第457話 三ツ星のシャッフル・ディバイド(9部構成・その6:貴腐ワインの水晶城と、優雅なる芳醇王の完全シメ)
第457話 三ツ星のシャッフル・ディバイド(9部構成・その6:貴腐ワインの水晶城と、優雅なる芳醇王の完全シメ)
極上のエイジング・ビーフと天然ブルーチーズを背負う『星海紫晶の樽牛』を、一切のストレスを与えぬ「無音睡眠シメ」で完璧に収穫した【チームB:エレガント・暗殺チーム】。
魔王ゼノスの操る漆黒の転移球は、紫水晶の森の最深部――先ほどから漂い続けている、息を呑むほどに甘く、深く、そして脳髄を直接とろけさせるような「究極の熟成香」の源流へと向かっていた。
「……匂いが、どんどん重厚になっていきますわ。これはもはや、ただの果実やチーズの香りではありませんの」
エリスが白銀のレイピアの柄にそっと手を添え、陶然とした表情で呟く。
「何百年、いえ、何千年という途方もない時間をかけて、限られた環境下でしか奇跡的に発生しない、至高のデザートワイン……『貴腐ワイン』の香りに極めて近いですわ!」
「キュィィィィッ!(すっごく甘くて、なんだかフワフワする匂いー!)」
クーが玉座の背もたれで、少し千鳥足ならぬ「千鳥羽ばたき」になりながら鳴いた。
「クー、酔っているのか? 無理もない。この空気中には、すでに高濃度のアルコール魔力が霧散している」
ジンが影から姿を現し、鋭い視線で前方の暗闇を睨みつける。
「フッ、森そのものが熟成された巨大な酒樽というわけか。下戸には猛毒だろうが、我ら魔界の王族にとっては極上のアロマに過ぎん」
ゼノスが指先を鳴らすと、転移球の内部に薄い【浄化と解毒の空間フィルター】が展開され、クーの千鳥羽ばたきもピタリと収まった。
そして、転移球が紫水晶の巨大なアーチを潜り抜けた瞬間。
彼らの眼前に、この『紫水晶の森』の生態系の頂点であり、熟成と酸味の完全なる終着点が、その圧倒的な威容と芳醇さを現した。
第一フェーズ:紫水晶の蜜城と『星海紫晶の貴腐王蜂』
「まぁ……! なんて美しい、そして美味しそうな城でしょう……!」
エリスが両手を胸の前で組み、感嘆の吐息を漏らす。
そこにあったのは、巨大な紫水晶をくり抜いて作られた「超巨大な蜂の巣」。
しかし、それはただの巣ではなかった。六角形の水晶のハニカム構造の一つ一つに、黄金色と深い紫色が入り混じった、トロットロの『極上貴腐ワイン蜜』が溢れんばかりに詰め込まれているのだ。
その蜜が放つ香りは、まさに神々の宴にのみ許された至高の甘露。
そして、その巨大な蜜城の玉座(最上部)に鎮座していたのは、体長十メートルを超える、宝石のように煌びやかな甲殻を持つ一匹の女王蜂。
**『星海紫晶の貴腐王蜂』**である。
『ビィィィィィィィィィィィッ……!!』
女王蜂が、侵入者であるエリスたちに気づき、薄紫色の美しい翅を震わせた。
その瞬間、翅から微細な「紫の鱗粉」が舞い散り、周囲の空間に強烈なアルコール魔力と、粘り気のある甘い香りが爆発的に充満する。
「……なるほど。あの女王蜂自身が、何千年もの間、極上の貴腐ワイン蜜を吸い続け、自身の体内でさらに発酵させている『生きた最高級ヴィンテージ・ボトル』というわけか」
ジンの瞳が、暗殺者の冷徹さと美食家の執念でギラリと光る。
「カッカッカ! あの蜜をたっぷり吸い込んだ女王蜂の肉は、極上の甘みと酒の風味が染み込んだ『究極のコンフィ(低温オイル煮)』のような柔らかさになっているはずだ! トウヤ殿が泣いて喜ぶぞ!」
