第94話:隠れ中ボスの存在と、黄金巨羊の究極ラムチョップ
### 第94話:隠れ中ボスの存在と、黄金巨羊の究極ラムチョップ
『悠久の大迷宮』第45階層――『黄金の豊穣平原と聖なる牧場』。
見渡す限りの黄金の小麦畑と、のどかに草を食む巨大な乳牛や芳醇豚たち。
トウヤたち『悠久の踏破者』の八人(六人と三匹)は、この広大で平和な階層に拠点を下ろし、数日間にわたって『酪農&パン作り合宿』を心ゆくまで満喫していた。
「いやー、搾りたての特濃ミルクで作ったモッツァレラチーズと、挽きたての小麦で焼いたパン……最高だな!!」
トウヤが、拠点テラスのテーブルで焼きたてのパンに分厚いチーズと生ハムを乗せ、大きく口を開けてかぶりつく。
「んんんんッ!! パンがフワッフワで、噛むと小麦の甘みが口いっぱいに広がりますわ! そこに芳醇豚の生ハムの塩気と、チーズのミルキーなコクが合わさって……もう、この平原の草になってしまいたいくらい幸せですの!」
エリスが、両手で頬を押さえながらとろけるような笑顔を浮かべる。
「ガッハッハ! 肉だけじゃなく、こういう美味いパンとチーズがあると、食卓のレベルが格段に上がるぜ!」
ジンとガレスも、チーズをツマミに無限発酵蔵で造られた赤ワインを浴びるように飲んでいた。
平和で、美味しくて、全く危険のない最高の合宿。
しかし、そののんびりとした空気の中、トウヤがふとパンをかじる手を止め、首を傾げた。
「……ん? なあ、お前ら」
「どうしたんですか、トウヤさん? チーズのお代わりですか?」
マリアが不思議そうに尋ねる。
「いや、そうじゃなくて。……ここって第45階層だよな?」
「そうだな。それがどうした?」
「迷宮の法則だと、10階層ごとに大ボスがいて、5階層ごとに中ボスがいるはずだろ? ……なんでこの階層、平原に牛と豚がいるだけで、中ボス部屋がないんだ?」
その言葉に、全員の動きがピタリと止まった。
「……あっ!」
ルミナがポンッと手を打つ。
「確かに! 今まで第15、25、35階層には、必ず専用の中ボス部屋がありました! なのに、この第45階層にはそれらしき扉も部屋も見当たりません!」
「だろ? この平原が広大すぎるから気にしてなかったが、絶対におかしい」
トウヤは懐から『天啓の美食羅針盤』を取り出し、魔力を込めて盤面を拡大表示させた。
羅針盤の盤面には、無数の「黄金色の光(牛や豚)」と、階層の階段を示す「青い矢印」が映っている。
しかし、トウヤがさらに詳細な探索モードに切り替えると――。
平原の遥か奥、巨大な風車のような古代建造物の地下に、青でも黄金でもない、強烈な『プラチナ色の光』が一つ、点滅しているのを発見した。
「……見ろ! 階段とは別のルートだ! あそこの地下に、隠し通路が存在してるぞ!」
「隠し通路……ってことは!」
ジンが短剣を握りしめ、目を輝かせる。
「ああ。どうやらこの階層の中ボスは、普通のルートから外れた『隠れ中ボス』として存在してるらしい。……そして、羅針盤がこれほど強烈な光を放ってるってことは……!」
トウヤがゴクリと喉を鳴らした。
「ただの牛や豚の比じゃない……『超・極上の特大食材』が眠ってるってことだァァァッ!!」
「「「超・極上の、特大食材ッッ!!!」」」
のんびりパンをかじっていた美食家たちの目に、瞬時に『狩猟者の獰猛な光』が宿った。
「パンとチーズも最高ですが! やはりメインディッシュとなる超極上のお肉が必要ですわ!!」
エリスが『竜殺しの重剣』にマグマの闘気を纏わせる。
「ヒャッハー! 中ボスのお出ましだぜ! さっさとブチ殺して美味しくいただくぞォォォッ!!」
「よし! 合宿は一時中断! 全員、羅針盤が示す隠し通路へ急行するぞ!!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
***
一行は『次元歩行の靴』を駆使し、広大な平原を神速で駆け抜け、羅針盤が示す古代の風車小屋へと到達した。
風車の地下には、迷宮の正規ルートからは完全に隔絶された、神聖な大理石の地下神殿が広がっていた。
静まり返った地下通路を抜け、最奥の大祭壇の間に足を踏み入れた瞬間。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!
