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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第72話:タガの外れた美食家たちと、一日二本の異常な狼煙

### 第72話:タガの外れた美食家たちと、一日二本の異常な狼煙

『悠久の大迷宮』第27階層――『暗黒の蟲穴と腐乱菌糸の森』。

昨晩、拠点で極上の「フェニックス水炊き鍋」を食べて完全にメンタルを回復させた『悠久の踏破者』の八人(六人と三匹)は、早朝からこのおぞましい蟲と毒キノコの階層に、文字通りの『災厄』をもたらしていた。

「虫酸が走る! 一秒でも長くここにいたくねえ! 全て焼き尽くせ!!」

「マリア! 俺の炎に浄化の光を乗せろ!」

「はいっ! ここは迷宮ではなく、ただの巨大なゴミ箱です! 【ホーリー・フレア・テンペスト(聖炎の嵐)】!!」

ガレスの超高熱の爆炎と、マリアの極大浄化魔法による無慈悲な合体魔法が、第27階層全域を蹂躙する。

もはや剣を振るうことすら嫌がったジンとエリスは、ただひたすらに魔法の範囲から漏れた魔物を遠距離の風刃と闘気で叩き落とし、トウヤに至っては「俺の神話級包丁が汚れる」と言って腕組みをしたまま眺めているだけだった。

結果、第27階層の生態系は、わずか『三十分』という過去最速のタイムで完全消滅カンストした。隠れボスである巨大な毒蛾も現れたが、一鳴きする前にルミナの【アブソリュート・ゼロ】で凍らされ、そのまま物理的に粉砕されて終わった。当然、光の柱(冷凍保存)など出番はない。

「よし! ゴミ掃除完了! さっさと次の階層に行くぞ!!」

トウヤの号令で、一行は逃げるように第28階層への扉へと向かった。

***

ギギギギギギ……ッ!!

重厚な扉を押し開けた瞬間。彼らの鼻腔をくすぐったのは、蟲の臭いでもヘドロの臭いでもなく――甘く芳醇な『バター』と『熟成された肉』の香りであった。

「……おおっ!?」

トウヤの目が、カッ! と見開かれた。

第28階層――『豊潤のアルプスと黄金の牧草地』。

見渡す限り、黄金色に輝く美しい牧草地が広がり、遠くには雪化粧をしたアルプスの山々が見える。澄み切った青空の下を流れる川は、なんと水ではなく『真っ白な特濃ミルク』であった。

そして、その黄金の牧草を食んでいるのは、丸々と太った巨大な牛『リッチミルク・カウ』と、岩のようにゴツゴツとした体表を持つ巨大な豚『ドライエイジング・ボア』の群れ。

「お、おいお前らァァァッ!!」

トウヤが、二日間のハズレ階層の鬱憤を全て吹き飛ばすような絶叫を上げた。

「あの川! ただのミルクじゃない、生クリームより濃厚で甘い『究極の神乳』だ! そしてあの牛と豚! 牧草の魔力と適度な乾燥した風のおかげで、生きたまま『究極のドライエイジング(乾燥熟成)』が施された超・極上の熟成肉だぞォォォッ!!」

「「「究極の、熟成肉ッッ!!?」」」

ハズレ階層続きで完全に「食欲の飢餓状態」に陥っていた美食家たちのタガが、音を立てて吹き飛んだ。

「ヒャッハー!! 熟成肉のステーキだ! 待ち焦がれたお肉だァァァッ!!」

ジンが狂ったように笑いながら、神速で空を蹴る。

「バター! チーズ! 濃厚なグラタンが食べられますわ!! 【渾身撃・オーバードライブ】!」

エリスがヨダレを撒き散らしながら、重剣で熟成豚の硬い表面(食べられない部分)だけを美しく削ぎ落とす。

「ガッハッハ! これが俺たちの求めていた迷宮だ! 全部狩り尽くせェェッ!!」

怒りと飢餓感から解放された彼らの乱獲スピードは、まさに神の領域であった。

瞬きする間に牧草地の牛と豚は極上のブロック肉へと姿を変え、トウヤのアイテムボックスが歓喜の悲鳴を上げる。

そして、彼らが第28階層に足を踏み入れてから、わずか一時間後。

システムが異常事態を検知し、牧草地の中央から黄金の巨大な魔法陣が浮かび上がった。

ゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!

