第201話:神聖魔導帝国遠征編! 古代兵器(オーブン)と神界の映画鑑賞
### 第201話:神聖魔導帝国遠征編! 古代兵器と神界の映画鑑賞
『悠久の大迷宮』完全踏破、そして地底魔国の『深淵の魔食窟』を制覇した世界最強の美食ツーリスト『悠久の踏破者』一行。
彼らの次なる目的地は、絶対同盟の一角を担う大国――神聖魔導帝国エルドリアの帝都にそびえ立つ、第100階層規模の新迷宮『白銀の魔導廟』であった。
「(……すげえ。壁も床も全部金属でできてる。おまけに謎の光るラインが走ってて、完全にSF映画のセットだな)」
トウヤは、迷宮の第1階層に足を踏み入れた瞬間、キョロキョロと周囲を見渡した。
「(ガッハッハ! 魔国のマグマ地獄とはまた打って変わって、冷たくて無機質な空間じゃのう。……しかしトウヤ、こんな鉄クズばかりの場所で、美味い魔物は見つかるのか?)」
ガレスが、金属の壁を大盾の柄でコンコンと叩きながら首を傾げる。
「(うむむ……確かに。私の剣で斬っても、鉄の味がしそうですわ)」
エリスも少し不安そうに大剣を撫でる。
普通の冒険者であれば、「古代魔導文明の遺構」というロマン溢れるシチュエーションに胸を躍らせるところだが、彼らの判断基準は常に「美味いかどうか」である。
だが、トウヤの【美食家の嗅覚】は、この無機質な迷宮の奥深くから漂う『極上の匂い』をしっかりと捉えていた。
「(心配すんなみんな。金属の匂いに混じって……めちゃくちゃ香ばしい『燻製』みたいな匂いが奥からプンプンしてる。絶対に極上の肉が隠れてるはずだ!)」
「(ヒャッハー! トウヤの鼻が言うなら間違いねえ! さっそく解体しに行こうぜ!)」
トウヤの言葉で一気にモチベーションがカンストした一行は、ジンを先頭に、神速の無振動歩法で白銀の迷路を駆け抜け始めた。
――そして、第20階層の中ボス部屋。
巨大な金属の扉を蹴り開けた彼らの前に現れたのは、全身を分厚いミスリルの装甲で覆われ、各部の魔導ラインから青白い雷撃をバチバチと放つ巨大な四つ足の魔獣だった。
『ギギギ……ッ!! ピピピ……目標、捕捉。殲滅、開始ス』
機械的な合成音と共に立ち上がったのは、古代魔導兵器『メカミノタウロス』。
通常の武器では傷一つつけられない強固な装甲と、一撃でパーティーを消し炭にする極大雷撃砲を備えた、ロマンと殺意の塊である。
「(デカい鉄牛だな……。普通に斬っても肉には届かなそうだ)」
トウヤが【神眼】でメカミノタウロスの構造を瞬時に解析する。
「(……なるほど! あいつの装甲の内部に、生物の『肉』をベースにした生体コアがある! しかも、全身に巡る高出力のエーテルエネルギーの熱で、何百年もかけて極限まで【燻製】された状態になってるぞ!!)」
「(燻製肉のミノタウロス!!?)」
エリスとガレスの目が、カッと見開かれた。
「(よし、装甲を壊すと中の肉まで傷がつく! ……マリア! あいつの魔導回路にエーテルを過負荷させて、自滅させるぞ! 回路を逆流させろ!)」
トウヤの指示が飛ぶ。
「(承知いたしましたわ! 機械であっても、魔力の流れがあるなら私の祈り(ハッキング)は届きます! 【慈愛の光・魔導解析】!!)」
マリアが聖杖を掲げ、極大の魔力を放つ。
本来は味方を癒すための神聖魔力が、メカミノタウロスの雷撃砲のエネルギー経路に精密に干渉し、強制的にエネルギーを暴走・逆流させた。
『ピガーーーッ!? エラー、エラー!! 内部温度、限界突破……強制シャットダウン、実行……シュゥゥゥゥ……』
ドスゥゥゥンッ!!
