果てを目指して⑥
ミアルート最後のストーリーです。
フェリアスさんは今、最深部まで行こうと言った。
元々、フェリアスさんはこのダンジョンのことを知っているようだったが、詳細をはぐらかし、攻略に関する情報は教えてはくれなかった。
だが、冒険者としての知識、心構え、技術などは教えてくれていた。
そのため、このダンジョンの攻略などの助力は願えないとおもっていた。
私は有りがたく思いつつも、フェリアスさんに確認を取る。
「ダンジョンの攻略を……手伝っていただけるのですか?」
「ホントは直接手を貸すつもりはなかったんだけどね。このままだと、深部に到達するのはかなり厳しいからね」
フェリアスさんが言うには、最下層までのルートを総当りでマッピングして最短 ルートを探し出しさえすれば、正面突破をしなくても、深部にはたどり着けるという。
「というかね、おそらくベオ君が単騎で走るんだったら実際いけるんだ。彼のEXスキルと種族相性がいいからねぇ。その上でルートを確立し、全員で最短ルートを通れば。実は皆でもクリアは出来てたんだよ」
その言葉に愕然とする。
私たちだけでも、やり方によっては到達できていた、と。
確かにベオだと此処で命を落とすこともない。その上でダンジョンを把握し、そこから全員で挑むことができたのだ。
「皆で挑戦することに拘り過ぎていたね。ダンジョンにおいて、情報収集は大事だ。ベオが一度提案していたろ?斥候として単身潜ればいいって。あれを煮詰めて進めればよかったのさ」
そうあっさりと指摘した。
レクスが渋面を作り、強く唇を噛んだ。その様子を見ていたカウスが
「おっしゃる通りだと思います。確実に情報を得る手段がありながら、ソレを放棄したための結果だと。ですが、我々は、それでも誰か一人に負担をかけて。鉄火場に送り出すのを良しとしたくないのです」
「理想論だね、その言葉は実力を伴ってから、初めて口に出せる言葉だよ。もしも他の誰かにそう指摘されたくないのなら。それが出来るだけの実力を、経験を、力を身につけな」
フェリアスさんはカウスのその言葉を理想論だとバッサリと切り捨てた。
実際に私たちだけでは進むことも、戻ることも出来ない状況まで追い込まれてしまっている。
私たち全員がその言葉に反論できないで居た。
「悔しいだろう? だったら、実力をつけな。それこそ、このダンジョンを全員で正面突破できるくらいまでさ、それが課題だよ」
そういと、先ほどまでの厳しい顔、冒険者の顔から、今までの快活な笑顔を見せるのだった。
翌日、私たちは下層へ出発することとなった。
参加着てくれるフェリアスさんだが、あくまでも助っ人であり、ルートの選択は私たちに完全に一任するという。
ただ、移動速度を少し落とし、無理の無いペース配分で進むようにとのことだった。
「ここから先は上層とは違い出てくるプチ神獣はランダムだ。しかも、全員が連携してこちらを襲ってくるから、注意するように。」
ベオが居ない状態であえれば、プチガルーダから遠距離の光球による牽制をされ、堅牢で素早いプチファフニールが包囲、ブレスの一斉正射。さらに後詰として プチベヒモスが斧を振りかざし突進してくるという。
いつかここを正面突破……と言うのことは、彼らと戦わねばならないのか。
そのことに、フェリアスさんに言われた課題の難度に目がくらみそうになる。
だが、私たちが萎縮してしまいそうになるなか、「さっさといく!」と私たちにげきを飛ばし、進んで行く。
話に聞いていた通り、部屋に入ると数は同じく十体ながら、上層までのモンスターが勢ぞろいで出迎えてきた。
私たちを見据えると、咆哮をあげ、ベオに向かって走り出した。
ただ、上層と違うところは、全てのモンスターが意思疎通をおこなっているようで、空を飛ぶプチガルーダがベオの進行ルートに割り込み牽制し、他のモンスターは散開し、包囲を形成しようとしていた。
連携しだすと、ここまで難度があがるのか。
