果てを目指して①
昨日の壊滅から一夜明け。迷宮都市二日目の朝を迎えた。
私たちは昨日のショックが大きすぎて、今朝になって昨日から何も食べていないことに気がついた。
「まぁ、いろいろ話さないといけないことは有る。それでも先ずは食事にしよう」
レクスのその提案により私たちは食事をとる取る事にした。
「そういえば外はどうなっているんですかねぇ~?」
ポンッ! と手を叩き。ネーネが聞いてくる。
そういえば、私たちは昨日到着後、すぐにダンジョンに行き、そして死んで、この宿屋に飛ばされてきたのだ。
「まだ誰も外に出ていないんですか?」
ふと気がついた私は皆にそう質問した。
「そうっすね。昨日はあの後皆、まともに動けるような体調じゃなかったっすから。オレも皆をここでまってましたし」
「ああ、レクスは自分が死んだことすら気がついてなかったようだが。俺は少し違和感があったからな」
「……はは……うだな。おれは即死だったようだからな」
あっけらかんと笑いながら答えるベオに。カウスが腕を組み頷きながら同意をする。
その様子を掠れた笑いをあげながら、レクスがぼやく。
「それはまた後で話そう。それよりも今は食事だ。この宿以外の施設が無いか確認をしないといけないからな」
少し落ち込んでいるレクスを放置して、カウスが仕切る。
皆、少し笑う元気が出たのだろう。その様子を見ながら皆が笑う。
今はご飯を食べて元気を出そう。
私たちが居るのは宿屋の二階のようで大きな部屋にベッドが4つほど有る。
部屋は複数あり、ネーネから聞いた話しでは合計6部屋だそうだ。
1階に降りると、そこにはフェリアスさんが紅茶を飲みながら寛いでいた。
フェリアスさんはこちらを振りむき
「おはよう。ゆっくり休めたかな?」
そう。私たちに微笑んでくれるのだった。
「おはようございます、フェリアスさん。食事をと思いまして……。どこかで食事が取れるところはございませんか?」
レクスがそうフェリアスさんに訊ねる。
この都市にくるまでの約半月。フェリアスさんは私たちと一緒に居たためよくわかっているのだが。
私たちは皆『料理が出来ない』のだ
レクスやカウス、ベオは簡単なものなら作れるが、料理というほどのモノが作れるわけではない。
ネーネは料理の経験が少ないため、そもそもが苦手である。
そして私はといえば……壊滅的な料理下手である。
今を思えば、母も料理が苦手だったようだ。
父が家に居るときは父が料理を作ってくれていたし、母と二人きりのときは隣の家のおばさんが料理を作ってくれていた。
そんな生活があったせいなのか。わたしは料理がまったくと言っていいほどダメで、称号にも料理下手というものが付いているくらいだ。
そんな私たちの事情をしっているフェリアスさんは笑いながら。
「ははは、そうか、そういえば皆料理がダメだったね、冒険者なら料理くらい出来ないとマズイと思うが、まぁ仕方ないか」
そう、私たちのことを笑うと、すこし考える素振を見せ、
「すこし街を見てくるといいよ。その間に頼んでおくから」
気にするなよ~と。フェリアスさんはいいながら、私たちに暫く街を見て時間を潰すよう指示をだしてきた。
「待ってください、頼んでおくって。この街に料理を提供してくれる施設があるんですか?」
その事を訝しげに思ったのか。カウスはフェリアスさんに訊ねる。
そうだ、フェリアスさんは『作っておく』ではなく、『頼んでおく』と言ったのだ。
これはどういうことだろう……そう思う私をよそに。
「あぁ~。気にしないきにしない!ほら、行った行った!」
明らかに「しまった」と言う顔をして私たちをこの宿屋から追い出す。
私たちは促がされるまま宿屋を後にし、街を散策することとなった。
◇◆◇
「おい、お前、ボロが出すぎだぞ」
「ははは、すみません、以後気をつけます」
「……無理だと思うが期待はしておく」
「……はは、それで……あの子達のご飯をいいですか?……それと、お茶のおかわりも……」
