第197話:魔国ダンジョンRTAと、激辛スパイスの極上大宴会
### 第197話:魔国ダンジョンRTAと、激辛スパイスの極上大宴会
絶対同盟の各国に、創造神からのプレゼントである『専用の迷宮』が出現してから数週間。
世界一の美食家パーティー『悠久の踏破者』は、次なる未知の美味を求め、第一回のグルメツアー先として選んだ【地底魔国】へと降り立っていた。
魔王城の地下深くにポッカリと口を開けた、全100階層規模の巨大迷宮――『深淵の魔食窟』。
「(おおっ……! アルカディアの迷宮とは、空気が全然違うな!)」
トウヤが、迷宮の入り口に立った瞬間、熱気を帯びた空気を胸いっぱいに吸い込んで目を輝かせた。
「(マグマの匂いと……硫黄、それに何か強烈に食欲をそそる『香辛料』の香りが混ざってる。こりゃあ、期待できそうだぜ!)」
「(ガッハッハ! 魔国の迷宮だけあって、浅い階層からすでに灼熱地獄というわけじゃな!)」
ガレスが、自身の周囲に冷気結界を纏いながら豪快に笑う。
「(皆様、魔王ゼノン様のお話によれば、この迷宮の魔物たちは極限の熱に耐えるため、独自の進化を遂げているそうですわ。どんなお肉が採れるのか、楽しみですの!)」
エリスが、大剣を抜いてヨダレを拭う。
アルカディアの大迷宮を100階層まで完全踏破した彼らにとって、新しい迷宮への挑戦は「死と隣り合わせの冒険」などではなく、「初めて行く超大型スーパーマーケットでの買い出し」に等しかった。
「(よし! 目標は『超耐熱・魔界牛』と『激辛スパイス』の回収だ! ボックスがいっぱいになるまで駆け抜けるぞ!!)」
「「「いただきます(オォォォォォォッ)!!!!」」」
トウヤの号令と共に、悠久の踏破者たちは猛烈な勢いで『深淵の魔食窟』へと突入していった。
***
彼らの攻略速度は、もはや「探索」と呼べるような代物ではなかった。
完全なる【蹂躙】である。
『ブゴォォォォォッ!!』
第10階層。燃え盛る大剣を構えた『魔界・獄炎のミノタウロス』が立ち塞がる。
「(ジン! あれ、筋肉の中に極上の『唐辛子成分』が練り込まれた特殊個体だ! 刺激を逃すな!)」
「(ヒャッハー! 任せとけトウヤ! 【幻影歩法・無振動カッティング】!)」
ジンが神速で背後に回り込み、ミノタウロスが振り向くよりも早く、その急所を一切の振動を与えずに切断する。
『ギシャァァァァッ!!』
第20階層。マグマの海から飛び出してきた『マグマ・サーペント(溶岩蛇)』。
「(ルミナ、マリア! 蛇がマグマに潜る前に冷やし固めろ!)」
「(【絶対零度・瞬間冷却】!!)」
「(エリス、そのまま三枚おろしだ!)」
「(お任せを! 極上の溶岩焼き肉、いただきますわ! 【渾身撃・無振動の三枚おろし】!)」
魔国の迷宮特有の「灼熱」や「毒煙」といったギミックは、ルミナとマリアの極大結界によって完全に無効化され、現れる魔物たちは、神話級の武具と無振動歩法を極めた前衛陣によって、次々と「部位ごとの最高級ブロック肉」へと変えられていく。
「(よし、第30階層のセーフエリア到達! トウヤ様、この階層で『魔界・激辛レッドペッパー(神話級の香辛料)』を大量に発見しましたわ!)」
「(でかしたエリス! 根こそぎ刈り取ってボックスへぶち込め!)」
彼らは、魔物が現れれば瞬殺し、珍しい香辛料や果実を見つければ歓声を上げて収穫した。
迷宮の階層を下る速度は、通常の冒険者が一生かけて進む距離を【わずか数十分】で駆け抜けるという、常軌を逸したレコード(最速記録)を叩き出していたのである。
***
そして、その日の夜。
アルカディア王国の『星繋ぎの迎賓館』、最上階の大宴会場。
「……おいトウヤ。お前ら、今日一日で『深淵の魔食窟』の第40階層まで到達したって、マジなのか……?」
円卓の席についた魔王ゼノン(田中太一)が、引きつった顔でトウヤに尋ねた。
「俺の国の軍団が、死に物狂いで訓練してようやく10階層を越えたところだぞ!? なんで初見の迷宮を、散歩みたいなペースで半分近くまで制覇してんだよ!!」
