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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第43話:【閑話】王国の鉄槌と、深淵からの生存報告

第43話:【閑話】王国の鉄槌と、深淵からの生存報告

王都の夜闇を、無数の松明の光と、甲冑が打ち鳴らされる重厚な足音が切り裂いた。

アルカディア国王ヴィルヘルムの勅命を受けた近衛騎士団と暗部『影』の部隊による、王都を揺るがす「大粛清」の幕開けである。

最初の標的は、王都の一等地にそびえ立つヴァレリウス侯爵邸だった。

「な、なんだ貴様ら! 余の屋敷に土足で踏み入るとは、不敬であるぞ!」

深夜の寝室から引きずり出された侯爵は、高級な寝巻き姿のまま喚き散らした。しかし、近衛騎士団長は冷徹な眼差しで、血の気の引くような証拠書類の束を突きつけた。

「ヴァレリウス侯爵。違法魔導具の密輸、ならびに教会上層部・暗殺ギルドとの結託による国家反逆罪の容疑で拘束する」

「ば、馬鹿な! その帳簿は完全に隠蔽したはず……!」

「貴様の隠し金庫は、すでに影の部隊が全て制圧した。……貴様の欲のせいで、どれほどの忠臣が涙を呑んだか。その身をもって地下牢で悔いるがいい」

侯爵が絶望の悲鳴を上げて連行されていくのと同時刻。

王都の地下深く、下水道の奥にある『暗殺ギルド』の本部もまた、地獄絵図と化していた。

「ひぃッ……! た、助け……!」

幹部のザルバは、自身の執務室で腰を抜かし、後ずさっていた。彼の周囲には、音もなく侵入した『影』の暗殺者たちが、ギルドの構成員たちを文字通り瞬殺して制圧を完了させていた。

かつてジンを脅迫し、孤児院の命を握ってふんぞり返っていた小悪党は、王国の本気の武力の前に、ただ震えて命乞いをすることしかできなかった。

そして、その粛清の嵐は、神聖なる『光の教会』の本部にも容赦なく吹き荒れた。

「な、何事ですか! ここを神の御前と心得るか!」

豪華絢爛なベッドで眠っていた大司教が、踏み込んできた騎士たちに怒鳴りつける。しかし、彼に突きつけられたのは、異端審問官を私兵として使い、寄付金を横領していた決定的な証拠だった。

「神の名を騙り、無実の聖女を魔女として迫害した大罪人め。貴様に祈る資格などない」

一夜にして、王国を蝕んでいた「三つの巨悪」は完全に根絶やしにされた。

長年隠蔽されてきた悪質な不法行為は白日の下に晒され、彼らの財産は全て国庫へと没収。関係者は一人残らず地下の最下層牢獄へと放り込まれたのである。

***

翌朝。

王城の玉座の間にて、一人のみすぼらしい衣服を着た男が、国王ヴィルヘルムの前に跪いていた。

彼こそが、ヴァレリウス侯爵らの陰謀に気付いたがゆえに無実の罪を着せられ、投獄されていたエリスの父――アルジェント男爵であった。

「アルジェント男爵よ。……そなたの忠義を疑い、このような辛い目に遭わせたこと、王として深く詫びよう」

玉座から降りた国王ヴィルヘルムは、自らの手で男爵の肩を抱き起こした。

「へ、陛下……! 勿体なきお言葉……!」

「そなたの無実は完全に証明された。奪われた領地と財産は全て返還し、さらに今回の功績と不当な投獄への慰謝料として、そなたを『子爵』へと昇爵させる」

「おおお……っ! ありがとうございます……! しかし、陛下。私の爵位などどうでもよいのです。私の娘、エリスは……っ」

男爵は涙ながらに訴えた。娘が自分のために大迷宮へと単身潜り、そのまま帰ってきていないという事実は、彼にとってどんな褒賞よりも重い絶望だった。

「……娘の件は、痛恨の極みだ。我々がもっと早く動いていれば……」

国王と、傍らに控えていた宰相オズワルドが、沈痛な面持ちで目を伏せた、その時だった。

「申し上げます!!」

玉座の間の扉が開き、『影』の部隊長が息を切らせて駆け込んできた。その後ろには、場違いなほどに屈強で、緊張に顔を引き攣らせた一人の冒険者――Bランクパーティー『鉄の牙』のリーダー、ボーグが付き従っていた。

