第53話:豊穣の黄金樹海と、歓喜に沸く乱獲の狂宴
第53話:豊穣の黄金樹海と、歓喜に沸く乱獲の狂宴
『悠久の大迷宮』第12階層の最奥。
極上の海鮮をしゃぶり尽くし、レベルもスキルも完全にカンストさせた『悠久の踏破者』の八人(六人と三匹)は、朝の清々しい(?)空気の中、次なる階層への重々しい石扉の前に立っていた。
「よし、忘れ物はないな? 今日からいよいよ第13階層だ!」
トウヤが振り返ると、全員が満面の笑みで力強く頷いた。
「ええ! 海鮮も最高でしたけど、そろそろ『ガッツリしたお肉』が恋しくなってきていたところです!」
エリスが『竜殺しの重剣』を背負い直しながら、期待に胸を膨らませる。
「どんな環境が待ってるか楽しみだな。俺の『幻影の外套・極』の隠密行動が活きるような、複雑な地形だとありがたいぜ」
ジンも短剣をクルクルと回しながらニヤリと笑う。
トウヤは両手で重厚な扉を押し開けた。
ギギギギギ……という音と共に開かれた先から、フワリと、彼らの鼻腔を強烈にくすぐる『匂い』が漂ってきた。
「……ん? この匂い……甘い果実と、芳醇なキノコ、それに……なんだか『秋の森』みたいな香りがするぞ」
扉の先に広がっていたのは、見渡す限りの『黄金色に輝く樹海』であった。
赤や黄色、そして黄金に色づいた巨大な木々が天高くそびえ立ち、足元にはフカフカの落ち葉が絨毯のように敷き詰められている。木々の枝には、大人の頭ほどもある真っ赤な果実がたわわに実り、根元には色鮮やかで巨大なキノコが群生していた。
「うわぁ……! すごく綺麗な森です! まるで絵本の中の『実りの秋』の世界みたい!」
マリアが目を輝かせ、ルミナも「エルフの森の秋の景色に似ていますが、魔力の濃さが段違いですね……」と感嘆の声を漏らす。
第13階層――『豊穣の黄金樹海』。
「ピィィィッ!(兄貴、すっごく美味しそうな匂いがする魔物が来るよ!)」
上空に飛び立ったクーが、羽ばたきながら念話を送ってくる。
ズシン、ズシン、ズシン……!
地響きと共に、黄金の木々をなぎ倒して現れたのは、体長五メートルを超える巨大な猪の魔物――全身が黄金の剛毛で覆われた『ゴールデン・ボア』の群れだった。
さらにその後方から、両手に抱えきれないほどの巨大な蜂の巣を持ち、口から甘い蜜の匂いを漂わせた体長八メートルの巨大熊――『ハニー・ベア』が二頭、のっしのっしと歩み出てくる。
普通の冒険者であれば、突進力に優れた黄金猪と、圧倒的な膂力を持つ巨大熊の群れを前にすれば、陣形を組んで決死の防衛戦を覚悟するだろう。
しかし。
彼らは『悠久の踏破者』である。海鮮続きで「ガッツリした肉」に飢えていた彼らの目に映ったのは、もはや「強敵」ではなく「極上のメインディッシュ」でしかなかった。
「トウヤの兄貴ィッ!! あの黄金の豚、絶対にヤバいぜ! あの太った腹回り、どんだけ極上の『黄金三枚肉(豚バラ)』が詰まってるか想像しただけで涎が止まらねえ!」
ジンが目を血走らせて叫ぶ。
「うおおおおッ! あの巨大熊の持ってる蜂の巣、濃厚な『ハチミツ』がタプタプに入ってるぞ! 熊の肉も、ハチミツを食って育ってるなら臭みゼロで絶対に美味い!!」
ガレスも『獄炎の竜盾』をバンバンと叩きながら、腹の底から歓喜の咆哮を上げる。
「トウヤさん! 豚肉と熊肉です! 角煮にしましょう、トンカツにしましょう! あのお肉たち、絶対に逃がしません!!」
エリスがヨダレを拭いながら、貴族の令嬢とは思えない獰猛な笑みを浮かべて重剣を構えた。
「ガッハッハ! よし、お前ら! 海鮮の次は極上の『山の幸祭り』だ! 肉を傷つけないように、ハチミツをこぼさないように、完璧に仕留めるぞ!!」
「「「応ッ!!」」」
トウヤの号令と共に、八人(六人と三匹)の完璧すぎる蹂躙が火を噴いた。
「ブギモォォォォォッ!!」
ゴールデン・ボアの群れが、黄金の剛毛を逆立てて猛突進を仕掛けてくる。
