25.探し屋の仕事
地下室の捜索から数日後,ガルドは探し屋の仕事に出ていた.依頼人はラゼルトとフェルーザ.依頼はロウェンのアジト捜索だ.
今日はいつにもまして日差しが強い.人型に戻ったティオにつば広帽子の輪郭が見える.ティオに服装を気にする性質があるとは思えないが,待ちゆく人を見て形状を真似ているのだろう.
そんなティオは傍らで依頼内容を耳にすると,足取りも軽やかにガルドを導いていた.
路地裏を抜けて商業区へ出て,さらに中心区画へ.しかし中心区画を通り抜けてやや外れへ.そこからさらに行政区の官庁街を抜けると道幅も広く整理された街区が広がっていた.
露店もなければ,公的機関もない.特別な目的地でもなければ足を踏み入れる人はいないだろう.そんな郊外にロウェンのアジトは立地していた.
それは堅牢な石造りの壁に守られた豪奢な邸宅だった.
なんとなくガルドもラゼルトも「アジト」とは表現したものの,ロウェンは別に反社会的な人物ではない.ちょっと,いやかなり立派な構えではあるが,とはいえ一般邸宅の範疇は越えない.
ガルドは門扉の前に立つと大きく息を吸い,獅子の顔をかたどった呼び金具を打ち鳴らした.
猟犬のような私兵が表れるかとガルドは身構えていたが,扉を開けて招き入れたのは給仕服の使用人だった.
宿の通路ほどあろうかという廊下を進むガルドの目には,並べられた調度品の数々が映る.どことなくロビーに置いてある品々に雰囲気が似ている.
通された最奥の部屋ではロウェンがくつろいだ様子でソファに腰かけていた.その雰囲気から見るに私室なのだろう.促されて,ガルドはロウェンの対面,磨かれた一枚岩の長机を挟んで目と鼻の先の距離のソファへ腰かけた.
使用人がガルドの前に茶を置いて出て行くと,ガルドはさっそく要件を切り出した.
「先日は見逃していただいてありがとうございました.それで,もしかしてお探しのものはこれではないかと思いお持ちしました」
ガルドは持参した鞄から分厚い書類束を取り出すと静かに卓上へ置き,ロウェンの目を見た.それを見るとロウェンの目が一瞬だけ見開かれる.
「内容は確認したのかな.いや,してるだろうね普通は」
鷹揚な態度は変わらない.
「はい,ざっと目を通したくらいですが」
「それで,なにが要求だ」
開き直ったようにロウェンが言い放つ.
「いえなにも,と言いたいところですが,ひとつだけ」ガルドは人差し指を立てる.ティオも真似して尻尾を立てる.「自分は今の生活を気に入っていて,できるだけ長く続けたいと思っています」
ガルドはティオを一瞥して続ける.
「なんですが,それがどうも人様の善意の上に成り立っている脆い状態らしくて.このままだと家を追い出されそうなんです.そこをどうにか助けてほしいんです」
ガルドの声音は穏やかではあるが,表情は笑っていない.ロウェンはガルドを見定めるようにじっと目を見て逸らさない.
しばらくして,ガルドを見る目が変わるとともにロウェンが口を開いた.
「なるほど,その程度のことであれば力になれるかもしれません」
その他大勢を見るような目から,評価対象に変わったような,そんな目だ
「では,その件は後日,文書でお知らせしますよ」
穏やかに言うと,ロウェンは黙って席を立った.
「ありがとうございます.ではその書類は置いてゆきますので,どうぞご自由に」
ガルドもあっさりと承諾するとその場をあとにした.
これにて依頼完了.




