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迷い猫と錆びた加護  作者: 彼鳥 経
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6.フェルーザの到着

 ラゼルトとガルドの世間話が続くなか,入り口のドアが雑に開け放たれた.

 カウンター上のティオがぴくりと体を震わせる.ガルドも手荒な侵入に即座に反応し,自衛用に隠し持っていた木の棒をフロントの下から取り出し,そのままカウンターを飛び越えると素早く身構えた.

 一方,ラゼルトは飛び出すガルドを避けると,その動きを目で追いつつ平然と入り口を振り返った.


 そんな二人の視線を受け止めた新たな来訪者は女性だった.

 振り返ったラゼルトが女性に視線をやると,構えたガルドの前に腕を差し出し制止した.そして,その態勢のまま女性へ乱暴に声を掛けた.

「おせーよ,フェル.新しい現場の初日から大遅刻するとは大物だな,おい?」

 フェルと呼ばれた女性はラゼルトの知り合いらしい.宿に入るなり膝に手をつき肩で息をしている.

 年のころは明らかにラゼルトより一回りも二回りも下.つまりガルドにとっても年下だ.動きやすさを重視してかスカートではない.息を切らせた姿を見るに,合理的な判断だったと言わざるを得ない.また,汚れていない靴に仕立てのいい上着を合わせている様子から考えると,ラゼルトと同郷なのかもしれない.

 こちらに手のひらを向けつつ少し息を整えると,フェルと呼ばれた女性が苦し気に声を上げる.

「いや先輩……ちょっと待って,……まず聞いて…くださいよ.これにはどーしよーもない理由があるんっすよ」そう言いながらフェルはラゼルトへ向けてよたよたと近づいていく.

 身なりは頭の切れる人物といった印象だが,言葉遣いはまだまだのようだ.

「いちおう聞いてやる.言ってみろ」仁王立ちで控えるラゼルト.

「実は昨晩,同期で集まろうって話しになって,それで同期のひとりがありえないくらい社会人デビューしてて盛り上がって,私は二次会で帰るつもりだったんすけど,気づいたら最後まで付き合っちゃって,で,起きたらさっきで,ここまで全力で走ってきたってわけっすよ,あ,いちおう身だしなみは最低限整えてきましたけど」あらためて手櫛で肩まで届く髪を整えるフェル.つられてティオも毛づくろいを始める.

 第三者という立場上なんとも反応しなかったが,ガルドは思わず大きなため息を漏らしていた.言葉遣いもさることながら頭の切れもまだまだのようだ.

 ラゼルトも小さくため息をつくとフェルへ答えた.

「ならまぁ仕方ねぇか,次から気ぃつけろよ」

 ガルドは一瞬耳を疑い,ラゼルトとフェルの顔を交互に見やった.そんな言い訳が通用することがあるのか.このふたりは上司と部下ではなく,もっとほかの関係なのか,だとしてもさすがに甘すぎる.正直,妙だ.

 とはいえ,立場上,ガルドはさまざまな言葉を飲み込んで見守るしかなかった.

 ガルドの視線を察してか,若干気まずそうにフェルが口を開いた.

「ところで,ここ全体的に家具とか壁の模様とかレトロで可愛いっすね.あ,自分フェルーザって言います.よろしくっす」フェルーザの視線がロビーを一回りした.

 ティオは静かにフェルーザを見つめていたが,フェルーザの視線はそこで止まらず素通りした.その視線がガルドに至ると,ガルドは「ありがとうございます」と当たり障りない回答でお茶を濁した.

「やっぱお前もそう思うよなぁ」とラゼルトがフェルーザの肩を叩く.

 そこでロビーの空気は一変した.

 結果として,フェルーザの遅刻はもう過去の話になったわけだが,ガルドにはどうにもできすぎに見えた.

 劇場を見ているような.

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