第438話 【水生平原・上下両面乱獲ライン】その3:深淵の聖光ドームと、湖底に眠る七色大蛤の特濃スープ
第438話 【水生平原・上下両面乱獲ライン】その3:深淵の聖光ドームと、湖底に眠る七色大蛤の特濃スープ
ガレスやファルコンたちが水面を巨大なトロール漁船さながらに爆走し、大空を舞う極上鴨や水面の巨大蓴菜を全自動で水揚げしていた、まさにその真下。
ザバァァァァァァァンッ!!!という豪快な水音と共に、広大な水生平原(巨大湖)のクリスタルブルーの水面へとダイブしたトウヤ、エリス、ジン、ゼノス、ルミナ、マリアの「水中・深淵突入部隊」は、信じられないほどの快適さの中で、光の届かない湖の深淵へと急速潜行を続けていた。
普通であれば、水深数百メートルを超えた時点で、数十気圧という圧倒的な水圧が肉体を圧潰し、冷水が体温を奪い、暗黒が視界を奪う絶望の領域。
しかし、彼らを包み込む「水中移動環境」は、神界のいかなる潜水艇よりも贅沢で、安全極まりないものであった。
「ふぅ……! 毎回思うが、ゼノスとルミナのこの合わせ技はマジでチートだな。水の中に入ってる感覚が1ミリもしねぇぜ」
トウヤが腕を組み、足元の「透明な床(空間の壁)」を見下ろしてニヤリと笑う。
彼らの周囲を球体状に包み込んでいるのは、魔王ゼノスが展開する漆黒の空間結界【絶対隔離・深海障壁】。数万トンの水圧を完全に外側でシャットアウトし、内部の気圧を地上と全く同じ「1気圧」に完全固定している。
さらにその内部には、ルミナが使使する風の精霊たちが、常に新鮮で適度に湿度の保たれた極上の空気を循環させる【精霊の息吹ドーム】を満たしていた。
「ふふっ、お褒めに預かり光栄ですわ、トウヤさん。風の精霊たちも、湖の冷たい水に触れることなく、ドームの中でピクニック気分で楽しんでいますの」
ルミナが星屑の杖を胸に抱き、楽しげにステップを踏む。彼女のドレスの裾は、一滴の水に濡れることもなく、ふんわりと空気の波に靡いていた。
「当然だ。魔王の空間結界は、世界のあらゆる不条理(水圧)から我らの美学を守るためにある。……それにしてもマリア殿、そのサーチライトは少々眩しすぎないか?」
ゼノスが真紅のマントで目を覆うようにしながら、苦笑交じりに隣を見た。
「何を仰いますかゼノスさん! 湖底の極上食材を見落とさないためには、これくらいの光量は最低限必要不可欠ですわ! 女神の御名において、深淵を真昼の如く照らし出しなさい! 【聖女の極大サーチライト(ホーリー・フラッドライト)】!!」
マリアが掲げた白神の杖の先から、数百万ルーメンに達する純白の聖なる光の奔流が、極太のレーザービームのように暗黒の深海へと放射されていた。
前夜に平らげた『大砂漠鉄蟹のカニ雑炊』による莫大な魔力バフが全身で核融合を起こしているマリアは、一切の魔力切れを起こすことなく、まるで移動する太陽の如く暗黒の湖底を隅々まで白日の下に晒し出していた。
「……標的、視認。水深二千メートル、湖底の『地脈の吹き出し口』に、巨大な熱源を感知」
結界の影に溶け込んでいたジンが、二柄の短剣を逆手に構え直し、冷徹な瞳で真下を指差した。
エリスも白銀のレイピアの柄に手をかけ、美食家の笑みを浮かべる。
「まぁ……! 暗い水の底に、まるで虹色の絨毯を敷き詰めたような、美しい輝きが見えますわ。トウヤさん、あれが次のメインディッシュ(獲物)ですわね?」
「ああ! 待ちに待った、湖底の『貝殻グルメ』のお出ましだぜ!!」
湖底の楽園:『星海真珠の殻閉じ大蛤』の群生地
マリアの聖光に照らされ、彼らが静度を保ったまま着底した湖底。そこは、地上の砂漠とは完全に隔絶された、クリスタルのサンゴ礁と、発光する水生苔が広がる幻想的な「深海庭園」であった。
そして、地下の水脈から絶え間なくミネラルと熱源が湧き出る「地脈の吹き出し口」の周囲に、一つが馬車、あるいは小規模な家屋ほどもある、巨大な二枚貝の群れがビッシリと固まっていた。
その殻は、何万年もの間、深海の超高圧で圧縮された結晶石で構成されており、太陽の光(マリアの聖光)を反射して、ピンク、エメラルド、パープルといった、目も眩むような「七色の真珠光沢」を放っている。
