蘇生と創造②
ネク視点なのでサブタイトルは前回の引き続きで②となります。
俺の話を聞いてミアは嗚咽し、とめどなく涙を流していた。
自分の父親がどれほど自分のことを愛してくれていたか。
名も剥奪されて、急激に老いた状況で、それでも自分のもとに帰ってきてくれた。
そのことが、本当に嬉しかったのだろう、そして、もう合えないことが悲しいのだろう。
ひとしきり泣き、それでも気丈に立ち上がると、そこには不安げな気配など一切ない、強い意志を感じさせる瞳があった。
「ネクさん、よろしく……お願いします!」
その言葉に俺は頷くと意識を切り替える。
ここから先はダンジョンの管理神ではない。今此処にいるのは悠久の時を生き る、命の神だ。
これでこの願いを叶えぬようならば、それは神が廃るというもの。
今この時に限り、俺は自重などすることもなく、権能を行使すると決めた。
その為にも、既に準備をすませていたのだ。
俺はラヒルデに視線を向けると、準備の進捗を確認する
「ラヒルデ、準備の方はどうなっている」
恐らくは、初めて見るのであろう。
俺の意思の篭った強い視線をうけ、ラヒルデが緊張をしている。
フェリアスに関しては、はるか昔、その光景を見ているためか、俺を見て過去を思い出し、笑みを浮かべている。
緊張をしてはいたが、それでも元々オルの眷属。早々に意思を切り替え、状況報告をする。
「はい。先方には連絡を入れておきました。もうまもなくこちらに到着するそうです。また、今回の一件は大神にも既に報告をし、了承を得ています」
流石。すでに許可を取り付けていたか。オルにも連絡を入れているようだ。
まぁ、自分の試練の報酬のため、他の神の権能を借りるのだ。それは仕方あるまい。事後報告でまた小物からグチグチ言われるのも癪だ。
ちなみに、ラヒルデが神を名で呼ばないのはこの場にミアがいるからで、神の名を人に軽々しく教えるわけにはいかないからだ。
フェリアスを蚊帳の外の会話しているのは、うっかりで漏洩しないようにするためだ。
そうこうしているうちに、新たなる声が聞こえる。
「ふぉふぉふぉ。お前さんがワシの力を借りたがるとは……珍しいなぁ」
待った神が、空間の転移と共にやってきたのだ。
声の方向には、なじみの古神が立っていた。
「すまんな。少し力を借りたい。詳細はラヒルデから聞いているか?」
と、俺はその転移してきた老神、トラフ爺にたずねた。
「ああ、聞いておる。いつでも行けるぞい」
そう言うと、足元に魔法陣を展開させ、いつでも行ける用意をする。
「助かる、では、やってくれ」
その言葉にトラフ爺は頷くと権能を発動する。
周囲が白く塗りつぶされ……それが晴れると、俺は炎と煙が立ち込める、瓦礫の中にいた。
ここは11年ほど前。ベヒモスの襲来があったあの『オーレア』の都市であった。
今回の方法はこうだ。
現状、蘇生させるための亡骸は無く。
母親をこのまま再製してしまうと、記憶の欠落により、幼少期のミアのことを忘れる可能性がある。
ならばどうするか。
俺が直接、亡骸の回収をすればいい。
その為にラヒルデに今回の手順を説明し、トラフ爺を呼んでもらったのだ。
トラフ爺の権能は珍しい。時空をゆがめ、回廊を創り、任意の場所へ連れて行く。
その効果どおりの権能『時空』を有する古神なのだ。
そして、この任意の場所というのは 何も地図上の場所だけを指すのではない。
制限こそあるものの、トラフ爺は過去へも転移することが出来るのだ。
その制限は単純なもので、『その時を生きているものに干渉をしない』ことである。
これは、過去にいっても歴史は変えられず、過去に物を持っていくことが出来ず。過去存在しているものを持ってくることもできない。
