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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第92話:【閑話】深淵のウー〇ー配達員と、最強の物流部隊(シャドウ・ウォーカー)の誕生

### 第92話:【閑話】深淵のウー〇ー配達員と、最強の物流部隊シャドウ・ウォーカーの誕生

『悠久の大迷宮』第43階層――『太古の巨樹海とジュラシック・プラトー(恐竜台地)』。

神聖魔導帝国エルドリアが誇る特級隠密部隊『影歩くシャドウ・ウォーカー』の隊長サイラスと、その部下たちは、極度の緊張の中で息を潜めていた。

彼らの背中には、海洋通商連盟国家オロスから献上された『世界最高峰の香辛料セット』が詰まった、重厚な木箱が背負われている。

「(……いいか、お前たち。我々の任務は、あのバケモノキャンパーたちに『偶然ドロップした』と思わせるように、この極上スパイスを宝箱の中にすり替えるか、通り道に自然に配置することだ)」

サイラスが、念話で部下たちに指示を飛ばす。

「(キャンパーたちの『非日常のスローライフ』に、地上の人間が水を差すことは絶対に許されない。我々の隠密技術の全てを懸けて、彼らに一切の気配を悟られずに配達を完了させるのだ!)」

「「「了解ッ!!」」」

彼らは帝国最高の暗殺者であり、スパイである。

【光学迷彩】、【気配遮断】、【心音抑制】、さらには体温を周囲の環境と完全に同化させる【変温の法】までを同時発動し、彼らは文字通りの『完全なる不可視の影』となって、恐竜台地の岩陰を這うように進んでいった。

遠くには、トウヤたちが展開している神話級拠点『星の箱庭』のテラスが見え、炭火で巨大な肉が焼かれる暴力的な匂いが漂ってきている。

「(よし、あそこの岩陰に宝箱のダミーを置いて、その中にスパイスを……)」

サイラスが、音を一切立てずに木箱を下ろそうとした、まさにその時であった。

「おっ、あんたたち。また会ったな。今回はすげえ荷物背負ってんな?」

「――――ッ!!?」

サイラスの心臓が、文字通り肋骨を突き破りそうな勢いで跳ね上がった。

すぐ後ろ。背中が触れ合うほどの至近距離。

そこには、焼きたての『タイラント・レックスの串焼き』を片手に持ち、頭に小鳥クーを乗せた眼帯の青年――ジンが、ニカッと笑って立っていたのである。

「ピィィッ!(兄貴! この人たち、またすっごくボロボロだよ!)」

「な、ななな……ッ!?」

サイラスと部下たちは、あまりの恐怖と驚愕に、腰を抜かしてその場にへたり込んだ。

「(バカな……ッ!? 我々は帝国最高の隠密術を全て重ね掛けしていたのだぞ!? なぜ、またしても全く気配を感じさせずに背後を取れるのだ!? この男の直感センサーはどうなっているんだ!!)」

もはや、隠密部隊としてのプライドなど粉々に砕け散り、原子レベルで消滅していた。サイラスたちはただガタガタと震えながら、ジンの後ろからわらわらと集まってきたトウヤたちを見上げるしかなかった。

「おや、あなたたちは! 31階層でお会いした帝国の隠密さんたちじゃありませんか!」

マリアが嬉しそうに駆け寄ってくる。

「いやー、こんな深層でまた会うとは奇遇だな! ……って、その背負ってるデカい木箱は何だ?」

トウヤが、不思議そうに木箱を指差した。

「あ、いや、これは……その……」

サイラスは滝のような冷や汗を流しながら、頭をフル回転させた。

(どうする!? ここで「地上の国々があなたたちのご機嫌を取るために貢物を送ってきました」などと言えば、彼らのスローライフをぶち壊してしまう! だが、このバケモノたちの前で嘘など通じるわけが……!)

