第83話:泥沼の主の黄金キモと、狂気の触手魔窟でのタコ焼きパーティー
### 第83話:泥沼の主の黄金キモと、狂気の触手魔窟でのタコ焼きパーティー
『悠久の大迷宮』第34階層――『猛毒瘴気と底なしの腐泥沼』。
猛毒のスッポンと死の泥蟹から「究極のコラーゲン」と「極上蟹ミソ」を収穫し、見た目と環境の悪さに反する『極上食材』の存在を知った一行。
翌日、彼らは第34階層の泥沼を抜け、いよいよ第35階層――中ボスの間へと続く黒曜石の大扉の前に立っていた。
「……さて。34階層が泥沼だったってことは、この中ボスも確実に『泥と毒』のおぞましいバケモノだろうな」
ジンが、鼻をつまみながら大扉を見上げる。
「ええ……。でも、中身はきっと美味しいはずですわ! そうでなくては、私のモチベーションが持ちませんの!」
エリスが『竜殺しの重剣』を構え、期待と不安の入り混じった顔で闘気を練り上げる。
「よし、行くぞ! 泥に汚れる前に、一瞬でカタをつける!」
トウヤが大扉を蹴り開けた。
ギギギギギギ……ッ!!
ボス部屋の中に広がっていたのは、第34階層よりもさらにドロドロに煮えたぎる、紫色の猛毒ヘドロの巨大な湖であった。
ボコッ、ボコボコボコッ!!
一行が足を踏み入れた瞬間、ヘドロの湖が爆発し、体長四十メートルを超える巨大な影が飛び出した。
「ギシャァァァァァァッ!!」
それは、全身から腐敗した泥と猛毒のガスを噴き出す、醜悪極まりない超巨大なナマズ――第35階層中ボス『深淵の腐泥大鯰』であった。
無数にうねる長い髭から毒液が滴り、通常の冒険者であればその悪臭と毒気だけで肺が溶け、発狂して死に至るであろう最悪のバケモノである。
「う、うわぁぁぁ……! 大きなナマズさんですけど、泥と毒の塊ですぅ!」
マリアが【絶対結界】を最大出力で展開し、悪臭をシャットアウトする。
しかし、トウヤの【神眼の指揮】は、その分厚いヘドロの装甲の『奥』にある奇跡の成分を完璧に解析し終えていた。
「おい、お前らァァァッ!!」
トウヤの絶叫が、猛毒のボス部屋に響き渡った。
「あの大鯰! 表面は猛毒のヘドロだが、体内には一切の毒素を入れない『超強力なろ過器官』を持ってやがる! つまり、あの泥の下にあるのは、泥臭さが一ミリも存在しない『究極に泥抜きされた純白の白身肉』だ!!」
「「「純白の白身肉ッ!!」」」
「さらにヤバいのはあいつの内臓だ! 毒を分解するために極限まで発達した肝臓……フォアグラやアンコウの肝すらも凌駕する、とろけるような『黄金の極上キモ』が樽百杯分も詰まってるぞォォォッ!!」
「「「黄金の、極上キモォォォッ!!?」」」
もはや、泥の悪臭など彼らの脳には届いていなかった。
「ヒャッハー! ナマズのキモ和え! 白身の天ぷらだァァァッ!」
「泥なんか私の闘気で吹き飛ばしますわ! 究極のキモは一滴も逃しませんの!!」
「だが暴れさせて内臓を傷つけたら、せっかくのキモが台無しだ! 泥ごと一瞬で凍らせろ!!」
「「了解ッッ!!!!」」
「ギャァァァ……!?」
大鯰が猛毒の泥津波を放とうと巨大な口を開けた、その瞬間。
「泥は私が受け止めます! 【魔力城塞・圧縮天蓋】!」
ガレスの巨大な盾の結界が、泥の津波を完全に空中で静止させる。
「髭の神経、全部もらうぜ! 【直感回避・神速・水月切り】!」
ジンが神速で空を駆け、大鯰の動きを制御する髭を瞬く間に全て切り落とす。
「仕上げです!! 黄金のキモのために!!」
「泥ごと凍てつきなさいッ!!」
ルミナとマリアの融合魔法が、最大出力で放たれた。
カッ――――!!!!
ズドォォォォォォォォォンッッ!!!
