第74話:大ボス瞬殺のタイムアタックと、広大なる秋覚の森
### 第74話:大ボス瞬殺のタイムアタックと、広大なる秋覚の森
『悠久の大迷宮』第29階層の安全地帯。
昨日、黄金の牧草地で『究極の熟成肉』を手に入れ、さらに紅葉の渓谷で『特大ドラゴンウナギ』を獲り、一日二回の光の柱(冷凍保存魔法)を打ち上げるという暴挙に出た『悠久の踏破者』の八人(六人と三匹)。
彼らは一晩じっくりと寝て、極上のエイジング・ビーフと特大うな重によって完全に英気を養い、万全すぎるコンディションで一つの大きな節目となる大扉の前に立っていた。
「……さて。第29階層までの極上メシのパワーが、体の隅々まで漲りまくっているな」
トウヤが、見上げるほど巨大な純白の石扉――第30階層(大ボス階層)の入り口に手をかけながら、ニヤリと笑った。
「ええ! エイジング・ビーフの赤身の旨味と、ウナギの精力が大剣にまで伝わってきそうですわ!」
エリスが『竜殺しの重剣』をブンブンと振り回す。
「ガッハッハ! どんな強大な大ボスが来ようが、今の俺たちなら片手でひねり潰せる気がするぜ!」
ガレスも『太陽神の鏡盾』をバンバンと叩き、闘志(という名の食欲)を爆発させていた。
「よし! 満を持しての第30階層だ! 何が来ても、一滴の肉汁も逃さずに完璧に仕留めるぞ!」
「「「おおおおおッ!!」」」
ギギギギギギ……ッ!!
重厚な扉が開かれた先。そこは、見渡す限りのエメラルドグリーンの大海原が広がる、巨大な地底海であった。
ドバァァァァァァッ!!!!
彼らが足を踏み入れた瞬間、海面が爆発したように割れ、天を衝くような巨大な水柱と共に『第30階層の大ボス』が姿を現した。
体長は優に五十メートルを超える。全身が深紅と黄金の極厚の甲殻に覆われ、巨大な二つのハサミが城壁のようにそびえ立つ、超巨大な海老の王。
『海神の覇王海老』であった。
その圧倒的な威圧感と、海を割るような咆哮。しかし、トウヤの【神眼の指揮】は、大ボスの恐怖など1ミリも感じ取っていなかった。
「お、おい……お前らァァァッ!!」
トウヤの声が、歓喜でブルブルと震えた。
「あの大ボス! ただの巨大エビじゃない! 深海の超高圧で鍛え抜かれた『究極の弾力を持つ甘い尻尾肉』と、頭部にはカニミソすら凌駕する『黄金の海老ミソ(トマレイ)』が樽百個分も詰まってるぞォォォッ!!」
「「「黄金の海老ミソォォォッ!!?」」」
全員の理性が、一瞬にして消し飛んだ。
「エビのお刺身! 巨大エビフライ! 海老ミソの濃厚パスタですわ!!」
エリスがヨダレを撒き散らす。
「最高級の食材だ! だが気をつけろ! あいつが本気で暴れて魔力を使うと、せっかくの身が縮んで硬くなっちまう!!」
「「了解です!! 一瞬で、極上のまま冷凍庫へ!!」」
マリアとルミナが、完全に狂気じみた笑顔で杖とペンダントを構えた。
「ギシャァァァァァッ!!」
ポセイドン・ロブスターが、全てを粉砕する巨大なハサミを振り下ろしてきた、その瞬間。
「硬くはさせねえよ! 【直感回避・神速・関節抜き】!」
ジンが水面を蹴って超音速で跳躍し、巨大なハサミの関節の神経を一瞬で切断し、無力化する。
「甲羅に傷はつけません! 【渾身撃・オーバードライブ】!」
エリスの重剣が、甲殻の継ぎ目だけを的確に叩き割り、中の極上の身を露出させる。
「仕上げです! 完璧な密閉冷凍庫となりなさいッ!!」
「精霊力、最大解放ッ!!」
カッ――――!!!!
大ボスの間を白く染め上げる、圧倒的な閃光。
ズドォォォォォォォォォンッッ!!!
本日もまた、お馴染みの『純白の光の柱(超特大冷凍保存魔法)』が、迷宮の天井をぶち抜いて地上の王都へと噴き上がった。
第30階層の誇る大ボスは、反撃の隙すら一切与えられず、ただの『超巨大な冷凍むき海老』へと姿を変えた。
「よぉーし!! 大ボス即殺完了だ!!」
トウヤが【空間斬り】で魔力コアを処理し、大喜びでアイテムボックスに収納する。
すると、海面の中央に、大ボス討伐の『超・豪華な宝箱』が出現した。
「ヒャッハー! 瞬殺ボーナスの宝箱だぜ!」
ジンが開けた宝箱からは、神々しい光と共に、水や氷を自在に操る『海神の神衣』や、あらゆる状態異常を無効化する『真珠星の首飾り』といった最高レアリティの装備、そして拠点用の『無限の極上海鮮生簀キット』が溢れ出した。
「ガッハッハ! とんでもねえお宝の山だ! 大ボス階層、最高じゃねえか!」
全員が新しい神話級装備を身につけ、歓喜に沸く。
しかし。
トウヤがふと、懐中時計(魔導具)を見て首を傾げた。
「……おい、お前ら。大ボスの部屋に入ってから、まだ『1時間』も経ってないぞ」
「えっ?」
エリスがキョトンとする。
「討伐が早すぎたな。このまま拠点に帰って宴会にするには、いくらなんでも時間が早すぎる……」
トウヤの言葉に、全員が顔を見合わせた。
「どうする? 次の第31階層、覗いてみるか?」
「うっ……でもトウヤさん。もし次の階層が、またあの『虫』や『ヘドロ』みたいなハズレ階層だったら、せっかくの極上ロブスター気分が台無しになりますよ……?」
マリアが、過去のトラウマを思い出して恐る恐る言う。
「……確かに。だが、この大ボスの後だ。絶対に良い階層のはずだ! もしヤバそうだったら、すぐに扉を閉めて撤退すればいい!」
トウヤの提案に、全員がゴクリと喉を鳴らし、恐る恐る第31階層への扉へと向かった。
ギギギギギギ……ッ!!