「その突進、真正面から受け止めてやる! 【魔力城塞・極】!」
ガレスが巨大な炎の城壁を展開し、黄金猪の群れの突進を完璧にストップさせる。分厚い剛毛が炎に焼かれ、香ばしい匂いが森に広がった。
「ジンさん、エリスさん、今です! 【絶対結界・多重拘束】!」
マリアが猪たちの足元に結界を張り巡らせ、動きを完全に封じ込める。
「ヒャッハー! 関節の隙間から失礼するぜ! 【直感回避】!」
姿を消したジンが、ボアの太い足の腱だけを的確に切断し、機動力を奪う。
「ワォンッ!」
クロの【次元影跳躍】が、猪の死角から急所を穿つ。
「ハニー・ベアのハチミツは私が守ります! 【アブソリュート・ゼロ】!」
ルミナが『星天の魔杖』を振るい、ハニー・ベアが抱えていた巨大な蜂の巣だけを、蜜がこぼれないように一瞬で完全凍結させる。
「隙だらけよ! 【渾身撃】!!」
エリスの重剣が、身動きの取れなくなったハニー・ベアの分厚い首を一刀両断する。
「よし、完璧なアシストだ! いただきます!」
トウヤが音もなく宙を舞い、『幻影の解体短剣』による【空間斬り】を放つ。
次元を切り裂く刃は、ゴールデン・ボアの『極上の黄金豚バラ肉』と『ヒレ肉』、そしてハニー・ベアの『ハチミツ漬けの熊肉』と『凍りついた特大ハチミツの巣』だけを、一滴の血も無駄にすることなくスパンッ! と切り出し、アイテムボックスへと次々に放り込んでいった。
ズズズズズンッ……!
初戦闘、終了。
わずか数十秒の間に、第13階層の強大なモンスターたちは、ただの「極上精肉」へと姿を変え、光の粒となって消滅した。
「よし! 新階層の初陣、パーフェクトだ!」
トウヤがアイテムボックスの容量を確認して満足げに頷く。
「はぁ……はぁ……っ。トウヤの兄貴、今の見たか!? 猪の肉、見事な霜降りが入ってて黄金色に輝いてたぜ!」
「熊さんのお肉も、すごく柔らかそうでした……! はちみつと一緒に煮込んだら、絶対に美味しいです!」
ジンとマリアが、興奮冷めやらぬ様子で語り合う。
しかし、彼らの狩りはまだ終わらない。いや、始まってすらいなかった。
「ピィィッ!(兄貴! あっちの森の奥から、木のお化けみたいなのがシロップを垂らしながら歩いてくるよ!)」
クーの念話に、全員が一斉に振り返る。
そこには、樹皮から黄金色の樹液を滴らせた『メープル・トレント(樹液の樹人)』の群れと、頭に巨大な松茸を生やした『マッシュルーム・ゴーレム』たちが、先ほどの騒ぎを聞きつけてゾロゾロと集まってきていたのだ。
「メープルシロップのトレントに、松茸のゴーレムだと……!?」
トウヤの目が、カッ! と見開かれた。
「おい、お前ら! あの樹液があれば、最高のホットケーキや極上の照り焼きソースが作れるぞ! 松茸はそのまま炭火焼きにしても、お吸い物にしても最強だ!!」
トウヤの悪魔的な(キャンパーとしての)叫びに、仲間たちの理性が完全に吹き飛んだ。
「うおおおおッ!! シロップだ! 甘味だ!!」
「松茸……! 貴族の晩餐会でも滅多にお目にかかれない超高級食材が、あんなに歩いているなんて!!」
「全部狩るぞ! 一匹たりとも逃がすな!!」
「「「おおおおおおおッ!!!」」」
もはや探索でも警戒でもない。
完全にタガが外れた『悠久の踏破者』の八人(六人と三匹)は、初戦闘の余韻に浸る間もなく、そのまま雄叫びを上げて『豊穣の黄金樹海』の奥深くへと突撃していった。
ガレスの炎が森を照らし、エリスの重剣が唸りを上げ、ルミナの氷魔法がシロップを凍らせる。
「ヒャッハー! 松茸収穫祭だぜぇ!」
「ピュイ〜♪(お肉もキノコもいっぱい!)」
未知の階層の恐怖など、彼らの辞書には存在しない。
秋の味覚と極上肉が溢れる第13階層は、彼らにとって過去最大級の「食材乱獲テーマパーク」と化し、黄金の森には一日中、彼らの歓喜の笑い声と魔物たちの断末魔(食材化の音)が響き渡るのであった。




