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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第97話:霧雨の湿原と、極上鴨肉・白銀鰻の超速タイムアタック収穫祭

第97話:霧雨の湿原と、極上鴨肉・白銀鰻の超速タイムアタック収穫祭

『悠久の大迷宮』第45階層――『黄金の豊穣平原と聖なる牧場』。

隠れ中ボスの黄金巨羊を討伐し、神話級の石窯と燻製室を手に入れたトウヤたち『悠久の踏破者』の八人(六人と三匹)は、しばらくの間この階層に留まり、平原の恵みを心ゆくまで満喫していた。

毎日焼き立てのパンとピザを食べ、芳醇豚のベーコンを燻し、サイラスたち(深淵のウー〇ー配達員)から届く極上のオリーブオイルや香辛料を使って、まさに貴族すら裸足で逃げ出すような超絶スローライフを送っていたのである。

「……ふぅ。食った食った! さすがに数日間の酪農&パン合宿で、炭水化物とチーズは一生分堪能したな!」

トウヤが、大きく伸びをしながら満足げに笑う。

アイテムボックスの中には、大量の小麦粉と特濃チーズ、そして燻製ベーコンが山のようにストックされている。

「ええ! 本当に夢のような日々でしたわ! でも……そろそろ、ガツンとした新しいお肉や、和風のお出汁が効いたご飯も恋しくなってきましたの」

エリスが、少しだけ名残惜しそうに平原を見渡しながら言う。

前回サイラスたちから『千年熟成醤油の種麹』を配達してもらったことで、彼らの「和食」へのモチベーションが極限まで高まっていたのだ。

「ガッハッハ! 全くだ! ピザもいいが、そろそろ醤油を使った濃い味のツマミが欲しくなってきたところだぜ!」

「よし、それじゃあ十分に英気も養ったことだし、久しぶりに階層を進むとするか!」

トウヤの号令で、一行は荷物をまとめ、第46階層へと続く黒曜石の大扉の前へとやってきた。

トウヤが懐から『天啓の美食羅針盤』を取り出し、盤面を確認する。

……チカッ、チカッ。

羅針盤の盤面には、次の階段を示す『青い矢印』だけが虚しく点滅しており、黄金色の光(極上食材の反応)は一ミリも存在しなかった。

「…………はい、解散。第46階層、食材ゼロの完全なハズレ階層だ」

トウヤが無慈悲な宣告を下す。

「チッ、またかよ。せっかく醤油に合う食材を探す気満々だったってのに」

ジンが短剣を抜き、忌々しそうに舌打ちした。

「嘆く時間すらもったいないですわ。さっさとゴミ掃除を終わらせて、次の階層へ向かいましょう!」

もはや「ハズレ階層」に対して一切の期待も感情も抱かなくなったキャンパーたちは、完全なる『作業モード』へと切り替わった。

「よし! 作戦はいつも通り『神速の最短コース開拓』だ! 羅針盤の青い矢印に向かって、邪魔なものは全部ぶち抜け!!」

「「「了解(消え失せろ)ッッ!!!!」」」

ギギギギギギ……ッ!!

第46階層――『忘却の灰砂迷宮と鉄錆の谷』。

扉の先に広がっていたのは、カサカサに乾いた灰の砂と、赤錆に覆われた鉄屑のゴーレムたちが徘徊する、むさ苦しくて無機質な谷底であった。

「食えない鉄屑が私の道を塞がないでくださいな!! 【渾身撃・オーバードライブ・一刀両断】!!」

ズドォォォォォンッ!!

エリスの大剣が、谷を塞ぐ鉄錆のゴーレムを数十体まとめて真っ二つに粉砕する。

「灰の砂風情が目障りだ! 【魔力城塞・超爆風】!」

ガレスの盾から放たれた爆風が、灰の砂嵐を完全に吹き飛ばし、一本のクリアな直線を切り拓く。

彼らの怒涛の進軍の前に、第46階層の魔物たちは一瞬の抵抗すら許されず、わずか『5分』という過去最速のタイムで隠れボス(巨大なスクラップ巨人)の部屋に到達。

それすらもジンとルミナの神速の連携によって秒殺され、彼らは第46階層を「ただの少し長い廊下」程度の認識で突破し、あっという間に第47階層の扉の前へと到着した。

「よし! ゴミ掃除完了! 羅針盤、次頼むぞ!!」

トウヤが羅針盤を起動すると――。

ピカァァァァァァァァァァッッ!!!!

