第437話 【水生平原・上下両面乱獲ライン】その2:銀翼の飛魚弾道と、翡翠の極上ジュンサイ漁
第437話 【水生平原・上下両面乱獲ライン】その2:銀翼の飛魚弾道と、翡翠の極上ジュンサイ漁
トウヤたち『水中・深淵突入部隊』が、未知なる巨大魚を求めて広大なクリスタルの湖の底へと姿を消した頃。
湖面を時速数百キロで爆走する移動料亭要塞『星海大宴殿』は、サイラスの完璧なインフラ制御によって、全自動の「超特大トロール漁船兼・水上加工工場」としての真価を遺憾なく発揮していた。
『第一甲板コンベア、極上鴨のロース肉および特大フォアグラのパッキング完了! 第二コンベア、巨大蓮根の極厚スライス加工、滞りなく進行中!』
ブリッジのメインコンソールで、サイラスが複数のホログラムモニターを同時処理しながら、冷徹かつ熱狂的な笑みを浮かべる。
「カッカッカ! サイラス殿の加工ラインは相変わらず芸術的だぜ! だが、甲板の上が少し寂しくなってきたな! 次の獲物はまだか、ファルコン!」
大宴殿の最先端デッキで戦斧を肩に担ぐガレスが、上空を旋回するペガサス隊へ向けて叫ぶ。
「任せとけ! ちょうど湖面の奥から、とんでもないスピードでこっちに向かってくる大群がいるぜ! ……気をつけろガレス! 水の中のヤツらだが、ただの魚じゃねぇ!!」
天馬ハヤテの背から、ファルコンが風の望遠鏡で前方を睨みつける。
直後、要塞の進行方向およそ数キロ先の湖面が、まるで海底火山が爆発したかのように広範囲で白く弾けた。
第一フェーズ:水面と空を繋ぐ弾道、『星海銀翼の飛魚』の乱舞
ザパァァァァァァァァァァンッッ!!!!
クリスタルの湖水から大空へ向かって、銀色の巨大なミサイルのような影が、数百、数千という単位で一斉に飛び出してきた。
全長十メートル。流線型の青銀色のボディに、ガラス細工のように透き通った巨大な「銀の翼(胸ビレ)」を持つ水空両棲の魔獣――**『星海銀翼の飛翔飛魚(アストラル・シルバー・フライングフィッシュ)』**の大群である。
「うおおおっ!! 飛魚じゃねぇか! しかもデカい!!」
ガレスが目を剥く。
「ワォォォォンッ!!(ガレス、あいつら空を飛ぶために全身の筋肉がバキバキに引き締まってるぞ! 絶対に美味い出汁が出る匂いがする!!)」
クロが鼻をヒクつかせ、ヨダレを撒き散らしながら吠えた。
『クロの言う通りだ!』とサイラスの通信が響く。
『飛魚は運動量が極めて高く、その身は脂肪分が少なく極上の旨味が凝縮されている! 乾燥させて焼けば、最高級の「アゴ出汁」になるぞ! さらに雌の腹の中には、プチプチ弾ける極上の「飛魚卵」が詰まっているはずだ!』
「カッカッカ! アゴ出汁にトビコ! どっちも最高じゃねぇか! だが、あいつら時速数百キロで空を飛んでやがる! トロール網じゃ届かねぇぞ!」
大宴殿の魔導アームが展開するトロール網は水面スレスレをカバーしているが、飛魚たちはそれを嘲笑うかのように、高度数十メートルの上空を滑空して要塞を飛び越えようとしていた。
「空の領域なら俺たちの独壇場だ! ペガサス隊、散開! 飛魚の群れを上から『プレス(叩き落とし)』しろ!」
上空で待機していたファルコンが号令をかける。
ペガサス隊が飛魚の大群の上へと回り込み、天馬の蹄から猛烈なダウンバースト(下降気流)を一斉に叩きつけた。
【天馬絶技・暴風の叩き落とし(エアロ・スマッシュ・ダウン)】!!
