表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/510

第77話:深層の青空BBQと、絶望する帝国スパイたち

### 第77話:深層の青空BBQと、絶望する帝国スパイたち

『悠久の大迷宮』第31階層――『広大なる秋覚の巨森』。

いつもであれば、極上食材を乱獲した後は『星の箱庭(拠点)』の安全な豪邸へと帰還するトウヤたちであったが、今日は少しばかり趣向を変えていた。

「いやー、この階層は本当に景色がいいし、気候も最高だ! たまには拠点の外で、本来のキャンパーらしく『アウトドアBBQ』と洒落込もうぜ!」

トウヤの提案に全員が賛同し、紅葉が美しく舞い散る森の開けた広場に、大掛かりなBBQセットが組まれていた。

そして、その熱源として使われているのは、第25階層の中ボスからドロップした神話級調理器具『神鳥の黄金炭』である。

ジュワァァァァァァッ……!!

黄金に輝く炭火の上で、分厚く切られた『純血イベリコ・ボア』の極上豚肉と、大人の腕ほどもある『王侯の香茸マツタケ・トレント』が焼かれ、森中に暴力的なまでの香ばしい匂いを撒き散らしていた。

「ガッハッハ! 外で食う肉は格別だな! トウヤ、ビールのお代わりだ!」

「松茸のお汁が……傘の中に溢れていますわ! すだちを絞って……んんんッ!! 最高ですの!」

「お肉も凄いです! 炭火の遠赤外線のおかげで、外はカリッとしているのに、中は肉汁の洪水です!」

ガレス、エリス、マリアたちが、丸太の椅子に腰掛けながら、大自然の中での極上BBQを心ゆくまで堪能していた。

――しかし。

その平和すぎる光景を、数十メートル離れた巨大な紅葉樹の茂みから、血走った目で見つめている者たちがいた。

神聖魔導帝国エルドリアの特級隠密部隊『影歩く者』の隊長サイラスと、その部下十二名である。

第21階層からの地獄のような環境を、重傷を負い、血を吐きながらも不屈の精神で抜け出してきた彼ら。

「(……隊長。あれは……?)」

部下の一人が、震える手で前方(BBQ会場)を指差した。

サイラスの優秀な頭脳は、現在、深刻なエラーを起こして停止しかけていた。

「(……バカな。未知の巨大生物兵器の製造工場でもなく、世界を滅ぼす魔王の召喚儀式でもない……だと?)」

彼らが見たのは、恐るべき極大魔法(光の柱)を日に二度も撃ち放つ、アルカディア王国の秘密部隊――ではなく。

ただ肉を焼き、笑い合い、酒を飲んで大宴会を開いている『ただのアウトドア集団』の姿であった。

しかも彼らが焼いているのは、先ほどまでサイラスたちが「見つかれば全滅する」と怯えながらやり過ごしてきた、深層の凶悪な魔物たちの肉である。

「(理解できん……。なぜ彼らは、この地獄の最深部で……ただ肉を焼いている……? あの光の柱は!? 帝都を滅ぼすための兵器は!?)」

数日間、決死の覚悟で死線を越えてきた彼らにとって、この光景はあまりにも現実離れしすぎていた。緊張の糸がプツリと切れ、サイラスは激しい目眩を覚えた。

「(……ダメだ。対象は我々の常識を完全に逸脱している。これ以上の観察は危険だ。……一度引くぞ。この異常事態を、一刻も早く帝都へ報告しなければ……!)」

サイラスがハンドサインを出し、十三名の隠密部隊が、音を立てずにゆっくりと後退しようと踵を返した。

――その、瞬間である。

「おっ、あんたたち。もう帰るのか?」

「――――ッ!!?」

サイラスの心臓が、文字通り跳ね上がった。

すぐ後ろ。背中が触れ合うほどの至近距離。

いつの間にか、黒い眼帯をした身軽な青年ジンと、その頭に乗った小さなクーが、焼き鳥の串を片手に立っていたのである。

「(バ、バカな!? いつ後ろに!? 全く気配が……っ!!)」

帝国最高峰の隠密部隊であるサイラスたちが、ただの一度も気配を察知できなかった。それはつまり、相手の隠密能力が「神の領域」にあることを意味している。

「ピィィッ!(兄貴! この人たち、すっごくボロボロだよ!)」

クーがチロチロと鳴く。

「なっ……! 散開しろッ!!」

サイラスが叫び、部下たちが一斉に武器を抜こうとした時。

今度は前方から、BBQのトングや紙皿を持ったトウヤたちが、わらわらと茂みを掻き分けて姿を現した。

「おいおいジン、お客さんか? ……って、うわっ!?」

トウヤが、サイラスたちを見て目を丸くした。

殺気を放つ帝国スパイたち。しかし、彼らの姿はあまりにも悲惨だった。

隠密装束はボロボロで、全身に第26階層の酸の火傷を負い、腕や足は重力で折れ曲がり、顔は土気色になっている。

「あ、あなたたち、大丈夫ですか!? ひどい怪我です! それに魔力も完全に底を突いていますよ!」

マリアが、敵意など微塵も感じさせない、純度100%の「心配そうな顔」で駆け寄ってきた。

「くっ、近づくなアルカディアの暗部ッ!」

サイラスが短剣を構えるが、マリアは全く気にする様子もなくペンダントを掲げた。

「【大いなる慈愛のハイ・ヒール・オーラ】!!」

カァァァァァッ……!!