ゼノスがワイングラスを高々と掲げ、高笑いする。
「ですが皆様。あの女王蜂、ただの蜂ではありませんわ」
エリスがスッと目を細め、白銀のレイピアを優雅に正眼に構えた。
「彼女の放つ鱗粉の風……触れれば、どんな強靭な魔獣であっても一瞬で『泥酔状態』に陥り、身動き一つとれずに彼女の毒針の餌食になる。まさに、芳醇なる死の舞踏ですの」
『ビビィィィィィィッ!!!』
女王蜂が空中に飛び立ち、エリスたちへ向けて、濃密な貴腐ワインの鱗粉を纏った『酩酊の突風』を放ってきた。
第二フェーズ:淑女の酔拳と、重力檻のワルツ
「クー! 蜜をこぼさないように、城全体を重力で固定してくださいませ!」
「キュィィッ! 【絶対重力固定】!」
クーの魔法が発動し、巨大な水晶の巣とそこに詰まった極上の貴腐ワイン蜜が、逆さにしても一滴もこぼれないように空間にガッチリとロックされる。
「さて、私は少し……酔わせていただきますわね」
エリスが、ゼノスの転移球から広間へとふわりと舞い降りた。
ゼノスの浄化フィルターから自ら外に出た彼女の全身に、女王蜂の放つ高濃度のアルコール鱗粉が直接降り注ぐ。
普通の冒険者であれば、一呼吸で急性アルコール中毒と幻覚に陥り、その場に倒れ伏すほどの猛毒の酔い。
しかし、エリスの頬がほんのりと桜色に染まるだけで、彼女の足取りは全く乱れることはなかった。
「ふふっ……素晴らしいヴィンテージの香り。ですが、没落したとはいえ私も元・公爵令嬢。晩餐会での毒見や、強いお酒のお付き合いなど、淑女の基本的な教養ですのよ」
エリスは微かに微笑みながら、千鳥足のようでいて、実は1ミクロンの無駄もない『変幻自在のステップ(酔拳ならぬ酔令嬢の舞)』で、女王蜂の放つ鋭い毒針の連撃を、まるで踊るようにヒラリ、ヒラリと躱していく。
『ギギィッ!?』
自らの最強の武器である「酩酊の鱗粉」が全く効かず、それどころか優雅にステップを踏むエリスに、女王蜂が苛立ちの声を上げる。
「ジンさん! 彼女の意識が私に向いている今ですわ!」
「……了解した。極上のヴィンテージ、コルクは俺が抜こう」
第三フェーズ:無音の抜栓と、極上蜜の収穫
エリスの優雅な回避の舞に完全に翻弄され、女王蜂が最大の隙(苛立ちによる大きな羽ばたき)を見せたその刹那。
女王蜂の真上の空間が「ポッ」と僅かに歪み、そこから逆落としに、影そのものと化したジンが音もなく降臨した。
彼の両手には、ゼノスの空間魔力を薄く纏わせた二柄の短剣。
「……【暗殺奥義・空間抜栓】」
シュパンッ。
ジンの短剣が、女王蜂の分厚い甲殻の隙間――首と胴体を繋ぐ、極上の蜜が最も詰まっている神経節のド真ん中を、ワインのコルクを抜くかのように完璧な回転を伴って貫き、そして引き抜いた。
『……ッ……?』
女王蜂の羽ばたきが、ピタリと止まった。
激痛も、死の恐怖すらも与えない、神経伝達の完全なる遮断。
彼女の体内に詰まった「究極の貴腐ワイン肉」は、一切の筋肉の硬直を起こすことなく、最高級の柔らかさと鮮度を保ったまま、ふわりと脱力した。
「クー!」
「キュィィッ!」
クーの【重力緩和】が即座に発動し、脱力して落下する十メートル級の女王蜂の巨体を、空気のクッションで優しく受け止める。衝撃ゼロ。体内から一滴の蜜(肉汁)も漏れることはない。