言うなれば、ただ観ることができる権能ともいえる。
過去から持ち帰れないのなら亡骸の回収も出来ないように思えるが、俺にはソレだけで十分である。
俺がその亡骸を一目みるだけで、『世界書』には記されていない、蘇生に必要な全ての情報を得ることができる。
この選択を容易に出来なかったのは、代価の問題があったためだ。
そもそもの話。はっきり言っていくらミネルバやフェリアスの助力があったとしても、自力で最下層まで来れない程度の冒険者に対し、規模の大きな願いを叶える気がなかったのも事実だ。
試練においてはファリアスの挑戦やラヒルデの介入のため、途中終了となったが。あれはこちらにも落ち度があるため、目をつぶることにした。
それでも、俺が願いを叶えたいと思うほどの人物ではなく、しかも、その願いも穴だらけで支払うことが出来ないほどだった。
故に、多少の不憫さと同情を感じていたが、払えない代価の願いを叶えるつもりなど無かったのだが……
肩入れする奴らや、ミアの父の行動を見て、願いをかなえてもいいと思ってしまった。
それに、一つ、代価を払わせる方法があるのに気がつき、ソレが俺にとっても有益なものだと判断できたことも大きい。
そんな理由から、俺はミアの願いを叶える事にしたのだ。
瓦礫の中を歩き、目的の人物を探す。
ミアの話が正しければ、ベヒモスと遭遇したはず。
俺は周囲の情報を解析し、目的のモノを探す。
探しているものは簡単に見つかった。
なにせ、怒りで大暴れしているのだからだ
その光景を目にして、俺は呆れてため息をつく。
「あのハゲは何の考えもなしに民を扇動する……こうなることに気がつきもしないくせに」
そこには蹂躙の後があった。
本気で怒るベヒモスは手当たり次第破壊しているようだ。
あのハゲはベヒモスの暴走と思っているようだが、それは違う。
明確な怒りと意思をもってこの国を滅ぼしに掛かっているのだ。
それはそうだろう。
自分の主。ようは俺だ。を、崇める種族でもなく、俺が庇護する土地でもない。
全くの無関係の人間がいきなり自分を呼び出し、戦争の道具として使役しようとするのだ。
しかも、その相手がよりにもよって俺の庇護対象である。
これは神獣にとって、見知らぬ無礼な者から“自分の兄弟を殺せ”といきなり命令されるに等しい。
それに怒ったベヒモスがその命令を下した国を逆に滅ぼそうとしただけのことである。
それゆえ、ベヒモスがいる箇所は遠くからでも判るほどに荒れていた。
俺はそこに脚を向けると。ほどなく、目的の人物を見つけることができた。
亡骸は酷い有様だった。
恐らくはベヒモスが吹き飛ばした家の瓦礫が直撃したのだろう。
それだけだとまだ形が残っているのだが、その後。ベヘモスの足で踏み潰されている。
実際。ここに来るまでに、こんな状態の亡骸は多く見かけた。
その亡骸の隣に、三、四歳だろうか、少女が呆然として、へたり込んでいた。
……コレが幼少期のミアか。
この光景を目の当たりにして、よく壊れず成長出来たものだ。
恐らく、老冒険者が本当に愛してそだてたのだろう。
この後、召喚士や護衛から奪った存在力が切れるまで、ベヒモスは暴れ続けることとなる。
一応は、このタイミングで存在力をベヒモスから抜き取ればミアの父親も含めて、復活させることができるのだが、失われたものが戻るわけではない。
それに、今回は干渉も出来ないことだし、気にする必要もないだろう。
俺は目的の亡骸を解析し、完全に復元できる状態まで情報を集める。
これで、魂・記憶ともに完璧に再製することができるだろう。
これで目的は達したのだが、さらにここから数年後、とあるダンジョンまで足を運ぶことにした。
出来ることはやっておきたいのだ。




