19.ブリーフィング
日も暮れかけた夕方.貧民街から戻るなり,ガルドは応接スペースのソファへ深く沈んだが,休む間もなくラゼルトがさっそく声を掛けてきた.
「お疲れぃ.で,首尾はどうよ」
ガルドはのけぞった姿勢のままラゼルトを横目に見る.ティオもガルドの脇で伸びをしている.
「一応の成果はあったが,せいぜい数名ってところだ」ラゼルトは少し微笑んだ.
「はじめての勧誘でたいしたもんじゃねぇか」
「そっすね」どこからかフェルーザが来て飲物を置いてくれた.盆にはあと2つ乗っている.自分とラゼルトの分だろう.ラゼルトがそのひとつを手に取った.
「でもたしかに,そんばかしじゃあな.ギルドとしての体にゃならんだろうな」
ガルドは身体を起こし杯に口をつける.冷たい水が疲れた身体に染み渡る.
「いろいろ行ったんだが,まず,大半の人はもうどこかしらの組織に入ってる」
「あーまぁ,だろうな」ラゼルトは予想していたようだ.
知っていたなら初めから言ってほしかったと,ガルドはラゼルトを軽く睨んだ.
「だから,次は組織に所属しづらそうな層を狙って貧民街へ行った」
そんなガルドの視線をラゼルトは無視する.
「なるほど,俺らの世代狙い撃ちか」
ガルドは大きく頷いた.
「これはうまくいった.ただ,せいぜい数名だ.そもそも貧民街だけじゃ絶対数が少なすぎる」
それを聞くとラゼルトは顎に手を添えた.
「まぁ,ひとくちに錆の世代とは言っても,全員が落ちぶれてるわけじゃねぇ.普通に市中に溶け込んでるやつのほうが多いからな」
続きがあるかとガルドは待ったが,なにもないと分かると締めに入った.
「で,行き詰まりってわけさ」ガルドは手のひらを上に向ける.
そのとき,ティオがあくびをすると同時に宿の外,遠くから鐘の音が響いた.夕刻を知らせる定時の時報だ.屋内ではくぐもって聞こえる.
一行が黙って飲物を飲んでいると,ふいにフェルーザが口を開いた.
「だったら,逆に狙いを絞らなきゃいいんじゃないっすか」
ガルドとラゼルトが口を開けてフェルーザを見る.
「世の中の特定の誰かに何かを伝えようとするから効率悪いんっすよ.もういっそ全体にお知らせすれば,その中の対象の人にも届くんじゃないっすか」
無差別攻撃,一斉発信,網羅的手法.発想は悪くない.しかし,具体的にどうすればいいのだろうか.
ふたたび一行は黙り込む.
鐘の音が響き終わると,誰かが何事かを話す声が聞こえた.時報に続く情報周知の放送だ.しかし,遠方のせいか反響が重なり,なにを話しているのかまでは分からない.
「これとかどうっすか」フェルーザが天井を指さす.
それを聞くとラゼルトが拳で手のひらを打つ.
「公共放送か.悪くねぇな.公共とは言うが,この放送は別に当局専用じゃねぇ.教会本部に申請すれば誰でも利用できる.試してみる価値はあるんじゃねぇか」
「でも,お高いんでしょう」とフェルーザが水を差すが,ラゼルトがすかさずフォローする.
「そこは問題ねぇ.公共的な価値あるものなら格安で利用できる.俺らのギルドならうってつけだろ」
ラゼルトがガルドに視線を移す.
ここまで来たならなんでもやってやる,とガルドは腹に力を込めた.
「あぁ,それなら明日にでも教会へ行ってみることにするよ」




