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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第56話:仕方なき第14階層と、三度目の光柱(冷凍保存)

第56話:仕方なき第14階層と、三度目の光柱(冷凍保存)

『悠久の大迷宮』第13階層――『豊穣の黄金樹海』。

秋の味覚と極上肉をしゃぶり尽くした『悠久の踏破者』の八人(六人と三匹)は、大豪邸の庭に集まり、深刻な(?)会議を開いていた。

「……皆、聞いてくれ」

トウヤが腕を組み、ひどく苦渋に満ちた表情を作って口を開いた。

「この数日間の乱獲で、ついに全員の経験値バーがピタリと止まってしまった。俺のアイテムボックスも、限界拡張スキルを使ってもなお、黄金豚の肉と松茸とハチミツでパンパンだ」

「ああ、俺の盾のスキルもこれ以上上がらねえ」

「私とマリアさんの魔力操作も、完全に頭打ちです」

ガレスとルミナが頷く。

「……というわけだ。俺は本音を言えば、この素晴らしい秋の樹海で一生松茸を焼いて暮らしたい。だが、探索者としての成長が止まってしまうのは大問題だ。だから……いやぁ、本当に仕方なく! 泣く泣く、次の第14階層へ進まざるを得ない!!」

「トウヤの兄貴。顔がニヤけすぎて、もはや言葉と表情が完全に分離してるぜ」

ジンがジト目でツッコミを入れる。

「次の階層の新しい食材が楽しみで仕方ないのが、全身から溢れ出てますよ、トウヤさん」

マリアもクスクスと笑った。

「ば、馬鹿野郎! 俺は純粋な冒険心からだ! よし、行くぞお前ら!」

誤魔化すように背を向けたトウヤを先頭に、一行は第14階層へと続く重厚な扉を押し開けた。

***

扉の先から吹き付けてきたのは、身を切るような猛吹雪だった。

「うわっ、寒っ!?」

エリスが思わず身を縮める。

第14階層――『白銀の氷雪山脈と凍結湖』。

見渡す限り、真っ白な雪に覆われた針葉樹林と、分厚い氷に閉ざされた巨大な湖。空は灰色の雪雲に覆われ、絶えず氷点下の猛吹雪が吹き荒れている。

「完全に『冬』の階層だな! だが問題ない! リル、頼む!」

「ピュイッ!」

トウヤの肩に乗ったスライムのリルが【温度調節】のスキルを広範囲に展開する。すると、一行の周囲だけが「春の陽だまり」のような快適な温度に保たれ、猛吹雪の冷気が完全にシャットアウトされた。

「おお! リルちゃんの温度調節、外でもこんなに快適だなんて!」

エリスが嬉しそうに胸を撫で下ろす。

「ピィィッ!(兄貴、雪の下から美味しい匂いがするよ!)」

上空の寒気など意に介さないクーが、凍結湖の方向へ向かって急降下した。

ドパァァァンッ!!

分厚い湖の氷を突き破って飛び出してきたのは、全身がプラチナのように輝く体長四メートルの巨大鮭――『プラチナ・サーモン』だった。

さらに、雪に覆われた針葉樹林からは、七面鳥のような丸々とした体つきで雪の迷彩を施した『スノー・ターキー』の大群と、湖の底からはトラックほどの大きさがある氷の甲殻を持ったタラバガニ――『フロスト・キングクラブ』がワラワラと這い出てくる。

