表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/510

第68話:【閑話】星降る夜の語らいと、遥か地上への望郷

第68話:【閑話】星降る夜の語らいと、遥か地上への望郷

『悠久の大迷宮』第23階層の安全地帯。

神話級の拠点アーティファクト『星の箱庭』に内包された三階建ての大豪邸のリビングには、暖炉の火がパチパチと心地よい音を立てていた。

先ほどまでテーブルを埋め尽くしていた『スターダスト・シュリンプのエビフライ』や『オーロラ・ポークの角煮』、そして『ドラゴン・サーモンの大トロ』といった暴力的なまでのごちそうは、彼らの底なしの胃袋へと見事に収まり、室内には極上の脂と甘いタレの香りが微かに残っている。

現在、このパーティーの絶対的リーダーにしてメインシェフであるトウヤは、「農園の野菜たちの育ち具合を見てくる。ついでに大浴場でひとっ風呂浴びてくるわ」と言ってリビングを後にしていた。

残された五人(と、暖炉の前で丸まって眠るテイムモンスターたち)は、食後のハーブティーや果実酒を片手に、フカフカのソファに深く腰を沈めていた。

「……ふぅ。今夜もとんでもなく美味かったな。腹がはち切れそうだ」

ジンが、手元のグラスで琥珀色の果実酒を揺らしながら、ふと息を吐いた。

「ええ。第23階層の魔物があんなに美味しいなんて……。王都の高級レストランのフルコースすら、トウヤさんの手料理の前では霞んでしまいますわね」

エリスが、優雅に(しかし少しだけお腹をさすりながら)ハーブティーを口に運ぶ。

いつもなら、ここで「明日のご飯は何だろうな!」と笑い合うところだ。

しかし今夜は、あまりにも静かで穏やかな時間が流れていたせいか。ふと、ジンの口からかつて彼を縛り付けていた『闇』がこぼれ落ちた。

「……なぁ。俺たちがここで毎日、こんな王族みたいな美味い飯を腹いっぱい食って、フカフカのベッドで寝ている間……地上の連中は、今頃どうしてるんだろうな」

その言葉に、リビングの空気が少しだけ、シンと静まり返った。

ジンはグラスの底を見つめたまま、自嘲気味に笑う。

「俺はさ、王都の暗いスラムで、暗殺ギルドに飼われてた。俺が汚れ仕事を引き受ける代わりに、孤児院のシスターと子供たちを生かしてもらう……そういう契約だった。俺が追っ手から逃れて迷宮に飛び込んでから、もう数ヶ月が経つ。……あいつら、ちゃんと飯を食えてるだろうか。ギルドの連中に、俺の腹いせで酷い目に遭わされてねえだろうか」

普段はお調子者で、美味しい肉のために誰よりも早く飛び出していくジン。

しかし彼の根底にあるのは、常に「残してきた家族(孤児たち)」への深い愛情と、拭いきれない不安だった。

「……ジン」

ガレスが、静かに自身の杯をテーブルに置いた。

「お前の気持ちは、痛いほどよく分かる。俺も……同じだ」

ガレスは暖炉の火を見つめ、かつて自分が身を包んでいた『王国の近衛騎士』の誇りを思い出すように目を細めた。

「俺は、国を蝕む一部の腐敗した貴族たちの不正を暴こうとして、逆に反逆罪を着せられた。俺を慕ってくれていた部下の若い騎士たちは、俺を逃がすために盾になってくれたんだ。……あの腐った貴族どもが権力を握ったままなら、王国は今頃どうなっているか。俺の部下たちは、俺を逃がした罪で処刑されてはいないだろうか……」

悔しさに、ガレスの丸太のような太い腕がギリッと握り締められる。

その横で、エリスが震える手でティーカップを両手で包み込んだ。

「……お父様」

エリスの瞳から、ポロリと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「私の父、アルジェント男爵は……本当に領民想いの、優しくて立派な貴族でした。それなのに、政敵の罠にはめられ、私まで罪人にされて……。私は追っ手から逃れるために迷宮に飛び込みましたけれど、地上に残されたお父様は……逃げた私のせいで、もっと酷い拷問を受けているかもしれない……っ」

「エリスさん……」

マリアがそっとエリスの隣に座り、彼女の震える肩を優しく抱き寄せた。

マリア自身も、純粋な信仰心を利用され、腐敗した教会の権力闘争の犠牲になりかけた過去がある。ルミナもまた、エルフの長老たちの体裁のために「生贄」として切り捨てられた身だ。

