第198話:灼熱の迷宮RTAと、極上チリクラブの狂宴
### 第198話:灼熱の迷宮RTAと、極上チリクラブの狂宴
地底魔国に突如出現した全100階層規模の神造ダンジョン――『深淵の魔食窟』。
かつて人類が数百年かけても踏破できなかった大迷宮の攻略常識は、世界最強の美食ツーリスト『悠久の踏破者』たちの前では完全に崩壊していた。
「(ジン! 右のマグマ溜まりから『ヴォルカニック・クラーケン(溶岩大烏賊)』だ! 墨(超高温の灰)を吐かれる前に足を落とせ!)」
「(ヒャッハー! タコ焼きならぬイカ焼きの具材だな! 【幻影歩法・無振動八刀流】!!)」
ジンの双短剣が、神速の斬撃となってクラーケンの巨大な触手を瞬く間に切り落とす。
「(ルミナ、マリア! 本体が逃げる前に固めろ!)」
「(【絶対零度・溶岩氷結】!!)」
「(エリス、そのまま串刺しだ!)」
「(お任せを! 極上のイカリング、いただきますわ! 【渾身撃・無振動のイカ捌き】!!)」
ジュバァァァァァッ!!
迷宮の第60階層。本来ならば数パーティーの精鋭が命がけで挑むはずの巨大魔物は、ものの数秒で綺麗に解体され、トウヤのアイテムボックスへと吸い込まれていった。
「(よし、次! この階層から漂ってくる匂い……『強烈な甲殻類の旨味』と『スパイシーな香り』が混ざり合ってるぞ! 間違いない、極上のカニだ!!)」
トウヤが、迷宮の奥深くを指差して叫ぶ。
「(ガッハッハ! マグマの中で育ったカニとは、どんな出汁が出るのか楽しみじゃのう! ワシが先陣を切るぞ!)」
ガレスが大盾を構え、重戦車の如き突進で立ち塞がる魔物たちを物理的に粉砕しながら道を切り拓く。
魔国の迷宮特有の「灼熱の熱波」や「有毒の火山ガス」といった凶悪な環境ギミックも、悠久の踏破者たちにとってはただの【食材を温めるためのオーブン】に過ぎなかった。
トウヤの【美食家の嗅覚(匂いセンサー)】が、迷路のような階層の『最短ルート』と『極上食材の位置』を寸分の狂いもなくナビゲートし、前衛陣が無振動歩法でギミックを無視して駆け抜ける。
『グガァァァァァッ!!』
第80階層の中ボス――『アッシュ・エンペラー・クラブ(灰燼の魔大蟹)』が、巨大なハサミを振り上げて立ちはだかる。
しかし。
「(カニ味噌は絶対にこぼすなよ! 【渾身撃・無振動の甲羅外し】!!)」
トウヤの一閃が、魔大蟹が防御態勢をとるよりも早く、その急所と甲羅の隙間を完璧に切り裂いた。
光の粒子と共に、巨大な『魔大蟹の極上身』と『超濃厚なマグマカニ味噌』がアイテムボックスへ収まる。
「よしっ! これで第80階層もクリアだ! ボックスの容量もいい感じに埋まってきたな」
トウヤが時計(体内時計)を確認し、満足げに頷く。
「(ふふっ、今日も良いペースでしたわね。まだ夕方にもなっていませんわ)」
エリスが、汗一つかいていない涼しい顔で微笑んだ。
初日に40階層まで到達した彼らは、二日目である今日、たった一日で第41階層から第80階層までの【40階層分】を一気に駆け抜けるという、前代未聞のRTAを達成していたのである。
「よし! 極上の海鮮(マグマ鮮)もたっぷり手に入ったし、今日の探索はここまでだ! 迎賓館に帰って、太一たちに報告がてら大宴会を開くぞ!!」
「「「オォォォォォォォッッ!!!!」」」
一切の疲労感を見せないまま、彼らは意気揚々と転移結晶を掲げ、アルカディア王国へと帰還していった。
***
その夜。
アルカディア王国の『星繋ぎの迎賓館』、最上階の大宴会場。
「……は? お前ら、今日一日で第80階層まで行った……?」
円卓の席についた魔王ゼノン(田中太一)が、持っていたジョッキを落としそうになりながら素っ頓狂な声を上げた。
「おいおいおい! 昨日40階層だったよな!? ウチの精鋭部隊が今日一日がかりでやっと12階層の罠を抜けたって報告してきたところだぞ!? お前らの攻略速度、バグってんのか!?」
「おう太一。バグってねえよ、ただの『直線ダッシュ』だ。匂いのする方へ真っ直ぐ走って、立ち塞がるカニとかイカを捌いただけだからな」
トウヤが、厨房から巨大な中華鍋を振りながら、あっけらかんと答える。
