第193話:【閑話】神域のバカンスと極上フルコース、そして忘れ去られた毒使い
### 第193話:【閑話】神域のバカンスと極上フルコース、そして忘れ去られた毒使い
大迷宮の完全踏破、そして神によるデタラメな世界改変から数週間。
世界中が新たな迷宮の出現と出前ルートの開拓に沸き返る中、その元凶にして最大の功労者である『悠久の踏破者』の六人と三匹は、アルカディア王国に実体化した超巨大テーマパーク『迎賓館リゾート・魔改造アミューズメント』にて、久々の「長期休暇」を満喫していた。
「ガッハッハ!! 来るがいい、超重力ピッチングマシンよ!! ワシの大盾で全て打ち返してくれるわ!!」
「ヒャッハー! 次は『次元もぐら叩き』だぜ! 時空の歪みから出てくるモグラの頭を、コンマ一秒で見切って叩く! 最高の動体視力ゲームだな!」
「皆様、お次はその『超絶・隕石避けアスレチック』に行きましょう! 迫り来る火球を剣圧だけで相殺しながら頂上を目指すなんて、ワクワクしますわ!」
ネオンが煌めくアミューズメントパークのあちこちで、常人なら一瞬でミンチになるような神話級のアトラクションを、英雄たちが満面の笑みで粉砕していく。
彼らにとっては「ただの遊び」であり「バカンス」なのだが、端から見ればそれは完全に【狂気の限界突破特訓】であった。
「……あいつら、休暇って言ってるのに結局やってることは100階層の戦闘と同じじゃねえか」
トウヤは、特設された屋台ブースでポップコーンを片手に、仲間たちのデタラメな遊びぶりを呆れたように笑って眺めていた。
ルミナとマリアも「私たちはあちらの『魔法反射ドッジボール』で遊びますわ!」と、極大結界を張りながら光弾を投げ合っている。平和になった世界でも、彼らの強さへの探求心(と胃袋の容量)は留まることを知らないようだ。
「まあいいさ。たっぷり遊んで(特訓して)、腹を空かせてもらった方が、今日のディナーの作り甲斐があるってもんだからな」
トウヤは屋台の裏に設置した『拠点創造』のキッチンカーへ戻り、今宵の大宴会に向けた究極の仕込みを再開した。
***
【究極の祝宴と、五人の転生者たち】
その夜。
『星繋ぎの迎賓館』の最上階、大宴会場。
そこには、絶対同盟を牽引する各国の国王たち、悠久の踏破者の一行、そしてトウヤと同じくチキュウからこの世界へとやってきた【五人の転生者たち】が巨大な円卓を囲んでいた。
トウヤ、魔王ゼノンこと田中太一、ミリオタのケンタ。
そして、和の国ミズホを牽引し、現代知識を駆使してこの異世界に『醤油』や『マヨネーズ』などの調味料を甦らせた賢者・カイト。
最後に、チート能力も戦闘スキルも一切持たずに転生してしまい、一時は路頭に迷いかけたものの、トウヤの作る「ハンバーガー」や「コーラ」といったジャンクフードに救われ、今や絶対同盟の安全圏で悠々自適に暮らしている非戦闘員の青年・シュン。
彼ら五人の転生者たちは、目の前に運ばれてきた「異常な輝きを放つ料理」を前にして、ゴクリと喉を鳴らしていた。
「さあ、みんな! 迷宮完全踏破と世界平和を祝して、今日は俺たちの手に入れた【究極の神話級食材】をフルコースで振る舞うぜ!!」
トウヤが高らかに宣言し、メイドたちが次々と大皿のカバーを開けていく。
**【本日の極上フルコース・メニュー】**
* **前菜:** 99階層産『時空猪の超熟成生ハム』と『次元白鯨の瞬間燻製ベーコン』の盛り合わせ
* **スープ:** 98階層産『極星の重力竜』を数日かけて煮込んだ、超圧縮・濃厚ビーフシチュー
* **メインディッシュ:** 100階層ラスボス『神バハムート』の究極全部位シャトーブリアン・ステーキ 〜ミズホ産・特製焦がしニンニク醤油と究極マヨネーズを添えて〜
「……ひぃっ! な、なんじゃこの生ハムはァァァッ!!」
ヴィルヘルム国王が、前菜を一口食べた瞬間に椅子から転げ落ちた。
「口に入れた瞬間、時間が巻き戻るような若々しい脂の甘みと、数百年熟成されたような圧倒的な旨味が同時に爆発しておる!! 美味すぎる……美味すぎるぞォォォッ!!」
「こっちのビーフシチューもヤバいですよ陛下!!」
ガルド宰相が、涙と鼻水を流しながらスープ皿に顔を突っ込んでいる。
「重力で極限まで圧縮されたお肉が、舌の上でフワァッと星雲のように解けていく……!! 私の脳内宇宙がビッグバンを起こしておりますぞォォォッ!!」
