第205話:和の国ミズホの『隠しフラグ』と、神が仕込んだ黄金の出汁
### 第205話:和の国ミズホの『隠しフラグ』と、神が仕込んだ黄金の出汁
絶対同盟の物流ゲートを利用し、アルカディア王国から世界の東の果て――『和の国ミズホ』へと一瞬で移動した悠久の踏破者たち。
彼らの目の前にそびえ立っているのは、神のアップデートによってミズホの領土に出現した第100階層規模の新迷宮『蒼海と豊穣の神坐』である。
「(トウヤ殿! 俺の作った醤油とマヨネーズに合う、最高の海鮮(ボス肉)を期待してますからね!)」
見送りに来たミズホの賢者・カイトが、特大のクーラーボックスを用意しながら満面の笑みで手を振る。
「(おう、任せとけ! 未踏の大陸へ行くためのゲートも、この100階層の底にあるんだろ? エルドリアの時のように、サクッと最深部まで駆け抜けてやるぜ!)」
トウヤは親指を立てて応え、仲間たちと共に荘厳な鳥居の形をした迷宮の入り口へと足を踏み入れた。
***
【第1階層:静寂の竹林と、違和感の匂い】
転移ゲートを抜けた先、第1階層は、どこまでも続く薄暗く幻想的な『竹林』と、さらさらと流れる『清流』のエリアだった。
魔国の灼熱やエルドリアの無機質な鉄壁とは打って変わり、静寂と神秘に包まれた和風のダンジョンである。
「(よし! いつも通り、匂いを辿って最短ルートを割り出すぜ。ジン、エリス、先行して邪魔な魔物を捌いてくれ!)」
「(ヒャッハー! 了解だぜ! 竹ごと真っ二つにしてやる!)」
ジンが双短剣を抜き放ち、無振動歩法で風のように駆け出そうとした、その瞬間だった。
「――待て!! ジン、ストップだ!!」
トウヤが血相を変えて叫び、ジンの襟首をガシッと掴んで急ブレーキをかけた。
「(ぶふぉっ!? ど、どうしたんだよトウヤ!? 敵の奇襲か!?)」
ジンが驚いて振り返る。ガレスやルミナたちも一斉に武器を構え、周囲の竹林を警戒した。
しかし、トウヤの視線は魔物ではなく、ただの『背景』であるはずの竹林や足元の苔、そして小川の水に向けられていた。
彼の【美食家の嗅覚(匂いセンサー)】と【神眼】が、かつてないほどの激しい警告(食欲のサイン)を脳内に鳴り響かせていたのである。
「(……違う。敵じゃない。……匂いだ)」
トウヤは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
「(この迷宮……入り口を入った瞬間から、空気がおかしい。ただの竹林の匂いじゃない。これは……とてつもなく上品で、奥深い『出汁』の匂いだ……!)」
トウヤは竹林の中へ歩み寄り、一本の太い竹の前に立った。
そして、無振動の包丁を取り出し、竹の節の少し上を『斜め45度』という極めて精巧な角度で、スッと撫でるように切断した。
カポッ、と竹の上部が外れる。
すると――。
プシュゥゥゥゥッ!!