「冬の環境ってことは……」

トウヤがゴクリと喉を鳴らした。

「極寒の海で育ったサーモン! 脂の乗りまくった冬のタラバガニ! そして丸々と太った雪山七面鳥の肉だと!?」

その瞬間、トウヤだけでなく、背後の五人の目にも「捕食者の狂気」が宿った。

「うおおおおッ!! トウヤの兄貴、冬といえば『カニ鍋』だろ!? あのタラバガニの太い足、絶対に中身がギッシリ詰まってるぜ!!」

「鮭です! シャケのお刺身と、ハラス焼きです! 私、エルフの森で川魚は食べてましたけど、あんな脂の乗ったお魚は初めて見ました!」

「ターキーのお肉も丸焼きにしたら最高です! 全部狩りましょう! 一匹残らず私たちの鍋の具材ですっ!」

ジン、ルミナ、マリアが、もはや寒さなど微塵も感じさせない熱量で叫ぶ。

「ガッハッハ! 豚や牛の次は、冬の海鮮と雪山ジビエか! 最高じゃないか!」

「カニの甲羅は私が割るわ! 【渾身撃】の準備はいいわよ!」

「よし、お前ら! 13階層以上の乱獲祭りの開幕だ! カニの足は絶対に折るな! サーモンの身は崩すな! ターキーは丸ごと回収だ!!」

「「「いただきますッ!!」」」

タガが完全に吹き飛んだバケモノ集団が、白銀の雪原へ雪崩れ込んだ。

ガレスの【魔力城塞・極】がカニの泡攻撃を無効化し、エリスの大剣が氷の甲殻の関節だけを的確に切断する。ジンが吹雪と同化してターキーの首を落とし、ルミナとマリアがサーモンの退路を魔法で塞ぐ。

そしてトウヤの【空間斬り】が、カニの極太の足と、サーモンの大トロ部分だけを空間ごと切り出していく。

彼らの凄まじい乱獲スピードは、第13階層の時すら上回っていた。

「カニ鍋」「サーモンのハラス焼き」という強烈なワードが彼らの脳内麻薬を分泌させ、疲労を完全に忘れさせていたのである。

そして、生態系を無視した異常な討伐速度は、当然のように「迷宮のシステム」を激怒させた。

ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ……!!

雪原が割れ、凍結湖の氷が全て粉砕されるほどの地鳴り。

吹雪が渦を巻き、その中心から『山そのもの』が立ち上がったような巨大な影が現れた。

「パォォォォォォォォンッ!!」

鼓膜を突き破るような咆哮。

現れたのは、体長三十メートルを超える、分厚い氷河の鎧を纏った超巨大なマンモス――第14階層の隠れボス『エンペラー・マンモス(氷河の皇帝象)』であった。

「出たな、隠れボス! 12、13階層に続いて三連続の裏ボス登場だぜ!」

ジンが笑い飛ばす。

エンペラー・マンモスが巨大な鼻を振り上げ、吹雪を伴った巨大な氷柱を無数に発射してくる。

「防壁展開! 【魔力城塞・極】!」

ガレスの炎の盾が氷柱を全て蒸発させる。

「トウヤの兄貴! あのマンモスの肉、見た目は硬そうだけどどうなんだ!?」

「バカ野郎、極寒を生き抜くマンモスの肉は、皮下脂肪の奥に『信じられないほど甘い霜降りの赤身』が隠れてるんだ! 特にあの『鼻』の付け根の肉は、牛タンなんて目じゃないほどの極上珍味だぞ!!」

トウヤの解説に、全員の目がカッ! と見開かれた。

「マンモスのお肉……! しかも極上珍味……!」

「絶対に傷つけてはなりません! マリアさん、結界の準備を!」

「はいっ! お肉の鮮度を第一に!」

もはや恒例行事となった。

「巨大な極上食材」を目の前にした彼らが取る行動は、一つしかない。

「エンペラー・マンモスの肉汁を、一滴たりとも逃がさない! 精霊力、最大解放リミット・ブレイク!!」

「完全密閉の瞬間冷凍です! 聖女の祈りよ、全てを凍てつかせなさいッ!」

ルミナの『星天の魔杖』とマリアの『慈愛の聖印ペンダント』が、三度目の共鳴を果たす。

エルフの精霊魔法【アブソリュート・ゼロ】と、聖女の純粋な最大魔力が融合。

カッ――――!!!!

白銀の雪原が、さらに眩い『純白の閃光』に呑み込まれた。

ズドォォォォォォォォォンッッ!!!

