果てを目指して⑤
翌朝、ダンジョンに赴く私たちをフェリアスさんが見送る。
「それでは行ってきます」
「ああ、行っておいで」
私たちが出立の挨拶をすると、フェリアスさんが皆を見渡し笑顔で送り出してくれた。
「いつも料理を作ってくださる方にもお礼を言いたかったのですが……」
「ああ、こちらから言っておくよ」
「お願いします。とても美味しい料理をありがとうございましたと。うちのメンバーは料理が苦手なのが多くて」
そう苦笑しながらレクスが言伝を頼む。
それを言われるとどうしようもない。
この、人が居ない都市でいったい誰が、食事を用意してくれていたのか……。
持ってきた食料は移動用の保存食だったので、実際にあの食事が無ければ私たちは早々に飢えていただろう。
あれはホントに助かったものだ。
「ほんと美味しかったっすからねぇ」
「ですよねぇ~、ホントにたすかりましたぁ~」
皆、口々にお礼を述べる。
そしてダンジョンに行こうとする私たち……いやレクスに言葉をなげる。
「判断はお前さんに任せ得る。まぁがんばんな」
「はい、わかりました。いろいろありがとうございました」
そして宿屋を後にする。私たちはダンジョンに攻略に乗り出すのだった。
「さて、ここからは訓練通りにいくぞ。」
第一の部屋の前でレクスが私たちに振り返り、そう指揮をとる。
私たちは頷き、入口を見据える。
今回はアーツの応用として脚力を強化し、移動速度を強化する。
さらにフェリアスさんの指導で魔力を風属性に変換し、蹴り出す瞬間に足の裏から噴出すことでさらに加速ができる。
ただ、放出すると大きく魔力が減るため、緊急時の奥の手である。
「みなさん~。こちらで頑張って防ぎますのでぇ~」
そういうネーネはベオが背負っている台の上に立っている。
はたから見ると妹を背負っている兄のような感じである。
「ネーネ、よろしくねがいね」
わたしはネーネに言いながら右手を持ち上げた。
ネーネは笑いながら、パチンと私と右手を打ち合う。
「さて、殿は俺が勤める、いいか、相手は優先的にベオを狙う。それを逆手に他のメンバーはベオから距離をとって先に出口へ。ベオは可能な限り敵をひきつけ回避を。ネーネ、相手の移動阻害を優先。全員が通路に入ったのを確認後、ベオはアーツを全開で使って出口へ。」
カウスがそう言いながら手順を説明する。
今回は、ベオが敵から優先的に狙われるということ、そしてベオがいる間は相手は致死攻撃を仕掛けてこないことを逆手にとった作戦だ。
無論、あの速度で体当たりをされると命の危険があるが、それは高速移動で回避ができる。
ベオを囮として使うことが前提の作戦だが、鍵はベオの『無尽蔵』とネーネの魔術支援である。
『無尽蔵』は何もスタミナが無尽蔵になるだけではない。魔力もどんどん湧き出してくるそうだ。
ソレにより、ベオは常時高速移動のアーツを全開でつかっても魔力はそこまで減ることはない。
無論、よほどの魔力消費、ネーネが使う上位魔術等を連続で使うと枯渇しかねないそうだが。
そして、そこにネーネの支援が加わる。
前回の挑戦の際、ネーネの【ウィンドブロウ】は堅牢と評されるプチファフニールの動きを少し鈍らせることが出来た。
ならば、行動を阻害する目的で使えば……たとえば、正面から出なく、側面から足を狙うなどである。
風魔術の利点は周囲の空気を扱い、放つということ。ネーネ曰く、空気があるとこならば発動点はどこでも大丈夫だそうだ。
そして、動きが阻害された相手であれば、ベオは自在に回避することが出来るというわけだ。
「では、いくぞ!」
カウスの指揮の下、三回目の挑戦が始まった。
すでに潜り始めてからまもなく二時間が経過しようかとしている。
ベオが敵を引き付けてくれているおかげで私たちはかなり余裕をもって進むことが出来ている。
そのベオ達はというと、移動砲台と化したネーネの活躍もあり、安定した回避が可能となっていた。
そもそもプチベヒモスは攻撃さえ回避できれば、移動速度もさほど速くないので危険度は低い。
プチファフニールに関しては、ブレスが危険ではあるが、ベオに対して使用をしないので、注意すべきはその移動速度であろう。