神殿全体が激しく揺れ、祭壇の奥の魔法陣から、とてつもない神気を纏った巨獣が姿を現した。
体長四十メートル。全身が眩いばかりの『黄金の羊毛』に覆われ、頭部にはねじれた巨大な白銀の角を持つ、神話の羊。
第45階層・隠れ中ボス――『豊穣の黄金巨羊』であった。
「メェェェェェェェェェッ!!」
神殿の柱を吹き飛ばすほどの、凄まじい衝撃波を伴う鳴き声。
「うわぁっ! すっごく大きくて、モフモフの羊さんです!」
マリアが【絶対結界】で衝撃波を防ぎながら叫ぶ。
トウヤの【神眼の指揮】が、その黄金の巨羊の成分を完璧に解析する。
「おい、お前らァァァッ!! 当たりだ、超大当たりだぞ!!」
トウヤの歓喜の絶叫が神殿に響く。
「あの羊、ただの毛玉じゃない! 神聖な魔力をたっぷり吸って育ったおかげで、羊肉特有の臭みが一ミリも存在しない、柔らかくてジューシーな『究極の神ラム肉』だ!! 巨大な骨付きラムチョップにしたら、脳髄がとろけるほど美味いぞ!!」
「「「究極のラムチョップゥゥゥッ!!!」」」
「さらに! あの黄金の羊毛の下には、分厚い極上の脂身が詰まってる! ステーキに良し、串焼きに良しの万能極上肉だァァァッ!!」
「「「串焼きィィィッ!!!」」」
もはや、神話の巨獣の威厳など彼らの目には映っていなかった。
「ラムチョップ! 表面をカリッと焼いて、香草パン粉で包み焼きですわぁぁッ!!」
エリスが、ヨダレを撒き散らしながら大剣を構えて跳躍する。
「待て! 毛皮ごと燃やしたら肉が傷む! 一瞬で綺麗に仕留めろ!!」
トウヤの指示が飛ぶ。
「任せろ! 動きを完全に止める! 【魔力城塞・超重力空間】!」
ガレスの盾から放たれた極大の重力魔法が、黄金巨羊の巨体を床に縫い付ける。
「メェッ!?」
「関節の神経、全部もらうぜ! 【直感回避・神速・羊毛刈り(ウール・カット)】!」
ジンが神速の刃で、分厚い羊毛の隙間を縫って巨羊の四肢の神経を的確に切断する。
「お肉の鮮度は絶対に落としませんわ! 【渾身撃・寸止め・脳天落とし】!」
エリスの重剣の峰が、巨羊の脳天に寸分の狂いもなくクリーンヒットし、巨大な羊は白目を剥いて気絶した。
「マリア! ルミナ! 肉質が落ちる前に一瞬で!」
「「了解です!! 完璧な温度で、瞬間冷凍しますッ!!」」
カッ――――!!!!
地下神殿を真っ白に染め上げ、迷宮の天井をぶち抜いて地上の王都へと噴き上がる『純白の光の柱(超特大冷凍保存魔法)』。
(※地上の王城では、ヴィルヘルム国王が「おお! 今日も我が同盟国の英雄たちは元気だな!」と上機嫌でワイングラスを掲げていた)
「よぉーし!! 隠れ中ボスの神ラム肉、完全回収だ!!」
トウヤが【空間斬り】で巨大なラム肉のブロックを美しく解体し、アイテムボックスへと収納していく。
すると、祭壇の奥から、神々しい光を放つ『虹色の宝箱』が出現した。
「おっ! トウヤの兄貴、隠れボス特有の超豪華な宝箱だぜ!」
ジンが開けた宝箱の中には、巨大な石造りのミニチュア模型と、銀色に輝く奇妙な箱が入っていた。
「……こ、これは!」
トウヤがアナウンスを読み上げ、歓喜に打ち震えた。
「【神話級アーティファクト:豊穣の魔導大石窯&極上燻製室キット】だァァァッ!!」
「「「石窯と、燻製室!!?」」」
「ああ! これを拠点に設置すれば、どんな温度管理も全自動で完璧に行ってくれる魔法の石窯になる! 極上のピザや、外はカリッと中はモチモチのパンが最高に美味く焼けるぞ! さらにこの燻製室は、チップの香りを食材の細胞レベルまで浸透させる神具だ! 芳醇豚のベーコンやチーズを燻製にしたら、世界が終わるほど美味いツマミができるぞ!!」
「「「ピザァァァッ!! 燻製チーズとベーコンンンッ!!!」」」
大人組(ガレス、ジン、エリス)が狂喜乱舞し、ハイタッチを交わす。
オロス連盟からのスパイスに続き、調理設備まで最高峰にアップグレードされたのだ。
「ガッハッハ! 肉にチーズにパン、そして石窯と燻製室! 第45階層はマジで神階層だな!!」
「ええ! 早く拠点に戻って、新しい石窯でピザを焼きましょう!」
「よし! 今夜は拠点の大広間で、『究極の巨大骨付きラムチョップの香草焼き』! そして新設した石窯で焼く『芳醇豚と特濃チーズの極上・窯焼きピザ』だ!!」
「「「うおおおおおおッ!! ピザとラムチョップだァァァッ!!」」」
隠れ中ボスの存在に気づき、迷宮のシステムすらも自らの食欲のための「食材デリバリー」として完璧に利用し尽くした『悠久の踏破者』たち。
新設備の手に入れた彼らの迷宮スローライフは、焼きたてのピザの香ばしい匂いと、したたるラム肉の肉汁と共に、今夜も最高に幸せで、そして圧倒的なカロリーと共に更けていくのであった。




