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秘境迷宮の創造主《クラフター》  作者: 黒狗
1‐2人の長いプロローグ
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迷宮開発日誌⑥

「自画自賛ながら。なかなか良い出来栄えだな」

 俺は今。もはや習慣となったお菓子作りに勤しむ。

 今日はここでの定番品のアップルパイである。

 精霊樹をリンゴの樹ベースで創ったため、毎年毎年よく収穫できる。

 このリンゴ、かなりの神力を内包しているため神界や魔界へのお土産に持っていくモノも多い。

 ただ、モノがモノなので、人界の住人には食べさせられない……

 多分一個食べれるだけで大抵の病気が治ったり、寿命が少し伸びたりするはずだ。

 まぁ、この周辺は人が居ない秘境ではるが、念のためにドリアードたちに警邏をさせている。


 そんなリンゴをふんだんに使い、お手製のアップルパイが完成した。

 ……なんで管理人たる俺が料理に勤しんでいるかというと。


「最近平和だなぁ~」


 暇なのだ。

 

 迷宮区のリメイクから二年が経過した。

 それ以前の迷宮と違い、攻略に乗り出す神魔にはある共通点が見られるようになった。

 それは今まで神魔5柱ほどで攻略を目指していたのが、今では7~9柱の神魔でパーティーが主流となっていた。


 やはり、最終階層のあの仕掛けが大きく影響しているのだろう。

 ほとんどの神魔たちは真正面から打ち破ろうとするのでどうしても人数が必要となるのだろう。



 それでも、よほど高位の戦闘系の神魔以外はソロでの攻略は不可能だろう。

 俺の記憶ではそれが可能なのは三・四柱くらいしかいないが・・


 しかし、ここ数ヶ月、異変が起きている。

 ダンジョン攻略者が居ないのだ。

 攻略者だけじゃなく、うるさい女性が二柱ほど、姿を見せていない。

 あの二柱、昔はお互いの名前だけは知っている、という間柄だったのだが、俺を通じて遭遇し、以降、顔を合わせれば罵り合う仲になったのだ。


 片や大神の眷属三位。

 片や魔獣聖母の眷属二位


 主の格でいえば、大神の方が上だが、当人たちの序列でいえば相手が上。

 そんな思いがあるのだろうし、何より、性格が合わないのだろう。出会うたびに口喧嘩を繰り広げている。


 そんなメンバーが来ないこともあり、俺は静かに、趣味の料理に勤しんでいると言うわけだ。

 パイを熱した石釜に入れ、あとは焼くだけ。

 そんなときに突然の来客が現れた。


「久々じゃのぅ。今度の趣味は料理かい?」

「おう、久しいな! っていっても数年前にあったな。今日はトラフ爺が来るとはめずらしいじゃないか」


 呼びかけられ、振り向くとしわくちゃの爺さんがいた。

 トラフ老、トラフ爺と俺たちから呼ばれる神で、昔なじみ……というか、世話になった神である。


「いやのぅ。若い連中が人手として狩り出されておっての。ワシも暇でしょうがないんじゃ」

「ん? やはり何かあってんのか? どこでだ?」


 最近、攻略者が来ないのは何か“イベント”があっているのが原因のようだ。

 こういうときは、大抵人界でトラブルが起こり、それを見物に神魔たちが押しかけ観戦するものだ。

 神族も魔族も長い時を生きるため、かなり精神は肉体に依存している、そのため、外見の若い神魔ほど、こういうイベントには反応しやすい。

 俺も少し暇なので、オルかだれかに頼んで観戦しようかと思っていると。


「まぁお前さんにもそのうち解かるだろうから、それまで待っておればいい」

「そうか、まぁそれならのんびりしておこう。そだ、今アップルパイ焼いているが、食べていくか?」

「ほほ。んでは、少し貰おうかのぅ」


 そう言うと俺は茶会の用意をはじめる。

 普段なら男同士でお茶など御免被るのだが、まぁトラフ爺とかだったらいいだろう。