ベオは避けようとした方向に空から回り込まれ、思うように動けないでいる。
ネ ーネがその包囲網を突破するため魔術を行使しようとしたときだ
「邪魔だね。暫くおとなしくしておきな」
声とともに、恐ろしい速度でモンスターに投げられるナイフ。
そのナイフには、目で見てハッきりとわかるほどの魔力が込められており、そのナイフがモンスターに接近した瞬間。ナイフが弾け、鎖となってモンスターを拘束していく。
そのあまりにも早い手際に驚き、呆然と立ちすくんでいると。
「ほら、ほら、ぼさっとしてないで。さっさと進む!」
その言葉に私たちは我にかえり、急いで出口まですすむのだった。
「あれが……遠征者の実力ということですか……なんて遠いんだろうね」
「ああ、だけど、俺たちもこのままでは居られない。そうだろう?必ず、力をつけるぞ」
フェリアスさんに指摘された。そしてあの力を見せられ。私たちは自分たちの弱さ。そして戦略の甘さを痛感していた。
だけど、必ず。皆で強くなってみせる。私たちはそう誓うのだった。
最深部まではフェリアスさんのおかげで移動に苦労はなかった。
部屋に入るとベオに向かってくるモンスターを全て拘束し、出口までのルートを確保してくれたのだ。
ただ、ダンジョンの広さと、通路の複雑さが問題で、何度も同じ部屋をループしつつ、数時間かけて最下層まで到達することができた。
「ここが……最下層」
私たちはその部屋に降り立ち、あたりを見回した。
先ほどまでの部屋とは違い、直径三十メートルほどの円形をした小部屋。
部屋には二つの出入り口と四つの扉があり、出入り口は上の部屋とをつなぐものである。
では……この扉は?
私は気になり、扉を注意してみてみる。
各扉にはそれぞれ違いがあり、雄牛・龍・鳥が描かれており、残りの1つは3つの円が描かれている。
最後の一つはともかく、前者の三つには嫌な予感がしてならない。
どうもそれはネーネも同じようで。
「これは絶対に危険な感じがしますねぇ~」
と言っていた。
私は振り返り、フェリアスさんに聞いてみようとする。
と、レクス達がその獣が描かれた扉へと進んで行く。
「レクス、カウス、それにベオも!いったい、何をするんですか!?」
私が慌ててそう問いただすと、フェリアスさんが私の肩を掴み、
「いいんだよ、そういう話なんだ」
そう言って私を止める。
いったい皆は何を知っているのか?
恐らく、ダンジョンに潜る前にフェリアスさんと話し、何らかの取り決めをしたのだろう!
私はフェリアスさんに止められたまま、必死に問いただしていた。
「レクス! カウス! ベオ! どういうこと!? 説明してよ!」
「みんな、どういうことですかぁ~??」
私とネーネを蚊帳の外において、皆が何かをしようとしている。
すると、レクスが笑いながら。
「大丈夫! 心配するな! いいか、お前らはこれから神に挑むんだ。俺たちのことなんか気にしてる場合じゃないぞ!」
そう言いながら三人は扉をくぐっていく。
それを見届けるとフェリアスさんが
「理由は後で話してやる。いいか、今は時間が無い。正面の扉が開いたら、全速で走るんだ。いいね」
そういうと正面の扉を見据える。
暫くすると、扉の円の模様が一つ、また一つと発光し、三つ全てが光ると同時に扉が開いたのだ。
「扉が開いた。いくよ!」
そういうと私たちを走らせ、門をくぐる。
門の先には直線の長い通路がありただひたすらに走っていく。
と、フェリアスさんが先ほどのことを説明してくれる。
「さっきの扉。あの奥に、正面の通路を開く鍵が置いてあるんだ。ただ、その鍵を開けると同時に、入ってきた扉に鍵がかかる。そして……その扉を開け、戻るためのボスが出現するって仕組みになっているんだ」
私はただ、走りながらその話を聞いていた。
ボスが出るだけなら全員で……それこそ、フェリアスさんの助力が有るのなら、なんとかなるのではないか?
