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目指すは深層、まずは腹ごしらえから! 〜現代知識と【拠点創造】で始める、前人未到の大迷宮スロー攻略記〜  作者: 盆ちゃん


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第20話:エルフの家出事情と、非常識すぎるステータス画面

第20話:エルフの家出事情と、非常識すぎるステータス画面

鬱蒼と生い茂る、緑の木々。太陽の光は葉に遮られ、常に薄暗く、そして静寂に包まれた閉鎖的な世界。

それが、ルミナが生まれ育った『エルフの隠れ里』だった。

『ルミナよ。お前は長老である私の娘なのだ。外の世界への下らない好奇心など捨て、エルフとしての誇り高き生を全うしなさい』

厳格な父の言葉は、絶対だった。

食事といえば、味気ない木の実や、生の葉野菜、そして薄味のスープばかり。外界の知識を学ぶことは禁じられ、毎日同じ森の中で、精霊と対話するだけの退屈な日々。

それでも、ルミナは耐えていた。いつか自由に魔法を使い、広い世界を見てみたいという密かな夢を胸に抱きながら。

しかし、その細い糸がプツリと切れる出来事が起きた。

『来月、お前は隣の森を治めるハイエルフの貴族、エルロンド殿と婚姻を結ぶことになった。これは里の結束を強めるための決定事項だ』

顔も見たことのない、傲慢だと噂される年老いたハイエルフとの強制的な政略結婚。

自分の人生が、鳥籠の中で完全に終わってしまう。

その絶望が、ルミナに森を出る決意をさせた。

彼女は夜の闇に紛れ、最低限の魔法の杖と法衣だけを抱えて里を飛び出した。

激怒した父は、腕利きの追手を何人も差し向けてきた。ルミナは人間の街に隠れ、それでも追手が迫ると、絶対にエルフが立ち入らないであろう危険な場所――『悠久の大迷宮』へと、半ば自暴自棄になって逃げ込んだのだ。

不味い干し肉と泥水で飢えを凌ぎ、強力な魔物から逃げ惑う日々。

そして第6階層で魔力も体力も底を突き、ついに死を覚悟した時……彼女は、規格外の強さと『極上の甘味』を持つ、おかしな人間たちに出会ったのだった。

***

「――と、いうわけなのです。お父様の追手はしつこいですから、もし私と一緒にいれば、トウヤさんたちにも迷惑がかかるかもしれません……」

【拠点創造】で展開された、春のように暖かく快適なマジックテントの中。

ルミナは食後の温かいハーブティー(ハチミツたっぷり)の入ったマグカップを両手で包み込みながら、ぽつりぽつりと自身の過去を語り終えた。

最後の方は少し俯き加減になり、長いエルフの耳がしゅんと垂れ下がっている。

「迷惑、ねえ……」

話を聞き終えたトウヤは、腕を組んで小さく息を吐いた。

そして、呆れたような声で口を開く。

「木の実と生の葉野菜ばかりの生活って……そりゃあ、君がこんなに小柄で発育不良なわけだ」

「は、発育不良!?」

「食事は体と心の基本だぞ。そんな草食動物みたいな飯ばかり食わされて、おまけに顔も知らないオッサンと結婚しろなんて言われたら、誰だって家出するに決まってる。君は何も悪くないさ」

トウヤの全く想定外の『食生活重視』の感想に、ルミナはポカンと口を開けた。

「トウヤの言う通りだ」

大盾を磨いていたガレスも、ニヤリと笑って同調する。

「エルフの追手だろうがなんだろうが、ここは大迷宮の第6階層だぞ。ここまで追ってくる物好きがいれば、俺の盾とトウヤの短剣で追い払ってやる。ルミナ、お前はもう俺たち『悠久の踏破者』の立派な仲間だ。過去など気にせず、胸を張ってここで美味い飯を食えばいい」

「ワフッ!」

クロも「その通り!」とばかりに、ルミナの膝に顎を乗せて尻尾を振った。

「トウヤさん、ガレスさん、クロちゃん……」

ルミナの大きな碧眼に、じわっと涙が浮かぶ。

一歩間違えれば死んでいた過酷な逃避行の末に見つけた、この信じられないほど温かく、そして美味しい居場所。彼女はついに、心の底からの安堵の息を吐き出した。

「ありがとうございます……! 私、精一杯頑張ります!」

「よし、過去の清算はこれで終わりだな。それじゃあ、新メンバーも加わったことだし、今後の陣形と連携を考えるために『ステータス確認』をやっておこうか」

トウヤが空中に向かって指をスライドさせると、青白いステータスボードが浮かび上がった。

「まずは、ルミナから見せてもらえるか?」

「はい! ええと……『ステータス・オープン』」

====================

【名前】 ルミナ

【職業】 精霊魔法使い

【レベル】 24

【HP】 150 / 150

【MP】 680 / 680

【筋力】 E

【敏捷】 C

【耐久】 E

【魔力】 S

【スキル】

・風精霊魔法 Lv.6

・水精霊魔法 Lv.5

・魔力操作 Lv.5

・詠唱破棄 Lv.2

====================

「おお……! 魔力【S】に、MPの異常な高さ! 流石はエルフの長老の娘ってところか。しかも『詠唱破棄』まで持ってるなんて、後衛の固定砲台としてはこれ以上ないくらい優秀だな」