「おう太一。初見って言っても、ギミックのパターンはアルカディアの迷宮と似たようなもんだしな。俺の【匂いセンサー】で最短ルートを突っ走れば、迷うこともないからサクサク進んだぜ」
トウヤが、厨房から巨大な中華鍋を振りながら笑顔で答える。
「サクサク進むな! 神様がウチの国にくれた100階層の超難関ダンジョンだぞ!? もう少しこう、苦戦するとか、冒険のロマンとか……!!」
「まあまあ太一殿! ロマンより何より、まずはこの素晴らしい料理を見てくだされ!!」
ガルド宰相が、興奮した様子でゼノンの肩をバシバシと叩く。
メイドたちによって円卓に運ばれてきたのは、トウヤが今日一日で魔国ダンジョンから収穫してきた『未知の激辛食材』を使った、極上のフルコースであった。
「さあ、みんな食ってくれ! 本日のメインは……第40階層の中ボス『ヘルファイア・ボア』の極上肉を使った、【魔界風・超絶激辛麻婆豆腐】と、【獄炎ミノタウロスのスパイシー・ステーキ】だ!!」
「「「ウオォォォォォォォォォッッ!!!!」」」
ジュァァァァァァッ!! という食欲を暴力的に掻き立てる音と共に、鉄板に乗せられたステーキと、グツグツと煮えたぎる真っ赤な麻婆豆腐が配られる。
「ひぃぃっ! 見るからに辛そうですが……匂いが、匂いが理性を吹き飛ばしますぞ!!」
ヴィルヘルム国王が、スプーンで麻婆豆腐をすくい、震える手で口へと運んだ。
「……ッッ!! カ、カラァァァァッ!!? ……いや、違う!! 辛さの奥から、数百年煮込んだような深みのある肉の旨味と、魔力のエキスが脳天を突き抜けていく!! な、なんじゃこの美味さはァァァッ!!」
国王は、火を吹きそうな顔になりながらも、スプーンを持つ手が止まらない。
「ガッハッハ! この『獄炎ミノタウロス』のステーキも最高じゃ!! 肉自体がスパイスの風味を内包しておって、噛むたびに肉汁と刺激が口の中で弾けおるわ!! ビールが、エールが無限に進むぞォォォッ!!」
ガレスが、顔を真っ赤にして汗を滝のように流しながら、ジョッキを何杯も飲み干している。
「はふっ、はふっ……辛いですわ! でも、トウヤ様の作ったご飯は……辛いのに、どうしてこんなに幸せな気持ちになるんですのォォッ!!」
エリスも、美しい顔を汗まみれにしながら、大盛りご飯に麻婆豆腐をかけて掻き込んでいる。
テイムモンスターの三匹も、「ギャウゥゥ(辛いけど美味い)!!」「オンッ(水くれ)!!」と悶絶しながらも、皿をピカピカに舐め回していた。
「……やべえ。トウヤ、お前の料理、マジでチートだわ……」
魔王ゼノン(太一)も、自国の迷宮で採れた食材が、同郷の友の手によってここまで究極の料理に昇華されたことに、ただただ感動の涙を流してステーキを頬張っていた。
「魔界の連中、ずっと『肉は生か黒焦げ』で食ってたからな……。この麻婆豆腐を魔界の兵士に食わせたら、美味すぎて士気がカンストして世界征服とか言い出しかねないぞ」
「ははっ、平和になったんだから世界征服は勘弁してくれよ」
トウヤは、自身も麻婆豆腐を白いご飯に乗せて食べながら、満足げに笑った。
「でも、やっぱり環境が違うと食材の味も全然違うな。魔界のダンジョン、想像以上に最高の【スパイスの宝庫】だぜ。……よし、明日は第41階層から一気に下層を目指して、大ボスの肉を狙うぞ!」
「「「オォォォォォォォッッ!!!!」」」
悠久の踏破者たちの底なしの胃袋と探求心は、決して満たされることはない。
毎日迷宮で最速記録を叩き出し、夜には迎賓館で大宴会を開く。
神が与えた新たなダンジョンすらも、彼らにとっては「毎日通える極上の食材ビュッフェ」に過ぎなかった。
激辛と極上の旨味が交差する、笑い声に満ちた大宴会。
平和になった世界で、最強の美食家たちによる『世界ダンジョン・グルメツアー』は、まだまだ最高の盛り上がりを見せながら続いていくのであった。




