17.商業通り
ギルドの運営に必要な要素は「場所」「運営」「利用者」だ.場所と運営は確保済み.ラゼルトの計画に不足していたのは実際の利用者だ.そこでガルドは商業区での勧誘に乗り出していた.直接的で古典的ではあるが,避けては通れない正攻法だ.
まず,ガルドは馴染みの屋台で声を掛けた.いつもの茶粥に甘味も追加注文してから誘う.
「おやっさん,今度ギルドを作ることになってさ.どうだい?」
店主は穀物の種で餡をくるんだ甘味をガルドの前に置いた.ティオが興味を示すが,彼女は食事を必要としない.店主はガルドから目を逸らすと別の注文に取り掛かりつつ続けた.
「あー,お誘いは嬉しいんだがちょっと無理だな.……俺はもう街の飲食ギルドに入ってるからな.あそこは掛け持ちにいい顔しねぇしよ.たぶん他も似たようなもんじゃねぇかな」
「そうですか.気が変わったら教えてくださいね」
ガルドは屋台をあとにすると,念のため他の店にも声を掛けた.だが,果たして店主の言う通りで,どこもつれない返事だった.
続いて,ガルドは商業通りの道行く人の勧誘に移った.
これは中々に険しい道のりで,ただ話を聞いてもらうだけでも一筋縄ではいかなかった.
大柄なガルドが声を掛けると身を縮めて足早にその場を去る婦人.目もくれず無言で歩き続ける者.睨みつけると地面に唾を吐く男など,さまざまな拒絶を体験することになった.そして運よく足を止めて話を聞いてもらえても,けっきょく成果は出なかった.理由は大きく分けると3つ.
「雇い主の方針でギルド加入はできない」
「加護はないが,すでに教会に加盟している」
「探してはいるが,実績のない新興ギルドは嫌だ」
加護を持つのは個人で神の事業を受託しているものにかぎらない.なんらかの事業を受託している者の下で働く場合も,事業遂行のための再委託として加護を得られる.そうした加護を持つものは雇い主の方針でギルドの掛け持ちができないそうだ.これは屋台の店主と似た構図で,大半の人がこの理由だった.
次いで多い理由が実績の問題.正直なところ,実績のないギルドに実績を求められてもどうしようもない.加護管理局でのギルド設立申請の必須事項と同じだ.なるほど,あれはこうした人々の声あってかとガルドは納得したがやはり不条理だ.
最後に教会だ.加護を持っていない人でも信仰を持つ人は少なくない.そういった人々の受け皿となっている教会は,必要とあらば信仰の代価として加護の一時貸与をする.そうした仕組みを利用する人々はすでに教会へ加盟しており,やはり教会もギルドの掛け持ちを認めていない.
日も暮れるまでガルドは勧誘を続けたが成果はなし.
一日歩き回ったこともそうだが,心理的な疲労感が大きい.落ち着いて考えればなんの実害もないのだが,単に拒絶されただけでガルドは呼吸が細くなるような感覚を覚えた.
不快感に耐えかねて肩を落とすと,ガルドはいったん宿へ戻ることとした.




