神の試練③
精霊を自身の体に宿らせる。
これは精霊の受肉を参考に開発したものだ。
例で言えばうちのドリアード隊やルミリウォルテがその代表であろう。
ドリアード隊は器の強度に特化した存在で、ルミリウォルテは器の大きさに合わせて進化をさせた存在である。
精神生命体である精霊は受肉した器によって強さを変える。
これを応用したものが精霊技法である。
己の肉体を器とし、精霊を宿らせることで、自身の身体能力に精霊の力を上乗せする技法である。
そもそも、なぜ、この技法を開発する必要性があったのか。
これにはかつて起こった神魔大戦と、神魔としての肉体に問題がある。
古来から現存している神魔は、現出から完成した存在であるため、肉体の成長が無い。
これはオルをはじめとした古神全てに当てはまることであり、俺も生じたときから肉体の成長が起こっていない。
これに変化が起こったのが神魔大戦以降である。
これ以降に生まれた神魔に関しては、極緩やかではあるが、肉体の成長も発生している。
ゆえに、神魔大戦を経験したことのある存在、特に非戦闘系の神魔たちは、生き残る為にこういった対抗策を講じてきたのだ。
特に俺の権能は戦闘に容易に使えるものではない。
そんな俺が、高性能な戦闘系の奴らとまともに相対するには、自分の技量を上げる事と、こういった能力の底上げだけしか方法は残っていなかった。
その結果生まれたのが精霊技法だ。
俺は瞬動をかけ、フェリアスに肉薄する。
正面からの突進、と見せかけ、側面に回り込み、左腕を振るう。
劫火を纏う俺の拳。だが、フェリアスは短剣の側面で受けつつ、後方に飛び、衝撃を逃がす。
だが、このまま続けていても負けはしないが、勝てもしないだろう。
技量は俺の方が上だが、身体能力はいまだあちらのが上だ。
可能な限り畳み掛ける。
俺は周囲に特大の火焔弾を複数精製し、射出する。
俺自身ではまともな魔法を使うことも出来ないが、この精霊技法のメリットは 宿った精霊と同期するし、制御に精霊の擬似人格を使うことで、その精霊の得意属性に依存はするものの、ノータイムで即時に魔法が発動できることであろう。
射出した火焔弾を短剣で弾き、回避するフェリアス。
あいつに攻撃の暇を与えてはいけない!
さらにもう一手仕掛ける。
「出て来い!【創造:偽暴風大精霊】ッ」
言葉とともに暴風を冠する大精霊を創り出す。
風と共に踊る精霊。その姿は蒼い髪をした踊り子の姿をした少女である。
こちらも魂は俺が作った擬似人格を使用している。
精霊故に神格を有していないので、フェリアスの権能で無効化されることも無い。
ヴァーユは踊るように宙を舞うと周囲の風を操作し始める。
「ちょっと! ネク様! 本気ですか!?」
それを見たフェリアスが初めて動揺を見せる。
それは周囲をなぎ払う風の猛威。
ヴァーユを基点として、濃厚な精霊力を込め、放たれた【ダウンバースト】がフェリアスを蹂躙した。
◇◆◇
その光景を目にし、大急ぎで離れた。
戦闘が始まる前、私は神の戦闘と言うものは派手な大魔法とか、世界の法則を書き換える権能といった異能の応酬だと思っていた。
いざ始まってみると、確かに。見たことも無い異能ではあるが、高度な技量による技の応酬がそこには有った。
フェリアスさんが、一瞬で間合いをつめ、攻撃をしかけると、それをあのネクという神が何も無いところから巨大な腕を出現させて、即座に迎撃し、その腕がフェリアスさんを襲う。
そんな異能の戦いであっても、それは高度な戦術があり、理解は殆ど出来ないが。そこから、高い技量をうかがうことが出来た。
と、その腕をフェリアスさんのあの鎖が拘束し、とたんに腕が消えてしまった。
その後は投げナイフと光球の派手な応酬を経て、再び近接戦に移ろうとしたとき。目前に巨大な双角の獣が現れた。
姿はダンジョン内にいたプチベヒモスと良く似ているが、こちらの方が背が高く、シャープなイメージがある。
