第481話 無重力スパイス群島からの出航と、次なる絶景『絶対零度の熟成氷河』への備え
第481話 無重力スパイス群島からの出航と、次なる絶景『絶対零度の熟成氷河』への備え
無重力空間に散らばる巨大なスパイスの浮遊島を「重力と空間魔術」で強引に一つに繋ぎ合わせ、宇宙規模の『特大キッチンカウンター』へと魔改造してしまった移動料亭要塞『星海大宴殿』。
地に足のついた開拓者たちの前に、もはや空間の理不尽さは存在しなかった。
彼らは数日間にわたり、群島に生息する『白糖の飛竜』や『大香辛のゴーレム』を片っ端から乱獲し、宇宙空間を流れる『星海甘露の滝』を一滴残らず吸い尽くした。
「ふぅ……! 見ろよお前ら。完璧な『お片付け』だぜ!」
出航の朝。大宴殿の甲板から窓の外を見下ろしたトウヤが、満足げに腰に手を当てた。
彼らの眼下に広がっているのは、数日前まで極彩色のスパイスと黄金の滝で彩られていた幻想的な大地――の「成れの果て」である。
香辛料の岩礁は根こそぎ削り取られ、甘露の川は完全に干上がり、魔獣の姿は一匹たりとも見当たらない。ただの茶色く平坦な「巨大な岩の塊」だけが無重力空間にポツンと浮かんでいた。
「ええ、私たちの氷室は今、国宝級の八角、丁子、シナモン、そして極上の粉砂糖とシロップで満たされていますわ。これほど甘美で芳醇な香りに包まれた要塞は、宇宙広しといえどもここだけでしょうね」
エリスが、朝食の食後に淹れられた『極上スパイスとシロップの特製チャイ』を優雅に啜りながら微笑む。
「ゲプッ……最高じゃ。三次元酔いで死にかけた時はどうなるかと思ったが、あの【特大・生ハム猪の極上スパイス照り焼き】と【星海クレーム・ブリュレ】の味は、ワシの帝国の歴史書に金文字で刻むべき美味であった……」
エルドリア元皇帝が、膨れ上がった腹をさすりながら満足げにソファーに沈み込んでいる。
第一フェーズ:次なる領域『絶対零度の星海熟成氷河』
『……皆が満足しているところ悪いが、次のエリアの解析が完了した。気を引き締めてくれ』
作戦会議室のメインコンソールから、サイラスの冷静な声が響き渡った。ホログラムマップが切り替わり、これまでの極彩色の空間から一転、全てが青白く凍りついた「死の世界」が投影される。
「今度は……氷、ですの?」
マリアがホログラムに映る吹雪の映像を見て、身震いするように両腕をさする。
『そうだ。次なる領域――『絶対零度の星海熟成氷河』。外部気温はマイナス273度。熱運動そのものが停止する、文字通りの【絶対零度】の地獄だ。大宴殿の通常装甲のまま突入すれば、一瞬で船体は凍りつき、僅かな衝撃でガラスのように粉々に砕け散るだろう』
「マイナス273度だと!? 冗談じゃねぇ、普通の防寒具や暖房魔導具なんか一瞬で機能停止する温度じゃねぇか!」
ケンジが眼鏡を曇らせて叫ぶ。
「……だが、ただの氷の世界というわけではなさそうだぞ」
ジンがホログラムの数値を指差す。
「この氷河から、異常なまでの『うま味成分』と『魔力密度』が検出されている。トウヤ、これは一体どういうことだ?」
トウヤの【美食神の鑑定眼】が、ホログラムの奥底に隠された「真理」を即座に読み解いた。その瞳に、狂気的な美食ハンターの光がカッと宿る。
「……ハッハッハ! サイラス! お前、ここがただの氷地獄だと思ってるのか!? 違うぜ! ここは宇宙最大の『超特大・熟成庫』だ!!」
「「「熟成庫……!?」」」
トウヤがバンッ! と机を叩く。
「絶対零度に近い超低温と、この特殊な魔力場! これは、食材の細胞を破壊せずに時間を止め、アミノ酸だけを極限まで引き出す【氷温熟成】の究極形態だ! つまり、この氷河に生息するバケモノどもは、何万年という時間をかけて自分自身の肉を最高級の『ドライエイジング・ビーフ』や『極上熟成魚』に仕上げている【歩く熟成肉】ってことだ!!」
「な、なんだとォォォッ!?」
「歩く熟成肉じゃと!? 噛めば噛むほど旨味が溢れ出す、あの幻の肉が氷河を歩き回っておるのか!!」
トウヤの言葉に、アルカディア上皇とエルドリア元皇帝がガタッと椅子から立ち上がり、ヨダレを撒き散らして絶叫した。
「カッカッカ! 生ハムの次はエイジングビーフか! 料理人の考える大迷宮ってのは、どんだけ美味そうなんだよ!」
ガレスも戦斧を肩に担ぎ、牙を剥き出しにして笑う。
第二フェーズ:現代知識が導く【特製・熱々スパイス不凍液】の仕込み
「だがトウヤ殿、いくら熟成肉が美味かろうと、要塞が凍りついて砕けては元も子もないぞ。マリア殿の結界にも限界がある」
ゼノスが腕を組み、現実的な問題を指摘する。