数秒の葛藤の末。

サイラスは、完全に白旗を揚げた。

「……正直に、話そう」

サイラスは正座し、木箱の蓋を開けながら、これまでの地上の情勢を全て――アルカディアとエルドリアが『絶対同盟』を結んだこと、ザガン帝国が滅亡したこと、そして世界中の国々が彼ら(トウヤたち)の胃袋を掴むために極上食材や調味料を献上してきていることを、洗いざらい白状した。

「……というわけで、我々はこの『オロス連盟』からの貢物である香辛料を、君たちに気づかれないように配置する【配達任務】を帯びていたのだ……」

サイラスが死を覚悟して頭を下げた、その時。

「「「うおおおおおおおッッ!!!!! マジかァァァッ!!!」」」

恐竜台地を揺るがすほどの、トウヤたちの爆発的な歓声が上がった。

「すっげえ!! 見ろよジン、ガレス! 『幻の黒胡椒』に『深海結晶岩塩』、それに『黄金クミン』まであるぞ!! これ全部、世界最高峰のスパイスじゃねえか!!」

トウヤが木箱の中身を見て、狂喜乱舞している。

「ガッハッハ! 肉だけじゃどうしても味が単調になりがちだったからな! これでBBQのレパートリーが無限に広がるぜ!!」

「素晴らしいですわ! ハーブ塩でお肉を焼いたら、どれほど美味しいことか……!!」

エリスも両手で頬を押さえてヨダレを垂らしている。

彼らは「地上の政治」や「同盟」などという小難しい話には一ミリも興味を示さず、ただ目の前の『新しい調味料』という一点においてのみ、最大限の感動と喜びを爆発させていた。

「おい、トウヤの兄貴! これ、せっかく届けてくれたんだし、国王のおっさんたちにお礼言っといた方がいいんじゃねえか!?」

「そうだな! よし、通信アーティファクトを繋ぐぞ!」

***

【アルカディア王城・秘密の会議室】

ヴィルヘルム国王とガルド宰相は、胃薬を片手に通信の繋がる音を聞いていた。

『――あ、あー。繋がってるか? 陛下、俺だ、トウヤだ』

「ト、トウヤ殿! い、いかがなされた!? もしや、我が国からの配達員が、そちらの安らかな食事の空気を乱してしまっただろうか……ッ!?」

ヴィルヘルムの声が裏返る。

『いやいや! 乱すどころか、最高のお届け物だったぜ! オロス連盟のスパイス、マジで神だった! 今ちょうど恐竜のステーキ肉が山ほどあるから、香辛料が欲しかったところなんだよ!!』

「……へ?」

ヴィルヘルムとガルドが、ポカンと顔を見合わせる。

『いやー、地上の王様たちってのは本当に話が分かるな! これで迷宮の飯がさらに百倍美味くなるぜ! 本当にありがとうな!』

トウヤの、心の底からの明るい感謝の声。

その言葉を聞いた瞬間、ヴィルヘルムとガルドは、数日間の極度のプレッシャーから解放され、その場でガッツポーズをして泣き崩れた。

「おおお……! よかった、ご機嫌を損ねるどころか、喜んでいただけた……!」

「我が同盟の生存戦略(貢物)は、完璧に成功しましたぞ、陛下……!」

『あ、そうだ陛下。ちょっとお願いがあるんだが』

「な、何なりと! 新しい拠点設備か!? それとも黄金か!?」

『いや、そんなもんいらねえよ。ただ、もし今後も地上で美味そうな新しい香辛料とか、地下じゃ手に入らない美味い珍味(醤油の材料になる大豆とか、柑橘系の果物とか)が見つかったら、どんどん配達してほしいんだ! 遠慮はいらねえからさ!』

トウヤの懇願。それは、地上の首脳陣にとって「世界の平和を確約された」ことと同義であった。

「承知いたしましたトウヤ殿!! 今後も世界中から最高の食材と調味料を厳選し、責任をもってそちらへ『デリバリー』させていただきます!!」

『おう! 頼んだぜ! ……あ、あとさ。今回サイラスたち、俺たちに隠れてこっそり届けようとしてたみたいだけど、俺たち(主にジン)の索敵能力を誤魔化して近づくのなんて絶対無理だからさ。次からは普通に声かけて直接手渡ししてくれよ! 俺のいた世界にあった『ウー〇ーイーツ』とか『出〇館』みたいな感じで、堂々と配達してくれた方がお互い楽だろ?』

