蘇生と創造①
俺はその願いを聞き、ミアたち一行のレベルの冒険者としての技量を考慮して、そんな知識を持っているとは思っていなかった。
俺から見たミアの年頃は十台半ばだろう。その十年以上前、あのベヒモスの一件で亡くなったのなら、そのころはまだ五つにも満たないはずだ。
そんな子供が、亡骸の保管などを考えることなど出来るはずもない。
その話を聞き、ミアは瞳に涙をため、泣き崩れてしまった。
いつ頃から夢見たかは解からない。それでも、今、その希望が音を立て崩れたのだ。
俺はその事を考えつつも不憫に思う。
子供の抱える、かけがえのない、無垢なる夢であり、希望なのだろう。
……ミネルバがミアを俺の元へ導いた理由。解からなくもない。
が、ソレには二つの大きな問題があるのだ。故に、俺はこの事を胸に秘めておくことにした。
と、その様子を見ていたフェリアスが口を挟む。
「お待ちください。ミネルバが此処に導いた以上、その願いを叶えるすべがあるのではないのですか?」
……流石に俺の権能も、ミネルバの権能も把握しているだけある。
普段使わないし、見せたことも無いので、得ているモノは僅かな情報のはずなのだが。
その事に気がついたのか。
フェリアスはそう俺に尋ねながら、ミアを抱え起し慰めながら俺に返答を求める。
あまり、此処からの話はしたくないのだが。
あくまでもミアの願いが“蘇生”なので、そこを突いてこれ以上の話を出さないようにしていたのだが……。
そこにラヒルデも援護に入る。
「ネク神、私からもお聞きしますが。何かの手があるのですか?それでしたら、どのようなモノなのかお話いただけませんか?」
二柱とも、情が移ってしまったのか……。
普段はあんなに仲が悪いのに。
俺は嘆息しながらミアに向き合う。
「出来る、出来ないで言えば、亡骸がなくてもその人物を復活することは可能だろう」
その言葉にミアが顔をあげ、その言葉からもたらされた希望にすがろうとする。
だが……これには恐らく……希望なんてモノはない。
「悪いが、あまりいい話ではない。それを覚悟で聞け」
そう言い、俺は言葉を続ける。
「大きな問題が二つ有る。まず一つ、復元度の問題。亡骸があれば、亡くなる直前の状態に蘇生をすることができるが、亡骸がない場合はそうはいかない。
肉体が無い以上、正確な記憶を保存しておけず、記憶の欠損が発生する」
そもそも、その場合は蘇生とは言わず、対象の人物の創造、もしくは再生といえるだろう
俺はそう説明をする。
例えば、俺が一から創造した場合、まず、その対象の情報を得る必要がある。
神界に存在する『世界書』にアクセスすることで詳細な、生死の情報を含めた個人情報を得ることが出来るが、それを元に復元したとしても人の心や記憶を復元させることは困難である。
細かな差異に目をつぶるとしても、記憶が無い可能性が有る以上、それではミアの願いを叶えられないだろう。
なぜなら、家族が自分のことを覚えても居ない。それは家族の形・魂をした別の人物を創り出すのと同じことなのだ。
俺の説明を聞きながら皆は黙っている。俺の言葉を検討しているのだろう。
だが、まだ問題は終わりではない。
「そしてもう一つ。代価の問題だ。そこまでの願いであると、払わなければならない代価が大きすぎる。恐らく、お前の人としての人生、可能性、その全てを俺に捧げても支払うことは出来ないだろう」
これもその通りだろう。
そもそもの問題として、代価を払えないのだ。
過去死んだ人物を一から可能な限り復元して蘇らせるのだ、等価で考えても1人の人生では足りないだろう。
そこまでの代価を払えない以上、死者の創造も選択できないのだ。
その事をはっきりと伝える。
ミアは如何するべきか悩んでいるのだろう。
が、残りの二柱は何か違和感を感じているのだろう。
確かに、俺にも違和感が若干残っている。
俺の権能を知り、その上で、恐らくはこの事態になるであろう事を認識した上で此処に導いた存在がいる。
現実的ではないのだ。しかし、ソレを知るであろう、そう、知恵を司る物、ミネルバが言っているのだ、ここでなら願いが叶うと。
ミアの願いの根源は家族との再会だ、記憶の無い、家族の形をしたモノを創り出しても意味は無い。
ならば、完全に蘇らせるにはどうすればいいのか……俺はソレを考える。
せめて死亡直後の亡骸が手元にあれば……もしくは、この目でみれば。
その思考にハッとする。
そうだ。そのやり方であれば、確かに完全蘇生が可能だろう。
だが、俺の力だけでは無理だ、頼めば手を貸してくれるだろうが……
一応、直ぐに対応できるように『世界書』にアクセスする。
フルネームがミア・バレインシュといったか……
検索し、両親の情報を確認する。
母親はオーレアにてベヒモスにて殺されていたが、父親については驚くべき事実が記されていた。
この条件では願いを叶える手段を検討しないといけない。
それに、代価の問題が解決していない。そこを棚上げしておくべきではない。
そこで、俺はラヒルデに思念通信をかける。
『おい、ラヒルデ、少しいいか』
『はい、ネク神。……何か内密なことですか?』
口に出して、ミアに知られるのもマズイ。
そのため、こういった思念んでの会話を行ったのだ。
俺はミアの願いをかなえるための手段を説明した。
ある程度の手段は確立したのだが、あくまでも、対価が払えることが前提である。
『そのあたりは、あの子の覚悟次第でしょう。その辺りでは支払う方法が無いわけではありません。人の一生で支払えない代価であるのなら、その前提を換えればいいのです』
ラヒルデの提案はわからないでもない。
俺はミアにその覚悟が有れば、叶えてやろうと決めた。
『では、ラヒルデ、あちらへの連絡と準備を頼んだ』
『了解いたしました』
そう言うと俺たちは通信を切り、俺はミアへ再度問いかける。
「願いを叶える為、払う代価……どれほどの覚悟をもっている?何を成してでも、再び家族と再会したいとねがっているのか?」
それは神としての問いだった。