「えへへ、精霊魔法の扱いだけは、お父様より上って言われてたんです」

トウヤの絶賛に、ルミナは照れくさそうに尖った耳をピコピコと動かした。

「次はガレスとクロだな。ガレスがレベル32で、耐久は相変わらずの【A】。クロはレベル27で敏捷が【S】だ」

「え……? ちょ、ちょっと待ってください?」

ルミナはガレスとクロのステータスボードを見て、目を白黒させた。

「ガ、ガレスさんって重戦士ですよね? なんで耐久力が、一流のパラディンでも滅多に出ない【A】ランクなんですか? それに、クロちゃん……ただのシャドウウルフのはずなのに、なんで敏捷が【S】!? スキルに『影渡り』って……これ、神話級の魔物の固有スキルじゃ!?」

「まあ、この二人は色々あってちょっと変異してるんだよ。で、最後が俺だな」

驚愕するルミナをよそに、トウヤはあっさりと自分のステータスボードを開いた。

====================

【名前】 トウヤ

【職業】 探索者(遊撃手 / キャンプマスター)

【レベル】 22

【HP】 480 / 480

【MP】 260 / 260

【筋力】 D

【敏捷】 B

【耐久】 D

【固有スキル】

・拠点創造 Lv.6(結界強度↑、空間拡張↑、魔力コンロ火力↑、簡易風呂機能追加)

異空庫アイテムボックス容量拡張 Lv.5(冷蔵・保温・冷凍機能あり)

【戦闘スキル】

・短剣術 Lv.8

 ┗ 派生:無音連殺 Lv.4

・弓術 Lv.7

 ┗ 派生:精密連射 Lv.5

・連携指揮 Lv.3

 ┗ 派生:共鳴連撃 Lv.2

・現代調理術 Lv.MAX(異世界食材補正)

====================

「……」

ルミナは、トウヤのステータスボードを数秒間見つめた後、スッと真顔になった。

「あの、トウヤさん。私の目が悪くなったのでしょうか。ツッコミどころが大渋滞を起こしていて、どこから触れていいか分からないのですが」

「そんなにおかしいか?」

「おかしいどころじゃありません! まず、基礎ステータスが平均して低いのに、戦闘スキルが暗殺ギルドのトップみたいな『無音連殺』ってどういうことですか! そして何より、この『拠点創造』ってスキル! もしかして、今私たちがいるこの信じられないくらい快適なテントや、甘いお菓子を焼いていたコンロ……全部、魔法道具じゃなくてトウヤさんのスキルなんですか!?」

ルミナの叫びに、トウヤは頭を掻きながら笑った。

「ああ。俺のメインスキルだからな。お、レベルが上がって『簡易風呂機能』が追加されてるぞ。これで探索の後に温かいお湯に浸かれるな」

「迷宮探索でお風呂!? 常識が……エルフの何千年という歴史の常識が崩れていきます……!」

頭を抱えて震えるルミナの肩を、ガレスがポンと優しく叩いた。

「ルミナ。俺も最初は、お前と全く同じ反応をした。だがな、数日もすれば嫌でも慣れる。この常識外れの男と犬についていけば、どんな凶悪な魔物も『美味い肉』にしか見えなくなるんだ」

「ガレスさん……あなたも、最初は普通の騎士だったんですね……」

「ああ。だが今は、トウヤの飯なしでは生きられない体になってしまった。……ほら、クロ殿のパッシブスキルを見てみろ」

ガレスに促され、ルミナがクロのステータスの一番下を確認する。

『パッシブスキル:主人の料理狂信 Lv.MAX』

「りょ、料理狂信……っ! 魔物の本能すら捻じ曲げるご飯って、一体……!」

「ワフッ!(最高だぞ!)」

クロが誇らしげに胸を張る。

「ははっ、まあステータスはこんなもんだ。ルミナが後衛から魔法で牽制し、ガレスが受け止め、クロが撹乱して、俺が急所を突く。……完璧な四人パーティーの陣形が組めそうだな」

トウヤが満足げに頷き、ポンと手を打った。

「よし、ステータス確認も終わったことだし。ルミナの歓迎会と、新しい『風呂機能』のテストも兼ねて、今日は少し豪勢な夜食を作るぞ! ルミナ、甘いものは腹一杯食っただろうから、今度はしょっぱくて美味い肉料理はどうだ?」

「しょっぱくて、美味い肉料理……?」

ルミナが不思議そうに首を傾げる。エルフの里には、塩気の強い肉料理など存在しなかったのだ。

「ああ。ガレス、クロ! 昨日のグランドホーンの肉の余りで、夜食の『厚切りローストビーフのガーリックサンド』を作るぞ!」

「「うおおおおッ!! 待ってました!!」」

「ワォォォォンッ!!」

ガレスとクロが、目を血走らせてコンロの前に陣取る。

その尋常ではない執着ぶりにルミナは引き気味だったが、やがてテント内にニンニクと焼けた肉の暴力的な香りが充満し始めると、パンケーキで満たされたはずの彼女の胃袋が、キュルルゥゥと可愛らしい音を立てた。

「……あの、トウヤさん。私、お肉も食べてみたいです……」

「ははっ、任せとけ!」

エルフの常識も、迷宮の常識も、彼らのテントの中では全く通用しない。

新たな仲間と新たなツッコミ役を迎えた『悠久の踏破者』の夜は、最高に美味しく、そして賑やかに更けていくのだった。

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