「影よ、何事か。今はアルジェント子爵の……」

「へ、陛下! オズワルド様! 奇跡でございます! 大迷宮に消えた彼らが……ガレス殿たちが、生きているという確かな報告が入りました!!」

「「「な、なんだと!?」」」

国王、オズワルド、そしてアルジェント子爵の三人が、弾かれたように顔を上げた。

オズワルドの前に進み出たボーグは、ガチガチに緊張しながらも、懐から一枚の古びた羊皮紙を取り出した。

「お、恐れながら申し上げます。俺は数日前、隻眼のジンという青年から、孤児院の連中を隣国まで護衛する依頼を受けました。その際、前金と共に『この紹介状』を預かったのです」

オズワルドが震える手でその羊皮紙を受け取り、目を通す。

そこには、乱暴だが力強い、見覚えのある筆跡でこう書かれていた。

『オズワルドの爺さんへ。俺は元気にやってる。今はトウヤっていう面白い若者のパーティーで、毎日美味い飯を食いながら迷宮のキャンプを楽しんでるぞ。こっちの心配は無用だ。 ――ガレスより』

「こ、これは……間違いなくガレスの字だ! あの馬鹿者、生きておったのか!」

オズワルドの目から、ブワッと涙が溢れ出した。

「し、しかし……暗殺ギルドのジンという青年は、ガレスの死を確認したと報告していたはずでは?」

国王が混乱して尋ねると、ボーグが頭を掻きながら答えた。

「ああ、あれはジンという兄ちゃんが、ギルドから足抜けするための『真っ赤な嘘』だったそうです。……なんでも、標的であるはずのガレスの旦那たちが、迷宮の奥深くで『あり得ないくらい美味い飯』を食いながらバカみたいに強くなっていて、逆に飯で手懐けられちまったとかで……」

「め、飯で手懐けられた……?」

「はい。しかもジンは、俺たちに孤児院の護衛を任せた後、『今からあいつらのところに戻って、徹底的にレベ上げと美味い食材の収穫をして、一財産築いてくる!』と、満面の笑みでまた大迷宮の深層へと走っていきました」

しん、と。

玉座の間に、数秒間の完全な沈黙が落ちた。

「……待て」

国王ヴィルヘルムが、わなわなと震える声で確認する。

「彼らは……絶望して死に場所を求めたわけでもなく、魔物に怯えて隠れているわけでもなく……?」

「はい。……自らの意志で、迷宮の深層で『レベ上げと食材集め(キャンプ)』を満喫していると」

オズワルドが、羊皮紙を握りしめながら答えた。

「え、エリスは!? 私の娘のエリスも、そこにいるのでしょうか!?」

アルジェント子爵がすがりつくように尋ねると、影の部隊長が静かに頷いた。

「確定ではありませんが、第9階層付近の魔力の乱れを観測した際、凄まじい大剣の剣技と、教会の聖なる結界の反応が確認されました。おそらく、エリス令嬢と聖女マリア殿も彼らに合流し、共にいるものと推測されます」

その報告を聞いた瞬間。

国王ヴィルヘルムの目から、大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「おお……おおお……っ! 生きて、生きているのか……!! あの光の届かぬ地獄の底で、若者たちがたくましく、自らの力で生を謳歌していると……っ!!」

「陛下……っ!」

国王は両手で顔を覆い、安堵のあまり子供のように声を上げて泣き崩れた。

オズワルドもアルジェント子爵も、肩を震わせて号泣している。

彼らが無事であったこと。そして、王国の腐敗に潰されることなく、迷宮の底で新たな希望を見つけていたことが、重い責任を感じていた彼らの心を何よりも救ったのだ。

しかし、ひとしきり泣いた後。

国王はふと涙を拭い、鼻を啜りながらポツリと呟いた。

「……しかし。あの誰も生還したことのない大迷宮の深層で、『美味い飯』と『レベ上げ』とは……。彼らは一体、何をどうやって生きているのだ……?」

「さ、さあ……。ガレスの手紙には『毎日キャンプを楽しんでいる』としか……」

「……たくましいにも程があるだろう。我が国の若者たちは、バケモノか」

国王の呆れ半分、喜び半分の言葉に、玉座の間はドッと温かい笑い声に包まれた。

巨悪は浄化され、正しき者たちの名誉は回復された。

王国の憂いは完全に晴れ渡り、国王たちは「迷宮でたくましく(非常識に)キャンプを満喫する若者たち」の無事な帰還を、心から待ち望むのであった。

一方その頃。王都の感動的な空気など露知らず。

渦中の若者たちは、第10階層の『大豪邸の庭』で、極上の黒竜王の串焼きを腹一杯に食らい、芝生の上で大の字になって爆睡しているという、王国の誰も想像し得ない平和すぎる時間を貪っているのであった。

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