12.痕跡
襲撃の動揺も落ち着いた一行は足早に宿への帰路を進めた.
さすがにガルドも疲れを感じていたが,宿のドアに手を掛ける前に疲労は吹き飛んだ.
ガルドが加護管理局へ向かう際,ちょうど常連客も不在にする予定だった.そのため,ガルドも宿を施錠して出たはずであった.しかし,眼前のドアは開け放たれ,内部もすでに荒らされていた.
倒れた椅子に,壁から剥がされ床に投げ出された絵画.フロント脇の書架に並べていた近隣店舗の案内冊子なども散らばっている.
破壊が目的ではなく,明らかになにかを捜索したといった様子である.また,わずかに温もりの残る空気から,先ほどまで人がいたことが感じられる.とすると,先ほどの追いはぎは時間稼ぎだったのだろう.
呆然とロビーを眺めつつもガルドは考えた.心当たりはある.おそらくロウェンだろう.
ロウェンの要求は宿の立ち退きではあった.だが,宿のどこかにある何かが目的であれば,眼前の惨状も路地裏での追いはぎも説明がつく.ロウェンの紳士的な物腰とは結びつきづらいが,人を表面上の印象で判断するほどガルドも若くはない.
ガルドの背後から呑気な声が響いた.
「こりゃひどいっすね」
「だな.荒らした痕跡を隠すつもりもない.警告の意図でもあるのかもな」
遅れて到着したフェルーザとラゼルトの声だった.ガルドが計画に乗ったいま,このふたりが疑われるような行動をする動機もない.ふたりは無関係なのだろう.
ともかく,ガルドは散乱した調度品をもとに戻そうと,まずは縦に転がった応接スペースのソファに手を掛けた.
「いや待て」そんなガルドの肩にラゼルトが手を掛けた.「まず,相手の狙いを探るほうが先じゃねぇか」
たしかに,と感心しつつ,ガルドは注意深く周囲の変化を探ってみた.位置の変わった家具,傾いた壁掛け時計,無造作に開けられたガラス棚.
巡らせる視線の端にティオが映った.するとティオは音もなくフロントの奥,バックヤードへと消えていった.探し物,道案内の神らしく,付いてこいということだろう.
果たして,バックヤードはさらに念入りに荒らされていた.