切り口から、黄金色に輝く液体が溢れ出し、周囲一帯に【数百年モノの高級昆布と鰹節を極限まで煮詰めたような、究極の合わせ出汁】の香りが爆発的に広がったのだ。
「(な、なんじゃこりゃあァァァッ!? 竹の中から、黄金のスープが湧き出しておるぞ!!?)」
ガレスが目を剥いて驚愕する。
「(信じられない……! ただの背景の竹林だと思っていたのに、これが全部『出汁のタンク』だというのですか!?)」
エリスも大剣を下ろし、信じられないものを見るような目を向けた。
「(……エルドリアの時に神様が言ってた『隠しフラグ』、覚えてるか?)」
トウヤは、溢れ出る黄金の出汁をアイテムボックス(専用の寸胴鍋)で慎重に回収しながら、ニヤリと笑った。
「(神様は昨日、システムに『神界ルート用の超絶ハードモード(激ウマ食材盛りだくさん設定)』を仕込んだと言っていた。……つまりこの迷宮は、ただ最下層へダッシュしてボスを倒すだけじゃダメなんだ。背景やギミックの隅々にまで、【究極の調理条件】を満たさないと現れない『隠し食材』が山ほど散りばめられてる!)」
トウヤは立ち上がり、仲間たちを振り返って高らかに宣言した。
「(作戦変更だ! RTA(最速クリア)は中止! この第1階層から最下層まで、壁の裏から小川の石の下、罠の作動条件に至るまで……この迷宮のすべてを【舐め回すように丁寧に】探索するぞ!! 神様からの挑戦状(フルコースの仕込み)、受けて立とうじゃねえか!!)」
「「「ウオォォォォォォォォォッッ!!!!(いただきますッ!!)」」」
最速の攻略集団は、ここにきて「世界一慎重で貪欲な食材ハンター」へと変貌を遂げた。
ジンは壁の隠し扉を叩いて探し、ルミナは小川の水質を魔法で解析し、ガレスは怪しい岩をどかし始める。
彼らの『和の国迷宮・100階層完全舐め回しツアー』が、今ここに幕を開けたのである。
***
【閑話:神界の玉座、ポップコーン神の大歓喜】
「……っ!! よっしゃァァァァァァァァァッッ!!!!」
次元の遥か彼方、白亜の神殿。
巨大な魔力スクリーンの前で、【迷宮神】はポップコーンのバケツを放り投げ、カウチソファの上でガッツポーズをして跳び上がっていた。
「気づいた! トウヤ君、第1階層の入ってすぐの竹林で、私が仕込んだ『黄金の竹出汁ギミック』に気づいてくれたよ!!」
神は、歓喜のあまり神殿の柱の周りをスキップして踊り回った。
「あああ〜、もうハラハラしたぁ! いつもみたいにジン君が『ヒャッハー!』って言いながら、竹林ごと真っ二つにして駆け抜けちゃったらどうしようかと思ったよぉ!」
神が昨日、ウキウキでシステムに仕込んだ【神界ルート用・超絶ハードモード】。
それは敵が強くなるわけではなく、「特定の歩法」「特定の魔法の当て方」「風景への隠し干渉」といった【異常なまでの調理的条件】を満たさなければ、真の極上食材(ドロップ品)が出現しないという、まさに美食家に対する挑戦状であった。
もしトウヤたちがこの異変に気づかず、これまでのように「匂いの強いボス」だけを狙って一直線に進んでしまえば、この迷宮の本当の美味しさの『1%』も味わえずに100階層が終わってしまうところだったのだ。
「でも、さすがトウヤ君の鼻! 完璧な角度で竹を切ってくれた! あの出汁、私が神界の海で採れた昆布のエキスをこっそり混ぜた特製品なんだから!!」
神は再びソファにダイブし、クッションを抱きしめながらスクリーンを食い入るように見つめた。
画面の中では、トウヤたちが「おい! この苔、魔力で炙ったら極上の海苔になったぞ!」「小川の底に隠しスイッチ(巨大なアワビ)がありますわ!」と、第1階層のスタート地点から全く進むことなく、大はしゃぎで隠し食材を乱獲している。
「あははっ! 最高、最高だよ! このペースで進むなら、ミズホの迷宮を踏破するのに1ヶ月はかかるね!」
神にとって、トウヤたちの迷宮探索は『世界で一番面白いドキュメンタリー映画』である。
エルドリアの迷宮が数日で終わってしまって少し寂しかった神にとって、トウヤたちが「1階層から舐め回すように探索する」と宣言してくれたことは、極上の映画の続編が【超特大のディレクターズ・カット版】として長く楽しめることを意味していた。
「あぁ、幸せだなぁ……。君たちが時間をかけて集めた食材で、どんな『海鮮和食のフルコース』を作ってくれるのか……想像するだけでヨダレが出ちゃうよ」
神は、空間から新たな『キャラメルと塩のハーフ&ハーフ・ポップコーン』を召喚し、ジュースのストローを咥え直した。
「さあ、たっぷり時間をかけて、隅から隅まで味わい尽くしておいで、最強の美食家たち! 第20階層には『絶対に捌けない巨大マグロ』のギミックが、第50階層には『温泉卵を生み出す幻の熱泉』が待ってるよ! 神の仕込んだ極上の罠、全部解き明かしてみせてね!!」
神界からの熱烈な視線(と食欲)を一身に浴びながら。
悠久の踏破者たちは、迷宮という名の『超巨大な宝探し(食材探し)ゲーム』の沼へと、満面の笑みでズブズブと沈み込んでいくのであった。




