エピローグ『裏』・上
本当は・・・1話で収め様としたんです・・本当です!
すみません、文章量が増えたので、キリが善い所で区切らせてください。
「さて、どう転ぶか?」
俺は一人そう呟くと、紅茶に口をつける。
ここは迷宮都市にある私室。
優雅に一服……と言いたいところではあるが、実際はそんな状況ではない。
「現在、踏破率はおよそ2割といったところでしょうか。想定以上に伸びませんね」
「……はぁ。こんなヤツが第一級神や二級神を名乗るのか」
「実際、ラヒルデ様の方が戦い方がなってます。恐らく、最下層まで到達するにはあと半日以上掛かるものと思いますが?」
俺は、そう解説するシアの話しを聞きながら、ため息をつく。
現在、この迷宮はある神の侵攻を受けている。
無論、俺が望んだトライアルでもなければ、相手が望んだ攻略でもない。
「想像以上に無能だったようだが。まぁ、いい機会なのだろう。処分をどうしてくれようか考えていたとこだし。まぁ、掌の上で踊ってやる」
そう言いながらも俺はルイミウォルテ経由で投影される映像を注視する。
そこには、数柱の神族を連れ、プチベヒモス達に囲まれる剃頭の神の姿が映し出されていた。
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事の発端はこんな感じだった。
『アハハハハ。ネク! 見させてもらったよっ! ようやく真名を開放してくれたようで嬉しい限りだ!』
「黙れ、黒幕。急に連絡をしてきて、何のようだ? 無事終戦したことの祝いか? それとも、お前が逃がしたあのハゲの事か?」
終戦後、事後処理のため、いろいろ手を貸してやった直後、えらく耳障りな、テンションの高い声が聞こえてきた。
無論。この場に降り立っているわけではなく、秘匿回線による通信である、そしてその相手はと言うと……。
「んで、実際の所、何の用だ? ダルダロス主席:アレフ殿」
俺は嫌味を込めてアレフを呼ぶ。
実際はコイツ一柱だけが黒幕ではないが、その中核を担っているはずだ。
問題は、俺の真名を解放させて、“何がしたかったか?” という事である。
コイツの嗜好は派手な戦闘、それこそ、激しく動き、極大の閃光や大魔法が乱れとぶ戦いが好みのはずである。
精霊を使役している状態ならともかく、俺の本来のスタイルは不動。
よって、『俺の戦いを観たいから』という下手な言い訳は通用しないのだ。
コイツ……いや、コイツ等には別の計画が確実に存在している。
だが、ソレを踏まえたところで、メリットが一切思い浮かばない。
自分で言っては何だが、デメリットしか存在しないはずなのだ。
『つれないなぁ~、キミとボクとの仲じゃぁ~ないか。さっきだって、ほら。キミの願いを聞いて即座にベルクの主神権限の剥奪及び、更迭を実施したじゃないか!』
「ほう、アレをお前の中では“更迭”と言うのか。てっきり俺はお仲間が逃がしてやったのかと思ったぞ」
やはり、ベルクが逃げたのはコイツの仕業だったようだ。
俺はそう追及したのだが、あははは、と軽く笑い、スルーすると、
『いやだなぁ~。ボキがそんな事する訳無いじゃないか! その証拠に、ほら、軍勢を転移して利用した規則違反の神たち? 彼等、四柱いたんだけどさ、ベルク共々送っておいたから』
「送る? どこに転移させたんだ?」
『決まってるじゃないか~! キミの迷宮にだよ!』
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「あの馬鹿……要らん手間を増やしやがってっ!」
俺はアレフの言葉を思い返しながら、憤慨する。
笑っているが、ただ送り返しただけじゃない。彼等5柱の視界をジャックし、神界、魔界両方に中継を行っているのだそうだ。
悪趣味極まりないが、『逃走防止だよ~』とシラを切られた。
恐らく、彼等の行動、そして俺の行動を肴に今頃は馬鹿騒ぎをやっているのだろう。
話に聞いたところ、先の戦争では賭けも行われていたようだ。
まぁ。俺も神界にいたころは、引き篭もっていたが、仲間内で賭けをやっていたので、あまり強くは言えない。
所詮、神魔なんてそんなもんだ。
永遠に近い生。
それに耐えうるため、思考が幼く、短絡になるか、もしくは何事にも感じない無感動症になっていくかのどちらかなのだから。
と、俺も含めた神魔の弁護もしておく。
だから、こういう時に騒ぐのは仕方ない。……仕方ないのだが。
「俺をダシに騒がれるのは癪だな。黙らせられないものか……」