ターゲットである、**『星海真珠の殻閉じ大蛤』**である。
「トウヤ、あの巨大蛤……殻が岩より硬そうだ。どうやって料理するんだ?」
結界の中から、ルミナが興味津々で覗き込む。
「ハッハッハ! 見た目に騙されるなルミナ! あの頑丈な七色の殻の中には、深海の冷水とミネラルを極限まで濃縮した、宇宙一濃厚な『極上貝出汁』が、一滴の濁りもなくタプタプに溜まってるんだ!」
トウヤの【鑑定】の神眼が、大蛤の内部の構造を完璧に透過していた。
「さらに、肉厚の身のど真ん中には、食べられる『黄金の真珠』が抱えられている。食感はプチプチ、味は濃厚なミルクのようで、あの貝出汁でサッと煮込んで『究極の潮汁』にするのが大正解の食材だ!」
「貝出汁の潮汁に、黄金の真珠……! 想像しただけで、お腹の虫がオーケストラのように鳴り響きそうですわ!」
マリアがヨダレのミストを吹き出しながら杖を構える。
『ギシャァァァァァッ!!』
突如として、マリアの聖光とトウヤたちの殺気を感知した大蛤の群れが一斉に激しく殻を開閉させ、地底湖の水を吸い込んだ。
次の瞬間、彼らの七色の殻の隙間から、鋼鉄をも容易に両断する超高圧の『ハイドロ・ウォーター・カッター』の嵐が、全方位に向けて猛烈な勢いで射出された。湖底の水を鋭い刃に変えた、絶対防御の迎撃システム。
「フッ、魔王の絶対空間の前で、ただの水鉄砲が通用すると思うな」
ゼノスが杖を軽く一閃する。
大蛤たちが放った無数のハイドロ・カッターは、彼らの結界に触れた瞬間、空間の歪みによって100%完全に明後日の方角へと受け流され、湖底の岩盤を虚しく削るだけに終わった。
「足場も防御も完璧だ! スピード勝負だぞ、エリス、ジン! スープを一滴もこぼさずに、中身だけを綺麗に『水揚げ』するぞ!」
「「了解(……承知いたしましたわ)!!」」
異常なる力の差:無音神経締めと神速シェル・パージ
「……影渡り、発動。水の中の暗殺は、空気中よりもさらに容易」
ジンが結界の縁から、大蛤たちが吐き出した「カッターの軌跡の影」へと向かって、黒い閃光となって跳躍した。
【暗殺奥義・深海無音貝締め(アビス・サイレント・スパイク)】。
ジンは、殻を大きく開いて次のブレスを溜め込もうとしていた先頭の大蛤の内部へと、一瞬にして潜り込んだ。
彼の狙いは、貝の生命線であり、殻を固く閉じるための巨大な筋肉――「閉殻筋(貝柱)」の神経節である。
ジンの薄い短剣が、水圧を切り裂いて大蛤の貝柱の芯へと突き立てられた。
チッ。という微かな気泡の弾ける音。
痛みも、恐怖もない。
大蛤は、自分が侵入されたことすら気付かないまま、殻を開いた脱力状態のままで完全に脳と神経の活動を停止させられた。これにより、肉が恐怖で硬直(ドリップの放出)を起こすのを完璧に防ぐ、鮮度100%の「完全無力化」が完了した。
「ジンの下処理、相変わらず完璧ですわ! 続いて私の令嬢の刃、お見せいたします!」
ジンのシメに合わせ、エリスが【瞬動】で水中ドームから飛び出した。彼女の周囲には、ゼノスが急遽延伸させた「パーソナル空間結界」が纏い付いているため、水の中でも彼女の動きはマッハの速度を維持している。
「殻と身の境界線、そして極上のスープの部屋を美しく切り離しますわ! 【貴族剣技・七色貝殻パージ(パール・シェル・ルミナス)】!!」
シュバババババババッ!!!
エリスの白銀のレイピアが、気絶した大蛤の内部で目にも留まらぬ速度で乱舞した。
彼女の放った真空の刃は、巨大な「蛤の身」と、殻の底に溜まっていた「極上貝出汁スープ」、そして中心の「黄金真珠」を、七色の硬い殻から1ミクロンの狂いもなく綺麗に『剥離』させた。
「仕上げは俺の【解体固定】だ! サイラス、パイプを回せ!」
トウヤが飛び出し、黄金の大剣を横に一閃する。
【絶技・神星流体パッキング】!!
トウヤが放った黄金の魔力が、エリスが剥離させた巨大な蛤の身と、数千リットルの極上貝出汁スープ、そして黄金真珠の塊を、空中で巨大な「真空の魔力パック(球体)」として完璧に包み込み、空間固定を施した。これにより、水中の雑菌や冷水が極上スープに混ざるのを100%防ぐ、完璧なロジスティクスが成立する。
ズゴォォォォォォォォォォォッッ!!!!!