眩い聖なる光が、十三名のスパイたちを包み込む。

「なっ……!? なんだこれは!?」

サイラスたちが驚愕の声を上げる。折れていた骨が一瞬で繋がり、全身の火傷が嘘のように消え去り、枯渇していた体力と魔力が泉のように湧き上がってきたのだ。

「……え?」

帝国スパイたちの殺気が、完全に空回りして宙に浮いた。

「いやー、危ないところだったな。この迷宮は深層に行けば行くほど環境がエグいからな。崖からでも落ちたのか?」

トウヤが、のんきな口調でトングをカチカチと鳴らす。

「ほら、ちょうど肉が焼けたところだ。あんたたち、数日はまともなもん食ってないだろ? 腹減ってると力も出ないぜ。一緒に食っていくか?」

「え?」

サイラスは、完全に毒気を抜かれ、隠密部隊の冷徹なリーダーとしての顔を忘れ、ただのポカンとした間抜けな声を漏らしてしまった。

あまりにも気の抜けた、お人好しすぎる対応。

「お、お前たちは……一体何者だ!?」

サイラスは思わず、叫ぶように尋ねてしまった。

「国王ヴィルヘルム直属の、超極秘の魔法部隊ではないのか!? あの光の柱で、巨大な生物兵器を冷凍備蓄しているのではないのか!?」

その言葉に、トウヤたち八人(六人と三匹)は顔を見合わせた。

そして――。

「「「ぶっ……! アハハハハハハハハッ!!」」」

森中に響き渡るような、大爆笑が巻き起こった。

「せ、生物兵器!? 冷凍備蓄!?」

ジンが腹を抱えて笑い転げる。

「ガッハッハ! 確かに巨大なバケモノを丸ごと冷凍してるが、あれはただの『食材の保存』だ! あんなもん兵器にしてどうするんだ!」

ガレスも大笑いしながらサイラスの肩をバンバンと叩く(サイラスはあまりの筋力に体が沈み込んだ)。

「しょ、食材の保存……だと?」

「ああ。俺たちはただの冒険者……いや、キャンパーだ。迷宮の美味い魔物を狩って、美味く調理して食べるためだけに、この迷宮をのんびり踏破してるんだよ」

トウヤが、呆然とするサイラスに、分厚いイベリコ・ボアの焼肉を乗せた紙皿を押し付けた。

「しかし……! ならば地上のあの大粛清はなんだ! 国王が一夜にして反逆者たちを消し去った、あの神話級の暗殺部隊の正体は!」

サイラスが食い下がるが、エリスがクスッと笑って答えた。

「ふふっ。私たち、数日前に迷宮のアーティファクトで、国王陛下たちと『通信』しましたのよ。私たちもてっきり自分たちで復讐するつもりだったのですが、陛下たちが優秀すぎて、すでに地上の悪党は全部片付いていたんですの」

「……は?」

「だから、もう地上の憂いも何もないんです。帝国さんがうちの国を警戒してるって話も、まあなんとなく知ってましたけど……今のアルカディアは完全に一枚岩ですから、戦争なんて起きませんよ。私たちも興味ないですし」

トウヤが肉を頬張りながら付け足した。

「そういうことだ。だから、あんたたちもそんな肩肘張ってコソコソしなくていい。美味い飯食って、適当に報告書書いて帰んな」

「…………」

「…………」

サイラスと、十二名の部下たち。

彼らは手元の紙皿に乗った、暴力的なまでに良い匂いを放つ極上焼肉を見つめ。

そして、目の前で楽しそうにBBQを囲む、帝都を滅ぼすほどの力を持った「ただの美食家たち」を見つめた。

自分たちが数日間、死ぬ思いで地獄の階層を駆け抜けてきた理由。

国家存亡の危機というプレッシャー。

その全てが、ただの『盛大な勘違い(飯テロ)』であったという事実。

「……隊長」

部下の一人が、涙声でサイラスを見た。

「俺……もう、何が何だか分かりません。でも……このお肉、めちゃくちゃ良い匂いがします……」

サイラスは、数分間無言で立ち尽くした後。

プツン、と。スパイとしての最後のプライドの糸を自ら切り捨てた。

「……食おう」

「「「いただきますッ!!」」」

数分後。

『悠久の大迷宮』第31階層の青空の下。

そこには、神話級の極上BBQの美味さに完全に魂を抜き取られ、涙を流しながら松茸とイベリコ豚を貪り食う、帝国最高峰のエリートスパイたちの姿があった。

「う、うめぇぇぇっ! なんだこの肉はぁぁぁッ!!」

「隊長! 涙が止まりません! 帝国の宮廷料理より美味いです!!」

かくして、帝国と王国の間に横たわっていた「最悪の軍事的緊張」は、極上のBBQによって完全かつ平和裏に(帝国スパイたちの胃袋を完全に掌握する形で)消滅することとなった。

迷宮の深層に響き渡る彼らの笑い声は、どこまでも能天気で、最高に美味しい匂いに包まれていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