「いや、神ネク。それは無理というものです。先ほどオル様の下に一時帰還しましたが。神界はかなりの混乱状態でしたから」
と、いつの間にか戻ってきていたラヒルデが声をかけてくる。
戻ったのなら一声掛けて欲しいものだ。
そんなラヒルデにシアがお茶の用意をしようとするが、彼女はやんわりと手で遮り、俺が淹れている紅茶のポッドに手を伸ばす。
しょんぼりとするシアをしり目に、ラヒルデは現在の神界の情報を語ってくれた。
「現在、神界では古神の方々への詰問が後を絶ちません。所在不明の四柱のうち、一柱が降臨。それも、引き篭もっていた神ネクがその当人だというのですから。当時を知る方々へ、真偽を確認する連絡が後を絶ちません」
「そ、そうか……」
やはり、忘れ去られていたとはいえ、始祖神の名は伊達ではないようだ。
「もっとも、古神の半数以上はあの戦争を観戦すべく、人界への出張許可をとっていたため、詰問は神界に残っていた方々に集中していますが」
「う、うん……そうか……」
神界に残っていた者たち。
それは人界への渡航が許されない立場にある者・・オルやアレフと言った管理者の立場の神
そして、俺に興味が無い。あるいは、そもそも仲が悪い神群の連中である。
そんな連中に若い神が押し寄せて質問攻めを受けているのだ、恐らくは俺への怨嗟が募っているだろう。
「そんな理由もあり、この一件はすべて神界・魔界に中継されております……と、コレが表向きの理由ですが。裏は別にあります」
「やはり、“表”が有れば“裏”もあるよな。当然だ」
若干うんざりしてきたが、裏の理由は予想がつく。
ラヒルデもそれを察しているのだろう。簡単にオルが行った説明を語る。
「裏の理由としては、ベルク神、他四柱の闇討ちの復習を防止するため、となっています。どちらの派閥でも、“直接戦闘力の低い神ネクへ、闇討ちを仕掛けるだろう”という意見で一致したそうです」
「あ~そう、へぇ~へぇ~へぇ~。俺はやっぱりその立ち居地でみられてるのか、まぁ当然といえば当然だけどね」
俺は肩をすくめると、苦笑いをしつつ、少しぬるくなった紅茶をすする。
いくら始祖の名を持とうが、あくまでも非戦闘神。そう皆は認識しているのだろう。
「まぁ、逆にアレフは『ネクは直接戦闘は弱いから、仕留めて戻ってきたら便宜をはかるよ』ってアイツ等を煽ててる気がするな」
「いや、流石に如何にアレフ様とは言え、そんな真似を・・・」
「いやいや。アイツならするね、アレはそういう神だ。だからこそ、わざわざ不正規の方法でこの迷宮に送り込んだんだからな」
「どういうことですか?」
いくら補佐とはいえ、こんなマイナーな法までは知らないのだろう。
「迷宮に正規で入る者は、あくまでも“挑戦者”として、その迷宮運営の法にのっとった上で人権が保証される。だが、非正規の手段で入いる者は“侵入者”として扱われ。その管理者の敷く法が適用される」
「え? お話中すみません。その2つってどう違うんですか?」
側に控えて話を聞いていたのだろう。この違いについて訊ねてきた。
「簡単な話だ。挑戦者の場合、迷宮を開設時点に設定したルール、例えば、この迷宮だと、『死なない』『一部屋にプチ神獣は十体まで』『思念リンクの共闘は下層から』など用意してるのだが、進入者に対してはソレが無い」
「無いんですか?」
「そうだ、無い。だから、次から次に神獣が襲ってくるし、神獣を倒しても即時復活してくるし、はじめから連携して襲い掛かるぞ。無論、蘇生なんて出来ない」
「……えげつないですね」
話しを聞いてか、ラヒルデもこの難易度の迷宮でそれをされた場合の恐ろしさを感じているようだ。
「そして、これが重要なんだが。浸入者への最終的な処分はすべて管理者に一任されている。そう、たとえ、相手が誰であろうと、何であろうと」
「っ! まさか、神ネクっ!」
「……まぁ、そういう事だ。だからこそアレフはあいつ等をこの迷宮に放り込んだんだろう。後始末が楽になったと考えておこう」
そう苦笑いしながら、俺は冷え切ってしまった紅茶を飲み干す。
少し物足りなさを感じたため、再度ポットから暖かい紅茶を注ぎ、口をつける。
「ネク神……いや、ネク様。それで……いいのですか? 掌で踊らされて、そしてこのような事になって」
そんな俺へ、ラヒルデは何時に無く真剣に訴える。
呼び方すら、駄神などでなかく、初めて聞くが“様”付けなほどだ。
「一応聞いておくが、何か代案があるのか?」
「いえ……ありません。ありませんが、せめて……お力を使わないことは、情けを掛けることは出来ませんか?」