巨大な炎の巨人と光る紫鎖の鞭そんな応酬の影響か。私の周囲にもかなりの熱気が立ち込めていた。
「っ! ここにいては危ない!」
そう感じ、私は距離をとり始める。
と、二人から視線を外し、周りをみると、あのプチベヒモスが数体、こちらに向かってきていた。
接近を察知した私は、接触を避けるため、移動を開始する。
しかし、次の瞬間。爆音とともに、後方から火柱が上がる。
振り返ると、全身から真っ赤な魔力だろうか、纏わせながら、神がフェリアスさんに高速で突進していく。
「いまなにが……?」
神の拳を受け、後方に飛ばされるフェリアスさん。
さらに追い討ちとして無数の火焔の球がフェリアスさんに殺到する。
あぶない! と思ったが、魔力を纏わせた短剣で弾いていく。
私の理解の及ばない領域で、攻防を繰り広げている2柱。
だが、神の直ぐそばに女の子が出現した事により、局面は大きく動く。
私より少し年上のような、蒼髪の美しい少女は上空へ舞い上がると、周囲に激しい耳鳴りが聞こえてきた。
思わず耳を押さえた瞬間。轟音とともに何かが。まるで、空が落ちてきたと感じられるような何かが、落ちてきて、
「きゃああああぁぁぁぁぁぁっ!」
私は悲鳴を上げながら、追いかけていたプチベヒモスごと、もの凄い速度で吹き飛ばされていった。
◇◆◇
フェリアスに向かって【下降気流】を撃った俺はその悲鳴に気がついた。
「やっべ、巻き込んだか?」
そう思いながら、ヴァーユに風を操作させて挑戦者の少女を保護する。
挑戦者を保護するってのもおかしな構図だな……。
そう感じながらも、一応は助け、その場に放置する。
少女の周囲には同じく巻き込まれたプチベヒモスが転がっており。直ぐにでも起き出して彼女を捕獲するだろう。
もうすこし危機察知を働かせ、近づかないように逃げるなどの対応をとるなどの。
せめて、神の試練を受けているという緊張感を持って欲しいものである。
そう感じながらフェリアスに尋ねてみた。
「おい、最近の冒険者は質が落ちてんのか? それともコイツらが特別か??」
周囲に粉塵を撒き散らかしながら、ダウンバーストの爆心地から声が聞こえる。
「残念ながら、昔に比べ、ずいぶんと質が下がってきましたね。おそらく、魔王や勇者が降臨し、戦争を起こさなくなってから、次第に低下してきたんだと思います」
何事とも無かったようにフェリアスが返事をしてきた。
少しは慌てたんだから、もう少しくらいダメージを受けてもいいと思うんだが……。
俺は更なる対処として、周囲を見渡し、一つの手を考える。
しかしながら、冒険者の質の低下には嘆かざるを得ない。
やはり、神たちが好き勝手つくったあのクラスレベルシステムが原因なんだろう。
若い神たちの間では、自分の作ったクラスのレベルを人々に上げさせるのがはやっている。
まったくもって意味の無いことをして愉しむ奴らである。
その無意味な表記に踊らされ、“レベル=強さ”と誤解し、冒険者たち……というよりも、人界の住人たちの質が落ちてきているのだろう。
俺はクラスシステムを創り出した者の1柱として、由々しく思う。
これはテコ入れが要るな……。
そう考えながら、俺はいまだモウモウと立ち込める粉塵に向かい、火焔弾を打ち込む。
補足だが、この空間。表面は石畳だが、その下はすべて樹海産木材で出来ている。
さらに言うと、この石畳。もともとは此処の炭鉱ダンジョンの素材を使い作り上げている。
その木材と石畳を俺が密室の箱型空間に配置して作った試練の間なのである。
さて、その素材を粉砕し、粉塵が舞うこの密室。そこに火焔を放てばどうなるか。
そして、フェリアスを中心とし、特大の粉塵爆発を引き起こし、その衝撃は全薙ぎ払ったのだ。
ネク視線とミア視線ではモノの捕らえ方が違います。
あえて、大本のダンジョンにであった炭鉱を使い石畳を作り、さらの退けた樹海がもったいからとその下に敷き詰めています。
もはや巧妙な罠です。