ここにいる五人は全員、地上に絶望し、理不尽な悪意から逃れるようにして『死に場所』であるこの悠久の大迷宮へと足を踏み入れた。

そこでトウヤという規格外のリーダーに出会い、奇跡的に生き延び、今では信じられないほどの豊かで幸せなキャンプ生活を送っている。

しかし、彼らの心の中には常に「地上に残してきた大切な人たち」への罪悪感と、安否への不安が渦巻いていたのだ。

(※ちなみに、読者と神様だけが知っている事実として。地上の王国は国王ヴィルヘルムによる『超・大粛清』がすでに完了しており、悪い貴族も暗殺ギルドも腐敗教会も全て物理的に滅ぼされている。エリスの父であるアルジェント男爵は、すでに救出されただけでなくその忠義を認められ『子爵』へと昇爵し国王の側近として復権。ジンの孤児院は王国の完全保護下で毎日お腹いっぱいご飯を食べており、ガレスの部下たちも昇進して元気に訓練している。地上の彼らが今一番心配しているのは、「地下で巨大な冷凍ビームばっかり撃ってるお前らの異常な食い意地」なのだが、当然ながら地下の彼らは知る由もない)

「……ねえ、皆さん」

マリアが、決意を秘めた聖女の瞳で、全員の顔を見回した。

「私たちは今、トウヤさんのおかげで、信じられないくらい強くなりました。神話級の武器を持ち、どんな魔物も倒せる力を手に入れました」

「ああ、全くだ。今の俺たちなら、王国の騎士団が束になってかかってきても負ける気はしねえ」ガレスが力強く頷く。

「なら……」

ジンが、残っていた果実酒をグイッと飲み干し、隻眼をギラリと光らせた。

「俺たちは、このまま迷宮で強くなり続けよう。トウヤの兄貴と一緒に、未踏の深層をどんどん突き進んで、地上じゃ手に入らないようなお宝と力を、これでもかってくらい腹の底から蓄えるんだ」

「ええ……! そしていつか」

エリスが涙を拭い、大剣の柄を力強く握りしめた。

「いつか必ず地上に戻って……私たちとお父様たちを陥れた悪党どもを、この手で裁きましょう! そして大切な人たちを助け出すのです! トウヤさんの作る美味しいご飯の匂いと一緒に、王都へ凱旋するのですわ!」

「ガッハッハ! そいつはいい! 俺の盾で王城の門をぶち破ってやる!」

「私も、エルフの森の長老たちに、今の私の魔法を見せつけてやります!」

彼らの間にあった重苦しい空気は、確かな『決意』へと変わり、未来への強い絆となって彼らを結びつけた。

彼らの心は一つだ。「強くなって、愛する者たちを救う」。そのために、今は迷宮で食って食って食いまくるのだと。

――ガチャリ。

その時、リビングの扉が開き、風呂上がりのさっぱりとした格好のトウヤが、大きなタッパーを抱えて戻ってきた。

「おっ、みんな起きてるか? 農園の様子を見てきたついでに、明日の朝飯の仕込みをしてきたぞ」

「トウヤの兄貴!」

トウヤがテーブルに置いたタッパーを開けると、中から食欲を根底から狂わせる暴力的な香りが漂ってきた。

「第23階層で採れた『オーロラ・ポーク』の切れ端を、農園で採れたネギと特製ダレに漬け込んでおいた。明日の朝は、これを炭火で一気に焼き上げて、炊きたての土鍋ご飯に乗せた『極上・幻豚のスタミナ焼肉丼』だ!!」

「「「おおおおおおおッッ!!!」」」

先ほどまで悲壮な決意を固め、地上の家族を想って涙ぐんでいた彼らの顔から、一瞬にして一切のシリアスが吹き飛んだ。

「や、焼肉丼ですって……! 朝からそんな暴力的なお食事がいただけるなんて!」エリスが目を輝かせる。

「トウヤの兄貴、マジで最高だぜ! 俺、明日の朝が待ちきれねえ!」ジンが尻尾を振る犬のように身を乗り出す。

「ニンニクたっぷりのタレですね……! 聖女の祈りよりも活力が湧いてきそうです!」マリアも完全に胃袋を支配されている。

「よしよし、楽しみにしとけ。……なんだお前ら、なんかちょっと目が赤いぞ? どうした?」

「い、いえ! なんでもありませんわ! 焼肉丼のタレの香りが、目に染みただけですの!」

「ガッハッハ! 全くだ! さあ、明日の朝飯のために、今日はもうさっさと寝るぞ!!」

地上の家族への愛と、悪党への復讐心。

それすらも、トウヤの提示する「明日の朝ごはん(極上の焼肉丼)」という圧倒的なパワーの前では、彼らを突き動かす心地よいスパイスの一つでしかなかった。

遥か地上との、壮大でシュールなすれ違いを抱えながら。

『悠久の踏破者』たちの絆は、今夜も美味しい匂いと共に、より深く、より強固に結ばれていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