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秘境迷宮の創造主《クラフター》  作者: 黒狗
2 ‐神々の降臨
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その理由

 そう、あのベオという獣人の願いは本来、ここに来るだけで達成できたのだ。

 こちらにも人界の情報が少し入っていたからこそ、比較的に速く対応ができた。


 再びあの国が動き出そうとしている。

 まだ時間は有るが、油断はできないだろう。

 しかし、俺が直接的に介入することは出来ない。


 そのため、()()()()()()()()が気を利かせて間接的に介入できるようにしたのだろう。

 ありがたく思っておこうか。


 それでも、如何するかは彼らの選択に任せないといけないのだ。


「まぁ、この都市を拠点にするのだ、関係者の移住くらい、何のことは無い。どうせ人は住んで居ないのだ。都市部は好きに使って構わない。」


 俺の言葉に顔を綻ばせるベオ。


「よかったな! これで庇護者を探しだした上、必要なら移住も出来るぞ」

「そうすね! ネク様! 皆、ありがとうっス! 街に戻り次第、巫女様に話してみるっス!」


 ベオに皆が祝いの言葉を投げかける。


 しかし、それでは間に合わない。

 俺の手に入れた情報では、タイムリミットまであと二・三ヶ月というところだろう。

 逃げるにせよ、防衛するにせよ。このままでは後手に回る事になる。

 この情報を彼らに知らせる必要があるのだが……


 さて、どうするか。

 俺は表舞台に立つつもりが無い。

 そのために、表舞台で活動する手足が欲しいが故、ミアを眷属にし、その仲間を配下に置いたのだ。

 だが、このままでは後手に回らざるを得ない。


 俺の直接の依頼で動く場合、名前が表に出る可能性が有り、後に面倒事が来る恐れがある。

 しかし、回りくどいやり方自体が面倒。如何するかな?


 とりあえず、俺の名前についての口止めだけはしておく。


「一つ言っておく。この都市……いや、正確に言えば、“俺に直接会ったことが無い者”に俺の名前を言ってはならない」


 俺は禁止事項として彼らに釘をさしておく。

 理由が知りたいのか、彼らのリーダー……名はレクスと言ったか、が俺に尋ねる。


「恐れ入りますが、何か理由が緒有りなのですか?」


 ふむ、理由か、まぁ言っても構わないだろう。

 獣人族の伝承にも名が残っていないことを話題に上げていた気がした。たしか、フェリアスが似たような事を言っていたようだし。



「俺は“ある理由”から人界に名前を残さないようにしている。そのため、庇護下にある獣人族にも名前の伝承が残っていないのだ」


 そう、俺はある時期……大戦以降、徹底的に名前を隠してきた。

 今の迷宮配属が無ければ恐らくは人界に関与せず、傍観者として存在していたはずだ。



 そう、秘匿しなければならない。

 俺の権能はそうする必要がある。



 俺の断固とした意思を感じてくれたのか。

 彼らは了承をし、名を秘すことに同意した。


 知っているものには名を話しても問題はないが……。

 ふと、ベオを目にし、再度釘を刺す。


「ベオ。特にお前の部族の巫女には黙秘し、秘匿するように」


 俺のこの指定に疑問を覚えたのか。ネーネが尋ねる。


「どうして巫女はだめなのですかぁ?」

「いや、誰にでもダメなのだが、仮に顔を合わせていても巫女と呼ばれる存在には名を教えたくないのだ。理由は……まあ、秘密だ」



 俺はそう言い、はぐらかす。

 秘密なものは秘密なのだ。


 俺はちらりとミアを見やる。

 案の定と言うべきなのだろうか?

 皆を巻き込んだと思っているのだろう。

 言葉数も少なく、沈んでいる様子が見て取れる。

 俺は心の中でため息をついたのだった。







 朝食を終えると、俺はミアを呼び眷族について話をすることにした。

 先の朝食時もそうだが、ほとんど言葉を発しない。

 さらに気がめいることに、暗いのだ。


 まぁ、俺が返済期間三百年と言ったのが原因だろうが。


 本当はミアのみで話をするつもりだったのがだ。シアもついて来ている。

 自分のことも含まれているから、と言って譲らなかったのだ。


 まぁ、仕方ない。


「さて、ミア。願いの代価として、お前を眷属にした。まぁ、理由はいくつかあるが、最大の理由が、お前では代価を払えないからだ」


 あの時、団欒の時間を多く取らせようと想い、詳細な説明も無く送りだしたため、今になって説明の必要が出てきた。

 ミアは俺を見つめ、だまって聞いている。


 返事が無いが、俺は説明を続けることにした。


「先ず、死んだ人間を生き返らせる。まさに今死んだ人間ならば、負担は無い。だが、過去に死んだ者を蘇生しようとすると、大きな問題がある」


 少し関心が出たのか、瞳から聞こうとする意思が感じられる。

 俺は更に続ける。


「先の二つの差。それは“そこに魂が残っているかどうか”だ。魂は死後、回収され、輪廻を巡り、再度転生する。そのため、過去に死んだ者の魂は例外なく転生していると考えていい」


 そう、魂は転生する。

 この世界、魂の総量は微細な誤差はあるとは言え、均一である。

 どこかの種族が増えれば、別の種族が減る。

 そのバランスの上で成り立っているのだ。


 では今回のケースではどうなっているのか?


