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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第86話:愚者たちの終焉と、世界に布告された『絶対不可侵の絶対同盟』

### 第86話:愚者たちの終焉と、世界に布告された『絶対不可侵の絶対同盟』

新月の夜。アルカディア王国領内の深い森の奥に位置する『ハイエルフの隠れ里』。

神聖魔導帝国エルドリアを脱獄した元・軍務卿ヴォルカンと、彼を支持する五千の強硬派兵士、そして王国に恨みを持つハイエルフの長老アエルロスとその魔法部隊が、広場に巨大な魔法陣を展開していた。

「ククク……ついにこの時が来た。我らハイエルフの『古代の奇襲転移』で、王都のど真ん中に五千の精鋭を送り込む!」

長老アエルロスが、憎悪に満ちた笑みを浮かべる。

「その通りだ! まずは王城を制圧し、ヴィルヘルムの首を取る。そしてあの『光の柱』を放つ大迷宮の秘密部隊を我が帝国の支配下に置き、世界を統べるのだ!!」

ヴォルカンもまた、狂気と野心に満ちた声で剣を天に掲げた。

「さあ、詠唱を始めよ! 憎きアルカディア王城へ、奇襲転移を――」

**「――させるとでも思ったか、底抜けの愚か者どもが」**

その声は、空から降ってきた。

直後。パリーンッ!! と、彼らが展開していた古代の奇襲転移魔法陣が、まるでおもちゃのガラスのように粉々に砕け散った。

「なっ……!? なんだと!?」

ヴォルカンと長老が弾かれたように上空を見上げた瞬間。

彼らは、自分たちの目が狂ったのではないかと錯覚するほどの『圧倒的な絶望』を目の当たりにした。

夜空を覆い尽くしていたのは、雲ではない。

アルカディア王国が誇る数十隻の『大型飛空ガレオン船』、そして……あろうことか、神聖魔導帝国エルドリアが保有する『超弩級・浮遊魔導要塞』の巨大な艦隊であった。

大陸の二大国家の全戦力が、たった一つの隠れ里の上空を、逃げ場など一切ないほどに完全包囲していたのである。

「て、帝国の浮遊要塞だと……!? なぜだ! なぜここに我が帝国の軍が!!」

ヴォルカンが泡を吹いて絶叫する。

旗艦の甲板の先端。そこに並び立っていたのは、アルカディア国王ヴィルヘルムと、帝国の宰相ガルド、そして外務卿エララ公爵であった。

「……ヴォルカン。そしてエルフの長老よ」

ヴィルヘルム国王が、拡声の魔法を通じて冷酷無比な声を響かせる。

「貴様らのその浅はかで下劣な野心が……あと一歩でも進んでいれば、あの迷宮の底で楽しくBBQをしている若者たちの『安らかな食事の時間』を害するところであった。……万死に値するぞ」

「し、食事の時間……!? 何を言っているヴィルヘルム!! ガルド! エララ! なぜ貴様らまでアルカディアに与している!!」

「黙りなさい、帝国の恥晒しが」

エララ公爵が、扇でピシャリとヴォルカンを指差した。

「貴方は何も分かっていませんのよ。あの迷宮の底にいる方々が、どれほど恐ろしい存在かを! もし貴方たちのこの騒ぎが彼らの耳に入り、彼らが食事を邪魔されたと激怒していれば……我が帝国すら、明日の朝には更地にされていたのですわ!!」

「な……に……?」

ヴォルカンも長老たちも、その言葉の意味が全く理解できず、呆然と立ち尽くした。

「問答は無用だ」

ガルド宰相が、氷のように冷たい目で手を振り下ろした。

「アルカディア・エルドリア連合軍、全機動!! 愚者どもに、一切の反撃の隙を与えるな! 徹底的に、完全に、物理的にすり潰せェェェッ!!」

「「「ウオォォォォォォッ!!!!」」」

空から降り注ぐ、両国の最新鋭の魔法爆撃と、数万の精鋭騎士たちによる一斉降下。

戦いと呼ぶのもおこがましい、完全なる『一方的な蹂躙ざまぁ』であった。

ヴォルカンの強硬派部隊は一瞬で武装解除されて地面に組み伏せられ、ハイエルフの長老たちは自慢の魔法を発動する間すら与えられず、王室暗殺部隊の刃を首筋に突きつけられて漏らして気絶した。