『ピギャァァァァァッ!?』
優雅に空を滑空していた巨大飛魚たちは、上空からの見えない空気の壁に激突し、飛行の揚力を完全に奪われ、次々と要塞の甲板へ向かって墜落コースを描き始めた。
「落ちてきたぜ! リル! クッションの準備だ!」
「プルルルンッ!!(任せてー!!)」
甲板に巨大なスライムトランポリンを展開するリル。
「俺はバッティングセンターの特訓といこうか! 【剛腕・大飛魚ホームラン】ォォォッ!!」
ガレスが戦斧をバットのように寝かせ、空から降ってくる全長十メートルの飛魚たちを、傷をつけないように峰(平らな部分)で次々とカッ飛ばしていく。
ガァァァン! ドォォォン! と小気味よい打撃音が響くたび、気絶した飛魚たちが、サイラスが口を開けて待つ『食材搬入ホッパー』へと、見事な放物線を描いてホールインワンしていく。
「よし! オスの身はそのまま乾燥室(アゴ出汁加工ライン)へ直行だ! メスの腹に入ってるトビコは……クロ! 頼むぜ!」
「ワォォォンッ!! 【神狼の真空抜き】!!」
クロがホッパーの入り口で、吸い込まれていくメスの飛魚の腹を、真空の刃でスパンッと極薄に切り裂く。
中からこぼれ落ちそうになる黄金色の卵の塊を、クロが風の操作で優しく包み込み、身とは別の「高級珍味専用レーン」へと完璧に振り分けていった。
『素晴らしい連携だ制空部隊! 極上アゴ出汁の原料と、弾力測定不能の「黄金トビコ」、次々と氷室へ格納されている!』
サイラスの弾むような声が、水上乱獲の熱狂をさらに加速させる。
第二フェーズ:水面の極上ゼリー、『星海翡翠の巨大蓴菜』
飛魚の群れをあらかた吸い尽くし、大宴殿がさらに湖の奥へと滑走を進めた時。
突如として、要塞の進行速度が「ズズズッ……」と重たく鈍った。
『……なんだ!? 推進炉の出力は正常だが、水面からの物理的な摩擦抵抗が異常に跳ね上がっている!』
サイラスがコンソールを叩きながら怪訝な声を上げる。
「サイラス殿! 前の湖面を見てみろ! 水の色がクリスタルから、濃い緑色に変わってやがるぞ!」
ガレスが先端デッキから指差した。
そこは、湖の淀み(波の立たない静かな水域)。
水面には、睡蓮のような小さな丸い葉がビッシリと群生していた。しかし、問題はその水面下である。水中の茎や若芽が、信じられないほど分厚く、そして透明な「翡翠色のゼリー状の粘膜」に覆われており、湖面一帯が巨大なスライムの海のようにトロトロに粘り気を持っていたのだ。
「こいつは……『蓴菜』か!? しかも、一個の芽が丸太くらいある特大サイズだ!」
ガレスが水面に顔を近づけ、そのゼリー状の植物を睨む。
純粋な水と、豊かな泥の養分がある場所でしか育たない極上の水生野菜――**『星海翡翠の巨大蓴菜』**である。
『ジュンサイか! トウヤ殿が以前、お吸い物や赤だしに入れると、あのツルンとした喉越しとプルプルのゼリーがたまらないと言っていた、超高級食材だな!』
サイラスが思い出し、モニターの数値を分析する。
『だが厄介だ! このゼリー状の粘膜が尋常ではなく分厚く、そして「滑る」! 魔導アームのトロール網で引き上げようとしても、ツルツルと網の目から抜け落ちてしまう!』
事実、サイラスがアームで巨大ジュンサイを掬い上げようとするが、摩擦係数ゼロの極上ゼリーに覆われたジュンサイは、まるで生きているかのようにヌルリと網から逃げ出してしまう。
「カッカッカ! 機械がダメなら、人間の手の出番だ! ヌルヌル滑るなら、滑る隙も与えずに力ずくでぶっこ抜いてやる!!」
ガレスが甲板の縁に足をかけ、戦斧を置いて両腕の袖をまくり上げた。
剛腕と暴風の収穫:絶対滑るジュンサイVS絶対掴む男
「オラァァァッ!!」
ガレスが大宴殿の甲板から、湖面の『巨大ジュンサイの群生地帯』へと向けて、直接その太い両腕を突っ込んだ。
ヌルゥゥゥゥッ!
ジュンサイの分厚い翡翠ゼリーが、ガレスの剛腕を拒絶するように滑り抜けようとする。
「逃がすかよ!! 俺の握力は、1500トンのバーベルのローレット(滑り止め)を素手で握り潰すレベルだぜぇぇっ!!」
ガレスの腕の筋肉が、メキメキと音を立てて膨張する。
物理的な滑りを、それを上回る『細胞レベルの圧倒的圧着力』でねじ伏せたのだ。
「獲ったぜェェッ!! 【剛腕・大翡翠引っこ抜き】!!」
ズポォォォォォォォォンッ!!!