「カニとかイカを捌いただけ、って……。第80階層の中ボスなんて、国一つ滅ぼせるレベルの神話級モンスターだぞ……」
太一が頭を抱えて円卓に突っ伏す。
「ガッハッハ! 魔王殿、細かいことは気にするな! それよりも、今日の戦果を味わおうではないか!」
ガレスが、豪快に太一の背中を叩く。
「さあ、みんなお待たせ! 今日のメインディッシュだ!!」
トウヤの声と共に、メイドたちが次々と大皿を運んできた。
**【本日の極上フルコース・魔国海鮮編】**
* **前菜:** 第60階層産『ヴォルカニック・クラーケンのピリ辛バター醤油焼き』
* **スープ:** 『マグマカニ味噌の濃厚スパイシー・ビスク』
* **メインディッシュ:** 第80階層中ボス『灰燼の魔大蟹』を丸ごと使った、【究極の神話級・シンガポール風チリクラブ】〜ミズホ産特製マントウ(揚げパン)を添えて〜
「「「ウオォォォォォォォォォッッ!!!!」」」
テーブルの中央にドカンと置かれたのは、燃えるような赤いチリソースをたっぷりと纏った、超巨大な蟹の爪と身の山であった。
ニンニク、生姜、そして魔国特有の『神話級の香辛料』が混ざり合った、食欲の限界を突破させる強烈な香りが宴会場を満たす。
「な、なんじゃこの暴力的な匂いはァァァッ!!」
ヴィルヘルム国王が、たまらず魔大蟹の爪を掴み、たっぷりとチリソースを絡めてガブリと噛み付いた。
「……ッッ!! む、むほォォォォッ!!」
国王の目がカッと見開かれる。
「プリップリで甘みの強い蟹の身に、卵と香辛料が溶け込んだドロドロの旨辛ソースが絡みついて……!! 噛むたびに蟹の旨味と、魔界のスパイスが口の中で大爆発を起こしておる!! カラい! でも美味い!! 止まらんぞォォォッ!!」
「陛下! このソースに、カイト殿が作った『揚げパン』をつけて食べるとさらにヤバいですぞ!!」
ガルド宰相が、チリソースをたっぷりと吸わせたパンを頬張りながら、感動の涙を流している。
「サクッとしたパン生地から、蟹の出汁とスパイスの刺激がジュワァァッと溢れ出して……!! 私の脳内が、灼熱の楽園へと昇天しておりますゥゥッ!!」
「ヒャッハー! こっちのイカバターも最高だぜ! 弾力がハンパねえのに、歯を立てるとスッと噛み切れて、ピリッとした辛さがビールを無限に要求してきやがる!!」
ジンが、ジョッキを片手に狂喜乱舞している。
「はふっ、はふっ……蟹の身が、甘くて、辛くて……お嬢様の作法など、もうどうでもいいですわ!!」
エリスも、両手をチリソースで真っ赤にしながら、カニの殻を素手で割り、無我夢中で極上の身にしゃぶりついている。
「……うめえ。マジでうめえ」
太一も、自国のダンジョンで採れたカニを無心で頬張っていた。
「魔界にこんな美味いもんが眠ってたなんて……。トウヤ、お前がいなかったら、俺たち一生この味を知らずに生肉齧ってたとこだよ」
「本当っすよ。トウヤさんの料理とこのチリソース、俺の持ってるどんなレーションより致死量(カロリーと幸福度)高いっす」
ミリオタのケンタも、コーラをガブ飲みしながらカニ爪にかぶりつく。
「わふぅぅん(幸せだ)……」
「ぷるるっ(ソース全部舐めちゃう)!」
テイムモンスターの三匹も、チリソースのついた皿をピカピカになるまで舐め回し、至福の表情でひっくり返っていた。
「ははっ、みんな喜んでくれて何よりだ」
トウヤは、自身も揚げパンにたっぷりとカニ味噌とチリソースを乗せて頬張りながら、満足げに笑った。
「環境が変われば、スパイスも食材の味もガラリと変わる。魔国の迷宮、本当に最高の【グルメスポット】だぜ。……よし! 明日は残りの20階層を一気に駆け抜けて、第100階層の大ボスの肉を狩りに行くぞ!!」
「「「オォォォォォォォッッ!!!!」」」
灼熱の迷宮をただの「買い出しコース」として蹂躙し、夜は極上のスパイス料理で世界最高の大宴会を開く。
悠久の踏破者たちのデタラメすぎる『ご当地グルメツアー』は、明日いよいよ魔国の最深部へと到達すべく、最高の盛り上がりを見せながら夜更けまで続いていくのであった。