◇◆◇
宿を追い出された私たちは街を歩いている。
といっても、目的があるわけでもないので、ネーネの希望で遠くからもはっきり見えたあの大樹をめざすことにした。
「それで、ネーネ。あの大樹に何があるのだい?」
「わからないですねぇ~。でも、精霊があそこに集まっていますからぁ。きっと何か……精霊様の手がかりがあるはずですぅ~」
ネーネは期待に満ちた瞳で大樹を見つめている。
それもそうだ。ネーネも10年近くその精霊を探していたのだ。
人と流れるときの感覚が違っているとはいえ。長い時だったはずだ。
私たちもネーネについて大樹を目指す。
と、私たちの目の前に小柄な影が現れた。
それは体長が一メートルにも満たない小人に見えた。
しかし、体は樹、髪は長い葉でできており、四肢はあるものの、その形状は枝や根に類似していた。
その顔は木製の人形のようで、緑の瞳がこちらを向いていた。
「っ! 受肉されたドリアード!? そんなぁ、どうしてそんな存在がぁ!?」
ネーネが驚愕する。
私たちはネーネが何に驚いているのか判らない、困惑する私たちをよそに、私たちに声が届いた。
『コこカラサきハ、キョかナくタチイルこトガ、キンしサレテイマす。タチサッてくダサい』
人の声帯を持っていないためか。その声は聞き取りにくかったが、不思議と何が言いたいのかはわかった。
耳と同時に頭の中に声が聞こえる感覚で、その言葉を理解できたのだ。
私たちはネーネの様子を伺うと、その表情に驚愕が浮かび、汗を浮かべている。
言われた事を理解するにつれ、ネーネは唇をかみ締め、悔しそうにしながらも、それに従った。
大樹から引き返した私たち。ネーネに「よかったの?」と聞くと
「……アレは木精霊ドリアードが受肉した存在ですぅ。本来ドリアードは樹に宿ることはあっても受肉することはないんですよぉ」
本来の精霊は精神体であり、こちらとは魔力を通してでしか干渉できない。しかし、受肉すれば物理的にも魔力的にも干渉ができるそうだ。
無論デメリットとして逆にこちらからの干渉を受けてしまうことになるのだが。
説明するネーネの顔には冷や汗が浮かんでいる。
「受肉した精霊はぁ、亜神クラスといわれていまうからぁ~。先ほどの存在はぁ、すくなくともぉ、あのダンジョンのプチベヒモスと同格のはずですよぉ~」
……あんな小さな存在が……あのプチベヒモスと同格!?
先ほどのドリアードは樹木を素材に受肉しているようだが、器が規格外だそうだ。
私たちはどういうことか解からないため、ネーネに詳しく聞いてみた。
精霊の力を入れる容器、つまり器が大きく、強固であるほど大きな力をそそげ、発揮できるそうだ。
この器は物理的な意味だけでなく、霊的な意味も込められている。
あの木製人形に収まっている精霊の力が濃厚であったため、そう判断したそうだ。
大樹にいけなかった私たちだが、そろそろ食事の用意が出来たころか、ということで、宿屋に戻ることにした。
都市部と言ってもそんなに広いわけではなく、見た感じでは、来るときに通った転移門の屋台郡の方が広いと思う。
私たちは長らく食事をしてないので、お腹を空かせて宿屋まで戻るのだった。
◇◆◇
「そういえば、新顔たちはいつから風呂に入って無い?」
「え? え~と、多分エトーリアに居たときが最後だとおもいます」
「……くさい」
「は?」
「あいつら臭いから、メシを食うまえに風呂に連れて行け!」
「女の子がいるので、せめて『くさい』という発現は控えてもらえると……」
「……とにかく、あいつらを裏につれていけ!」
◇◆◇
宿屋の前に着くと、フェリアスさんが立って待っていてくれた。
待たせたのかと思い、
「すみません。待っていただいていたんですか?」
レクスがそう謝罪すると
「いや、食事の用意はできてるんだけどね、皆、エトーリアを出てから風呂に入ってないだろ?裏手に温泉があるから」
温泉!?
