第485話 極上炭水化物・奪還逆走ツアー(16部構成・その1:豊穣なる黄金麦穂と天然酵母のパンゲア大陸)
第485話 極上炭水化物・奪還逆走ツアー(16部構成・その1:豊穣なる黄金麦穂と天然酵母のパンゲア大陸)
「パンだ! 麺だ! 米だァァァッ! 炭水化物を寄越せェェェッ!!」
移動料亭要塞『星海大宴殿』の甲板から、開拓者たちとVIPルームの権力者たちによる血を吐くような魂の叫びが、暗黒の星海空間に木霊した。
絶対的な「主食(炭水化物)不足」という、料理人と大食漢たちにとっての致命的かつ深刻なエラー。それを解消し、パンパンに膨れ上がった氷室の「肉」や「チーズ」を完璧なフルコースとして消化するため、大宴殿は未知の深層へ向かうルートを完全に放棄し、これまでにスルーしてきた分岐ルートへの『逆走航海』を開始したのである。
『……現在位置、中層と深層の狭間・未踏分岐ルート。前方より、圧倒的な「穀物」と「酵母」の魔力波長を検知。第一の目標地点に到着する』
ブリッジでコンソールを操作するサイラスの声が響き、要塞の正面を覆っていた視覚遮蔽ハッチが重々しい音を立てて開いた。
「おおおおっ……! な、なんという絶景だ!」
神様が窓にへばりつき、感動のあまり後光を激しく点滅させる。
彼らの眼下に広がっていたのは、見渡す限りの黄金色に輝く大海原――否、それは波打つ『超巨大な麦畑』であった。
次なる領域、【豊穣なる黄金麦穂と天然酵母のパンゲア大陸】。
一つの星にも匹敵する広大な大陸全体が、黄金色の麦穂で埋め尽くされている。そして驚くべきことに、その大地自体がまるで「生きている巨大なパン生地」のように、ゆっくりと膨らんでは沈むという、穏やかな呼吸(発酵)を繰り返していた。
空気中には、パン屋の厨房のド真ん中にいるかのような、甘く香ばしく、そして微かな酸味を帯びた『神話級・天然酵母』の香りが濃密に充満している。
「すっげぇ匂いだ……! 空気吸ってるだけでパンの味がするぞ!」
トウヤが【美食神の鑑定眼】を限界まで開き、鼻腔いっぱいに芳醇な空気を吸い込む。
「見ろよあの麦! 一粒一粒がソフトボールくらいあるぞ! しかも、この大陸特有の魔力風で完全に乾燥されていて、刈り取った瞬間に最高の『極上強力粉』になる準備が整ってやがる!」
「トウヤ殿ぉぉッ! ワシはもう我慢できん! あの麦を刈って、早くフカフカの白パンを焼いてくれェェッ!」
エルドリア元皇帝が、ヨダレを撒き散らしながら甲板の柵を乗り越えようとするのを、ケンジが必死に押さえつける。
「慌てるなおっさん! パンを焼くには、まずあの麦を刈り取らなきゃならねぇ! だが、流石は大迷宮の未踏エリアだ。ただで麦を刈らせてくれるほど甘くはねぇみたいだぞ」
トウヤが指差す先、黄金の麦畑の中から、その豊穣を護るための巨大な魔獣たちが次々と姿を現した。
両腕が鋭利な大鎌(コンバインの刃)のようになっている、体長二十メートルの『豊穣の黄金大鎌』。そして、大地(パン生地)そのものから隆起して生まれた、無数の気泡を内包する『巨岩の酵母ゴーレム(イースト・タイタン)』である。
「カッカッカ! 上等だ! 俺たちからパンを取り上げようってんなら、まとめて粉挽きの刑にしてやるぜェッ!」
ガレスが超振動戦斧を肩に担ぎ、凶悪な笑みを浮かべる。
「さぁ野郎ども! 逆走ツアー第一弾、【特大パン生地・強奪作戦】の開幕だ! サイラス、要塞のバキュームを『コンバイン・モード』に切り替えろ! 麦も酵母もバケモノも、一網打尽にして氷室にぶち込むぞォォォッ!!」
「「「ウオォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!」」」
ズゴォォォォォォォォォンッ!!