 当然、シアの魂も既に転生をしていた。

 情報自体は世界書に記載されていたため、把握は出来たが、肉体・魂共に現物は残っていない。

ではどうするか?


「シアの魂も転生していた以上。お前に言う選択肢は限られていた。更に、肉体も無い以上、本来ならば“叶えることが不可能だ”と、宣言することが神として正解だっただろう」


 ……そう正解だったはずだ。

 だが、俺は再製させることを選択した。


「だが、俺は世界書でお前の家族の行動を知った。そして、幼い日に決意した願いを十年以上も持ち続け、多くの助けがあったとはいえ、ここに来た以上、“俺”は叶えると決めたのだ」


 俺が叶えると決めた以上、それは成し遂げる。


「だが、その為に願い自体の難易度があがってしまい、お前には重い代価を背負わせることになった。その点は詫びよう」


 これは正直な気持ちだ。一人の背中に二・三人分の重みを背負わせるのと同じことなのだ。

 いかに彼女の願いとは言え、少しでも軽くする手段が無かったわけではない。

 だが、それでは彼女の願いの本質と離れてしまう。

 そうだ、彼女の……ミアの願いは。


「お前の願いは、家族との再会、団欒だった。それ故、記憶の欠損もなく、しっかりと認識できる形で、家族三人を揃えることに全力を注いだのだ」


 ミアは俺の言葉を聞いて眼を丸くさせている。

 神が謝罪をし、そして、自分の意思を汲んでくれていたのだ。


 だが、その結果が重い代価。人には背負えない。ではどうするか?


「その結果の重い代価だが、人間には到底払えない。払えないものを神は叶える事ができない。故に。俺はお前が払えるようなプランを立てた」

「それが……眷属ですか?」


 俺の言葉に初めてミアが返事を返す。

 その眼は真剣で、自分のこと、今後のこと、母の、仲間のことを聞きたいという意思があふれている。


「ああ、それと、ミア。お前の代価はお前のモノだ。母親や仲間には背負うことができない。朝食の際の会話は方便だ、ベオの故郷の住人を移住させる必要があったのでな」


 心配していたのだろう。その点は詫びなければならない。

 シアはやはりそうか、と笑顔で頷く。恐らく、直感系スキルで把握はしていたのだろう。

 ……スキル等で強化しすぎたか?


「ただし、お前の三百年は掛かるという話は嘘ではない。この願いの代価はそんなに甘いものではない」


 その上で俺はミアに話す。


「ただし、それはあくまでも外の情報を送り続けた場合だ。お前が眷族として働けば、その分代価は支払われ、任期も短くなる」

「眷属としての仕事……ですか?」


 他の者に迷惑を、負担を掛けていないとわかってミアは少し元気を取り戻したようだ。


「ああ、先ほども言ったが。俺は人界で精力的に活動する気が無い。だが、昨今の冒険者の弱体化や情勢が気になる。そこで人界で活動し、かつ、俺の事情を話せる者が必要になったのだ」


 俺は今回、なぜ眷属という形を取ったのか。そして何を求めているのかを説明する。

 その上で、今の懸念事項をミアを経由して皆へと伝えようとおもう。


「そのことを前提として聞いてもらおう。

 今回、ベオの故郷、獣人都市『フラクペネイト』が間もなく危機的状況に陥るだろう。それでも尚、俺は名を出すことが、表に出ることを避けねばならない」


 俺の話にミアに顔が引き締まる。


「私に、何ができるのですか?」


 ミアの言葉に頷きながら、

「恐らく、猶予はあと数ヶ月……その期間無いに移住を開始して欲しい。それでも後手に回ってしまうだろう。多くの命が失われるのを覚悟しないといけない」

「そんな! 一体なにが起こるのですか!?」


 言葉から、表情から、その規模を感じとったのか。

 俺の言葉にミアだけでなく、シアも表情を硬くする。



「今回……いや、前回から終わって居なかった、と言うべきだろう。まもなく、『オーレア』が『フラクペネイト』へ軍事侵攻を開始する」



 都市国家『オーレア』

 それは……ミアやシアの故郷だった


ネクがミアを眷属にした話の補足です。

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