神の試練②
俺は此処を管理する神として、挑戦者を迎える。
扉を開けた少女はこちらをじっと見つめて固まっている。
……奥にはフェリアスが見えているが、ドヤ顔で笑っている。
フェリアスはとりあえず置いておこう。
一応、あの少女の方は、このダンジョン、初の挑戦者である。
ここはひとつ、迷宮の主として、ソレらしく振舞おうではないか!
「良く来たな、この迷宮の主として、汝ら挑戦者を受け入れよう! この俺、『第一級神:ネク』の名において、ここに試練を執行する。その、持てる力の全てを使い、見事突破してみせよ!」
俺は高々に宣言し、試練の課題を出すのだった。
「さて、試練が開始されたよ、ミアちゃん、しっかり頑張るんだよ」
「は、はい! 解かりました!」
フェリアスさんの言葉に、緊張でどもりながらも、しっかりと返事をした。
私は目の前にいる人物を見据える。
黒尽くめの格好をしているが、先ほど名乗った通りなら、あの人が神なのだろう。
そして、これまでの二回の蘇生。その時に聞こえていた声が先ほどの神物と一致する。
もしかしてと思ってはいたが、あの蘇生のときの声は此処の神様だったようだ。
「さて、私はあちらに用があるから、離れるけど、いいかい? 此処まで来たときのことを思いだいして、頑張って逃げなよ?」
「はい! ここまでありがとうございました!」
頷く私をみて、フェリアスさんは笑いかけ、先ほどネクと名乗った神様のところへと歩いていった。
此処から先は私一人で頑張らないといけないのだろう。
私に課せられた試練の内容は……『制限時間を生き抜くこと』だった。
◇◆◇
挑戦者の少女からフェリアスが離れ、こちらに向かってくる。
これから起こるであろう、イベントに少しわくわくしている自分が居ることを理解し、おれは苦笑を漏らす。
フェリアスはこちらに歩みながら、にこやかに話す。
「こうやって相対するのは、本当に初めてですね。ネク様、よろしくお願いいたします」
「あぁ、一時とはいえ、愉しませて貰おう。……とはいえ、終わったあとのことを考えるとなぁ~」
そうだ、これが終わったあとの報酬は……だが、それも後回しにしよう。
今は、久々の遊びの時間だ!
「まぁ、今は目の前のことに専念するとしますかねぇっ!」
意識を切り替え、目の前に集中したときには既にフェリアスは急接近をしていた。
縮地法か!
笑いながら短剣を繰りだすフェリアス
俺は左へ避けながら、右手のローブの袖を振るう。
神獣のローブでナイフを防ぎつつ、一旦距離をとる。
俺のローブは素材が素材なため、牽制程度の攻撃では傷なんてつかない。
だが、流石はフェリアスと言ったところか、即座に俺について来てナイフの連撃を繰り返す。
今はただ、魔力を流しているだけだが、本格的に攻撃に移ったら対抗は難しくなるだろう。
そもそも、フェリアスは生粋の戦闘系である。
それに対して俺は創造系。
直接的な戦闘では俺の勝ち目は薄い。
ならば、どうするか?
無いなら借りれば善い、要るならよそから持ってくれば善い。
俺の本来のスタイルで戦うまでである。
「さてさて、このままじゃれ付かれていてもいいんだが、少し、こっちからも遊んでやるよ」
そう言うと、俺は行動を起こす。
周囲に一メートル程の黒い渦を作りだし、そこから異形の腕を召喚する。
俺は人に比べて、圧倒的に丈夫では有るが、基本的な身体能力は人間とさほど変わらない。
そんな俺が、高性能な神魔と張り合うためには如何するか。
自身が弱いなら、身体能力の高い存在を創造し使役すればいい。
今俺が使っているのはファフニールの腕単体を量産し、俺の思考に同期させて操っているのである。
無論スペックもファフニールと同じであるため、あの堅牢な鱗も健在である。
この鱗を切裂ける存在など、極々一部であり、そのため、これは俺にとっての盾であり、矛でもあるのだ。
短剣の攻撃を腕を割り込ませることで防ぎ、もう片方の腕で攻撃を繰り出す。
この硬度、単純にぶつけるだけでも相応のダメージが期待できるのだが、すんなり回避されてしまう。
フェリアスはしなやかに動き、襲い来る腕を回避する。
どちらかと言えば速度重視の戦闘スタイル。この程度を回避するのはたやすいのだろう……。
「流石ですね、それではネク様、こちらも愉しませていただきます」
その言葉とともに権能を使用。すれ違い様に腕を鎖で拘束する。
「ちっ、【封じの鎖】か!」
その鎖を視認すると、即座に腕を送還する。
フェリアス固有の権能は対神に特化している。この【封じの鎖】もその1つで、相手が神格を有している場合、問答無用で拘束をする効果がある。
しかも、神格が有る者には鎖は破壊不可能というオマケつきである。
俺が腕を送還したのを見ると、即座にナイフを複数投擲してきた。
恐ろしい速度で迫るナイフ。高速思考の中、その効果を解析する。
視認できるのは六本だが、七本目がこちらの死角になるように投擲されている。
さらに念を入れて、ナイフ全てに魔力コーティングと【封じの鎖】の効果が乗っている。
神格を有する俺では受けたり、紙一重で回避をすれば【封じの鎖】が発動し、俺の自由を奪うだろう。
かといって、非神格でナイフを受けようものなら魔力コーティングの切れ味によって貫通する恐れがある。
ならば如何するか。
既にナイフが飛んできているので、何かを召喚し、防御させるのは間に合わない。
刹那に思考を完了し、行動へと移す。
紙一重の回避がダメなら。打ち落とす!!