 おれは慣れた手つきで用意をすませる。

「……手なれたものじゃのぅ」

 そうトラフ爺が感嘆……だと思いたい。でも気持ち、呆れた目で見られている気もする。そんな表情で声を発した。

 おれは憮然としながら


「仕方があるまい。ここで食事を嗜むのは俺だけだからな。何か食べたいと思えば自分でつくるしかあるまいよ」


 とトラフ爺に言い返す。

 元々、俺は創る側だ。こういう料理でも作るのは好きなのだ。


「わびしいのぅ、女の一柱か二柱いなのか?」

「俺の女じゃないが、煩いのがいつもはいるんだがな、あいつらは女子力とか生産性とかそういうのが『一切』無い」


 おれが心底残念そうにそう嘆くと。


「そこの駄神、人聞きの悪い事を言わないで下さい。作れないんじゃないです、作る機会が無いだけです」


 不満たっぷりな声が聞こえる。

 振り向くと、かなりのジト目で俺を見据えつつ、噂をしていた女、戦乙女:ラヒルデがやってきた。


「久しぶりだな。なんだ、おやつの匂いに釣られたのか? 今日はアップルパイだぞ。とりあえず、そこに座れ」


 そういって軽く受け流し、適当なところに座らせようとする。

 と、しかし、ラヒルデは座らず。


「トラフ様。ご無沙汰しております。本日はわが神の命により、こちらに参りました。暫く、この方をお借りしてよろしいでしょうか?」


 と普段とはうって変わった態度で、トラフ爺と挨拶する


「かまわんよ、どうせそろそとと思っておったところじゃ。このジジイは放っておいて話をするがよい」

「感謝いたします」



 二柱はお互い解かっているのか、俺そっちのけで会話をする。

 そして解かって居ない俺が一柱。


「おい、なんだ?オルの伝令のようだが、何事だ? お前にしては珍しく丁寧な対応じゃないか?」

 まぁ、俺に対して丁寧に対応したんじゃないのだが、それはさておく。

 一応、パイと紅茶を彼女の前に並べる。


 俺を“うるさいなぁ”という顔で見ながら

「我が神より、依頼が来ております。人界にて『狂乱』が発生、対応を求む。とのことです、よろしくお願いします」


 完全に事務口調で俺に告げた


 ……は?



 今、コイツ、狂乱って言いやがったか……?

 ……コイツらが言う狂乱ってどの狂乱だ?他に狂乱ってあったか?


 俺は完全にパニックに陥っていた。


「は!? あ? え? 狂乱?? おい、狂乱ってどの狂乱だ??」


 そんな混乱が口にでていく

 その様子をラヒルデは冷めた目で見下し、トラフ爺は楽しそうに、ホントに楽しそうに見る。


「おい! トラフ爺! どういう事だ!」

「ほほほ、そういう事じゃよ。言ったろ? どうせ近いうちに解かると」


 っ!!

 コイツ、このためにわざわざココに来たのか!?

 そうだ、こいつも神だ。神はそのほとんどが享楽主義で、人の不幸を笑ってみるタイプなのだ。

 俺がそうだから間違いない。


「おい。今更だし、間違いでないんだろうけどな……。それは確かな情報なのか?」

 冗談でした、という一縷の望みを込め、聞き返すが。新たな声がその望みを絶つ。


「ネク様、残念ですが事実です。そして、アガト大公の命により、魔族を代表し、ご依頼に参りました」


 恐る恐る振り返ると、俺が良く知る魔族がそこにいた。


「フェリアス。このタイミングでお前がくるってことは……マヂなんだな」

「はい。そこの貧乙女が言ったように、現在狂乱が発生しております。アガト大公はそれにともない、オル大神の方へ対策依頼を提示いたしました」


 紫髪の犬耳魔族、フェリアス。

 さらりとラヒルデへの毒を発しながら、そう報告を上げる。


 ちなみに、アガト大公というのは魔族ナンバー二である。


「待ちなさい、駄犬。いきなり現れて人を貧乳扱いとは……いい度胸をしているわね、。いつもみたいに()()、うっかりなのかしら? いつも重要機密をボロボロ漏らして行く頭の悪い駄犬のことだから時と場合とか、一切ないんでしょうけどね!」