あの速度で体当たりをされると危険だが、あの大きい腕があきらかに走るのに邪魔である。おそらく、なんらかの能力があるのだろうが……。
しかし、走行中にネーネの魔術を、足を外にはじくように発動すると転倒したり、スリップしたりと行動を阻害することができた。
もっとも苦労したのがプチガルーダだった。
空を飛んでいるというアドバンテージは大きく、複数があっと言う間に周囲を包囲されてしまう。
旋回している間は知恵の迷宮で戦った梟同様、いや、それ以上に魔術が当たらず、その包囲網を突破することがむずかしかった。
ただ、ベオを確保するためには地上近くまで降りてこなければならず、ベオを襲う、その隙にネーネが【ウィンドブロウ】で撃ち落していった。
当然だが、プチ神獣たちには全くといっていいほど、ダメージになっていない。
本当に隙を作り、そこを突いて突破しているという感じだ。
このダンジョンを本気で攻略するモノは、これを真正面から打ち倒し、突破するのだろう。
鬼ごっこのようなこの攻略方法。
この訓練をしているとき、フェリアスさんが皆にこっそりと教えてくれた。
「その攻略方法は、ここの神様がワザと残していた抜け道なんだよ」
私たちに教えてくれたフェリアスさんは、どこか勝ち誇ったように、でもホント に嬉しそうにしていた。
明言はしていないけれど、フェリアスさんはここの神様と顔見知りなのだろう。
ここまでしてくれたフェリアスさんに感謝をしつつ、幾度目かの出口へと進んで行く。
しかし……もう何部屋目なのだろうか……
「カウス、今何部屋目ですか?]
「八部屋目だな。部屋の構造が全く同じなので確実ではないが。通路の長さや曲がり方から察するに。何度かは同じ部屋を廻っているはずだ」
カウスはマッピングをしながらこの移動をしているので位置の把握も出来ているようだ。
「ループしてるってか……きついな。これのおかげでだいぶ楽だが、それでも先に体力が尽きるぞ」
私たちの会話を聞きながらレクスがため息をつく。
私もループという言葉を聞いて、レクス同様うんざりした顔をしてしまった。
実際の部屋の数がわからないが、その中から当たりを見つけないといけないのだ。
「このまま手当たり次第、通路を埋めていきますか?」
「ソレしかないな。カウス、ルート指示を任せる。頼めるか?」
「ああ、了解した。だが、相当のルート数があるぞ? 気合いをいれていけよ!」
「「おう!!」」
一部屋に出入り口の数は十一個。その部屋が複数当たりを見つけるのにはさらに時間がかかり、見つけるころには
体力も限界に近づいていた。
ダンジョン攻略開始からすでに五時間は経過している。
当然のことながら新記録である。
「ようやくみつけたっ!!!」
その部屋に着いたレクスが倒れこむように体を投げ出す。
そこは出入り口が四つある五十メートル四方ほど小部屋だった。
私は入ってすぐに次の出口まで走ろうとしたのだが、
「ここは大丈夫、数少ない安全地帯らしく、モンスターも出ないそうだ」
カウスにそう教えられ、足を止める。
私もだいぶ疲れているので腰をおろし休息をとる。
ベオは大丈夫そうだが、ネーネは疲れた顔をしている。
ベオの動きを助けるため、だいぶ魔術を連発しているのだ、なんども魔力が枯渇し、そのたびに回復剤を飲み頑張っていた。
わたしたちも何度か飲んでいるが、そもそもポーション系の在庫が乏しく、魔力回復剤はほとんどをネーネの渡していた。
ネーネのこともあり、今回がラストチャンスのつもりで持てる資材を全て投入してるのだ。
カウスの話を聞いたネーネが
「安全地帯ですかぁ? どうしてそんなことを知ってるのですか~?」
不思議そうにそう尋ねる。
そうだ、このダンジョンは構造も含め、全くの情報無しでここに来ている。
このダンジョンの情報を持っているフェリアスさんでさえ、ほとんど教えてくれていない。
カウスは珍しく口ごもりながら、驚愕の事実を口にする。
「……実はな。ここの安全地帯でダンジョンの三分の一でしかないんだ」
ここの安全地帯の情報は、ある意味やはりというべきか。フェリアスさんから貰ったそうだ。
他に候補が居ない以上そうだろうとはおもったが……
何度もループし、最短ルートを通っていないとはいえ、この工程でたった三分の一……っ!?
