再出発②
私達を歓迎してくれる、ルイミウォテル。
前回は此処までこれなかったのに今回は警邏をしているドリアードも出なかった。
先ほどの言葉といい……やはり私のクラス“使徒”というのが影響をしているのだろう。
「どうも初めまして、ミア・バレインシュと言います。よろしくお願いします」
と、私も挨拶を返す。
改めて目の前の精霊を見つめる。
それは美しい精霊で、そのスタイルの善いプロポーションは見るものに感嘆を与えるだろう。
しかしながら、目の前に居るのに、居ない。そんな矛盾を感じる。
おそらく、肉体を持たない精神生命体なのだろう。
核となる本体はあの大樹に居る。そんな気がするのだ。
「この精霊樹に何かごようでしょうか?」
微笑みながら、私達に尋ねるルイミウォテルさん
そうだ、此処に来た目的を果たさなければ。
私は疑問に思う心をひとまず置いて、ここに来た理由を説明する。
「お恥ずかしながら、実は食料をさがしていまして、この都市部近郊で何か果実か食べれる野草など、採取出来る所はありませんか?」
「探してるのですよぉ~、精霊様~。何かないですかぁ~?」
私の説明に続き、ネーネもお願いをする。
ネーネの提案でこの精霊を訊ねてきたが、近辺の食料事情まで把握しているのだろうか?
そう思っていると
「食料ですか。あいにく私共、精霊は人族が食べるような食事は取りませんので……」
その言葉にガッカリとうな垂れるネーネ。
少しは予想をしていたのだ。精霊と人族では価値観が違いすぎる。
なんらかの情報が手に入ったとしても、恐らくは樹海の中に生息する食べれるキノコ類だろう。
そう思ってはいたのだが、改めて聞いて情報ナシはやはりショックだ。
しかし、ルイミウォテルさんは私達が知らない情報を教えてくれた。
「そもそも周囲の樹海は、我が神とは違う神族が管理しています。その土地には此処に住まう精霊は不干渉を決めています。皆様方も、あの地には赴かないことをお勧めしますよ」
っ!? その情報は初耳だ。
この周囲には他に神が存在しているのか!?
「それでは、この近くにネクさん以外の神族が居られるのですか?」
思わず私はルイミウォテルさんに尋ねてしまった。
そのとたん、纏っている気配が変わり、壮絶な威圧感を放ちながら私に釘を刺してきた。
「ミア・・と言いましたね。神の名を軽々しくいけません。なによりもあのお方は、伝え語られるべき伝承から、自ら名を消した方。知らない者の前での発言は今後控えるよう。お気をつけください」
私はその雰囲気に息をのんでいた。
今は思わず言ってしまったが、やはり、名前を言うのは禁忌だったのか……。
フェリアスさんが名前を出さなかったことからうすうすそんな気がしていた。
そのせいもあり、私は仲間にも最下層で起こったことの詳細は話せずにいるのだ。
私のミスでルイミウォテルさんに叱責されることがあったが、周囲の情報を教えてくれた。
なんでも、この周囲は『樹海の神』と呼ばれる存在が管理している土地らしく、一度入るとそう簡単には戻って来れないという。
そのせいもあり、この都市部にはドリアードしか存在していないのだという。
ドリアードだったら樹海の中でも迷うことも無く、安全なのだという。
「大変じゃ~ないですかぁ~。レクスたちは周囲を探索して来るっていってましたよぉ~??」
「そうだ、急いで連れ戻さないと!」
その話を聞いたネーネが慌て、わたしも呼び戻そうと急ぎ戻ろうとするのだが、
「その心配には及びません。彼らはこの都市部周辺から出ていません。それに、出ようとすれば、周辺警邏をしている木精霊から止められるはずです」
その言葉に思わず胸をなでおろし、安堵する私達。
しかし、安全は確保されたが、樹海近辺にはいけず、レクスたちのグループは食料を確保出来ないと言う事にもなる。
私はふと、この大樹……精霊樹と言ったか。に、目を向ける。
初めて見たときから気にはなっていた。
ネーネはこの樹の実を見て“リンゴ”と言った。
私の目にはそれはただの果実には見えないのだが……。
私は意を決してルイミウォテルさんに訊ねる
「失礼ですが、この樹に生っている果実は食べることはできないのですか?」
その言葉に、ルイミウォテルさんは急に黙ってしまった。
その表情は先ほどと、たいして変わってないように見えるのだが、酷く思案をしているようにも見える。
暫くの無言が続き、私とネーネはドキドキしながら返事を待った。
どれほど時間がたっただろうか。結論が出たのか、返事を告げる。
「我らの神に仕える貴方の要望である以上、この“実”は自由にされて構いません。ですが、この都市部から持ち出さない事。コレを条件とさせていただきます」
そう口にし、おもむろに右手を掲げる。
するとどうだろうか、たわわに実っていた実が1つ、また1つと落ちていく。
実が生っている場所は低いところでも、地上より数十メートルも離れているため私達では手が届かなかったのだ。
落ちてくる実を受け取ろうと走りだすのだが、実は地上にぶつかる前に自然と減速、そのまま、静かに地の降り立っていった。
恐らく、ルイミウォルテさんが何らかの方法で操作したのだろう。
私達は礼を言うと、その実を集めれるだけ集め始めた。
私はその一つを手にとって見る。
確かに外見は何の変哲も無いリンゴであろう。
しかし、私にはその真っ赤なリンゴが、黄金色に輝いて見えるのだ。
赤いのに黄金色……。
何かおかしな表現なのはわかるのだが、そとしか言いようが無い。
……これって『神眼』ってスキルの効果だよね?