猛毒の湖を完全に白く染め上げ、迷宮の天井をぶち抜いて地上の王都へと噴き上がる『純白の光の柱』。
(※地上の王城では、国王ヴィルヘルムが「おお、今日も見事な特大冷凍庫だな。……しかし、最近は冷凍ビームの出力が上がるペースが早すぎないか?」と宰相オズワルドと紅茶を飲みながら首を傾げていた)
「よぉーし!! 大鯰の瞬間冷凍、完了だ!!」
トウヤが【空間斬り】を放ち、表面の泥ごと分厚い皮を美しく剥ぎ取り、中から現れた『透き通るような純白の白身肉』と『黄金色に輝く巨大なキモ』を切り出してアイテムボックスへ収納する。
「おっ! トウヤの兄貴、中ボスの瞬殺ボーナスだ! 泥の底からすげえ宝箱が出たぜ!」
ジンが開けた宝箱からは、神々しい光を放つ一足の『靴』が現れた。
「おおっ! これは!」
トウヤがアナウンスを確認し、目を輝かせる。
「【神話級アーティファクト:次元歩行の靴】だ! これを履けば、空中に見えない足場を作り出して歩けるだけでなく、泥沼だろうが溶岩の上だろうが、あらゆる『悪路』を完全に無効化して沈まずに走れる超絶レアアイテムだぞ!! 第12階層の『海神の呼吸輪』に匹敵する、環境克服の切り札だ!」
「「「うおおおおおッ!! 神ドロップだァァァッ!!」」」
ジンやエリスが歓喜の声を上げる。
これで彼らは、空だろうが底なし沼だろうが、あらゆる三次元空間を自在に駆け回り、食材を乱獲できるようになったのだ。
時刻は、まだお昼前。
中ボスを文字通り「秒殺」してしまった彼らは、有り余る体力と食欲を持て余していた。
「……おい、お前ら。今日はまだ全然時間が早いぞ。次元歩行の靴も手に入ったことだし、この勢いで第36階層も行っちまうか?」
トウヤの提案に、全員がニヤリと笑って頷いた。
「ガッハッハ! 次の極上ツマミを探しに行こうぜ!」
***
ギギギギギギ……ッ!!
第36階層への大扉を押し開けた瞬間。
「…………ヒッ」
ルミナとマリアが、同時に悲鳴を上げて一歩後ずさった。
ジンやガレスでさえ、顔を引き攣らせて立ち尽くしている。
第36階層――『狂気と粘液の深淵魔窟』。
そこは、壁も床も天井も、全てがドロドロの「緑色の粘液」に覆われた、巨大な生体ダンジョンのような空間であった。
そして、その粘液の海の中を這い回っているのは……無数の目玉を持ち、全身がグロテスクな触手で構成された冒涜的なバケモノ『カオス・テンタクルス(混沌の触手塊)』の群れであった。
ズチュッ……ヌチャァァァ……。
気味の悪い音を立てながら、無数の触手が蠢いている。
「な、なんですかここ……! さすがに気持ち悪すぎますぅ……!」
マリアが涙目でトウヤの背中に隠れる。
「……これは、エルフの森の禁書に記されていた『邪神の眷属』に似ています。精神(SAN値)を削られるような、最悪の見た目です……」
ルミナも青ざめていた。
「いや、トウヤの兄貴。さすがにこれは無理だろ。食べるとかそういう次元じゃ……」
ジンが短剣を震わせた、その時。
「お前らァァァッ!! 見た目に騙されるなと言ったはずだぞ!!」
トウヤの、もはや狂気すら感じる歓喜の絶叫が魔窟に響いた。
「あの触手! ただの気味の悪い軟体動物じゃない! 地底の強烈な魔力を吸って育ったおかげで、極限まで身が引き締まった『究極の明石ダコ』を凌駕する超・極上タコ肉だ!! 吸盤のコリコリとした食感! 噛めば噛むほど溢れ出す極上の旨味! そして何より、あの粘液の下には最高のタコ出汁が詰まってるんだぞォォォッ!!」
「「「きゅ、究極の……タコ肉ッ!!?」」」
「タコ焼きだ!! 唐揚げだ!! おでんの具だァァァッ!!」
トウヤの「タコ焼き」という魔法の言葉を聞いた瞬間。
エリス、ジン、ガレスの大人組の目から、一切の恐怖と嫌悪感が消え去り、代わりに『純度100%の食欲(殺意)』が宿った。
「タコ焼き! 外はカリッと、中はトロッと、そして極上のタコがゴロッと入ったあのタコ焼きですか!!」
エリスが、ヨダレを撒き散らしながら『竜殺しの重剣』を構える。
「ヒャッハー!! 触手なんか全部切り刻んでタコ焼きの具にしてやるぜェェッ!!」
ジンが狂ったように笑いながら、新アイテム『次元歩行の靴』を起動し、粘液の海を無視して空中を蹴り出した。
「マリア! ルミナ! 粘液ごと切り落としたら食べられないから、触手だけを綺麗に凍らせて切り刻むんだ!」
「「了解です!! 究極のタコ焼きのためにッ!!」」
SAN値直葬の最悪の魔窟は、わずか数分で「タコ焼きの具材加工工場」へと成り下がった。
【直感回避・神速連斬】で空を飛び回りながら触手を切り刻むジン。エリスの【渾身撃】が巨大なタコの頭(胴体)を的確に気絶させ、トウヤが【空間斬り】で美しいタコ足のブロック肉へと変えていく。
「ガッハッハ! 吸盤がデカくて美味そうだぜ! どんどん狩れ!!」
彼らの常軌を逸した食欲の前では、邪神の眷属のようなバケモノどもも、ただの「新鮮な海鮮(?)」でしかない。
猛烈な勢いで魔窟の生態系を蹂躙し尽くした彼らは、わずか2時間後には第36階層の触手塊を完全に根絶やしにしていた。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!