盤面全体が、目を開けていられないほどの圧倒的な『黄金色の光』で埋め尽くされた。

「おおおおおッ!!」

「大当たりの反応だぞお前ら!! しかも、この黄金の光の広がり方……平原の階層に匹敵するくらい広大だ!!」

トウヤが歓喜の声を上げ、勢いよく大扉を蹴り開けた。

「さあ来い! 醤油に合う極上食材ィィィッ!!」

――しかし。

扉の先に足を踏み入れた瞬間、一行を包み込んだのは……ジメッとした重たい空気と、視界を遮る深い霧、そしてシトシトと降り続く冷たい『霧雨』であった。

「…………うわぁ」

マリアが、思わず顔をしかめて身を縮こまらせた。

第47階層――『薄暗き霧雨の湿原と沈黙の泥湖』。

見渡す限り、どんよりとした灰色の空から冷たい霧雨が降り注ぎ、足元はぬかるんだ泥と苔に覆われた湿原がどこまでも続いている。

空気は重く湿っており、景色は全体的にくすんだ灰色で、控えめに言っても「陰鬱でイマイチな環境」であった。

「な、なんだここ……。毒の沼地じゃないだけマシだけど、すっげえジメジメしてて気持ち悪いぜ……」

ジンが、湿気でベタつく髪をかき上げながらボヤく。

「最悪ですわ……! せっかく綺麗に整えた髪の毛が、この湿気と霧雨でウネウネになってしまいますの!」

エリスも、不快指数MAXといった表情で泥濘ぬかるみを睨みつけた。

環境は広大だが、キャンパーにとっては「絶対にここでテントを張りたくない」と思わせるような、イマイチすぎる階層であった。

しかし、トウヤの【神眼の指揮】は、その陰鬱な霧の奥で蠢く影たちの『真の姿』を的確に捉えていた。

「おい、お前らァァァッ!! 文句を言ってる場合じゃないぞ!!」

トウヤの歓喜の絶叫が、静寂の湿原に響き渡った。

「羅針盤の反応に狂いはない! あの霧の奥の湖で泳いでる巨大な鳥! あれは『ミスト・エンペラー・ダック(霧幻の帝王鴨)』だ! この冷たい霧雨から身を守るために、皮の下に信じられないくらい分厚くて甘い『究極の極上脂』を蓄えてやがる!! 炭火で焼けば脂が滴り落ちて、ネギと一緒に鍋にすれば世界最強の『極上鴨鍋』になるぞ!!」

「「「きゅ、究極の、極上鴨鍋ェェェッ!!?」」」

「さらに! あの足元の泥濘の奥に潜んでる長細い影! あれは『プラチナ・マッド・イール(白銀の泥大鰻)』だ! 泥の中で極上のミネラルを吸って育ったおかげで、身はフワッフワで脂乗りは最高! 先日届いた千年熟成醤油の種麹で作ったタレを絡めて炭火で焼けば、脳髄が溶けるほど美味い『究極の鰻の蒲焼き』の完成だァァァッ!!」

「「「究極の、鰻の蒲焼きィィィッ!!!!」」」

その二つの単語(鴨鍋と蒲焼き)を聞いた瞬間。

湿気への不快感も、陰鬱な景色への不満も、彼らの脳内から完全に蒸発し、圧倒的な『食欲(殺意)』へと変換された。

「鴨鍋! 鴨の脂が溶け出した甘いお出汁の鴨鍋ですわぁぁッ!!」

エリスが、ヨダレで口の周りを光らせながら『竜殺しの重剣』を構える。

「ヒャッハー!! 鰻だ! 蒲焼きだ! 白飯が無限に食える最強のオカズだァァァッ!!」

ジンも双剣を抜き放ち、完全に野生の目をしている。

「だがトウヤさん! この環境はさすがにジメジメしてて最悪です! ここでゆっくり合宿なんてしたくありませんわ!」

ルミナが、ローブの裾を泥から守りながら叫ぶ。

「ああ、分かってる! だから作戦は『超速タイムアタック収穫祭』だ! この階層の鴨と鰻を神速で限界まで狩り尽くし、さっさと拠点(エアコン完備の超快適空間)に戻って極上飯を食うぞ!!」

「「「了解いただきますッッ!!!!」」」

環境がイマイチだからこそ、彼らの「早く狩りを終わらせて快適な場所でご飯を食べたい」というモチベーションが奇跡的なシナジーを生み出し、湿原の生態系に対する理不尽なまでの超速蹂躙が開始された。

