神の試練⑤
相変わらず、俺の権能は応用は広いが、地味なこと極まりない。
今のは対象の体調を調整したのだ。
恐らく、フェリアスは今、猛烈な倦怠感と睡魔に襲われているはずだ
俺の権能に抵抗出来るのは俺と同格か、俺以上の神格・霊格を有する存在だけだ。
ソレ以外のモノには問答無用で発動させることができる。
ただ、自分自身には作用させることが出来ないので、自分の身体能力の補強などはこの権能では出来ないのが難点だろう。
フェリアスがよろめきながらなんとか立ち上がる。
「……ネク様……すがに私などを相手に、コレを使うのは大人気ないのではないでしょうか?」
ものすごく非難を込めて私を見つめてくる。
よく立ち上がれるものだ。これは相当にキツいはずなのだが……
そう思いながらも、
「何を言う、お前、今本気でやってただろう」
そう言うと、あきれたようにため息をつく。
あの状態のフェリアスは基本的に神族との直接戦闘に無類の力を発する。
神族では俺のような特殊な権能を有していないと相手もできない。
というかだ。
「お前の権能は使用に制限が掛かってるだ。そんなにポンポンと簡単につかうものじゃない!」
フェリアスの権能、『神喰い』と呼ばれるその効果は、自身の発した魔力が神族の神気を喰らい、無効化する権能だ。
神族に無類の強さを発揮するがゆえに制限も多い。
一つは政治的・組織的な問題。
大戦時以降、この手の種族殺し系の権能には使用制限が厳命されており、神・魔のパワーバランスや軋轢を避けるため、本来、その対象に使用すると、相応のペナルティーを受けることになる。
今回の直接攻撃での使用が上にバレると、結構な罰則を受けることになるだろう。
立ち居地が少し特殊なヤツなので、そうなっても、役職上の降格か、当面の謹慎が言い渡されるくらいだろう。
役職の降格は眷属なので、そもそもたいした拘束にもならず、謹慎も主である魔獣聖母のもとに篭るくらいだろうし……。
まぁ、上司たる魔獣聖母が管理不行きで多少ごたつくだろうが、そもそも、当事者である俺が報告しなければそこは問題にはならない。
そしてもう一つは能力上の問題である。
フェリアスの場合、権能の影響で魔法を使うことができない。
自身が魔法を使おうとしても、発動することは出来ず、霧散してしまのだ。
原因として考えられるのは、魔法の根源が神力に由来するとされていることだ。
そのせいで、自身の権能で自分の魔法をかき消すという現象が起こるのだろう。
故に、フェリアスには遠距離の攻撃手段が殆どなく、ナイフ投げなどの投擲物に魔力を通して使うか、弓矢などを使うしかない。
その結果、近接戦闘の技術が磨きに磨かれていき、権能の効果も有り、恐ろしいまでの戦闘能力を有している。
ちなみに。よく喧嘩をしているラヒルデとフェリアスだが、能力相性とお互いの 神・霊格の差から考えても、もし、直接やりあうことがあれば、ラヒルデには勝ち目は無いだろう。
俺は安易に権能を全開にして挑んできたフェリアスに苦言をいいつつ
「あと、お前。周囲が全く見えなくなるのを何とかしろ。俺が新顔を巻き込んで攻撃を仕掛けたのに、助けるそぶりも見せんかっただろう?」
その言葉に、今気がついたのか、疲労と眠気で朦朧としている中、周囲を見回している。
本当に全く気がつかなかったようだ。
「せっかく此処まで連れてきたんだから。最後まで面倒を見てやれよ。ラヒルデが世話を焼いて緊急避難を掛けなかったら、あの新顔は試練資格を剥奪されてたぞ」
と、「おまえ、ラヒルデに借りが出来たな。」と少し嫌味を込め、言ってみた。
すると、効果は絶大で、ものすごく嫌そうな顔をして。呻きながら突っ伏した。
本気で失態と感じているのだろう。
コイツは昔からそうだ。俺も人のことは言えんが。何かに夢中になると、周囲が全く見えなくなる上に、相当に抜けているのだ。
呻くフェリアスを尻目に、俺は残りの試練の時間を確認する。
まだ残りがかなりあると思っていたのだが、残り時間は30分を切っている。
とはいえ、周囲の神獣全ては俺が吹き飛ばしてしまったし。粉塵爆発の影響もあり、部屋自体がボロボロである。
今から新顔を呼んでも。追いかける鬼役の神獣が居ないため、何もすることなくクリアとなってしまう。
ソレを考えると、この試練はここで終了でもいいと思っている。
試練なんて、超えることを前提に存在しているのだから、イレギュラーでクリア出来る分は構わない。
問題はどんな願いを求めるかなのだから。
俺は動けないでいるフェリアスに