「……処理完了。これ以上の熟成(時間)は必要ない。最高の飲み頃だ」
ジンが短剣を収め、エリスの隣へと音もなく着地する。
「お見事ですわ、ジンさん。これで、この紫水晶の森の『一番美味しいところ』は、すべて私たちのものですわね!」
エリスが、ほんのりと赤い頬のまま、嬉しそうに微笑んだ。
『……こちらサイラス。大宴殿ブリッジだ。モニターのアルコール濃度計が振り切れているが、そちらのチームは無事か?』
通信機から、少し呆れたような機神の声が響く。
「フッ、案ずるなサイラス殿。この程度の酒の気、我らには食前酒の香りに過ぎん。それより、最高の『おつまみ』と『デザートワイン』が手に入ったぞ。ファクトリーの回収アームをよこせ」
ゼノスが転移球を女王蜂と蜜城の近くへと寄せる。
空間が開き、大宴殿から伸びてきた無数の超伝導バキュームアームが、巨大な『貴腐王蜂の極上コンフィ肉』と、巣にたっぷりと詰まった『紫晶の貴腐ワイン蜜』を、一滴の無駄もなく、シュゴォォォォッ!と丁寧に吸い込み、氷室の専用ストレージへと格納していった。
チームBの凱歌と、次なる灼熱へのバトン
数分後。
紫水晶の森の最深部には、蜜を抜き取られた空っぽのクリスタルの巣だけが残り、完全なる静寂――「お片付け完了」の空気が漂っていた。
「ふぅ……。極上の酸味と熟成の探索、完璧な形で終わりましたわね」
エリスがレイピアを納め、優雅な礼をする。
「……ああ。相手に恐怖も苦痛も与えない、まさにエレガントな狩りだった」
ジンも静かに頷く。
『左ルートのチームCからも、先ほど「極寒エリアの物理粉砕平定完了」の報告が入った。これで、右の紫水晶の森と、左の青炎の極寒地帯は、我々の胃袋へ完全に収まったことになる』
サイラスが、両チームの完璧な戦果に感嘆の声を漏らす。
「カッカッカ! さすがはトウヤ殿の選んだ仲間たちだ。だが、まだ『メインディッシュ』が残っているだろう?」
ゼノスがワイングラスを揺らしながら、ホログラムマップの「中央」――未だ激しいエネルギー反応を放ち続ける超巨大火山脈を指差した。
『ああ。トウヤ殿とマリア殿を乗せた要塞本体(チームA)は現在、火山脈のド真ん中、マグマの源流へと突入している。……とんでもない熱量と、規格外の「超火力バケモノ」の反応を検知しているぞ』
「ふふっ、トウヤさんのことですから、きっと最高に熱々で激辛なご馳走を、大剣で豪快にお料理している真っ最中でしょうね!」
エリスが楽しそうに笑う。
「よし、我々も早急に要塞へ帰還し、トウヤ殿たちの『超火力ド真ん中ルート』の合流(ディナーの仕上げ)に向かうとしよう!」
右の熟成と酸味の『紫水晶の森』、完全平定。
左の異常環境と冷気の『青炎の極寒地帯』、完全平定。
三ツ星を穿つ『シャッフル・ディバイド作戦』は、残すところただ一つ。
最強の遊撃料理人トウヤと、限界突破の聖女マリア、そして大宴殿本体が真正面から突っ込んだ、すべてを焼き尽くす【チームA:中央・超巨大火山脈ルート】の、狂乱と灼熱のフィナーレへと舞台を移すのであった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、こちらの新作「異世界・天下布武 〜魔族を従えた織田信長は、今度こそ本能寺を回避する〜」不定期執筆になりますがよろしく
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