「モォォォォォォォォォォォッ!!!!」

地響きと共に現れたのは、体長四十メートルに達する、全身から芳醇すぎる熟成香とチーズの香りを漂わせた超巨大な牛の王――第28階層の隠れボス『極上の熟成巨牛王プレミアム・エイジング・ベヒーモス』であった。

「出たな裏ボス! トウヤさん、お味は!?」

「最高級のさらに上、神話級のエイジング・ビーフだ! だが気をつけろ! あいつが暴れて汗(肉汁)をかくと、せっかくの熟成の旨味が流れ出ちまう!! 完璧な温度で一瞬で封じ込めろ!!」

「「了解です!! 究極のステーキのためにッ!!」」

ルミナとマリアが、全く淀みのない動きで杖とペンダントを掲げる。

カッ――――!!!!

ズドォォォォォォォォォンッッ!!!

本日一本目。

黄金の牧草地を白く染め上げ、王都の空へと突き抜ける『純白の光の柱(超特大冷凍保存魔法)』が放たれた。

隠れボスは、ただの一歩も歩くことなく、完璧な「超巨大熟成霜降りブロック肉」へと変貌した。

「よぉーし! 最速討伐だ!!」

トウヤが【空間斬り】で魔力コアを処理する。

「おっ、トウヤの兄貴! 今までで一番デカくて豪華な宝箱が出たぜ!」

ジンが開けた宝箱からは、神々しい光が溢れ出した。

「おお! これは拠点の農園をさらに拡張する『無限の豊穣チーズ・バター工房キット』だ! さらに全員の全ステータスを30%底上げする『美食神の祝福の指輪』が人数分入ってるぞ!」

「「「うおおおおおッ!! 神ドロップだァァァッ!!」」」

ハズレ階層の鬱憤を、極上肉と超豪華装備で完全に晴らした一行。

時刻は、まだお昼を過ぎたばかりであった。

「……おい、お前ら」

トウヤが、ニヤリと悪魔のような(美食家の)笑みを浮かべた。

「今日はまだ時間がたっぷりある。勢いに乗って、このまま第29階層の扉も開けちまうか?」

「えっ……」

マリアが少しだけ表情を引き攣らせる。

「でもトウヤさん。もし、次の階層がまた『虫』や『ヘドロ』だったら……私たちのメンタル、今度こそ粉々に砕け散りますよ?」

「そうだな……。この熟成肉のハッピーな気分のまま、拠点に帰ってステーキを焼くのが安全牌かもしれないぜ?」ジンも恐る恐る提案する。

「バカ野郎! 迷宮の法則を読め! 26、27とハズレが続いて、28で大当たりの熟成肉だ! この流れなら、次は絶対に『魚介』か『別の極上肉』が来るに決まってる!! 俺のキャンパーとしての勘がそう告げている!」

トウヤの根拠のない(しかし異常な説得力を持つ)自信に押され、一行はゴクリと喉を鳴らしながら、第29階層への扉の前に立った。

「……開けるぞ」

ギギギギギギ……ッ!!

恐る恐る、薄目で扉の先を覗き込む八人。

そこから吹き付けてきたのは――香ばしい『炭火焼き』のような匂いと、甘辛い極上のタレを彷彿とさせる、奇跡のような香りであった。

「…………ッ!!」

全員が、バッと目を見開いた。

第29階層――『清流の瀑布と紅葉の渓谷』。

燃えるような紅葉に彩られた美しい渓谷。その中央には、巨大な滝から澄み切った清流が流れ落ちている。

そして、その滝壺の中で身をくねらせているのは、体長十メートルを超える巨大なウナギの魔物『ウォーターフォール・ドラゴンイール(飛龍鰻)』。川岸には、大人の背丈ほどもある肉厚の『ギガント・シイタケ』が群生していた。

「う、ウナギ……! ドラゴンサイズの、ウナギだぁぁぁッ!!」

トウヤが、ついに感極まって涙を流した。

「お前ら! あのドラゴンイール、滝登りで鍛えられた極上の身の引き締まりと、ドラゴンの魔力による『究極の脂』を兼ね備えた最強の川魚だ! 蒲焼き! 白焼き! うな重だァァァッ!!」

