっている。
どのようなルートを通って行くかは彼らに一任している。
あくまで、ベオの依頼で彼らが動くのだ。
しかし、彼らが温泉に行ってかなり時間がたつが……大丈夫か??
結局、彼らがもどってくるまでに、それから1時間余り経過していた。
あまりに疲れていたため、皆、湯船で寝てしまっていたそうだ。
男湯には俺が、女湯はシアに見てもらった。
ちなみに、シアは料理が一切出来ないため、俺が料理をしているとき、後方のテーブルに着いて大人しくしていた。
なにが楽しいのか、俺の料理をする姿を眺めていたが。
さてさて、温泉で寝てしまうくらいだ。皆、疲れているのだろう。
美味しいものを食べて力をつけて貰いたいものだ。
此処まで皆が消耗しているのは俺のスパルタが原因だという事は置いておく。
皆を席に着かせると、俺は乾杯の音頭を取る。
「皆、疲れただろう。明日は、フラクペネイトに出発だろう。旨い物でも食べて英気を養ってくれ。では、乾杯!」
「「「「乾杯っ~!」」」」
俺の音頭と共に、皆、料理に手を伸ばし、酒を飲み交わす。
まぁ、俺の主義で未成年のミア・ベオと肉体年齢の幼いネーネにはお酒は抜きである。
変わりにノンアルコールのソフトドリンクは豊富に品揃えしている。
皆、飲み食いしながらも、たわいの無い話や、コレまでの、そしてこれからの話に盛り上がっていく。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、夜は更けていくのだった。
年少組みが寝てしまい、彼らは上のベッドに行くこともなく、テーブルや床に突っ伏して眠っている。
今起きているのはレクス、カウス、そしてシアだけだ。
シアが気を使い、上の寝室より毛布を持ってきて彼らに掛けていく。
俺はソレを眺めながら、グラスを傾ける。
そんな俺を見てか。
「ネク様。遅くなりましたが、ありがとうございました」
ふと、レクスが俺に礼を言ってくる。
ん。どれのことを言っているのか……。
「この宴会のことなら気にするな。趣味みたいなものだ」
俺は軽く流したのだが。
「いえ、この料理だけではありません。この都市に着いてダンジョン攻略の期間私達に食事を用意いただいていたのは、ネク様でしょう?」
唐突にそんな事を言い出した。
恐らくは、明日の出発の前に言っておきたかったのだろう。
料理は趣味みたいなものだから気にしなくていいのだがな。
そう思っていると更にカウスからも礼を言われる。
「私からも礼を言わせてください。本当にありがとうございます。ネク様の慈悲のおかげでミアは無論、ネーネにベオまで、願いを叶えることができました」
「ネーネとベオはともかく、ミアに関しては本人がその対価を支払うのだ。他の者からの礼など受け取れんよ」
ミアは願いに等価の代価を払うのだ。俺に礼など不要なのだ。
「それはそうと、お前たちの家族はこちらに呼ばなくていいのか?ネーネのところはエルフ族だから、移住はしないだろし。お前達も呼び寄せたらどうだ?」
俺の何気ない言葉にレクスもカウスも急に動きを止めてしまった。
俺とシアが訝しげに首を傾げると。
「いろいろと事情が有りまして……俺もカウスも家に戻る気がないんですよ」
「ええ。戻ると怖い人が居りますので……ほぼ家出状態なんですよ」
話しを聞くと、レクスとカウスはある人物を避けて家に戻ってもないのだ。
「解かるぞ……俺も難儀な女性が居てなぁ……」
こんな所で共通の認識を得るとは。
「ネク様もそうなんですね」
「俺に“様”なんて要らんよ。だが、そうだな。俺は何時の時代も。女性で苦労するんだ」
俺はしみじみと口にだす。
俺達は自身が苦手とする相手について酒を飲みながらも盛り上がる。
暫く、苦手としている女性の話で盛り上がったが、次第にクラスやスキルの話になっていく。
「お前達はクラスチェンジはいいのか? この機会を逃せば当分は無いぞ?」
俺問いに二人は大きく悩んだようだが。クラスチェンジを実施することになった。
「ヨロシクお願いします。クラスはどういうモノを頂けるのですか?」
カウスの質問にレクスも頷き同意する。
「出来ることはある程度多いほうがいいだろうから、レクスには壁系のクラスを、カウスのはオールラウンダーなクラスを授けよう。これ自体は元々汎用で有ったクラスだが、俺が改修をしたので、専用に近いものになっておる」
俺は簡単にだが、クラスの説明を行う。
と、カウスが疑問に思ったのか、俺に質問を投げかける。
「しかし、神族とは、こうも簡単にクラスやスキルを創れるものなのですか?」
なるほど、確かにえらくあっさりとしていた為だろう。俺はグラスの酒を飲みながら少し勘違いを正す。
「いや、ここまで出来るのは俺くらいだろう。フェリアスから聞いているはずだろ? 専門家と」
俺はフェリアスが言ったことを指摘する。
「あの専門家とかネクさんの事だったのですか?」
「そりゃそうだ。俺以上の専門家なんてそう居ないぞ? なんせ、俺がクラスやスキルを創ったんだから」
俺の爆弾発言に驚きを隠せない面々。
まぁ、ついでだ。少し教えれやろう。
「昔、この世界が神族と魔族とで世界を割る程の戦争を行っていた時代。その頃の人界は神族と魔族との衝突で生物の滅亡の危機にまで陥っていた」
その当時、人界には今以上の種族が存在していたのだが、その戦争の犠牲となり、滅亡していった。
俺はその頃、人界に降りて戦争被害の救援を行っていた。
そんな中、ある集落を訊ねた際。人族の少女がこんな願いを口にしたんだ。
『私達は死ぬために生まれたんじゃない! 神族や魔族の道具になるために生まれたんじゃない! 世界が滅びそうでも、人が住めない環境になろうとも。私達は生きたい! 死にたくない! 生き足掻くための力がほしい!』
ただ真摯に、生きたいという願いを込めて俺に訴えてきた。
だが、その少女は俺に払えるだけの代価を持っていなかった。
その点を指摘すると、
『わたしの全をあげます。どうか人界の全ての種族|がこの世界で生きていくだけの力をください!』
そう答えた。
「解かるか? まだ年端の行かない少女なのに、自分のことだけでなく、人界全てを何とかして欲しいと、本気で願ったんだ」
酒の肴にするには、合わないのだが。俺はクラス製造の歴史を語るのだった。
「では、ネクさんはその願いを叶えてクラスを創ったんですか」
俺の話を聞いてレクスはそう思ったようだ。
だが、残念なことに少し違うのだ。
「いや、違うんだ……。俺が願いを叶える前に、俺に出会った翌日。ただ通り道に有ったという理由で、その少女は自分が住む集落ごと、魔族に喰われてしまったんだよ」
俺のその言葉に息を呑む。
「そう、結局、その少女の願いは叶わなかった。
俺は亡き少女への義理のためか、偽善のためか、人界に住まう者にクラスとスキルを授けた。無論、俺一柱で創ったわけではないが、それでも。クラスの付与などの大元は俺が設計したものだからな」
過去を振り返りながらそう説明する。
「あの頃はレベルなんて表示は無かったんだよ。今では当たり前にあるが、これは後の神族・魔族が面白半分に設定したものでね。修練度が一目で判るようにと創られたものだ」
俺はしみじみと過去を語っていた。
「身の上話っぽくてつまらなかったろ?」
俺は少し茶化すようにそうつぶやくのだった




