第196話:大迷宮踏破後の『重大な議題』と、果てしなき美食の世界ツアー
### 第196話:大迷宮踏破後の『重大な議題』と、果てしなき美食の世界ツアー
『星繋ぎの迎賓館』の最上階。
かつては絶対同盟の国王たちが額を集め、世界の命運を左右する同盟会議を行っていた円卓会議室に、今日は甘く香ばしい匂いが充満していた。
円卓の中央に鎮座しているのは、国を動かすような重要書類や世界地図ではない。
トウヤが腕によりをかけて作り上げた【第100階層産・究極食材のフルコース・アフタヌーンティーセット】である。
「よし、みんな揃ったな」
トウヤが、淹れたての『神話級・世界樹の紅茶』をメンバーのカップに注ぎながら、円卓の上座(という名のただのキッチン側)に腰を下ろした。
円卓を囲むのは、『悠久の踏破者』の六人と三匹。
ガレスはすでに『神バハムートのしっぽ肉の極厚カツサンド』をビールで流し込んでおり、エリスとルミナは『時空果実の特製フルーツタルト』に目を輝かせ、ジンとマリアも『次元白鯨の燻製ジャーキー』をつまみながらリラックスしきっていた。
足元では、巨大スライム、神話級フェンリル、飛竜の三匹が、トウヤの作った特製ペット用おやつ(といっても王族がひっくり返るレベルの高級肉)をバクバクと頬張っている。
「今日は、俺たち『悠久の踏破者』の【今後の活動方針】について、真面目に会議をしようと思って集まってもらった」
トウヤが、カツサンドを齧りながら切り出した。
「(今後の活動方針、じゃと?)」
ガレスが、ジョッキを置いて髭を拭う。
「(うむ。我らはすでに大迷宮の100階層を完全踏破し、世界に平和をもたらした。絶対同盟の物流(出前ルート)も、サイラスやファルコンたちの配達部隊が完璧に回しておる。……となれば、ワシら自身は『もう迷宮に潜る理由がない』のではないか、という話か?)」
「そういうことだ」
トウヤが頷く。
「最初は『安全で美味いキャンプをするため』に深層を目指してたわけだけど、100階層まで制覇しちまったし、神様のおかげで世界中が食い物で溢れてる。……ぶっちゃけ、俺たち、もう【アガリ(ゲームクリア)】を迎えちまってるんだよな」
冒険者としての究極の目標を達成し、巨万の富を得て、世界中から英雄として崇められている彼ら。普通の物語であれば、ここで豪邸を建てて引退するか、どこかの要職に就いてスローライフを送るのがセオリーである。
しかし。
円卓を囲む『最強の美食家たち』の反応は、トウヤの予想を遥かに超えて……いや、いつも通りであった。
「(トウヤ様。一つ、重大な認識のズレがございますわ)」
エリスが、タルトのクリームを上品に拭いながら、真剣な(そして少しヨダレを垂らした)表情で口を開いた。
「(大迷宮を一度踏破したからといって、迷宮の食材が尽きるわけではありません。迷宮のボスは『一定期間でリポップ(再出現)』します。しかも……季節や魔力溜まりの状況によって、リポップするボスの【肉質】や【脂の乗り具合】が変化するという文献を、私は王家の大図書館で読んだことがありますわ!!)」
「「「な、なんだってェェェェッ!?」」」
トウヤとジンが同時に立ち上がった。
「(つまり……秋に行けば『秋の味覚に染まった霜降りミノタウロス』が、冬に行けば『極寒を耐え抜いて脂を溜め込んだ寒ブリ仕様の海竜』が湧くかもしれないってことか!?)」
トウヤの目が、狂気的なまでの探求心でギラリと光る。
「(ヒャッハー! そりゃヤベェぜ!! 一度食ったからって満足してる場合じゃねえ! リポップボスの『旬』を逃すなんて、美食家(冒険者)の恥ってもんだ!)」
ジンが双短剣を鳴らしながら興奮してテーブルを叩く。
「(待て待て、それだけではないぞ!)」
ガレスが、円卓の上にバンッ! と巨大な羊皮紙の地図を広げた。
それは、先日『迷宮神』がデタラメに世界中へプレゼントした【各国の新迷宮の分布図】である。