大陸に火種を撒こうとした悪巧みは、迷宮のキャンパーたちを恐れる(過保護すぎる)両国首脳陣の圧倒的な力の前に、開始からわずか「五分」で完全鎮圧されたのであった。

***

それから、数日後。

アルカディア王都の中心、王城のバルコニーにて。

ヴィルヘルム国王と、帝国のガルド宰相(皇帝の名代)は、両国の国民、ひいては世界中に向けて、大規模な魔法通信を用いた『歴史的な大布告』を行っていた。

『両国の民、そして世界中の者たちよ、よく聞くが良い!』

ヴィルヘルム国王の声が、大陸中に響き渡る。

『皆も毎日のように見ているであろう、我が国の大迷宮から天を貫く【光の柱】。……あの魔法を放っているのは、世界を滅ぼす魔王でも、他国を侵略する巨大兵器でもない!』

国王は、堂々たる態度で真実を語り始めた。

『あの大迷宮の深淵にいるのは……かつて、この地上の腐敗した悪党どもによって理不尽な罪を着せられ、迷宮へ逃れざるを得なかった【若き英雄たち】である!!』

(※実際は「逃れてきたバケモノたちが、美味い飯を求めて乱獲しているだけ」なのだが、国民向けにかなり美化されている)

『彼らは現在、迷宮の深層を自らの力で切り拓き、毎日極大の魔法を放つほどの神話級の実力を身につけている。……余と帝国は、彼らの存在と、彼らが地上で受けた理不尽な過去を知った。故に! 両国は強固な【絶対同盟】を結び、彼らを陥れた地上の悪党どもを、すでに一匹残らず一掃したのである!!』

街角の魔導ビジョンでこれを見ていた民衆たちが、「おおおっ!」と大きなどよめきと歓声を上げた。

続いて、帝国のガルド宰相が一歩前に出る。

『先日、この同盟と英雄たちの平和を脅かそうとした我が国の逆賊ヴォルカンと、一部のハイエルフの長老たちが決起しようとした。……だが、我々両国の連合軍は、これを【決起の五分後】に完全に粉砕した!』

ガルド宰相の言葉に、民衆は両国の恐るべき軍事力と結束力に震え上がった。

『我々アルカディアとエルドリアは、ここに宣言する!!』

ヴィルヘルムとガルドが、声を揃えて高らかに布告した。

『今後、いかなる組織、いかなる国家であろうとも! 地上で理不尽な陰謀を企て、この世界に混乱を招き……何より、あの迷宮の底で生きる【若き英雄たちのスローライフ(と食事の時間)】を脅かすような真似をした場合!! 我々両国は一切の容赦をせず、全戦力をもってその者をこの世界から物理的に消し去る!!』

『彼らがいつか地上に帰還するその日まで、我々はこの世界の絶対的な平和を死守する!! これぞ、光の柱が結んだ絶対同盟である!!』

ウオォォォォォォォォォッ!!!!

両国の国民から、割れんばかりの大歓声が巻き起こった。

この日を境に、アルカディア王国と神聖魔導帝国エルドリアは、裏社会の悪党すら一切存在しない「世界一クリーンで平和な超大国」として、永遠の繁栄を約束されることとなる。

全てを包み隠さず公表し、有耶無耶にすることなく「悪は両国が必ず滅ぼす」と宣言したこの歴史的瞬間。

世界は、迷宮の底にいるという「若き英雄たち」を、神のように崇め奉るようになったのである。

***

一方、その頃。

『悠久の大迷宮』第39階層の安全地帯にて。

「ハックションッ!!」

トウヤが、大鍋をかき混ぜながら盛大にくしゃみをした。

「おや、トウヤさん。お風邪ですか?」

マリアが心配そうに覗き込む。

「いや、なんか急に背中がムズムズしただけだ。……それより見ろお前ら! 第38階層の生殺しを耐え抜いて手に入れた、第39階層の『深淵の霜降りミノタウロス』の極厚ステーキ肉だ! これで今夜は、最高のビーフシチューを作るぞ!!」

「「「うおおおおおおッ!! ビーフシチューだァァァッ!!」」」

ジンやエリスたちが、ヨダレを撒き散らしながら歓喜の雄叫びを上げる。

地上の世界が自分たちのために悪党を全滅させ、強固な世界平和の同盟を結び、自分たちを「神話の英雄」として崇め奉っていることなど、彼らは一ミリも、細胞一つ分も知る由はなかった。

「よし! この極上肉を食ったら、いよいよ第40階層の大ボスだ! 気合い入れていくぞ!!」

「「「おーっ!!」」」

盛大なすれ違いは、ついに国家レベルから「世界レベル」へと規模を拡大した。

しかし、彼らにとって一番大事なのは「今日の晩ご飯が美味しいかどうか」だけである。

地上の究極の平和を背に受けながら、バケモノキャンパーたちの底なしの迷宮美食スローライフは、今日も極上のデミグラスソースの香りと共に、平和で能天気に続いていくのであった。


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