「「「う、うな重ッッ!!!!」」」

もう、彼らを止めることは誰にもできない。

第28階層で熟成肉を手に入れた興奮も冷めやらぬまま、彼らのタガは二度目の臨界点を突破した。

「ヒャッハー!! 昼はステーキ、夜はウナギだァァッ!」

「ガッハッハ! ウナギのヌメリは俺の盾で抑え込むぞ!」

「シイタケ! 肉厚のシイタケのお出汁も絶対に逃がしませんわ!」

紅葉の渓谷で、本日二度目となる「生態系の神速蹂躙」が幕を開けた。

そして一時間後。

ゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!

滝壺が割れ、体長五十メートルの超巨大なウナギの神獣――第29階層の隠れボス『ロード・オブ・リヴァイアサン・イール(幻河の大神鰻)』が姿を現す。

「ルミナ! マリア! ウナギの脂が水に溶ける前に、一瞬で凍らせろ!!」

「「了解です!! 究極のうな重のためにッ!!」」

カッ――――!!!!

ズドォォォォォォォォォンッッ!!!

本日、二本目。

夕暮れが近づく空に、再び極太の『純白の光の柱』が天を貫いて打ち上がった。

***

【その頃、地上の王城・国王執務室では】

「…………オズワルドよ」

「…………はい、陛下」

国王ヴィルヘルムと宰相オズワルドは、執務室の窓際で、完全に魂が抜けたような表情で空を見上げていた。

お昼過ぎ。彼らは一本目の光の柱を見た。

「おお、今日は随分と早いな」「第28階層で極上の昼食を見つけたのでしょう」と、微笑ましくお茶を飲んでいたのだ。

しかし。それからわずか数時間しか経っていない、この夕暮れ時。

王都の空を、お昼の時よりもさらに太く、巨大な『二本目の光の柱(冷凍保存ビーム)』が貫いたのである。

「……オズワルド。余の目が確かなら、あの光の柱は『食材を傷つけずに冷凍保存するための魔法』であったな?」

「ええ。出力300%増しの、特大冷凍庫でございますね」

「……一日に、二回も?」

国王の顔が、ヒクヒクと引き攣る。

「彼らは、つい数時間前に、超巨大な魔物を一匹、丸ごと冷凍庫にぶち込んだばかりではないのか? まさか……昼に特大の肉を仕込み、夕方にはまた別の特大の肉(あるいは魚)を仕込んでいるとでも言うのか!?」

「……そのように、推測されます」

オズワルドが、眼鏡を外して深く目頭を揉みほぐした。

「バカな!! いかに彼らがバケモノだとしても、あれほどの極大魔法を日に二度も放てば魔力が枯渇するはずだ! それに何より……彼らのアイテムボックス(胃袋)は、四次元空間にでも繋がっているのか!? 食っても食っても、冷凍庫を稼働させ続けているではないか!!」

王城の空に木霊する、国王の悲痛な(そして盛大な)ツッコミ。

「もうやめてくれ! 余の常識が、彼らの食い意地の前に音を立てて崩れていく!! なにが生存の狼煙だ! なにが若き英雄だ! あいつらただの『迷宮の超巨大卸売業者』ではないか!!」

「へ、陛下! お気を確かに! 王国の威厳が、威厳が崩れます!」

地上の最高権力者たちに、心配や安堵を通り越して「完全なる常識の破壊と呆れ」をもたらした、一日二本の光の柱。

そんな地上の大パニックなど知る由もない地下のトウヤたちは。

「よぉーし!! 熟成肉と特大ウナギのダブルゲットだ!!」

「トウヤさん! 早く拠点に戻って、エイジング・ビーフのステーキと、特大うな重の最強ディナーにしましょう!!」

「ガッハッハ! 今夜は樽酒を開けるぞォォォッ!!」

未知の深層である28階層と29階層を、たった一日で「ただの買い出し」に変えてしまった『悠久の踏破者』たち。

彼らの非常識極まりない迷宮スローライフは、究極のうなぎの蒲焼きの匂いと共に、今夜も絶好調で更けていくのであった。


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