その真剣な表情から、一瞬何を言いたいのか理解が出来なかった。
だが、そうか。ラヒルデは俺の権能の意味を正しく理解していたのか。
ならば、と。俺は主神として、ラヒルデに宣告する。
「それはならん。俺は絶対に許すつもりは無い。俺は、自分の眷属、家族、仲間に仇なす者に安寧を与えるつもりは一切無い」
そう、昔に決めた理。
多くの者を失った、あの時の誓。
それを土足で踏みにじる。
俺は胸の中で燻る怒りを感じながら、目の前の映像に強い視線を投げるのだった。
結局、あのハゲが最深部の階層に到達するのに予想の半日を遥かに超え、二日というふざけた日数を要していた。
あいつら、結局の所。権能が自慢で力が自慢で、だがそれに伴う技量や知識を全く身につけていないようだった。
当然、複数人数いても連携など取れるわけもなく、そもそも取ろうともして居ない。
馬鹿正直にプチベヒモスに肉弾戦を仕掛け、プチファフニールにも殴りかかり、そして遠距離型のプチガルーダには全く持って歯が立たないようすだった。
当然のことながら、アイツの権能は力を象徴するもので『豪力』という。
この権能、使い勝手は悪くは無いのだが、俺がスキルとして再現できる程度の物でしかない。
その結果として、自身よりも圧倒的に筋力に勝る存在に押し負け、鉄壁の外鎧は突破できず。遠距離から飛来する光弾に常に晒されるという体たらくを演じることこなったようだ。
「おい。コレは神界ではどんな扱いになっているんだ?」
「……うですね、もはや。笑いものを通り越して哀れみの感想が多かったですね。ただ、それでも諦めず、ネク様を討とうとするガッツには見所があると」
俺はきっとこの話しを聞きながら渋面を作っていたことだろう。
ラヒルデには定期的に神界へと脚を運んでもらって情報を集めてもらっている。
「ほんと、相変わらず神族は馬鹿な事が大好きだな。だが、こうも時間が掛かるようでは、皆飽きるだろに」
「いえ、それが、多くの情報通信の画面枠右下に、小さく表示されているようですから」
「なんだ、向こうでは常にこの情報を見ることを強要でもされているのか?」
「それに、上空に専門の映像が投影されてますので。屋外にでても常に目にすることになりますから。認知度はかなり高いですよ」
「……本気で神界は暇なんだな、え? そうだろ?」
ここまでの、なんでむさ苦しい筋肉ダルマがやられている映像を見ないといけないのだろうか?
あ、神界での流れる映像はあいつの視界の映像か。
あんな醜悪な面構えを絶えず見せ付けられたら、気がどうかしてしまう。
まぁ、お祭りが極めて好きなヤツ等だ。
一方的に嬲られても、引く事が出来ない以上進むしかない。
そんな情景を見て、恐らくは指を指して笑っているのだろう。
「それだけ、ネク様の事を気に掛けているのです。これまで表に表れなかった始祖神。普段のネク様のことはハッキリ言って皆全然知りませんから」
ああ、そうですよね。
神界時代は引き篭もっていましたから。
「まぁ……観ても楽しいものじゃないぞ? オルもアレフも、その事が解った上で、この状況を引き起こしているんだから」
「解っています。ですが、私たちが抱える爆弾がどれ程のものか。その一端を知ることは出来ると思いますから」
ラヒルデはやはり、未だ俺の結論には納得いかないのだろう。
俺の力を衆目に晒すことには反対のようだ。
この議論も幾度と無く繰り返したのだが、俺は首を縦にはふらなかった。
「結論は変わらんよ。それに、いまならまだ間に合うかもしれないからな」
「間に合う……? 一体、何がですか??」
俺が初めて口にした、怒りから来る以外の目的。
だが、俺をもってしても、アレは出来ない可能性が極めて高い事柄。
一応、もう片方は確保してある。
「一応、願われたからな。可能であるのなら、応えてやるさ」
そう言うと俺は席を立つ。
あいつ等は最下層。
出迎えなければなるまい。
地下の迷宮を走る彼等の足取りは重い。
だが、やはり仲間なのだろうか。
リーダー各であるベルク同様、彼等の眼には怒りが込められている。
それが、自分勝手からくる八つ当たりである事に気がついては居ない。
ただ、今の置かれた状況。その原因は全て俺にある、そう認識しているのだ。
だからこそ、ここで俺を打倒し、屈服させることで自分達の保身を図り、かつ、始祖神を倒したという栄誉を手に入れようと浅はかな考えをしているのだ。
故に気がつかない。
彼等の後をひっそりと追跡している猟犬が居ることを。
そして、自分達が向かっている場所が、決闘場ではなく、処刑場であるという事を。




