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迷い猫と錆びた加護  作者: 彼鳥 経
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24/27

24.地下室へ

 三人が地下室へ降り立つと,ティオが上から降ってきた.猫型の姿に戻っている.地下室は決して広くはない.そのほうが都合がよいとティオが判断したのかもしれないと,ガルドはなにも言及しなかった.

 地下室の天井は低く,ろくに換気口もないことから空気も薄い.それだけでも長居はしたくないところだが,ガルドにとってはさらに居心地の悪い理由があった.

 足を踏み入れた瞬間,ガルドの肌にビリビリとした細かい振動が走る.鳥肌のような生ぬるいものではなく,虫が這いまわるような不快感だ.また,汚染残滓の影響かランプの光源さえ心もとなく感じる.

 ガルドはラゼルトとフェルーザの様子を探ってみたが変わったところはない.どうやら大きな影響はないようだ.猫型に戻ったティオも平然としている.猫型に戻ったのはおそらく残滓の影響なのだろうが,姿を維持できているならば加護は有効だろう.

 そう考えたガルドの思考を読んだかのように,ティオが尻尾を振りながらガルドを誘導し始めた.果たして,その先には皮紐で綴られた分厚い書類束が一冊置かれていた.

 心もとない光源のもと,ガルドは書類束を手に取った.細かく並んだ文字を追う時間も灯もないが,見出しと思しき項目だけ飛ばし読みする.

「汚染に関わる書類だ」そう言うと書類束とランプをラゼルトへ手渡す.ランプはフェルーザが担当し,二人も書類束に目を通す.

「あー,引き潮の時代の真実ってやつか.これはロウェンのおっさんが必死になるのも分かるな」

「先輩もおっさんじゃないっすか」

「うっせ」

 なぜか尻尾を振っているティオの脇で二人は書類を読み進める.

 書類束をガルドへ戻すとラゼルトが口を開いた.

「どうする,大将.ロウェンがどう関係するのかはよく分からんが,これが世間に公表されたら一大事ではあるぜ」

「お望みどおり,ロウェンに返そう」

 迷いなくガルドが答えるとラゼルトは少しばかり目を見開いた.

「まじかよ大将,こんないいネタ,みすみす逃そうってのか」そう言うとラゼルトは諭すように説明を始めた.「これをネタにロウェンを脅すもよし.恨みは買うだろうからそのあと逃げる必要はあるだろうけどな」

 まずひとつというように指を立てる.

「仮にこれを世間に公表すりゃ,汚染に関して当局の責任も問われるだろ.俺たちの世代も救われるかもしれない」

 二本目.

「いや,公表してもつぶされるか.なら直で交渉するってものいいかもな.ちっと弱小ギルドには荷が重いがな」

 三本目を立てようとしてやめる.

「危ない目に遭うのは反対っす」フェルーザが首を振るが,ラゼルトは無視して続ける.

「いずれにしろ,いくらでも使い道はあんだろーよ」

 ラゼルトが黙ると地下室に沈黙が広がる.

 ガルドはしばらく黙っていたが,最後にひとことだけ返した.

「本当にうまくいくと思いますか?」

 ラゼルトはしばらく考え込むと肩を落として答えた.

「無理だろな.世の中そんな甘かねぇわな」

 ガルド自身はそこまで悲観的に考えて言ったわけではなかった.しかし,ラゼルトは少なからず裏の情報にも通じている.彼がそういうならばそうなのだろう.

「では,ロウェンに返すってことでいいですか」

「おおせのままに」

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