天井の闇を突き破って、大宴殿のサイラスが延伸させた『水中バキュームパイプ』が湖底へとダイレクトにドッキングし、トウヤが創り出した「極上蛤の特大パック」を、凄まじい吸引力で次々と吸い込んでいった。
『こちらブリッジのサイラス! 湖底からの第一波、検品完了した! 殻閉じ大蛤の出汁スープ、糖度とアミノ酸濃度が過去のあらゆる貝類を凌駕している! 黄金真珠も完璧なタピオカ状の鮮度を維持! 氷室の「特濃スープ専用ストレージ」へ格納する!』
「ハッハッハ! 幸先が良いぜ! この調子で、湖底の蛤を根こそぎ『お掃除』してやるぞォォッ!」
トウヤ、エリス、ジンの三位一体の乱獲ラインが、地脈の吹き出し口を猛烈なスピードで移動しながら、家屋サイズの大蛤たちを一瞬にして「パック詰め食材」へと変え、大宴殿の氷室へと滝のように送り込んでいった。
深淵の制圧、そして次なる『ヌシ』の気配
数十分後。
あれほど無数に群生し、ハイドロ・カッターの嵐を撒き散らしていた『星海真珠の殻閉じ大蛤』の群れは、一殻の例外もなくすべて中身を綺麗に吸い尽くされ、湖底には光り輝く「空っぽの美しい七色の貝殻」だけが、お片付け(整列)された状態で残されていた。
「ふぅ……! 素晴らしい手際でしたわね、皆様!」
マリアがサーチライトの光を少し弱め、満足げに汗(ドーム内の空気で乾いたもの)を拭う。
「……ああ。貝柱の神経締め、これほど巨大な貝で試したのは初めてだったが、最高のドリップ(旨味)を閉じ込められた」
ジンも短剣を鞘に納め、微かに口角を上げる。
彼らの目の前の水中ドーム内には、トウヤが「つまみ食い兼・検品用」としてあえてパイプに送らずに残しておいた、数個の『黄金真珠』が、クリスタルの皿の上でキラキラと輝いていた。
マリアが白神の杖の微熱でサッと蛤の出汁と一緒に温めた、宇宙一新鮮な『深海真珠のミニ潮汁』である。
「さぁ、冷めないうちに(結界内なので熱々だが)味見をしましょう!」
トウヤたちが、その黄金の真珠を一口ずつ口に運んだ。
プチッ。ジュワァァァァッ……。
「「「…………っっっ!!!!」」」
その瞬間、突入部隊全員の脳髄を、言葉を失うほどの「海のミルクの衝撃」が突き抜けた。
噛んだ瞬間、黄金真珠の表面が心地よくプチッと弾け、中から何万年もの間深海で熟成された、超濃厚かつクリーミーな「蛤の旨味ミルク」が、大洪水の如く口の中に溢れ出してきたのだ。
塩気は極光岩塩のようにまろやかで、後味はどこまでも気高く、高雅。
「おいしぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」
マリアとルミナがたまらず抱き合って絶叫する。
「これは貝の次元を超えていますわ! スープの一滴一滴に、この巨大湖のすべての栄養が溶け込んでいるようです!」
「フフフ……見事だ。昨夜のカニ雑炊も凄まじかったが、この大蛤のスープは、我らの胃袋に新たなる『宇宙(別腹)』を強制的に創り出すほどの悪魔的な美味さだな」
ゼノスもワイングラスに入れた潮汁を揺らし、至福の表情で目を細めた。
しかし、彼らが究極のつまみ食いに酔いしれていた、その時であった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッッ!!!!!
彼らが蛤を乱獲したことにより、地脈の魔力バランスが変化したためか。
オアシスのさらに奥深く、マリアのサーチライトすら届かない湖底の最深部の「暗黒の亀裂(海溝)」から、先ほどの覇王海老や黄金アマゴを遥かに凌駕する、神話級の凄まじい地鳴りと、空間全体を凍りつかせるほどの強烈な『捕食者のプレッシャー』が、激しい津波を伴って押し寄せてきた。
水上の全自動トロール漁船(大宴殿)の快進撃が続く中。
水中突入部隊の眼の前、光の届かない深淵の奥から、この『水生平原』の真の支配者たる「規格外のヌシ」が、いよいよその巨大な牙を剥き出しにして、暗闇の中から姿を現そうとしていたのである。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、こちらの新作「異世界・天下布武 〜魔族を従えた織田信長は、今度こそ本能寺を回避する〜」不定期執筆になりますがよろしく
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