「(神が絶対同盟の各国に与えた新たな迷宮。帝国や魔国には100階層規模のものが生え出しておる。……お前たち、あの中の生態系が『アルカディアの大迷宮』と全く同じだと思うか?)」
ガレスの言葉に、全員がハッとして息を呑んだ。
「(環境の違い……!)」
トウヤが戦慄したように呟く。
「(魔国の地下にできた迷宮なら、魔界特有のスパイスを食べて育った『激辛仕様の魔獣』がいるかもしれない! エルフの森の迷宮なら、高濃度の精霊力を吸った『超絶フルーティーな神話級果実』が採れるかもしれないってことか!!)」
「(その通りですわ!!)」
ルミナとマリアも身を乗り出して賛同する。
「(トウヤさんの作るお料理は最高ですが、食材のバリエーションは無限大です! 私たち、世界中の新しい迷宮をツアーして、その土地ならではの『ご当地・神話級食材』を味わってみたいです!)」
テイムモンスターの三匹も、「ギャウギャウ!(行こうぜ!)」「オンッ!(新しい肉!)」と尻尾を振って大賛成の意を示している。
トウヤは、熱狂する仲間たちの顔を見渡し、そして……フッと、こらえきれない笑みをこぼした。
「……ははっ。あーあ、俺がバカだったよ。引退だのアガリだの、らしくないこと考えちまった」
トウヤは立ち上がり、全員のカップに再び紅茶を注いで回った。
「世界を救う義務も、無理して最前線を開拓するプレッシャーも、もう俺たちにはない。……だったらこれからは、誰にも縛られず、ただ純粋に【俺たちの食欲を満たすためだけ】に、この世界中を遊び尽くしてやろうぜ」
「「「ウオォォォォォォォォォッッ!!!!」」」
円卓会議室が、かつてないほどの一体感と歓喜の咆哮で揺れた。
「よし! 今後の『悠久の踏破者』の活動方針は以下の通りとする!!」
トウヤが、ホワイトボード(拠点創造で出したもの)にペンを走らせる。
### 【悠久の踏破者・今後の活動方針(という名の果てしなき欲求)】
* **第一項:『旬』の食材ハンティング**
* アルカディア大迷宮のボスがリポップする周期を計算し、最も脂が乗る『旬の時期』を狙ってピンポイントで深層へダイブし、極上の状態で収穫(討伐)する。
* **第二項:絶対同盟・新迷宮グルメツアー**
* 帝国、魔国、ミズホの国など、各国の領土に出現した新たな迷宮へ赴き、その土地特有の環境で育った『ご当地モンスター(未知の食材)』を乱獲する。
* **第三項:未開の大地(海・空)の開拓**
* 迷宮だけでなく、世界の外洋や未知の空域にも足を伸ばし、まだ見ぬ『伝説の巨大海鮮』や『幻のスパイス』を探し求める。
「……完璧ですわ。私たち『悠久の踏破者』は、今日から【世界最強のグルメ・ツーリスト】として生まれ変わるのですわね!」
エリスが、誇らしげに胸を張る。
「ガッハッハ! そうと決まれば、さっそく明日の朝から出発じゃ! まずはどこへ行く、トウヤ!?」
ガレスが大盾を磨き始める。
トウヤは、世界地図を眺めながらニヤリと笑った。
「そうだな……。最近、ゼノン(魔王)が『うちのダンジョン、環境がマグマだらけで暑苦しいんだよ』って愚痴ってたからな。……間違いなく、極限の熱に耐えるために旨味を閉じ込めた『超耐熱・魔界牛』みたいなのがいるはずだ」
「「「魔界の極上焼肉ッッ!!!」」」
「よし、第一回・世界ダンジョン・グルメツアーの行き先は【地底魔国・深淵の魔食窟】に決定だ! 準備しろお前ら! アイテムボックスはすっからかんにしておけよ!!」
「「「了解ッッ!!!!」」」
世界の危機は去り、迷宮の底は打たれた。
しかし、彼らの底なしの胃袋と探求心が満たされることは永遠にない。
『悠久の踏破者』――かつて大迷宮を食い破った最強の美食家パーティーは、次なる未知の美味を求めて、平和になった世界へ意気揚々と新たな一歩を踏み出していくのであった。
(果てしなき飯テロの旅は、まだまだ続く……!)