普段、街に居るときは水が十分に有るので、体を拭う出来ましたが、移動の中はごく稀に濡れた布で体を拭くくらいしか出来ませんでした。
エトーリアには非常に珍しく、大衆浴場が存在しており、料金は割高なので、数回ですが、いったことがあります。
ベオやネーネは旅に出る前はよく川で水浴びをしてたそうです。
一部地方では温泉というモノが存在していると聞いてはいましたが……。
お腹は空いていますが、温泉に入れるとなると気持ちが軽くなります。
「一応案内しとくか、ついておいで」
そう言うと、フェリアスさんは私たちを温泉まで案内した。
宿屋の裏手に複数の小屋があり、その中に温泉があるという。
男性陣とわかれ、私とネーネで1つの小屋に入る。
中に入ると暖かい熱気で充満しており、思わず息を呑む。
板張りの床に、くり抜かれた大きな岩が埋っており、そこからお湯がでているようだ。
着ているものを脱ぎ、そのお湯につかる。
「あぁ……きもちいい……」
「ほんとですねぇ~」
エトーリアの大衆浴場よりもお湯が温かいのもその要因だろう。
私たちは初めての温泉体験に、これまでの疲れが溶けていくのを感じながら、この時を楽しむのだった。
長く出てこない私たちを心配してか、フェリアスさんがやって、皆でそろい食事となった。
男性陣もあの温泉の気味地よさに魅入ってしまっていた。
向こうの温泉は木製の浴槽にお湯が流れてきていたそうだ。
今度は向こうにもいってみようと、ネーネと話す。
そして、久しぶりの食事なのだが……。
「旨いっ! なんだこれ! 食べたこと無いぞ!?」
「美味しいっす! 美味しいっす!!」
皆が美味しいと連呼する味だったのだ。
料理は見たところ大衆で食べられるレパートリーで
香草をふりかけ、焼いた肉料理や、鳥の煮込み料理、野菜の炒めモノ、スープにパン等で、どれも食べたことがないほどに美味しかった。
「フェリアスさん、この料理はだれが作られたのですか?」
カウスがそうフェリアスさんに訊ねたが、「秘密だね、そのうち教えるよ」とはぐらかしていた。
先ほどの大樹もそうだが、私たちでは行けない所、知ることが出来ないことが多すぎた。
気持ちのいい温泉、とても美味しい食事。とてもいい環境にいるのだろう。
でも、私たちは、これでも冒険者だ。
食事が終われば気持ちを切り替えて、攻略へのミーティングを開始する。
私たちはテーブルを囲み、話はじめた。
フェリアスさんはその様子を離れたところから眺めている。
レクスが仕切りながら前回の内容を精査していく。
「前回のあの惨敗だが。まったくの収穫無しというわけではない。カウス、報告を頼む」
「ああ、わかっていることをまとめてみた」
一.入口からあの部屋まで一本道である
二.部屋の出入り口は十一個
三.部屋に入ると入口が封鎖される。
四.しばらくしてモンスターが出口より部屋内に浸入。
五.モンスターとの戦闘は無謀
六.ベオは優先して狙われる
「まぁこんな所か。なにか意見はあるか?」
カウスが要点をまとめてくれた。
確かにアレとの戦闘なんて無謀だろう。
皆、その一撃で死んでしまったのだから。
と、ここで気になることが出来た。
「フェリアスさんの話では、私たちは死んで生き返ったと。それに何らかの代価、ペナルティなどは存在しているのですか?」
そうフェリアスさんに訊ねる。
神の力が作用しているなら、その可能性が高いのでは……そう考えたのだが。
「一切ないよ。蘇生はあくまでも安全装置って話だ。何も取られることは無いし、回数の制限もない」
その言葉を聞き、安心をする、とフェリアスさんが真剣な顔で
「安堵するんじゃないよ。「蘇生する」簡単に聞いてるけど、あんたら、死んだ時に感じる苦痛は本物なんだからね?肝に命じときな」
その言葉に私たちの顔が引き締まる。
そうだ、あんな死に方を何度もしたら……体は無事でも心は耐えられるかわからない。
現に、ネーネは今朝まで体調を崩していた。
「フェリアスさん。ありがとうございます。その言葉、心に留めておきます」
レクスが頭を下げて感謝を示す。これは、大事な忠告なのだろう。
「皆に悪いっすけど、オレは転送されるだけっすからねぇ……何かの役に立てばいいっすけど」
ベオは申し訳無さそうにそう言う。
それはベオのせいではない。そう思いながら、私は自分が言わなければいけないことがあり、まだ言っていないことに気がついた。
「謝らないといけないのは私だ。アレを目にしたとたん、何も出来なくなった。私が! 私が! が! このダンジョンに行きたいと! そう願ったのに! 覚悟を問われたのに!」
何も出来なかったことが悔しくて、自分の覚悟はそんなものだったのか、という思いが滲んできた。
ひた隠しにしていた、弱い自分が顔を出し、瞳からは涙があふれる。
「なにを言っている、あのとき言っただろう。『俺たちはミアを助けようときめた』と」
「そうだな、あれがベヒモスであるならお前のトラウマであることは十分に理解できる。気にするなとは言わんが、仲間相手に気にしすぎるな」
「そうっすよ、オレもここの神様に会わないといけないんっすから、同じっすよ!」
「ですよねぇ~、ここを探すにも、きっとクリアしないとだめなんですよぉ~。だから私たちの目的は同じですよぉ~」
皆がそういい、私に笑いかける。
“俺たちは仲間なんだ”と
涙を拭い去り、私は皆の思いを受けて決意をする。
あれは私が超えなければいけない……最初の壁だ。あれを超えないと……。
仲間にも家族には会わせる顔がない。
体は震えるかもしれないが、間違いなく、その心には炎がともっていた。
再起。そして攻略へ向けて……
ところどころに出番が無く、暇なヒトが出てきています。
この物語の女性人は女子力が限りなく低いのばかりです。
温泉パート!でもだいぶ省略しています。




