14.看破
ラゼルトとフェルーザには応接スペースで休んでもらい,ガルドはバックヤード奥の炊事場で茶を入れた.そして杯をふたつ持ってロビーへ戻ると二人にふるまった.静まり返ったロビーの床にはランプが淡い影を落としている.
復旧した応接スペースで一息ついたあと,ガルドは状況をまとめた.
「くまなく確認しましたが,けっきょく,なにも獲られてはいないみたいですね」ガルドはあらためて胸をなでおろす.「ふたりとも協力ありがとうございました」
「いえいえ,ギルド設立が決まった以上,もう無関係じゃないっすからね」早々と茶を飲み干したフェルーザは頭を振った.「わたしたちの拠点のために動くのは当たり前っすよ」
「だな」とラゼルトも静かに頷いた.
しかしそこで一瞬の沈黙が訪れた.床に落ちている三人の影が揺らめく.
「ただな,大将.あんたいま『くまなく確認した』って言ったけどよ,それ本当か?」ラゼルトの目にランプが反射してわずかにきらめく.ガルドは目を丸くしてラゼルトを見返す.
「はい,そりゃもちろん.……どういうことです?」ガルドの様子を見るとラゼルトは頭をかきむしった.
「大将,じゃあよ.あんたフロントの奥はちゃんと確認したか?してねぇよな」
フロントの奥,と耳にしただけで肌のうえを走るザラリとした感触が思い出される.フロントの奥,つまりバックヤードの中,さらにその奥には例の部屋がある.布がかけられたまま荷が放置されている部屋だ.
「あぁ,そうでした.完全に忘れてました」ガルドはおおげさに後頭部を触って笑う.「それに,バックヤードの中はさすがに部外者のお二人には見せられないですし」
嘘である.
ガルドはその部屋の存在を当然しっかりと認識していた.
部外者という言葉で顔を曇らせるフェルーザとは対照的に,ラゼルトは大きく頷いた.
「なるほどな,なんとなく分かったぜ」ラゼルトは立ち上がると,ガルドの背後へ回り込み背中を押した.「よし,それじゃ一緒に奥も確認しようぜ.いいだろ,もう同じギルド拠点の関係者ってことでよ」
ガルドの微笑みが歪む.しかし,強引ではあるが,無理に拒否するほどでもない.ガルドは渋々ラゼルトたちをバックヤードの中へ案内した.
予想はついていたが,バックヤードの中はロビー以上に入念な捜索の跡が残っていた.
数々の書類束は乱雑に広げられ,引き出しの中身もデスクの上へ散らばっている.その中にはロウェンから送られてきた建物明渡請求通知もある.
書類束を棚にしまい,書類を綴じなおし,封筒を引き出しへ戻すとガルドは言った.
「やはり,なにも獲られてないみたいです」
ラゼルトは周囲を眺めていたが,その言葉を聞いて動きを止めた.それから腕を組んで静かにガルドを見据えた.
「やっぱりそうか.……大将,あんた奥の部屋を見てないじゃねぇか.どう見ても避けてる」ラゼルトはいったん言葉を切り,ふっと軽く息を吐いてから続けた.「俺はな,そういう避け方をする人間を知ってるんだよ.……かつての俺だ」
ラゼルトは声を落とした.
「もう分かってると思うがな,俺もお前と同じ錆びた世代.汚染された加護を受け入れた世代だ」
ガルドは傍らのティオに視線を落とした.少しの沈黙のあとラゼルトは小さな声で付け加えた.
「だから今こうしてんだよ」