 その毒をスルー出来ないラヒルデ。

 かなりの怒気を撒き散らし、フェリアスに言い返す。


 ……おれの主観ながら、ラヒルデは有るとは言えない。

 何が、とも言えない。危ないので。

 あと、フェリアスの抜けっぷりは酷い魔獣聖母や俺の事が話題上り、その話の内容で盛り上がれば、二柱の事をそれはそれは、自慢げにバラしてしまうのだ。


 本人に悪気は無く、ただ俺たちを自慢したいのだが……意外とタチが悪い。

 尚、フェリアスは特定の神魔の前では人格ごと変わったかのように態度と言葉遣いを変える。


 今回は魔族を代表してやってきてるのだから、発言には気をつけろ。と言いたいところでは有る。まぁ言ってもムダだろう。


「なんだ、貧乙女。お前の仕事は終わっただろ? とっとと帰るといいよ。ココからは私の仕事だ」

 こっちが素なんじゃないかな? とも思うのだが、俺には解らない。


「帰るのはお前だ駄犬。私はオル様より、指令を受けて個々に居るのだ。ここで帰ることはできん」

 と、なにやら()()二柱でヒートアップしそうな気配がしてきた。

 二柱は険悪な雰囲気で睨み合い。今にも殴りあいの喧嘩になりそうである。いつものことだが。


 ……そしてソレを楽しそうに見るトラフ爺。



 トラフ爺がホントにこの状況を愉しみに来ていることに頭を抱えつつ。

「まて、お前ら、煩いぞ。ラヒルデ、オルからの指令ってのはなんだ?」

 先ほどのオルからの命を聞き出す。

 伝言だけであるなら、既に完了しているわけだ。

 さすがに毎回のことなので、狂乱の理由も十分把握している。


「いえ、今回はいつもと違い、ネク神はダンジョン管理をしています。今回がどれだけの期間不在かわかりませんが、問題であろうと」


 狂乱が起こると俺は暫く対応で出かけないといけない。

 だがしかし。今はダンジョン管理の仕事をしているのだ。

 俺自身の封印をかねたダンジョン管理なので、そう簡単にここを離れると問題になってしまう。しかし、狂乱は俺でないと治められない事柄。

 俺が出ている間に、無人のダンジョンに誰か他の神がくると色々問題になりかねない、というか、問題にするやつらがいる。

 それを考えてのことだろう。

 オルの采配に期待すべく、続けさせる。


 俺の視線を浴びてか、ラヒルデは凄く言いにくい様子で口を噤む。


 その様子を訝しげに見ると、横でなにやらフェリアスが煽っている。話が進まないので黙らせると。顔を赤くしながら

「そ、そこで、このたび、このダンジョンの管理補佐を任命されました。ど、どうかよろしくお願いします」


 寝耳に水である。

 ダンジョンの管理補佐、聞こえは普通だが、ラヒルデの場合状況が異なる。

 それは()()()()()()()に就くということで、言い換えれば『配属換え』である。

 つまり、ラヒルデがオルの部下から、俺の部下になるということである。


「おい、本気か? 命令で仕方なくとかならやめとけよ。」

「い、いえ、ここのリメイクにも参加しましたし。私が適任と判断しましたので、当面は神界と往復することとなりますが、私では不足でしょうか?」


 いつもの好戦的な対応でなく、こうしをらしい対応をされると調子が狂う。


「お前が問題ないのなら、こちらにはかまわない。まぁ、向こうとの往復であるなら、実際は今までと余り変わらんよ」


 とりあえずは現状維持として置いておこう。あとでオルに聞いてから判断する。


 そう俺が話していると


「はいはい、お話は済みましたね、ではネク様をお借りします。こちらはお任せしました。ささ、行きましょう。こられるのを待っておられますよ」


 そういうと俺の手を取り引っ張っていく。


 正直気乗りはしないが、俺が行かねばならない案件だ……行きたくないが行きたくないが。

 そう思いながらも俺はフェリアスの引っ張られ、人界の有る場所へ、俺を待つある者の元と、つれていかれるのだった……。



