第479話 無重力スパイス群島・大蹂躙(無重力収穫船の出航と、三次元の洗礼)
## 第479話 無重力スパイス群島・大蹂躙(無重力収穫船の出航と、三次元の洗礼)
奈落の粘菌回廊を食い破り、開拓者たちがたどり着いた次なる絶景。
それは、上下左右の概念が存在しない暗黒の空間に、極彩色のスパイスの島々が浮かび、琥珀色に輝く【星海甘露】の滝が重力を無視して流れる奇跡の次元――『無重力・星海スパイスの浮遊群島と甘露の銀河』であった。
### 第一フェーズ:要塞魔改造! 『無重力収穫船』の誕生
翌朝。最も巨大なシナモン岩塩の浮遊島の裏側に係留された移動料亭要塞『星海大宴殿』の甲板では、早朝から凄まじい熱量での「魔改造」が行われていた。
「よし、ゼノス! クー! 甲板の重力設定は完璧だな!?」
「フッ、造作もない。この要塞の甲板上『のみ』に、地球と同等の1Gの擬似重力フィールドを定着させた。この不可視の重力圏に飛び込んだ魔獣は、自らの体重を支えきれずに甲板へと叩き落とされる」
「キュィィッ!(バッチリだよー!)」
ゼノスの【絶対空間支配】とクーの【重力制御】の奇跡的な融合により、無重力空間において「甲板だけが下」という異常な物理法則が要塞に付与された。
「サイラス! スラスターの調整はどうだ!」
『全方位魔導スラスター、オンライン。要塞底部のメイン炉に加え、側面の全方位に推進ノズルを増設した。これで大宴殿は、巨大な宇宙船として三次元的な機動が可能だ。ただし、慣性制御には魔力をかなり食うぞ』
ブリッジのサイラスが、ホログラムの姿勢制御パラメーターを調整しながら答える。
「魔力なら昨日のフカヒレ白子鍋で腐るほど余ってる! ジン、エリス、ガレス! 獲物が重力圏外に飛んでいかないように、しっかりシメる準備をしておけよ!」
トウヤの号令と共に、開拓者たちはそれぞれの武器を構え、凶悪な笑みを浮かべた。
「アンカー解除! これより大宴殿は『無重力収穫船』として、スパイスとシロップの海へ出航する! 全機関、微速前進ッ!!」
ズゴォォォォォォンッ!!
全方位スラスターが蒼いフレアを噴き出し、大宴殿がゆっくりと巨大なシナモン岩塩の島から離れ、無限の無重力空間へと滑り出した。
### 第二フェーズ:白糖の飛竜と、重力トラップの猛威
要塞が進み出して数分。
甘露の川を縫うようにして、純白の結晶に覆われた巨大な鳥のような影が、猛烈なスピードで大宴殿へと急降下してきた。
『……敵影確認。全身が純度の高い砂糖の結晶で構成された【白糖の飛竜】の群れだ。数、およそ五十』
「ハッハッハ! 飛んで火に入る夏の虫、いや、飛んで鍋に入る砂糖菓子か! 迎撃だ!」
トウヤが黄金の大剣を抜き放つ。
「ギシャァァァァァッ!!」
白糖の飛竜たちが、無重力を活かした変幻自在の軌道で要塞の甲板へと襲いかかる。彼らは鋭い結晶の爪で要塞を切り裂こうとした――その瞬間だった。
ズンッ……!!
「ギ……ギャァァッ!?」
飛竜たちが要塞の甲板上空10メートルに設定された『擬似重力フィールド』に突入した途端、彼らの身体に突然「地球の重力」がのしかかったのだ。
無重力下での飛翔に特化した彼らの翼は、突如発生した自重を支えきれず、まるで撃ち落とされたハエのように、次々と大宴殿の甲板へとドスドスと墜落していく。
「カッカッカ! 重力ってのは恐ろしいもんだな! さぁ、お片付けの時間だぜェッ!」
墜落して身動きが取れない飛竜たちに、ガレスが歓喜の咆哮と共に襲いかかる。
「【剛腕絶技・超振動・粉砂糖砕き】ォォッ!!」
超振動戦斧の峰打ちが飛竜の背中を叩くと、飛竜を構成していた純白の装甲が、一瞬にして極上の粉砂糖へと分解され、甲板にサラサラと降り積もっていく。
「私の剣技も、重力圏内ならいつも通りですわ! 【貴族剣技・三枚下ろし】!」
エリスが、砂糖の装甲を失って露出した飛竜の最高級の赤身肉を、踊るようにスライスしていく。
一切の苦労なく、敵の無重力機動を無効化し、甲板を「まな板」にして解体する完璧なコンビネーションであった。
### 第三フェーズ:宇宙空間の洗礼と、三次元の翻弄
しかし、大宴殿の快進撃は、次第にこの異常環境特有の「罠」に阻まれることとなる。
出航から三日が経過した頃、彼らは無重力空間特有の現象に完全に翻弄され始めていた。
「トウヤ! 獲物の『大香辛のゴーレム』の腕を切り落としたが、反動で腕が上(宇宙の彼方)へ飛んでいくぞ!」
ジンが甲板から空の彼方へ飛んでいく巨大な八角の塊を指差して叫ぶ。
「ああっ! バカヤロウ、それ一個で国が買えるレベルのスパイスだぞ! クー、引き戻せ!」
「キュィィッ! 重力キャッチ!!」
クーが慌てて空へ飛んでいき、間一髪で八角の塊を重力魔法で捕獲して甲板へ引きずり下ろす。
敵を倒した際の衝撃や、切り飛ばした部位が、少しでも擬似重力圏外に出ると、慣性の法則に従って永遠に彼方へすっ飛んでいってしまうのだ。
さらに、彼らの「獲物」は固形物だけではない。
「サイラス! 右舷前方に見える『星海甘露の滝』をバキュームで吸い上げろ!」
『了解した。吸引アーム展開、出力最大――むっ!?』
ズゴォォォォォォッ!!