瞬動を発動し、大きく距離をとる。
そのまま、左手で銃の形をつくり、飛んでくるナイフに向かって突き出し、射撃のイメージを作る。
指先から即座に飛んでいく光弾がナイフに振れ、【封じの鎖】が発動される。
だが、拘束するはずの俺は大きく距離をとっているため届かず、光弾も触れた後、砕けて消えている。
ああいった接触系や一定距離で発動する間接系は神気の弾丸などで弾幕をはり、発動させて処理をするに限る。
だが、そのナイフを投擲したフェリアスの姿が見えない。
やはり罠か
俺は即座に反応をする。
神格者がだめならば!
「っ!【創造:偽火焔大精霊】!」
即座に『炎の大精霊:イフリート』を創造し、俺の人格をベースに作ったエミュレータで起動させる。
俺に防げないのなら、防げる存在を、非神格の存在を造ればいい。
と、別方向から、鎖が付いた短剣が飛んでくる。
【封じの鎖】の欠点はアレが完全に対神用であるということにある。
それを受け止める対象が神格を有していないのであれば、容易に防ぐことができるのだ。
俺はイフリートに迎撃をさせ、投擲主に視線を向ける。
そこには鎖を手に持つフェリアスの姿があった。
フェリアスがその腕を振るうとその先にあるナイフが連動し、俺に襲い掛かる。
ソレは鎖と短剣で出来た鞭のようでもあった。
フェリアスの連撃は続く。合間合間に投げられるナイフを布石とし、自身が瞬動で近づき短剣を振るい、あるいは鎖を振り回して短剣を誘導させる。
戦いなれをしている上に身体能力のスペックが高いフェリアス。
こういう単純な戦闘では次第に追い込まれていくだろう。
俺は創り出したイフリートに火焔を使わせ、飛んでくるナイフを迎撃させ、鎖つきの短剣は鎖部分を受け、砕いていく。
イフリートも性能は悪くは無いのだが、神獣にはスペックで劣る。
このままでは拘束されるのも時間の問題だろう。
だが、簡単に終わるのは面白くない。
「さすがに強いなぁ! 本来の切り札を使わないでコレだ!」
俺はフェリアスに称賛を送る。
と、フェリアスが笑いながら指摘する。
「ネク様こそ、切り札を使わないどころか。全然攻撃してこないではありませんか」
そうだ、俺はまだフェリアスに攻撃を仕掛けていない。
まぁ、このまま手を出したとしても、神獣の攻撃は防がれ、大精霊では有効打を与えられず、俺が直接だと身体能力差であっという間に拘束される。
ならば……どうするか?
俺の身体能力をブーストしてやればいい。
人族が使うアーツなどは既に使っている。
これはそのもう一歩先に進んだもの。
「では、少しギアを上げるぞ。退屈はさせてやらんから安心しろ!」
そういうと俺はイフリートに対し、こう宣告した。
『宿れ:偽火焔大精霊』
技術体系としては神懸り、神降ろし、憑依などといわれているものである。
本来は下位の存在が上位の存在の力を借り受け、力を増す技法だが、俺が使う場合は様相が異なる。
宿ったイフリートをそのまま身体能力の底上げに使い、爆発的に戦闘能力を上げる。
これが、俺が昔開発した技法。精霊技法である。
俺は急激に上がった身体能力を使い、フェリアスへと突き進むのだった。




