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迷い猫と錆びた加護  作者: 彼鳥 経
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23.バックヤードの捜索

 当面の危機は去ったが謎は残ったままだ.けっきょくロウェンの狙いはなんだったのか.そのカギはバックヤードの奥の部屋だ.ガルドとしても,そろそろ決着をつけておくのにやぶさかでない.


 集まった人々をフェルーザが加護の力で返しているのを脇目にラゼルトがガルドに声をかけてきた.「そこにいるんだな.なんでか気配だけは分かるようになったぜ」ラゼルトの視線はティオのほうへ向けられている.

 とうのティオは視線を避けるようにラゼルトの目の前まで移動してその顔を見上げている.

 わざわざ説明する必要もないだろうと判断したガルドは首をかしげる.否定も肯定もしない.ほどなくして,場を収めたフェルーザが戻ってくると,三人はあらためて奥の部屋の捜索へと向かった.

 ザラリとした不快感を覚えつつも進むと,布は雑に取り払われ,その周囲に多くの荷が散乱していた.化粧箱のようなものから,用途不明の骨とう品まで.雑に広げられている.

 その様子からは侵入者がここを重点的に捜索したことが見て取れる.ただ荷を解いただけではなく中身もすべて外へ出され,小箱のようなものさえも開け放たれている.

 その執拗とも思えるほど細かなやりようを見ると,大きな収穫は得られなかったのかもしれない.

 もっとも,ガルド自身,この部屋にほとんど足を踏み入れたこともないので,なにか獲られたとしても気づきようもない.その懸念はラゼルトも同じようで,珍しく方針を決めかねているようだった.なにを探せばよいのかも分からないのであれば,ティオの加護も出る形無しだ.

 そんな男たちの様子を観察していたフェルーザが突然声を発した.

「わたし分かったかもしれないっす」

 ガルドとラゼルトの視線がフェルーザに集中する.

「なんだフェル.言ってみろ」ラゼルトが促すと,フェルーザは部屋の床を指さして言った.「たぶん地下室があるんすよ」

 胸を張って言い切る姿を見るに,冗談ではなさそうだ.

「前に姪っ子と隠れっこしたときに,どうしても見つからなかったんすよ.それでなんとアイちゃん,蔵の床下に隠れてたんですよ.やっぱり物を隠すなら床下が王道じゃないっすか」

 理由を聞いても納得できる要素がない.ラゼルトも呆れているようだ.

「いやお前な,いくらなんでもそりゃ王道すぎだろ.なぁ大将」

 たしかに,この宿に地下はある.おそらく食料貯蔵庫として使われていたのであろうが,いまは椅子だの机だの大物の不用品を貯めている.要するに物置きだ.それは一緒に宿を点検した際に二人も承知しているはずだ.

 ガルドとラゼルトは視線を交わして同時に肩をすくめた.フェルーザには悪いが捜索を再開しようとした.しかし,そのとき突如として聞きなれない声がガルドの耳に届いた.

「……イショウ」とそれは聞こえた.そしてこの声が聞こえるのはガルドだけのようだった.ラゼルトとフェルーザはなにやら言い争いを始めている.

 ガルドが声の方向に振り向くとそれはティオから発せられていた.ガルドに何か伝えようとしているのだろう.ティオが声を発していることは驚きだが,まずはティオの意図を考えようとガルドは顎に手を添えた.

 イショウ,衣装?たしかに荷の中に衣装ケースのようなものはあったが,どうみてもただの化粧箱だし中身も衣類そのものでしかなかった.

 では意匠?この宿は全体的にレトロ調で,今いる部屋の造形も凝っている.壁のデザインがなにかのヒント?あるいは仕掛けでもあるのか?と壁をさすって回るがとくに異常は見られない.

「……タ……イショウ」

 ふたたびティオの声に耳をこらすとガルドは聞き漏らしに気付いた.タイショウ.大将?これはラゼルトが自分を呼ぶときのお決まりだ.しかし,ティオがいまこの瞬間にそんな呼び方をするだろうか.したとしてそれがどんな意味を持つというのか.

 ラゼルトのほうを見ると,腰ほどの高さもあろうかという荷を軽々と持ち上げ,さまざまな角度から確認している.

 そこでガルドの脳裏に加護管理局からの帰路の光景が浮かんだ.立ちはだかる刺客,背後で響く轟音.砕け落ちたレンガを拾うラゼルト.

「そうか——代償か」と声を上げるとラゼルトはフェルーザのほうへ向き直った.「すまなかった.フェルーザさん.あらためて床を重点的に調べてみよう」

 ガルドは屈んで床まで視点を落とした.渋々ラゼルトも床を探り始めたが,すぐにラゼルトも声を上げた.

「クソっ,代償か」ラゼルトは額に手を当ててフェルーザに向き直った.「わりぃなフェル.加護の目的外利用のやりすぎで反動が来てたんだな」

「ひどいっすよ先輩……」口をすぼめるフェルーザを見ながらガルドが確認する.

「たしかフェルーザさんの加護は魅了とか説得に類するものでしたっけ.ということは,反動は不信とか嫌悪ですね」

「そういうこった.反動でフェルの言うことの説得力がなくなってたんだろうな」ラゼルトは手で追い払う仕草でフェルーザの愚痴をいなす.「それに,もともと出鱈目ばっかいうやつだから俺でも気づけなかったぜ」

「ひどいっすよ先輩!」

 フェルーザの抗議の声とほぼ同時,ガルドの指がわずかに浮いている床板に突き当たった.

 ガルドは傍らに転がっていた木製の角材を手に取ると床材の隙間に差し込む.ささくれが指に食い込むが構わない.隙間の広がった床板をテコの原理でさらに浮かすと,勢いよく床板が外れる音がした.態勢を崩したガルドの顔にこれまでとは違う冷気が当たる.当たりだ.

 外れた床板を脇へ動かすと,ちょうど人ひとりが通れる程度の立方体の空間が真下へ通じていた.側面にはひどく錆びた金属製の梯子が括り付けられている.

 三人は顔を見合わせると軽く頷きあい,順に梯子を下った.

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