第54話 快速の若者たちの2度目の光の柱
第54話 快速の若者たちの2度目の光の柱
『悠久の大迷宮』第13階層――『豊穣の黄金樹海』。
黄金色に染まった秋の森で、彼らの狂気的な(そして非常に楽しげな)乱獲祭りは、二日目の昼を迎えても全く勢いが衰えていなかった。
「ヒャッハー! トウヤの兄貴、あっちの茂みに『トリュフ・ボア』の群れだ! 豚肉と高級キノコの香りが一緒に味わえる最高級品だぜ!」
「エリスさん、ジンさん! そっちは任せました! 私とマリアさんは、この『メープル・トレント』から樹液を絞り尽くします!」
「ガッハッハ! 俺は巨大な栗の魔物『キャノン・チェスナット』を盾で受け止めて、中身の甘い栗だけを回収するぞ!」
ジンが空を舞い、エリスが重剣で大地を割り、ルミナとマリアが魔法でシロップを採取し、ガレスが盾で栗を弾く。
クロとクー、そしてスライムのリルも、落ち葉の中に隠れた木の実やキノコを竜巻や水流で器用に集め、トウヤのアイテムボックスへと運んでいく。
昨日からの凄まじい乱獲により、この階層の生態系は完全に崩壊しかけていた。
そして――迷宮のシステムが『異常事態』を検知し、防衛本能として特定の条件(短期間での異常な討伐数)を満たした時にのみ出現する『イレギュラー』を、再びこの世界に解き放ったのだ。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォッ……!!
黄金の樹海が激しく揺れ、天を覆うような巨大な木々が次々とへし折られていく。
「ピィィッ!?(兄貴、すっごくデカくて、すっごく美味しそうなのが来るよ!)」
上空のクーが警戒とヨダレを同時に撒き散らしながら念話を送る。
地鳴りと共に森の奥から姿を現したのは、体長二十メートルを優に超える巨大な四足獣。
大地のような分厚い筋肉と、燃えるような黄金の毛並み。頭部には天を衝くほどの巨大な二本の角を生やした、第13階層の『隠れボス』――『大地の巨獣王』であった。
「……おいおい。第12階層のロブスターに続いて、また隠れボスのお出ましだぞ。どれだけ乱獲したらこんな頻度で出てくるんだよ」
ジンが呆れたように呟く。
通常の冒険者であれば、大地の怒りそのもののようなベヒーモスの威圧感に腰を抜かし、全滅を覚悟する場面である。
しかし、トウヤの【神眼の指揮】を通して共有された視覚情報により、仲間たちの目はベヒーモスの『内側』――分厚い皮下脂肪の下にある、美しい芸術的なサシ(脂)が入った超極上の赤身肉へと釘付けになっていた。
「な、なんて美しい霜降り肉なの……! あの巨体全部が、王宮の晩餐会でも出ないような『超特大のA5ランク和牛』みたいなものじゃない!」
エリスが重剣を構えながら、恍惚とした表情で叫ぶ。
「トウヤさん! あの牛さん、絶対に逃がしません! でも、普通に倒したらお肉が硬くなったり、肉汁が外に逃げてしまいますよね!?」
マリアも完全にキャンパーの思考に染まり切り、討伐ではなく『調理(保存)方法』を心配していた。
「ああ、その通りだマリア! あの極上の霜降り肉は、ストレスを与えたり火傷させたりすれば一気に味が落ちる! 一ミリも傷つけずに、最高鮮度のまま『瞬間冷凍』するぞ!」
トウヤの目に、一切の容赦がない美食家の光が宿る。
「ルミナ! マリア! 昨日と同じだ、最大出力で肉汁を完全に閉じ込めろ! ジン、エリス、ガレスは絶対に手出しするな、ただヘイトだけを買え!」
「「「了解ッ!!」」」
「グルルルォォォォッ!!」
ガイア・ベヒーモスが大地を揺るがす咆哮を上げ、山そのものがぶつかってくるような超質量の突進を仕掛けてくる。
「来い、特大霜降り牛! 【魔力城塞・極】!」
ガレスが竜盾を大地に突き立て、巨大な炎の城壁を展開。ベヒーモスの突進を真正面から受け止め、強烈な衝撃波が樹海を吹き飛ばす。
「ジンさん! 目眩ましを!」
「ヒャッハー! 【直感回避】!」
ジンが虚空から現れ、ベヒーモスの眼前に閃光玉を投げつけて視界を奪う。
その一瞬の隙に。
「このお肉は、私たちのBBQのために……! 精霊力、最大解放!!」
「極上の霜降りを守るためです! 聖女の祈りよ、全てを包み込む氷壁となれッ!」
ルミナの『星天の魔杖』と、マリアの『慈愛の聖印ペンダント』が、再び迷宮の底で完全に共鳴した。
エルフの最高位精霊魔法【アブソリュート・ゼロ】と、聖女の純粋な最大魔力が圧縮・融合し、規格外の魔法現象を引き起こす。
カッ――――!!