カウスの分析によれば、先ほどの通った部屋は実際には7部屋だったそうだ。
ダンジョン自体の出入り口で一つ潰れているため、出入り口の数は76個。そのうちこの部屋につながるのはたった二つだそうだ……。
あまりに広大なため、移動にも大幅な時間を費やしてしまうほどのダンジョンだったが、まだまだ先があるとは……。
しかし、この先はまだ行った事のない区間。
しかも、回復剤はほぼ使い切ってしまった。
これから如何するか、相談をしようとしたとき。
「では、呼ぶぞ」
「ああ……わかった」
そういってレクスがポケットから小さな笛を取り出し、息を吹く。
音が鳴るのかと思ったが、周囲には音は聞こえず静寂が広がっていた。
いったい何を……?
そう思っていると、後ろから不意をついて声が聞こえた。
「やっぱりここが限界だったようだね。まぁ良くやったほうだよ」
その声に驚き、振り返ると紫髪で犬耳が特徴的なフェリアスさんがにこやかに佇んでいた。
「どうして? どうやってここに!?」
「フェリアスさん~? なんでここにいるんですかぁ~?」
驚く私とネーネ
しかし、他の三人は驚いていない。
安全地帯といい、先ほどの笛といい、三人は何かを隠している。
訝しげに眉をひそめ、三人を見る私に、苦笑しながら
「ごめんね、ミアちゃん。現状の装備や消耗品、置かれている状況を考えても、ここにたどり着くのが限界だと思ったんだよ」
つまりはこういうことだったのだ。
フェリアスさんはこの状況を見越していたのだ。
私たちでは既に自力での深部到達が不可能であることを。
だからこそ、三人に前もってこの場所を教えたのだろう。
自分たちの実力不足に不甲斐なさを感じ、悔しく思うが、本当はそう思うことすらおこがましいのだろう。
「ミアちゃん、いろいと考え込んでいるみたいだから簡単に説明するね。まず、ここは数少ない、って言っても全体に二箇所しかないうえに、もう一箇所は最深部手前だから、事実上唯一と言ってもいい、安全地帯だ」
そう言いながら私たちに説明を開始する。
あとは最深部前にあるだけ……想像しているよりも残りの道は厳しいものだったんだろう。
フェリアスさんは続ける。
「んで、さっきも言ったとおり、状況や消耗品を考えても、これがラストチャンスだと私も思ったわけだ。本当なら何度も何度も挑戦を重ね、攻略ルートさえ判明すれば、人の身であっても深部まで到達できるように設計されている。でも、今回はもうこれ以上死んで蘇生は危ない状況だ。無理やり突破も回復剤関係はすでに乏しいようだしね」
この言葉にネーネがショックを受ける
つまり、自分さえこんな不調にならなければ、何時かは攻略できたのだ、と。
責任を感じ、落ち込んでしまったネーネを見て。
「ネーネちゃんのせいじゃないよ。それにどの道、ネーネちゃんがいないと攻略できなかっただろうからね」
ネーネの頭を撫でながらフェリアスさんがそう補足する。
「まぁ、そんなわけで、強行できなさそうなら私を呼ぶように笛を渡した。あれは人には聞こえないようになっててね、その笛の音をたよりにここの来たわけだ」
わかったかい? そう言いながらフェリアスさんは軽やかに笑う。
だからレクスやカウスはこの場所をしっていたのか。
そうおもってレクスを見ると、その表情は硬い。
いや、レクスだけじゃない。カウスもベオも硬い表情をしている。
どうしたのか? と疑問に思うと。
「本来は私は来る予定ではなかったんだがね。では。今日はここで休んで明日、最深部まで行こうか」
と、皆に言葉を掛けるのだった。