普通の人には認識できない父を視認でき、精霊の素性がおぼろげながら見て取れ、赤いリンゴが光って見える。
いったいどんな効果のスキルなんだろうか。
そもそもこクラスについてもわからないことだらけで、新しく追加された三つのスキル。そのカテゴリーの“ユニークスキル”というのも私には初耳なのだ。
なんとかしてネクさんと再度会わなければ……。
そう思いつつも、ネーネとともにリンゴを回収していく。
かなりの数が集まると、私達はそれぞれに籠にいれ、宿屋まで戻ることにした。
「ルイミウォテルさん、いろいろとありがとうございました」
「精霊様~、ありがとうございますぅ~」
「いえいえ、貴方たちもお気をつけて。……ネーネ、また会いましょう」
そう言って笑顔で見送るルイミウォテルさん
感謝の言葉をかけ、私達は精霊樹を後にした。
宿屋に戻ると、すでにレクス達三人が戻ってきていた。
「お帰り、成果はどうだったかい?」
「こっちは散々だったんだがね」
私達が戻ったのを確認するとレクスとカウスが声をかける。
「ただいま戻りました」
「ただいまなのですよぉ~」
その様子を見ながら、私達が挨拶をすると
「いゃぁ~。ホント全然だったっすね~。近隣には何もないですし、樹海まで足を運ぶとドリアードたちにこの先は浸入禁止だっ追い返されるし」
べオが悔しそうにぼやいていた。
流石に狩人。自分の本業が成果を出せないのは悔しいようだ。
私達は精霊樹での事をかいつまんで説明した。
無論、ネクさんの名前と私のスキルのことは引き続き秘密にしている。
「そうか……周囲の樹海はそんな事になっているのか。来るときもそうだったが、近づかないほうが正解だな」
「そのようだな。まぁ、神族の小難しい話は置いといて、せっかくミアたちがもってきたリンゴ。食べてみるか」
「そうっすね! 見るからに美味しそうなリンゴっすから」
私達はリンゴを一個づつ試食してみることにした。
皆はそのリンゴの期待をもっているようだ。
いや。むしろ不安なのは私だけなのだろう。
皆に配ると、さっそくベオが一口齧る。
「コレうめぇぇぇぇぇ!?」
その言葉に他の皆も口にする。
「ほんどだ! うまいな! これ!」
「ああ、こんな美味しいリンゴがあったとは……」
「とってもとっても美味しいですよぉ~」
皆が絶賛するなか、私もリンゴを口にする
!? ナニこれ! 美味しい!
口に入れたとたん、ほのかな酸味と上品な甘さが口の中に広がり、さわやかかな風味が鼻をぬけていく。
今まで食べていた果物は何だったのだろうか……。
そんな。食べたこともない美味しいリンゴ。
いくら食べても食べ飽きない、いくらでも食べれる旨さに感激しつつ、私達はとってきたこのリンゴを次々と口に入れる。
だが、私達は知らなかったのだ。いや、本来は私が気がつかないといけなかったのだ。
このリンゴは……私達が思っているようなリンゴの実ではないと……。
1章でもこのリンゴについて少し触れています。
当然のことながら、ミアたちは知りませんし、ルイミウォテルはその辺の感覚が人とは全然ちがいます。