ガレスが両腕を引き抜くと同時に、丸太ほどの太さを持つ、プルンプルンの巨大ゼリーに包まれた特級ジュンサイの若芽が、根元から完璧な状態で水面から引きずり出された。
「おおっ! 太陽の光に透けて、まるで緑色の宝石みたいだぜ! ファルコン、クロ! こいつの周りの不要な泥水だけを吹き飛ばせ!」
「おう! 【天馬の微風乾燥】!」
「ワォン! 【神狼のそよ風】!」
ファルコンとクロが、空中に放り投げられた巨大ジュンサイに向けて、極めて繊細な風の魔法を当てる。
これにより、ジュンサイの大切な「旨味ゼリー」を一切傷つけることなく、表面に付着していた湖の泥や余分な水分だけが綺麗に弾き飛ばされた。
「プルルンッ!(キャッチ!)」
そして、ツルツルに輝く極上ジュンサイを、リルが甲板の専用水槽(サイラスが急遽用意した、鮮度保持用のクリスタル冷水タンク)へと、傷一つつかずにダイビングキャッチさせる。
「よぉぉぉし! この調子で、群生地帯のジュンサイを一本残らずぶっこ抜くぞォォッ!!」
ガレスが甲板をカニ歩きしながら、猛烈な速度で両腕を水面に突っ込んでは引き抜く『千手観音の如きジュンサイ漁』を開始する。
サイラスも要塞の速度を微速前進に切り替え、ガレスの収穫ペースに完璧に同調。
空からはファルコン隊が風のサポートを行い、要塞全体が一丸となって、この「究極に滑る極上野菜」との収穫バトルを繰り広げていった。
水面制圧完了:トロール要塞の凱歌
数時間後。
広大だった『巨大ジュンサイ群生地帯』は、ガレスの剛腕によって見事に更地(ただの綺麗な水面)へと変わり果てていた。
「ふぅ……! いい運動だったぜ! 腕の筋肉が喜んでやがる!」
ガレスが湖の水で顔を洗い、満足げに笑う。
『……水上・制空乱獲部隊の全工程、完了だ。飛魚の極上アゴ出汁ブロック、黄金のトビコ、そして巨大ジュンサイ。氷室の空き容量を限界まで使い切り、水面上に存在するすべてのターゲットを最高品質でパッキングした』
ブリッジから響くサイラスの声には、システム管理者としての深い安堵と、この狂気的なまでの「完全収穫」を成し遂げた誇りが滲み出ていた。
「ハッハッハ! これで水の上は完璧にお掃除完了だな! 空も水面も、見渡す限り静かなもんだぜ」
ガレスが戦斧を肩に担ぎ、夕日に赤く染まり始めた広大な水生平原を見渡す。
水面で跳ねる魚も、空を飛ぶ鳥も、浮かぶ極上植物も。すべてが彼らの胃袋(氷室)へと吸い込まれ、湖上には大宴殿の立てる穏やかな引き波の音だけが響いている。
「さて、俺たち『上』の仕事は終わった。あとは……あの暗い湖の底にダイブしていった、トウヤたちの『下』の仕事次第だな」
ガレスが、底知れぬ深さを持つクリスタルの湖面を見下ろし、ニヤリと牙を剥く。
「あいつらのことだ。俺たちが獲った飛魚やジュンサイがかすむような、とんでもねぇ『深淵のバケモノ(特濃の脂)』を引きずり上げてくるに違いねぇぜ」
ガレスの予感は、間違いなく的中していた。
水上で繰り広げられた爽快な全自動トロール漁のその真下。光の届かない水深数キロの湖底では、トウヤ、エリス、ジン、ゼノスたちが、水上のそれとは比較にならないほどの『規格外の深水性覇王』と、息もつかせぬ極上食材の立体乱獲死闘を、まさに今、繰り広げている最中だったのである。
ここまでお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じたら、画面下から【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】の評価をいただけると、執筆の大きなモチベーションになります!尚、こちらの新作「異世界・天下布武 〜魔族を従えた織田信長は、今度こそ本能寺を回避する〜」不定期執筆になりますがよろしく
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