「ああ、分かってる。だからこそ、ここで『前のエリアで獲った食材』が役に立つんだよ! 現代科学と料理の知識を合わせた、最強の【サビ止め】ならぬ【究極の不凍液】を作ってやる!」
トウヤはニヤリと笑い、調理台へと向かった。
「ルミナ、マリア! 氷室から獲れたての『星海甘露』と『極上スパイス(八角・シナモン・丁子・唐辛子成分)』を大量に出してくれ!」
「シロップとスパイス……? 防寒具を作るのではなく、お料理ですの?」
ルミナが首を傾げながらも、大量の甘露と香辛料を空中に浮かべる。
「そうだ! 理科の授業で習っただろ? 【凝固点降下】だ! 水は0度で凍るが、糖分が限界まで溶け込んだシロップは、極低温でも絶対に凍らない『不凍液』になるんだよ!」
トウヤが巨大な鍋にシロップをぶち込み、そこに魔導バーナーで火をかける。
「さらに! そこに身体を芯から燃やす『発熱性スパイス』を限界までブチ込む! これをリルのスライム成分と混ぜ合わせて要塞の外壁に塗りたくれば、絶対に凍らない上に、スパイスの化学反応で【常時発熱し続ける最強のコーティング】が完成するって寸法だ!!」
「プルルンッ!(リルのネバネバ、また役に立つー!)」
トウヤの発案に、サイラスの演算機能が高速で弾き出される。
『……なるほど! 糖度100%の星海甘露による物理的な凝固点降下と、発熱スパイスの魔力燃焼反応のハイブリッド! 理にかなっている……いや、狂っているが完璧な防寒対策だ!』
第三フェーズ:魔改造準備・大宴殿の『ホット・シロップ・コーティング』
方針が決まれば、開拓者たちの行動はマッハであった。
大宴殿の超巨大ファクトリーがフル稼働し、琥珀色のシロップと真っ赤なスパイスが混ざり合った、超高熱の【超・燃焼スパイス&シロップ不凍液】が何万ガロンも錬成されていく。
「よしガレス! 前回と同じ要領で、要塞の外壁にこの熱々のシロップをぶっかけてくれ!」
「任せとけ! 【剛腕絶技・超振動ペンキ塗り】だァッ!」
ガレスの超振動戦斧によって、ドロドロの燃焼シロップが要塞の外壁の隅々にまで完璧に浸透・密着していく。要塞の表面は、まるで出来立ての「巨大な辛口りんご飴」や「スパイス・グレーズド・ドーナツ」のように、ツヤツヤと輝く琥珀色と赤色にコーティングされた。
「ジン! エリス! お前たちの武器にもこの【燃焼スパイス・グレーズ】を焼き付けておけ! 絶対零度の鎧を纏った魔獣でも、この熱々のスパイス刃で斬りつければ、氷の装甲ごとバターのように溶断できるはずだ!」
「……了解した。甘くて辛い匂いのする暗殺剣、悪くない」
「ふふっ、私のレイピアが、まるで高級な焼き菓子のようですわね」
外壁から立ち昇る凄まじい熱気と、周囲に充満する「ホットワイン」や「激辛チャイ」のような甘くスパイシーな香り。
移動料亭要塞『星海大宴殿』は、その全身に極上の【スパイス発熱不凍装甲】を纏い、絶対零度すらも寄せ付けない無敵の姿へと進化を遂げたのである。
第四フェーズ:いざ出航! 究極の熟成肉を求めて
「よし! 要塞の不凍コーティング完了! スラスターの魔導炉にもスパイスを焚べろ! 推進力も熱量も最大だ!!」
トウヤが、甲板の最前線で黄金の大剣を掲げて叫ぶ。
『全機関、異常なし。外壁温度、摂氏100度で安定中。絶対零度環境への突入準備、完了している』
ブリッジのサイラスが力強く頷く。
「ゼノス! クー! 寄せ集めたスパイス大陸の固定(重力アンカー)を解除しろ! 俺たちは次のビュッフェ会場へ向かうぞ!」
「フッ、良かろう。次元の枷を解き放つ」
「キュィィッ! バイバイ、おっきなキッチン!」
ゼノスとクーが魔法を解除すると同時に、大宴殿の全方位スラスターが猛烈な蒼いフレアを噴射した。要塞は、彼らが数日間滞在した「巨大なスパイスの大地」を蹴り飛ばすようにして、暗黒の無重力空間から、その先にある青白く輝く『絶対零度の死の世界』へと猛進を開始する。
「さぁ野郎ども! 究極のスパイスと出汁は揃った! あとは、これに合わせる『極上のメインディッシュ(エイジング肉)』をかっ攫うだけだ! 凍りついた熟成肉どもを、俺たちの熱々要塞で丸ごと炙り出してやるぞォォォッ!!」
「「「オオォォォォォォォォォォォォォッッ!!!!」」」
かつてない極寒の地獄環境を「糖分とスパイスの化学反応」というあまりにも料理人らしい発想でねじ伏せたトウヤたち。
甘くスパイシーな熱気を宇宙空間に撒き散らしながら、移動料亭要塞『星海大宴殿』は、数万年の時を経て完成された『神話級の熟成肉』が眠る氷河の深淵へと、圧倒的な暴食の牙を剥き出して突入していくのであった。
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