 ◇◆◇








「あの駄犬……なんだってネク神の前でだけあんな風なんですか……」

 私はそう愚痴りながらも、ネク神が焼いたアップルパイを頬張る。

 急だったのでお茶のおかわりが無いのが残念だが、さすが。美味しいく素晴らしい出来である。

 と、その愚痴を聞いてか


「なんじゃ? オルの配下だったのにソレも知らんのか?」

 そうトラフ様が不思議そうな顔で尋ねた。


「はい、オル様はあの駄神が、『世界を割るほどの力』を持っていると聞いていますが……かなりうさん臭くて」

「ほほほ、アヤツの言動を見るとそうじゃろうなぁ」

 そういってトラフ様も笑い飛ばした。


「そうですよね。いくらなんでも過大評価過ぎですよね」

 オル様が仲の良いネク神を立てて、そう言っているのだ。そう思っていると。


「なら見てみるか? ネクという神の事を」

「え?」


 どういうことだろう? と思っていると


「ネクの補佐をやるなら知っておいてもいいだろう。だが、知るなら覚悟を決めなさい。知らなければ良かったと思うことになる」


 いつもは飄々としているトラフ爺が、その大神としての貫禄をだしながら尋ねてくる。

 その雰囲気に圧倒されながらも、知りたいという気持ちが勝り。私はトラフ様に頼んだ。


「よろしくお願いいたします。私は知らないことが多いようで、古神様たちの間のことも良くわかりません。ですが、これから付き合っていく上で、知っておきたいと思います」


 そう言うと、トラフ様は笑んで、

「では見せよう。過去、ネクが何を行い、何を成したのか。そして、何故、ネクが伝承から名前を消したのかを」


 トラフ様の権能によりその空間が白く光った……。



 ◇◆◇


 長い長い過去の出来事。

 かなりの間視ていた様に感じるが、紅茶は温かいまま。実際は一瞬だったようだ。

 全てを知り、しばらく私は考え込んでいた。

 トラフ様の言葉ではないけども、知るべきではなかったのかもしれない。

 よもや、この世界が危ない天秤の上に乗っているとは思いもしなかった。


 これを知るのは大戦を経験した大神と……そう考えていると


「なんだ? 貧乙女、まだ此処にいたのかい?」


 ネク神を送り出したフェリアスが戻ってきた。

「何か用ですか? 駄犬。いまは相手をしている気分ではないのですが」


 私の声にも元気が無い。表情もおそらくは強張っているだろう。

 その微妙な変化を感じ取ったのか。フェリアスが


「なんだ、調子でも悪いのかい? ……気持ち悪い」

 そんな軽口を叩いてくる。

 相手にする気力も無いが……そうだ、彼女は当事者だ。

 おそらく、この質問が出来る唯一の相手であろう、私はその問いを投げる


「貴方は……この余りにも呆気なく、壊すことが出来る世界をどう思うのですか?」


 恐らく。私の表情には余裕がなかったのだろう。

 その表情から何かを察したのだろうか?

「私もあんたも、根本的なものは同じさ。ただ、私はあの方をあんた以上に知っている。そしてあの出会いがあったからこそ、私は信じることが出来る」

 “何を”も“誰を”も必要としなかった。


 私はトラフ様より見せてもらったので知っている。

 あの時の小さな少女の悲しみを、あの時の小さな子犬の悔しさを。そして恐ろしくも、慈悲深い神のことを……。



 その言葉で私は、この事を知れてよかったと思うことができた。




 それから一ヶ月後。えらくやつれたネク神が戻ってこられたが。どうやって狂乱を治めたかは、決して口を開いてくれなかった。


今後のネタバレになりそうな箇所はかなりぼかして書きました。

ネクの過去はある程度、章が進んでから書こうかな~とも思っております。

明日は、果てを目指して⑤を掲載予定です。

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