「霧の中だろうと私の目は誤魔化せませんわ! 【次元歩行の靴】起動!」

エリスが虚空の足場を蹴って空へ舞い上がり、上空を飛ぶ帝王鴨の群れに強襲をかける。

「お肉に傷はつけません! 【渾身撃・寸止め・脳天落とし】!」

ドゴォォォンッ! と、巨大な鴨たちが次々と白目を剥いて湿原に墜落していく。

「ヒャッハー! 泥の中の鰻は俺に任せな! 【直感回避・神速・泥抜き斬り】!」

ジンが湿原の泥の中へ神速で手を突っ込み、暴れる白銀の大鰻の急所(神経)だけを瞬時に切断し、一本釣りのように次々と泥の中から引きずり出す。

「マリア! 鮮度が落ちる前に一瞬で凍らせろ!」

「はいっ! 鴨さんも鰻さんも、完璧な冷凍庫にお入りなさいッ!」

マリアの【絶対結界(冷凍保存モード)】が、次々と食材を完璧な状態でパッケージングしていく。

どんよりとした陰鬱な湿原を、八人の美食家たちが嵐のように駆け回る。

「うおぉぉぉっ! 鰻だ! 鴨だ! 早く帰って蒲焼きを食うんだァァァッ!」

ガレスも爆炎で泥を吹き飛ばしながら大暴れし、トウヤは『神斬りの業物』を振るって巨大な鴨と鰻を美しいブロック肉へと最速解体していく。

本来ならば、泥に足を取られ、霧で方向感覚を失い、冷たい雨に体力を奪われるはずの難所。

しかし彼らは、そんな「イマイチな環境」をものともせず(むしろ早く帰りたい一心で速度を上げ)、わずか『数時間』という異常なペースで、広大な湿原の鴨と鰻をアイテムボックスの限界まで乱獲し尽くした。

「……よし!! もうこれ以上入らねえ! 鴨肉と鰻、完全コンプリートだ!!」

トウヤが、パンパンに膨れ上がったアイテムボックスを叩いて歓喜の声を上げる。

「トウヤの兄貴! 早く! 早く拠点に戻ってシャワー浴びて、蒲焼き食おうぜ!」

「ええ! 私の髪が限界ですわ! 早く鴨鍋の温かいスープでお肌を潤したいですの!」

「おう! 隠れボスはまた今度羅針盤で見つけて狩ればいい! 今日はこれにて収穫祭終了! 拠点へ帰還するぞ!!」

「「「うおおおおおおッ!! 帰るぞォォォッ!!」」」

***

数十分後。

第47階層の入り口付近、霧雨を完全にシャットアウトする強固な結界に守られた【星の箱庭】のダイニングルーム。

大浴場で泥と湿気を完全に洗い流し、フカフカのルームウェアに着替えた八人の前に、光り輝くような和のフルコースが並べられていた。

「さあ食え!! 『ミスト・エンペラー・ダックの極上鴨鍋 〜自家製焼きネギ添え〜』! そして千年熟成醤油の特製ダレで焼き上げた『白銀泥大鰻の究極炭火蒲焼き』だ!!」

「いただきますッッ!!!!」

ジンが、タレが照り輝く分厚い鰻の蒲焼きを、ホカホカの白飯と一緒に口の中へ掻き込む。

「――――ッッ!! う、うめぇぇぇぇぇっ!! 皮は炭火でパリッと香ばしいのに、身は箸で持てないくらいフワッフワだ! 噛んだ瞬間に上質な脂と、熟成醤油の甘辛いタレが絡み合って……白飯が、白飯が止まらねえ!!」

「ハフッ、ハフッ……! こちらの鴨鍋も反則級の美味しさですわ!」

エリスが、鴨の脂がキラキラと浮いた黄金色のスープを啜り、とろけるような笑顔を浮かべる。

「鴨のお肉が信じられないくらい柔らかくて、噛めば噛むほど野性味あふれる旨味が溢れ出しますの! この旨味をたっぷり吸った焼きネギが、また最高ですわぁ……!」

「ガッハッハ! 冷たい霧雨の中で狩りをした後の温かい鴨鍋! これ以上の幸せがこの世にあるか!!」

ガレスが、無限発酵蔵で造り出された極上の日本酒をグイッと煽り、至福の溜息を吐く。

「いやー、環境がイマイチな階層だったが、食材のレベルは間違いなくトップクラスだったな! 短期決戦で一気に狩り尽くして大正解だ!」

トウヤが、鰻の肝串をかじりながら満足げに笑う。

ジメジメとした陰鬱な湿原も、彼らにとっては「極上の鴨と鰻の養殖場」でしかない。

環境の悪さを「帰還へのモチベーション」へと変換し、過去最速のタイムアタック収穫祭を成功させた『悠久の踏破者』たち。

彼らの非常識極まりない迷宮スローライフは、熟成醤油の焦げる香ばしい匂いと、濃厚な鴨出汁の旨味と共に、今夜も最高に美味しく、そして平和に更けていくのであった。

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