メカミノタウロスは一発の雷撃を撃つこともなく、全身から白い蒸気を噴き出して機能停止した。
そして、安全装置が働いたのか、分厚い胸の装甲がパカりと開き……中から、青白い魔力光を帯びた『赤黒い肉の塊』がコロンと転がり出た。
「(おおっ……! これが古代兵器のコアパーツ!)」
トウヤが素手で(断熱スキルを使って)それを受け止める。
表面はパリッと乾燥しているが、魔導エネルギーで何百年も燻されたその肉塊からは、言葉にならないほど芳醇でスモーキーな香りが漂っていた。
「(こりゃあ……面白い! このコア、そのままスライスして食べるより、あいつの『熱』を使えば……!!)」
トウヤは笑いながら、機能停止してまだカンカンに熱を持っているメカミノタウロスの『背中の平らな装甲板』の上に、オリーブオイルを引いた。
ジュゥゥゥゥッ!! という小気味良い音。
「(古代魔導オーブン(ただの残骸)で、極上燻製肉の鉄板焼きだ!! ジン、エリス! スライスしてくれ!)」
「(任せろォォッ!!)」
無振動の刃がコア肉をミリ単位でスライスし、熱々の魔導装甲の上で一瞬にして焼き上げる。
古代の叡智が詰まった恐るべき殺戮兵器は、トウヤたちの前ではただの【超便利な全自動調理家電】へと成り下がっていた。
***
【閑話:神界の玉座、ポップコーンの減らない夜】
一方、次元の遥か彼方。
神界の白亜の神殿に設けられた、巨大な魔力スクリーンの前。
「あははっ! あーっはっはっは!! 苦しい、お腹痛い……!!」
世界を創りし【迷宮神】は、神界特製のキャラメルポップコーンが入った巨大なバケツを抱えながら、カウチソファの上で大爆笑しながら転げ回っていた。
「最高、本当にトウヤ君たちは最高だよ!! 私が『ロマン溢れるSF風ダンジョン』として、何百年もかけて設計した古代魔導ギミックを……まさか【調理器具】として攻略しちゃうなんて!!」
スクリーンの中では、トウヤたちがメカミノタウロスの残骸を囲み、「この鉄板、火力が安定してて最高だな!」「マリアの逆流ハッキングで、良い感じに内部まで火が通ってますわ!」と、キャッキャと笑いながらバーベキューを楽しんでいる姿が鮮明に映し出されていた。
「もうね、設計者としては『そういうふうに使うためのギミックじゃないんだけど!?』ってツッコミたいところなんだけど……あの燻製肉、めちゃくちゃ美味しそうじゃないか……!!」
神は、ポップコーンを食べるのも忘れて、ジュウジュウと焼ける肉の映像を食い入るように見つめる。
かつて、この世界に血みどろの争いが絶えなかった頃。
神は、人間たちの欲望と戦いにウンザリして、このスクリーンの前で溜め息ばかりをついていた。
だが、トウヤが転生してきてからというもの、神の日常は一変した。
「毎日が極上のコメディ映画であり、世界最高の料理番組」になったのだ。
「ふふっ……いいなぁ。私もそっちに混ざって、古代の燻製肉、食べてみたいなぁ……」
神は、空になったポップコーンのバケツを横に置き、スクリーンの向こうのトウヤたちに向かって、愛おしそうに微笑みかけた。
「さあ、存分に楽しんでおいで、最強の美食家たち。エルドリアの迷宮の下層には、君たちを『全自動で調理してくれる(攻撃してくる)巨大な古代クッキング・マシーン』のボスたちがいっぱい待ってるからね! 私、特等席で最後まで笑わせてもらうから!」
神界からの、絶対的な信頼と期待(と飯テロへの渇望)に満ちた視線。
それを背に受けながら、トウヤたちはメカミノタウロスの鉄板焼きを綺麗に平らげ、「よし、次は古代の製氷機を狩って、食後のデザート(かき氷)を作るぞ!」と、古代魔導文明の遺構を「最新鋭のシステムキッチン」として大満喫しながら、意気揚々と迷宮の奥深くへと進んでいくのであった。