黄金の樹海が、全てを白く染め上げる圧倒的な光に包まれた。
前日の第12階層で放たれたものと全く同じ――いや、陸上である分、さらに規模を増した『純白の光の柱』が、ズドォォォォンッ!! と大地の底から天を貫いて噴き上がったのである。
(※この瞬間、地上の王都では「また光の柱が上がったぞーッ!」と国王や宰相が嬉し泣きしながらバンザイ三唱をしているのだが、彼らは知る由もない)
光が収まった後。
そこには、突進の姿勢のまま一ミリの肉も傷つくことなく、完璧な『超低温の氷像』と化したガイア・ベヒーモスの姿があった。
「よし、完璧な瞬間冷凍だ!」
トウヤが【空間斬り】を放ち、氷漬けになったベヒーモスの魔力コアだけを空間ごと切除。生命活動が完全に停止した巨獣は、そのまま『究極の超特大・霜降り冷凍ブロック肉』となってトウヤのアイテムボックスへと吸い込まれていった。
「ふぅ……やりました……。今日も、お肉は無傷です……!」
ルミナとマリアが、杖を杖代わりにして肩で息をしながら、満足げにハイタッチを交わす。
「お前ら、二日連続であのバカみたいな魔法を撃って、まだ魔力が底を突かないのか? マリアのペンダントの燃費、恐ろしすぎるだろ」
ジンが引きつった笑顔で呟いた。
「おっ、トウヤの兄貴! ベヒーモスが消えた跡に、やっぱり隠れボスの『宝箱』が出たぞ!」
黄金の落ち葉の上に鎮座していたのは、見事な装飾が施された宝箱だった。
ジンが罠を解除して蓋を開けると、中から現れたのは、美しく輝く金色の角――『豊穣の神酒角』というアーティファクトだった。
「なんだこりゃ? 武器じゃないみたいだが」
トウヤが手に取り、システムのアナウンスを確認してニヤリと笑った。
「これ、中に水や安い酒を入れると、一瞬で『極上の美酒』に変わって無限に湧き出し続けるっていう、最高にイカれた飲み会アイテムだぞ」
「「「おおおおおッ!!」」」
そのアーティファクトの効果を聞いた瞬間、大人組(トウヤ、ガレス、ジン)のテンションが最高潮に達した。
「ガッハッハ! それは神のアイテムだ! 肉の階層で最高の酒杯が手に入るなんて、迷宮も気が利いてるじゃないか!」
「トウヤの兄貴! もう今日は狩りは終わりだ! すぐに拠点に帰って、極上霜降り肉と美酒でBBQだ!」
「大賛成です! 私たちも、冷たい魔法を撃って少しお腹が空きました!」
満場一致で本日の業務(乱獲)終了が決定し、彼らはそそくさと【星の箱庭】の扉を展開し、大豪邸の庭へと帰還していった。
***
数十分後。
第10階層の異空間にある、大豪邸の美しい芝生の庭。
そこに設置された特大のBBQグリルの上では、文字通り『暴力的なまでの肉の宴』が幕を開けていた。
「さあ食え! メインは『ガイア・ベヒーモスの極厚・超霜降りステーキ』と、『ゴールデン・ボアの黄金三枚肉の炭火焼き』! 付け合わせは『特大松茸の丸焼き・スダチ添え』だ!」
ジュワァァァァァァッ!!
炭火の上に分厚い霜降り肉が乗せられた瞬間、上質な脂が滴り落ち、炎が舞い上がる。野性味と芳醇な甘みが混ざり合った、理性を完全に破壊する香りが庭全体に爆発した。
「いただきますッ!」
エリスが、自身の顔の半分ほどもあるステーキにナイフを入れ、大きく切り出して口に運ぶ。
「――――ッッ!! 溶けるっ! お肉が、噛まないうちに舌の上で溶けてなくなりました!」
エリスが感動のあまり天を仰ぐ。ベヒーモスの肉は、大地の魔力をたっぷりと吸い込んでいるためか、尋常ではない旨味の濃さでありながら、脂が信じられないほどサラッとしていて全く胃にもたれないのだ。
「こっちの黄金の豚バラもヤバいですぅ……! カリカリに焼けた表面に、特製のハチミツダレが絡んで……甘じょっぱさが限界を突破してます!」
マリアが白飯の入ったどんぶりを片手に、涙目で豚肉を掻き込んでいる。
「ガッハッハ! トウヤ、この『豊穣の神酒角』から出てくる酒、本当に美味いぞ! 果実のような甘みがあるのにスッキリしてて、霜降り肉の脂を綺麗に流してくれる! これぞ無限ループだ!」
ガレスとジンが、金色の角杯から注がれた極上の神酒を煽り、大声で笑い合っている。
「松茸も最高ですよ! 炭火で炙って、少しお醤油を垂らすだけで……秋の香りが口いっぱいに広がります!」
ルミナが松茸を上品に(しかし凄まじいペースで)堪能し、クロやクー、リルも、それぞれ専用の巨大な皿に盛られた肉を狂ったように平らげていた。
第13階層の豊かな秋の味覚と、規格外の隠れボスがもたらした超絶級の霜降り肉、そして無限に湧き出す神の美酒。
天を貫く光の柱を二日連続でぶっ放し、地上の国々を感動の渦に巻き込んだバケモノたちは、その当事者である自覚など一ミリも持たず。
ただひたすらに、芝生の庭で極上のBBQと美酒に酔いしれ、最高の仲間たちと共に、これ以上ないほど平和で幸せな夜を過ごすのであった。