大宴殿のバキュームが空中に浮かぶ琥珀色のシロップの塊を強烈に吸い込んだ瞬間、その「吸い込む力の反作用」がモロに要塞の船体へと伝わった。
ギギギギギッ……!!
「うおわぁぁぁぁっ!?」
「きゃぁぁぁっ!?」
無重力空間に浮いている大宴殿そのものが、掃除機の吸引の反動でクルクルと横回転を始めてしまったのだ。
甲板にいた面々は擬似重力のおかげで足元にへばりついてはいたものの、景色が物凄いスピードで回転し、激しい三次元酔いに見舞われた。
「サ、サイラス! スラスターで逆噴射して回転を止めろぉぉぉっ!!」
トウヤが顔面を青白くしながらコンソールに叫ぶ。
『わ、わかっている! だが、シロップの粘度が高すぎて、スラスターの推力とバランスを取るのが至難の業だ……!』
サイラスのキーボードを叩く手が、かつてないほど焦燥に満ちていた。
さらに悪いことに、回転する大宴殿に向かって、四方八方(上下左右)から無数の白糖の飛竜たちが襲撃を仕掛けてくる。
平面の戦闘に慣れきった彼らにとって、「真下(要塞の底)」や「真横」から飛びかかってくる敵の軌道は、あまりにも予測困難であった。
「くそっ! ガレス、思い切り斧を振るな! 自分もコマみたいに回ってるぞ!」
「ガ、ガッハッハ……目が回る……! 地面に足がついてないと、力が入らねぇ……」
ガレスが、うっかり重力圏のギリギリで斧をフルスイングした反動で、空中で錐揉み回転しながら呻き声を上げる。
### 第四フェーズ:疲労困憊のVIPたちと、トウヤの決断
出航から四日目の夜(外は常に暗闇だが)。
どうにかシロップの回収とスパイスの乱獲を続けていたものの、作戦会議室の空気はかつてなくどんよりと重かった。
氷室には「純白の極上粉砂糖」や「国宝級の八角や丁子」、そして「琥珀色の甘露シロップ」が着実に溜まってはいた。しかし、それ以上にメンバーの「三次元酔い」と「空間把握のストレス」が限界に達していた。
『……トウヤ君。もう無理だ。窓の外の景色が常に上下逆さまになったり回ったりで、神格がゲロで崩壊しそうだよぉ……』
VIPルームから、神様が涙声で通信を入れてくる。
「ワシもだ……。帝国ではいかなる荒馬も乗りこなしたが、要塞ごと回転する遊園地の乗り物のような空間には耐えられん……」
エルドリア元皇帝も、完全に船酔い状態でダウンしていた。ケンジに至っては、三日連続で胃薬ならぬ「酔い止めポーション」をがぶ飲みし、顔面が緑色になっている。
「……ハァ。こりゃダメだな。食材の質は文句なしだが、収穫効率が悪すぎる上に、みんなの胃袋が休まらねぇ」
トウヤが、重い頭を振りながら黄金の大剣を机に置いた。
「無重力ってのは、地球の宇宙飛行士が何年も訓練してようやく適応する環境だ。魔法で強引に解決しようとしても、反作用や死角の多さに脳が追いついてねぇんだよ」
「では、どうしますの? このままでは、群島の中心にあるという『特大のスパイス結晶』までたどり着けませんわよ」
エリスが、青白い顔でレモン水をすする。
トウヤの目が、再びあの極悪な料理人の光を取り戻した。
「……簡単なことだ。俺たちが宇宙空間(無重力)に翻弄されてるなら、翻弄されない環境を作ればいい」
トウヤがホログラムマップの『星海甘露の滝』と『巨大なスパイスの浮遊島』を指差す。
「無重力を楽しむのはここまでだ。明日の朝から、このクソみたいにフワフワした宇宙空間に、俺たちの手で『大地(重力)』を創り出す! このエリア全体を、丸ごと俺たちの【特大キッチンカウンター】に魔改造してやるぞ!!」
無重力という絶対的な環境の壁にぶち当たった開拓者たち。
しかし、トウヤの辞書に「撤退」という文字はない。三次元の洗礼を受け、吐き気を催しながらも、彼らは次なる理不尽な「環境魔改造プラン」へとその狂気を向けるのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、こちらの新作「異世界・天下布武 〜魔族を従えた織田信長は、今度こそ本能寺を回避する〜」不定期執筆になりますがよろしく
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