「……なるほど。確かに、あの神話級の隠密部隊の気配を容易く見抜くジン殿の眼力の前では、小細工は無用ということか。……分かりました、今後は隠密ではなく、公認の直接配達『ウー〇ー方式』として運用させましょう!」

通信が切れ、会議室には歓喜の涙を流す首脳陣の姿があった。

世界平和は、ここに「調味料のウー〇ー定期配送契約」という形で、盤石なものとなったのである。

***

【そして、再び第43階層・恐竜台地】

「というわけだ、サイラス。次からはこそこそ隠れずに、堂々と拠点に持ってきてくれ!」

トウヤが、笑いながらサイラスの肩をバンバンと叩く。

「あ、ああ……。承知した……」

サイラスは、完全に毒気を抜かれた顔で頷いた。

「よし! お前らも重い荷物背負って深層まで下りてきて腹減っただろ! お礼に、今日獲れたての『タイラント・レックスの極厚マンガ肉』をご馳走してやる! もちろん、お前らが届けてくれたオロスの黒胡椒をたっぷり効かせてな!!」

「「「いただきますッ!!(涙)」」」

その夜、帝国最強のスパイたちは、再び「極上のBBQ」という名の至福の暴力に叩きのめされ、涙と肉汁で顔をグシャグシャにしながら香辛料の素晴らしさを嚙み締めたのであった。

――しかし。

この「直接配達(ウー〇ーイーツ化)の許可」が下りたことは、サイラスたち『影歩く者』にとって、ある意味で恐るべき【地獄の特訓の始まり】でもあった。

「(……待てよ)」

極厚ステーキを頬張りながら、サイラスはふと気づいた。

彼ら(トウヤたち)は、今後も大迷宮のさらに深く、50階層、60階層……そしていずれは最深部の『100階層』へと潜っていくのだ。

そして自分たちは、彼らに「定期的に調味料を届ける」ことを約束してしまった。

「(つまり……キャンパーたちが深層に進めば進むほど、我々配達員も、そのバケモノじみた深層環境と神話級の魔物の群れを潜り抜けて、彼らの元へ荷物を届けなければならないということか……!?)」

事実。

この日を境に、サイラスと部下たちは、トウヤたちのいる階層へ「安全かつ最速で」荷物を届けるためだけに、迷宮の過酷な裏ルートを何度も何度も往復することになる。

超重力、猛毒、極寒、灼熱。

あらゆる地獄の環境を「荷物を傷つけずに」突破する技術。

神話級の魔物に遭遇しても「戦わずに神速で振り切る(あるいは一撃で急所を突いて無力化する)」戦闘能力。

彼らは「キャンパーたちに美味いスパイスを届けて、ついでにおこぼれのBBQを馳走になる」という目的のみで限界を突破し続け……いつしか、サイラス率いる『影歩く者』部隊は、世界のどの精鋭部隊も及ばないほどの、文字通りの『神話級・最強の物流部隊(ディープ・ウー〇ー)』へと異常な進化を遂げることになる。

「隊長……俺たち、もしかしてキャンパーさんたちが100階層に行っても、届けに行けるくらい強くならないとダメなんですかね……?」

部下のリオンが、ステーキを飲み込みながら遠い目で呟く。

サイラスは、手に持った黒胡椒の小瓶をギュッと握りしめた。

「……やるしかない。彼らの食卓を守り、この極上のBBQを共に味わうためなら……我々は、100階層の底だろうと地獄の果てだろうと、必ず配達を完遂してみせる!! 我ら『深淵のウー〇ー配達員』に、不可能はない!!」

「「「ウオォォォォォッ!!(極上肉のために!!)」」」

最強の美食家たちに惹きつけられ、最強のスパイから「最強のデリバリー業者」へとジョブチェンジを果たしたサイラスたち。

大迷宮の深層に、また一つ、常識外れの新たな伝説(と物流ルート)が爆誕した瞬間であった。


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