第12階層、第13階層で放たれたものよりも、さらに太く、さらに強烈な『三本目の光の柱』が、迷宮の天井をぶち抜き、王都の空へと向かって大爆発を起こした。

対象を傷つけず、ただ『完璧な冷凍保存状態』にするためだけに放たれた、世界最高峰の無駄遣い大魔法である。

光が収まった後、そこには、一ミリの傷も負わずにカチンコチンに凍りついた「超特大マンモスの冷凍ブロック」が出来上がっていた。

「よぉーし! 完璧な冷凍マンモス肉の出来上がりだ! アイテムボックスに収納!」

トウヤが空間斬りで魔力コアを切除し、ウキウキで超巨大ブロック肉を収納した。

***

【その頃、地上の王城・国王執務室では】

「…………」

「…………」

国王ヴィルヘルムと、宰相オズワルドは、窓の外の空に消えていく『三本目の光の柱』を、完全に死んだ魚のような目で眺めていた。

「……オズワルド」

「はい、陛下」

「……また、出たな」

「はい。出力は前回の150%増し。波長は……ええ、間違いなく『対象を傷つけずに冷凍保存するための魔法』でございます」

オズワルドが、胃薬を水で流し込みながら淡々と答えた。

「三日連続だぞ。……第12、13、14階層と、毎日毎日、王都の民が天変地異かと怯えるような神話級の魔法を、あいつらは『食材を冷凍するためだけ』にぶっ放しているのか」

「もはや大迷宮の生態系がどうなっているのか、私には想像もつきません。おそらく、見つけた強敵(食材)を端から冷凍庫にぶち込んでいるのでしょう」

国王は、紅茶のカップを静かにテーブルに置き、深い溜息を吐いた。

「……もう、驚かん。余はもう驚かんぞ。明日また四本目の光柱が出ようが、『ああ、また彼らの冷凍庫の在庫が増えたのだな』と思うことにする」

「御意」

地上の最高権力者たちに「完全な諦めと悟り」を開かせた三本目の光柱。

その原因となった当事者たちは、もちろんそんなことなど知る由もない。

***

「おっ、トウヤの兄貴! また隠れボス確定の『宝箱』が出たぜ!」

凍結湖の上に現れた宝箱をジンが開けると、中から出てきたのは『氷精の保冷箱』という、入れた食材の鮮度を永遠に氷点下で保つことができるアーティファクトだった。

「おおお! これはアイテムボックス内の食材を部位ごとに整理するのに最高のアイテムだ! 迷宮のやつ、完全に俺たちのニーズを理解してきてるな!」

トウヤが大喜びで保冷箱を回収する。

「よし! 新しい冬の食材と、マンモス肉のゲットを祝って! 今日は拠点に戻って、極上の『冬の海鮮・雪見鍋』と『マンモス肉の極厚ステーキ』の宴会だ!!」

「「「うおおおおおッ!! 鍋だぁぁぁッ!!」」」

数十分後。【星の箱庭】の大豪邸のダイニング。

テーブルの中央には、巨大な土鍋が鎮座し、昆布出汁の中で『フロスト・キングクラブの極太の足』や『プラチナ・サーモンの切り身』、そして大量の雪山キノコがグツグツと煮込まれていた。

さらに隣の鉄板では、トウヤが『マンモスの鼻の付け根肉』を厚切りにしてガーリックバターで豪快に焼き上げている。

「カニ、甘ぁぁぁいッ! ポン酢につけて食べると、口の中でカニの繊維がホロホロ解けて、無限に食べられますぅ!」

エリスが令嬢の作法を忘れてカニの殻にしゃぶりつく。

「マンモスのお肉もヤバいぞ! 弾力があるのに、噛むたびに肉汁が滝のように溢れてくる! 牛タンの旨味を百倍に濃縮したみたいだ!」

ジンが特大のマンモス肉をビールと共に流し込み、歓喜の雄叫びを上げる。

「ガッハッハ! サーモンのハラスも最高に脂が乗ってて美味い! 寒い階層の後は、やっぱり温かい鍋と熱燗に限るな!」

ガレスの豪快な笑い声に、ルミナとマリアも顔を真っ赤にしながら頷き、クロやクー、リルも鍋の具材を奪い合っていた。

大迷宮の深層で、生態系を破壊し、裏ボスを冷凍庫にぶち込み、地上を混乱の渦に巻き込んでいるバケモノたち。

しかし彼らの本質は、ただ美味しいご飯を食べて、温かい部屋で笑い合う、最高に平和でハッピーなキャンパーたちなのであった。

「明日はもっとカニを獲るぞ!」

「「「おーっ!!」」」

第14階層の氷雪の夜は、極上の鍋の匂いと共に、熱く賑やかに更けていくのだった。

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