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迷い猫と錆びた加護  作者: 彼鳥 経
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13.巡回点検

 ラゼルトの「建物全体も見ておくべきだ」という提案を受けて,三人は宿全体を順に巡って確認することにした.

 この宿の構造は3階建て.1階が共用部分.2~3階が客室.そして屋上もある.

 上から順に見ようということで,ガルドたちはまず屋上から検分を始めた.

 ガルドはふだん施錠されている扉を開けて屋上に出る.

 三人が表に出るとすっかり日も暮れかけていた.しかし,薄暗いとはいえ検分するにはまだ困らない程度だ.

 ガルドとラゼルトがそれぞれ別方向から屋上をぐるりと見て回る.フェルーザとティオは呑気に街角の灯を眺めている.

 屋上の検分はさほど時間もかからず終わった.屋上には物も少なく,見て回る苦労もほとんどないからだ.結果,屋上に目立った異常は認められなかった.これは施錠が維持されていることからも予想できた.

 続いて客室部分.すでに逗留客のいる客室はガルドだけが確認を担当し,そのほかの客室は3人で見て回ることにした.当然,すべての客室は施錠されているため,ガルドが随時マスターキーを利用する.ついでにガルドは廊下のランプを灯していく.

 そんなガルドの動きをラゼルトが目で追っていたが,廊下の中ほどでフェルーザが声を上げると中断された.

「いくら宿の主でもここはだめっすよ」

 フェルーザは扉の前を身体で塞いでいたが,ラゼルトはそれに気づくと構わず押しとおった.

「うるせぇ,いくぞ」

 フェルーザの激しい抗議もむなしく扉は開けられた.

 しかし,いざ扉を開けるとなんのことはない,単にだらしのない部屋が広がっていた.対して,その後つづけて確認したガルドの部屋は,本当に使われているのか疑わしいほど整理されていた.

 さらに何部屋か確認すると廊下のランプはすべて灯された.ガルドが廊下の端のドアを閉めるとラゼルトが口を開いた.

「これで客室はすべてか」

「あぁ,そうだ」

 そう言いつつ,ガルドの中では,ある予想が確信に近づいていた.

 やはり侵入者はロウェンの差し金だ.ふだん施錠されている部分は荒らされていないことから,ある程度は事前に宿の構造を知っていた可能性が高い.本来の持ち主であるロウェンならば図面の控えくらいは持っていても不思議ではない.おそらくは,狙いのものがどのあたりにあるかも把握していたのだろう.

 客室の捜索を切り上げて1階へ降りると,手すりの上で待ち受けていたティオと目が合った.探し物の加護を持つティオのことだから,ここまでの捜索が空振りに終わるのを知っていたのかもしれない.

 最後に,地下室だ.先ほど降りてきた階段の下に目立たない扉があり,そこを開ければ地下へと下る階段がある.初めからなにかを確かめるように歩いていたラゼルトもそこは見落としていた.

 すっかり夜も更けた時間帯.月明りこそあるが,ロビーの視界も心もとない.ガルドはロビーを巡ってランプを次々灯すと,そのうちのひとつを手に持って扉の前に立った.

 もっとも,ガルドはとくに収穫を期待していなかった.

 現在,地下室は使われていない.時折,ガルドが壊れた調度品や寝具などを処分費用を浮かすために運び入れているだけだからだ.

 目立たないよう嵌め込みになっている取っ手を引いて扉を開け,地下への階段を下りる.大柄なラゼルトはロビーで待機してもらい,ここはフェルーザとふたりでの探索にする.

 汚染残滓の影響で弱まったランプの灯がふたりを照らした.

「薄暗いところでふたりきりっすね」とフェルーザがガルドをからかうが「気を付けてください,転ぶと舌を噛みますよ」とガルドは相手にしない.

 忠告どおり足元に注意して階段を降り切ると,決して広くはない地下室にガラクタが積み上げられていた.ただ,いずれも埃は被ったまま.

 ガルドがガラクタを指でなぞるとくっきりと跡が残り,手に持つランプの光源近くに粒子が舞った.咳き込むフェルーザを見ると,ガルドは首を振ってロビーに戻った.地下室の捜索も空振りだ.


 地下の検分も終わると3人はみたび1階のロビーへと戻ってきた.結果として確定したことがひとつ.荒らされていたのは1階部分のみで,2階~3階の上層部は手つかずだった.屋上や地下も同様だ.

 そこで三人はあらためて1階を検分することにした.今回は散乱した品々を原状回復しつつ.

「すみません,おふたりとも.流れで手伝ってもらって」

 ガルド一人では手に余ったであろう大型のソファも,ラゼルトの助けでなんとか元の位置に収まる.

「いや,なんてこたねぇよ.気にすんな」とラゼルトが答える.

 案外,気のいい男なのかもしれないとガルドは思い直した.

 また,侵入者の無遠慮な足跡や砂ぼこりもフェルーザが綺麗にふき取ってくれた.これで地下室での戯れはチャラにしてやろう.

 復旧も一段落し,一行は元通りになった応接スペースに腰を落ち着けた.今回はティオも定位置のカウンターではなくソファの端で丸くなる.

 さいわい,物が壊されることはなかったため,ロビーを以前の状況に戻すのにはさほど時間もかからなかった.

 これで,客室,共用部,フロント,屋上や地下も含めてすべて確認を終えた.

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