薄目で扉を開けると、そこから吹き付けてきたのは――虫の臭いでも毒の臭いでもなく、香ばしい『木の実』と、ふくよかな『キノコ』の芳醇な香りであった。
「……おおっ!?」
トウヤがパッと目を見開く。
第31階層――『広大なる秋覚の巨森』。
そこは、見上げるほど巨大な紅葉樹が果てしなく続く、とてつもなく広大な森であった。足元にはフカフカの腐葉土が広がり、至る所に大人の背丈ほどもある特大のキノコや、黄金色に輝く木の実が実っている。
「ピィィッ!(兄貴! 森がすっごく広くて魔物はまばらだけど、どれもすっごく美味しそうだよ!)」
上空に飛んだクーの念話が響く。
トウヤの【神眼の指揮】が、森の生態系を解析した。
「……お前ら、当たりだ!! あのキノコ、松茸をさらに濃厚にしたような『王侯の香茸』だ! そして森の奥を走ってる巨大な豚は、極上のドングリだけを食べて育った『最高級・純血イベリコ・ボア』だぞ!!」
「「「純血イベリコ・ボアッ!! 松茸ッ!!」」」
全員の顔が、恐怖から一気に歓喜へと染まり上がった。
「よし! 食材は極上だ! ……だが、この階層、とにかく『広すぎる』。魔物の数も分散していて、今までみたいに一箇所に集めて一気にドカン、とはいかないな」
トウヤが周囲を見渡して指示を出す。
「今日はこの広大な森を、ピクニック気分でのんびり狩り歩くぞ! 松茸は絶対に笠を傷つけるなよ! イベリコ豚も、見つけ次第丁寧に仕留めていけ!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
そこからは、彼らにとって珍しい「のんびりとした狩猟時間」となった。
「あ! トウヤさん、あっちの木の根元に、すごく立派なマツタケ・トレントがいますわ!」
「よし、エリス! 大剣の腹で気絶させろ!」
「ジン、あっちの茂みにイベリコ豚の群れだ! 逃がすな!」
「ヒャッハー! 任せな! 極上の豚肉だぜ!」
広大な森を歩き回り、極上の食材を一つ一つ丁寧に収穫していく。
環境が広大すぎたため、彼らの異常な殲滅スピードをもってしても「階層の生態系が一瞬で崩壊する」という事態にはならなかった。
そのため、迷宮のシステムが異常を検知することもなく、いつもならすぐに出てくる『隠れボス』も、今日ばかりは顔を出す気配がなかった。
「……ふぅ。隠れボスは出なかったが、アイテムボックスは松茸とイベリコ豚でパンパンだぜ」
夕暮れ時。オレンジ色の光が森に差し込む中、トウヤが満足げに汗を拭った。
「ええ! 本当に広くて良い運動になりましたわ。おかげで、お腹もペコペコです!」
エリスが、ゴロゴロと鳴るお腹をさすりながら笑う。
「よし! 大ボスのロブスターも獲れたし、秋の味覚も大豊作だ! 今日はここまでにして、拠点に帰って最高の夕食にするぞ!!」
「「「うおおおおおおッ!! 帰るゥゥゥッ!!」」」
***
数十分後。
【星の箱庭】のダイニングルームには、世界中の王侯貴族が嫉妬で発狂しそうなほどの『暴力的なごちそう』が並べられていた。
「さあ食え! 『ポセイドン・ロブスターの究極・甘海老刺身 〜特製黄金ミソ醤油〜』! そして『大松茸とイベリコ・ボアの極上炭火焼き』! 〆は『ロブスターの殻で出汁を取った特濃海鮮リゾット』だ!!」
「いただきますッ!!」
マリアが、透き通るようなロブスターのお刺身を、黄金の海老ミソを溶いた醤油に少しだけつけて口に運ぶ。
「んんんんッ!! なんですかこれ……! お口の中で、エビの身がプリップリに弾けたかと思ったら、一瞬でとろけるような甘みに変わりました! 濃厚な海老ミソのコクが合わさって……もう、意識が飛びそうですぅ!」
「ガッハッハ! こっちのイベリコ・ボアの炭火焼きもとんでもねえぞ! 脂が甘くて、噛むたびにドングリの香ばしい風味が鼻に抜ける! これに松茸の香りが合わさって、ビールが無限に消えていくぜ!!」
ガレスが、ジョッキを片手に豪快に笑う。
「ふふっ、この海鮮リゾットも最高ですわ。大ボスの旨味が、お米の一粒一粒にまでギッシリと詰まっていますの!」
エリスも、幸せそうな笑顔でスプーンを進める。
大ボスを瞬殺し、広大な森で極上の秋の味覚を心ゆくまで堪能した一日。
どんな強敵も過酷な環境も、彼らの圧倒的な力と食欲の前では、ただの「楽しい食材集めのピクニック」に過ぎない。
ロブスターと松茸の極上の香りに包まれながら、『悠久の踏破者』たちの夜は、今日も最高にハッピーに更けていくのであった。




