24.地下室へ
三人が地下室へ降り立つと,ティオが上から降ってきた.猫型の姿に戻っている.地下室は決して広くはない.そのほうが都合がよいとティオが判断したのかもしれないと,ガルドはなにも言及しなかった.
地下室の天井は低く,ろくに換気口もないことから空気も薄い.それだけでも長居はしたくないところだが,ガルドにとってはさらに居心地の悪い理由があった.
足を踏み入れた瞬間,ガルドの肌にビリビリとした細かい振動が走る.鳥肌のような生ぬるいものではなく,虫が這いまわるような不快感だ.また,汚染残滓の影響かランプの光源さえ心もとなく感じる.
ガルドはラゼルトとフェルーザの様子を探ってみたが変わったところはない.どうやら大きな影響はないようだ.猫型に戻ったティオも平然としている.猫型に戻ったのはおそらく残滓の影響なのだろうが,姿を維持できているならば加護は有効だろう.
そう考えたガルドの思考を読んだかのように,ティオが尻尾を振りながらガルドを誘導し始めた.果たして,その先には皮紐で綴られた分厚い書類束が一冊置かれていた.
心もとない光源のもと,ガルドは書類束を手に取った.細かく並んだ文字を追う時間も灯もないが,見出しと思しき項目だけ飛ばし読みする.
「汚染に関わる書類だ」そう言うと書類束とランプをラゼルトへ手渡す.ランプはフェルーザが担当し,二人も書類束に目を通す.
「あー,引き潮の時代の真実ってやつか.これはロウェンのおっさんが必死になるのも分かるな」
「先輩もおっさんじゃないっすか」
「うっせ」
なぜか尻尾を振っているティオの脇で二人は書類を読み進める.
書類束をガルドへ戻すとラゼルトが口を開いた.
「どうする,大将.ロウェンがどう関係するのかはよく分からんが,これが世間に公表されたら一大事ではあるぜ」
「お望みどおり,ロウェンに返そう」
迷いなくガルドが答えるとラゼルトは少しばかり目を見開いた.
「まじかよ大将,こんないいネタ,みすみす逃そうってのか」そう言うとラゼルトは諭すように説明を始めた.「これをネタにロウェンを脅すもよし.恨みは買うだろうからそのあと逃げる必要はあるだろうけどな」
まずひとつというように指を立てる.
「仮にこれを世間に公表すりゃ,汚染に関して当局の責任も問われるだろ.俺たちの世代も救われるかもしれない」
二本目.
「いや,公表してもつぶされるか.なら直で交渉するってものいいかもな.ちっと弱小ギルドには荷が重いがな」
三本目を立てようとしてやめる.
「危ない目に遭うのは反対っす」フェルーザが首を振るが,ラゼルトは無視して続ける.
「いずれにしろ,いくらでも使い道はあんだろーよ」
ラゼルトが黙ると地下室に沈黙が広がる.
ガルドはしばらく黙っていたが,最後にひとことだけ返した.
「本当にうまくいくと思いますか?」
ラゼルトはしばらく考え込むと肩を落として答えた.
「無理だろな.世の中そんな甘かねぇわな」
ガルド自身はそこまで悲観的に考えて言ったわけではなかった.しかし,ラゼルトは少なからず裏の情報にも通じている.彼がそういうならばそうなのだろう.
「では,ロウェンに返すってことでいいですか」
「おおせのままに」