大宴殿が、猛烈な推進力と共に黄金の麦畑へと突撃を開始する。
「ギシャァァァァッ!」
侵入者を排除すべく、豊穣の黄金大鎌の大群が跳躍し、両腕の鋭利な鎌を振り下ろしてきた。その一撃は、鉄の城壁すらも容易く両断するほどの切れ味を誇る。
「私たちの『主食』を邪魔するなど、万死に値しますわ! 【貴族剣技・神速脱穀】!」
エリスが甲板から舞い上がり、白銀の刃を閃かせる。彼女のレイピアはカマキリの硬質な甲殻の関節だけを正確に貫き、瞬時に解体していく。
「……麦に血が混ざると風味が落ちる。一瞬で刈り取るぞ」
ジンが影から現れ、双短剣の超高速乱舞でカマキリたちを『食材』と『不要な部位』に完璧に切り分けていく。不要な部位は甲板外へ蹴り落とされ、旨味の詰まった部位だけが残される。
「ガッハッハ! 麦刈りなら俺の斧の出番だな! 【剛腕絶技・大嵐の収穫】!!」
ガレスが戦斧を大回転させながら麦畑へとダイブする。
超振動を伴う竜巻のような一撃が、周囲数キロの黄金の麦穂を根元から綺麗に刈り取り、同時に襲い掛かってきた酵母ゴーレムたちを「極上の天然酵母の塊」へと粉砕した。
『刈り取り確認。全周バキューム、コンバイン吸引開始!』
サイラスが操る大宴殿の魔導バキュームシステムが、空中に舞い上がったソフトボール大の麦粒と、粉砕された天然酵母を猛烈な勢いで吸い込んでいく。
吸い込まれた麦は要塞内部のファクトリーラインへ直行し、その場で外殻を弾き飛ばされ、雪のように真っ白で、絹のように滑らかな【神話級・黄金麦の極上強力粉】へと全自動で製粉されて氷室の特設タンクへと雪崩れ込んだ。
「ハッハッハ! すげぇペースだ! 粉も酵母も最高級品だぞ! このまま大陸の麦を根こそぎ刈り尽くす勢いで進めェェッ!」
トウヤが甲板で大笑いしながら、自らも黄金の大剣を振るって麦を刈り取っていく。
「マリアさん、ルミナさん! 刈り取ったそばから、すぐにパン生地の仕込みを始めますわよ!」
「はいっ! 女神の御名において、この極上の粉を清らかな水で練り上げますわ! 【聖女の加水・神聖捏ね機】!」
「精霊たち、最高の温度で発酵をサポートしてちょうだい!」
最前線で凄まじい殺戮(収穫)が行われているすぐ背後、大宴殿の甲板に設置された特大のダイニング・キッチンでは、早くもマリアとルミナによる「超特大パン生地」の仕込みが開始されていた。
製粉されたばかりの熱を持った小麦粉に、空気中から採取した天然酵母、そして塩砂漠で手に入れた『うま味結晶塩』が絶妙なバランスで配合され、マリアの光の魔法によって力強く、かつ優しく練り上げられていく。
「トウヤ君! 生地が、生地が信じられないくらいツヤツヤで、赤ちゃんのほっぺみたいにプルプルになってるよぉ!」
神様が、捏ね上がっていく巨大なパン生地の塊を見て、感涙にむせびながら報告する。
「よし! この大陸の酵母の力なら、発酵は一瞬で終わるはずだ! 今日は前哨戦として、氷室の【熟成マンモス肉】と【特濃チーズ】を限界まで挟み込んだ『超特大・神話級チーズバーガー』の宴会をやるぞォォッ!!」
未知の魔獣を「ただの農作業の障害物」として瞬殺し、大陸規模の麦畑を猛烈な速度で更地へと変えていく開拓者たち。
炭水化物への異常なまでの執念を燃やす彼らの『大消化・逆走ツアー』は、極上のパン生地の香りと共に、最高のスタートを切ったのである。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、こちらの新作「異世界・天下布武 〜魔族を従えた織田信長は、今度こそ本能寺を回避する〜」不定期執筆になりますがよろしく
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