魔窟の最奥から、全てを飲み込むような巨大な粘液の渦が発生し、体長五十メートルに達するこの階層の隠れボス『マザーズ・カオス・クラーケン(母なる混沌大触手)』が姿を現した。
「出たな親玉!! トウヤさん、お味は!?」
「最高級の親ダコだ! 足一本で何千個のタコ焼きが作れるか分からねえぞ! 墨を吐かれる前に瞬間冷凍だ!!」
「「了解です!!」」
本日二度目となる、純白の光の柱が天を貫いた。
(※地上の王城では、国王ヴィルヘルムが「……オズワルド。今日はやけに冷凍庫の稼働頻度が高いな」と、もはや完全にただの日常風景として受け入れていた)
「よぉーし!! 巨大冷凍タコ、完全ゲットだ!!」
トウヤが大喜びで巨大なタコ足をアイテムボックスに収納する。
「おっ! トウヤの兄貴、隠れボスの宝箱が出たぜ!」
ジンが開けた宝箱からは、タコの吸盤のようにあらゆる物理攻撃を吸収し反発させる神話級の籠手『深淵の反発手甲』や、複数の魔法を同時に操れる『千手観音の魔導書』など、とんでもないレア装備がドロップした。
「よし! 中ボスも倒して、極上のナマズとタコも大豊作だ! 今日は早めに拠点に帰って、最高の大宴会だぞ!!」
「「「うおおおおおおッ!! タコ焼きだァァァッ!!」」」
***
数時間後。
【星の箱庭】のダイニングルーム。
そこには、世界中の誰も見たことがないような、奇跡の海鮮フルコースが並んでいた。
「さあ食え! 『大鯰の純白お刺身 〜黄金の極上キモ醤油和え〜』! そして『大鯰のフワフワ天ぷら』! メインは熱々の『特大カオス・タコ焼き 〜無限発酵蔵の特製ソース〜』だ!!」
「いただきますッ!!」
ガレスが、純白のナマズの刺身に黄金のキモをたっぷり絡めて口に放り込む。
「――――ッッ!! う、うめぇぇぇっ!! 白身の淡白な旨味に、フォアグラの百倍濃厚なキモのコクが絡みついて……脳髄がとろけそうだ! 酒! 酒が無限に足りねえ!!」
「ハフッ、ハフッ! このタコ焼きも最高ですわ! 表面はカリッとしていて、中から極上のお出汁と、信じられないくらい弾力のあるタコのお肉が……! コリコリの食感がたまりませんの!」
エリスが、口の周りに特製ソースをつけながら、幸せそうにタコ焼きを頬張る。
「ヒャッハー! タコの唐揚げもプリップリだぜ! 環境が最悪な階層ほど、食材が最高に美味いっていう迷宮の法則、完全に理解したぜ!」
見た目のグロテスクさや、環境の劣悪さすらも「美味しい」という一点で完全にねじ伏せてしまう『悠久の踏破者』たち。
究極のキモとタコ焼きで限界まで腹を満たし、彼らの底なしの迷宮美食スローライフは、新アイテム『次元歩行の靴』を得て、いよいよ三次元のあらゆる悪路をも食い尽くす準備を整えたのであった。