「フェリアスさんのお力では、だめだったのですか?」
なんて、厚かましいことこの上ないのだろう。それでもフェリアスさんに訊ねてみた。
フェリアスさんは気にすることも無く。
「私でも単身では荷が重いんだよ。なにせ、あそこの出てくるのは……」
時は少しさかのぼる。
鍵を開けたレクスは、その姿を目撃する。
体長は二十メートルを越すだろう。強靭な四肢とツメ、肉体をもち、太い尻尾を地面に打ち鳴らす。
頭部から背中にかけ、燃えるような赤い赤い鬣。
顔は少し面長な肉食獣のソレであり、口からは牙が見えている。
何よりも特徴的なのは、太く、大きな双角であろう。
一目見ただけでも解かる。これは魔獣などとは生温い。
生きた自然災害だ。矮小な人の身で抗えるものではない……
同じような思いを他の二人もしていた。
カウスは扉の先で鋼鉄の巨龍と相対し、ベオは美しい怪鳥と対面す。
ともに人の領域を超えた災害であり、天災である。
そこに居たのは伝説にわずかに伝えられる、三体の神獣であった。
「っ! 神獣の本体!? あれは人がどうこうできるものじゃない!」
かつてベヒモスをこの眼で見たことがある私は、そう断言していた。
「そうだね、私もそう思うよ、あいつらもそれがわかった上で行ったんだ。」
そうだ! それが解かっていて……三人は扉をくぐったのだ!
私たちを行かせるために!
と、ネーネが急に止る。
ネーネは何か上をみて何かを見ていたのか、急に
「わたしはここに残りますぅ。どうやら、私の探している精霊様はここにいるようですのでぇ~」
そういうと、私に笑いかけ、行ってくださいという。
私が対応に悩んでいると、
「そうだね、ネーネちゃんの望みはそうだったね。私たちは先に進むから、ここでアイツと話しているといいよ」
そうネーネの頭を撫で、笑いかける。
私たちはネーネを置いて先に進む。振り返りネーネを見ると、手をふり笑っていた。
「精霊様、ここにいらっしゃるんでしょぅ?」
ネーネは宙に声をかける。
彼女は聞いているのだ、二度目の死んだあのときに、暗闇で震えていた私に声をかけてくれた人、その人が教えてくれた。
あまりにも私が泣き止まないので、どうしたいのか、と訊ねられ、「精霊様に会いたい」と願ったのだ。
その時に、ため息交じで教えてくれたのが此処。ダンジョン最下層の中心部。
そこにいけば精霊に声が届くと。
だからネーネはここで呼びかける。「精霊様」と。
『見ていましたよ、よくここまで来ましたね』
その声とともに一柱の精霊が現れる。
外見は自分の知っている姿と変わっているが、間違うはずがない。自分の友を、ずっと探していたのだから。
「ようやく会えましたぁ~。ずっとずっと、さがしていましたぁ!」
瞳からは涙がこぼれ、とめどなく流れる。
『泣き虫なのね、ネーネ・ルミリア。昔と変わってないわね』
エルフと精霊、二種族違えど、大事な大事な友達の、十年越しの再会しだった。
ネーネと別れ、ただ先を目指し、ひた走る。
これまでの冒険で装備はすでにボロボロのなり、ペースを落としたといってもここまでの強行軍。
すでに疲労は限界に近く、額には大粒の汗をかき、荒い息を吐いている。、
そんな様子を見ながらフェリアスが声をかける。
「もうすぐ最深部につく、そこに目的のものがあるよ」
「はい! わかりましたっ」
私の為に命を賭け、扉を開けてくれた三人。
探し精霊に会うためここに来たネーネ。
私はそんなすべてのおかげで今、この場所にいる。
「ほかの連中なら大丈夫。他の場所と違ってここでは何の問題も無い」
フェリアスさんがそういいながらも前を指差す。
「ほら……みえてきたよ。アレが深部の入り口だ」
そう、聞こえ顔を上げ目をこらす
「みえただろ? あれがそうさ」
私の目にも見えてきた。
どれほど夢見たことか、どれほど望んだことか。
旅に出て。十余年その存在を信じ、探し続けたものが今目の前にある。
「さて、着いたね。ここが深部『修練の門』さ!」
息も絶え絶え、疲労は極限に達していた。
しかし、瞳はその巨大な『扉』から目を離さない。
「これが……これでようやく……」
高鳴る鼓動を押し殺し。扉に手をかけ、開ける。
扉の中からの光が、暗い坑道を照らす。
急な光で目を焼くミアの耳に声が届く。
「ようこそ! オレの迷宮へ!!」
次話より、長い間放置されていたネク主観のお話です。