「おい、お前がもう動けないのなら試練はこれで終了とするが。問題はないな?」
一応の確認をした。
どのみち、もう一つのクリア条件の『迷宮主の撃破』は達成できないだろう。
そう聞くと、突っ伏した顔をあげ、恨みがましい目で見つめながら
「仕方ありません、終了に同意します。ですので、ネク様、私のこの状態をなんとかしていただけませんか?」
やはり会話もきついのだろう、フェリアスの言葉からもその疲労と睡魔がにじみ出ている。
このまま俺が解除しないと永続でこの常態が続くことだろう。それこそ、一度寝てしまうと、自力では目を覚ませないほどの深い眠りに落ちるほどに。
その言葉に頷きながら解除する
【解除:状態復元回復】
俺はフェリアスの身体の状態を元に戻すと、観戦しているであろう、ラヒルデに呼びかける。
「少し早いがこれで試練を終了する。新顔をつれてこい」
暫くして、ラヒルデが新顔を連れてくる。
連れられてきたその少女は、おっかなびっくりしている様子でこちらを見てくる。
おそらく。予定よりも早く試練が終了したため、相当に不安なのだろう。
試練の内容は格神の裁量、匙加減で決められる面もあるので、そこはまぁ問題にはしない。
本人が圧倒的に実力不足ってのにが少し遺憾ではあるが……。
(一応、ミネルバが此処教えてるからな……必要なのだろう。それに、同時に三人も揃うってことが……運命操作……オルの仕業か。)
俺は縁が深い、知恵の魔神と運命神の事を思う。
きっと、これは必要なことなのだろう。
「内容は全くの実力不足だが、今後に期待という意味も込めて、一応の試練突破とする」
そういうと、その少女の顔に安堵が浮かぶ。
まぁ、実力が足りなさ過ぎるのは痛感していることだとう。
と、そもそも俺はこの新顔の少女の名前を知らないことに気がつき。
「改めて名乗ろう。俺は命神・ネク、生命を司る神である。お前の名前はなんと言う?」
再度の名乗りの後に名を尋ねた。
少女は慌てたように、名を名乗る。
なぜか、後ろに控えているラヒルデが軽く睨んでいる……なぜだ?
「わ、私はミア・バレインシュと申します!」
ガッチガチにこわばった表情でそう名前を言った。
えらく緊張しているが……ホントになんでだ?
まぁ、試練のクリア報酬として願いを叶えるか。
……無償ではないが。
「では、ミアよ。此処まで来た以上、願いがあるはずだ。その願いを口にするがいい、俺に叶えられるものであれば、叶えよう。
ただし、その願いの価値と等価のモノを俺に差し出さねばならない。それを考え、身の丈に合う願いを口にするがいい」
そう、何でも叶える。魔族と違い、神は自身が可能な範囲でどんな願いも叶えるのだ。その反面、その願いと等価のモノを差し出さねばならない。
願いの自由度が高く、効果が大きい反面、対価も相応なのである。
この等価というのは俺の主観でである。
例えば。何かの願いを乞われたとして、俺にとっての価値で代価を要求する。
願いを言った本人には金貨一枚の価値だとしても、俺にとって、その願いは10枚の価値があると判断されれば十枚要求され、その逆の場合も有りうるのだ。
簡単に、この例をあげてシステムを説明し、俺は少女……ミアの願いをまつ。
よほどの叶えたい願いだったのか、万感の思いが込められた言葉で
「十年ほど前に、神獣ベヒモスによって殺された、私も両親を生き返らせてください!」
そう発したのだった。
ふむ、見方を変えれば、俺の眷属によって殺された家族を蘇らせろと言っているように聞こえるが……。
そこは見解が違うのだろうし、純粋に家族に会いたいだけだろう。
そう判断し、俺は絶対に聞かねばならず。そして恐らく、俺の予想道理であろう質問をした。
「確かに、俺は死者の蘇生が出来る数少ない神の一柱だ。“死者の蘇生”という願いで叶える場合、それでも絶対に必要な条件がある」
俺は神として、その少女に接していた。
珍しくラヒルデもフェリアスも黙って見つめている。
俺の言葉に緊張し、それでも死者の蘇生が出来るという言葉に悦んでいるようだ。
……これから残酷な現実を突きつけなければならない。
「では、ミアよ。お前の願い、その蘇生対象の家族の亡骸を此処にもってきなさい」
俺の言葉に目を見開き、絶句するミア。ミアだけではなく、ラヒルデもフェリアスも驚いている。
まぁ、蘇生の厳密な条件なんてそうそう知らないだろう。
だが、考えれば当然だろう。『死者』を蘇生するのだ。そこに亡骸が無いのであれば……蘇生とは言わないのだ。