絶対同盟のトップたちが料理の美味さに発狂する中、転生者たちもまた、故郷の味付けが施されたメインディッシュの前で完全に言葉を失っていた。
「……なぁ、トウヤ」
魔王ゼノン(太一)が、ラスボスのシャトーブリアンを口に運び、あまりの美味さにポロポロと涙を流しながら呟く。
「俺たち、異世界転生してチート能力もらったから、てっきり自分が主人公だと思ってたんだよ……。でも違った。本当の主人公は、飯で世界を救ったお前だよ」
「本当っすよ……」
ケンタも、ステーキのあまりの柔らかさに震えている。
「銃火器スキルとか、全部『美味いステーキとニンニク醤油』の前じゃただの前座でしたね。俺、一生トウヤさんの出前食べて生きていきます」
「トウヤ……いや、トウヤ神……!!」
和の国ミズホの賢者カイトが、ステーキに自国で作ったマヨネーズをつけながら天を仰いだ。
「俺が苦労して再現したマヨネーズと醤油が、第100階層のラスボス肉と組み合わさることで、ついに『宇宙の真理(究極のジャンクな美味さ)』に到達した……!! 俺の異世界ライフは、今日この日のためにあったんだ……!!」
「うめぇぇぇぇっ!! なんだこれ!! やべぇぇぇぇっ!!」
非戦闘員のシュンは、語彙力を完全に喪失し、ラスボスの極上ステーキをハンバーガーのバンズに挟んで、コーラで一気に流し込んでいた。
「俺、チートも魔法もないハズレ転生かと思って絶望してたけど……トウヤの作ってくれるジャンクフードが食えるなら、もう戦えなくたって全然構わねえ!! 平和な世界で美味い飯食えるのが、一番のチートだぜ!!」
「ガッハッハ! トウヤの飯の前では、魔王も賢者もただの『腹ペコ小僧』じゃな!」
「ヒャッハー! 今日は遠慮しねえぜ! 肉のおかわりだトウヤ!!」
「私にもシャトーブリアンをもう一枚! あと、カイト殿のマヨネーズももっとお願いしますわ!」
悠久の踏破者の面々も、テイムモンスターの三匹(巨大スライム、フェンリル、飛竜)も、山のように積まれたラスボスの肉をブラックホールのような胃袋へ次々と吸い込んでいく。
争いのない世界で、最強の仲間たちと、故郷の同郷人たちと共に囲む究極の食卓。
神すらも特等席で涎を垂らして見守るその大宴会は、夜が更けても終わる気配を見せず、至福の笑い声が王都の空高くへと響き渡り続けていた。
***
【忘れ去られた六人目の転生者】
――その頃。
光り輝く宴会場から遥か下、アルカディア王国地下の最下層にある【重犯罪者用・特別地下牢】。
湿った冷たい風が吹き抜ける薄暗い石造りの牢獄の中で、ボロボロの囚人服を着た一人の男が、膝を抱えてガタガタと震えていた。
彼こそが、トウヤたちよりも後からこの世界へ召喚された【六人目の転生者】であり、最凶の毒使いチートを与えられた男・シオンであった。
彼は召喚されるや否や、世界の覇権を狙うバルロワ帝国に与し、迷宮の水源を猛毒で腐らせるなどの卑劣な陰謀を巡らせて絶対同盟を崩壊させようとした。
しかし、彼が「最強の毒」と自負していた陰謀は、出前ルートの安全確保に燃える元暗殺者・サイラスとファルコン率いる配達部隊によってあっさりと看破され、戦闘の末に「出前の邪魔をするクズめ」と無振動歩法による神速の物理攻撃でボコボコにされ、そのままアルカディアの地下牢へと叩き込まれた哀れな男である。
そして彼を雇っていたバルロワ帝国も、絶対同盟に逆らった結果、飯の美味さと時代の変化に取り残されて自滅し、滅亡してしまった。
「……くそっ。……くそぉぉぉっ……!」
シオンは、鉄格子の隙間から差し込む僅かな月明かりの下で、カチカチに硬くなった黒パン(保存食)を涙ながらに齧っていた。
「俺は……俺は最強の毒使いとして、この世界を裏から支配するはずだったんだぞ……! どうしてただのウー〇ー配達員にボコボコにされて、こんな地下牢で黒パンなんか齧ってなきゃならないんだ……!」
ガリッ、と黒パンを噛む音が、虚しく地下牢に響く。
彼の耳には、遥か上空の迎賓館から、微かに陽気な音楽と、世界を救った英雄たちの楽しげな笑い声が聞こえてきていた。
「なんで……なんで俺だけこんなところに……。あの『トウヤ』とかいうふざけた飯炊き男が……!」
彼は知らない。
自分が地下牢で腐っていた間に、かつて彼が見下していた「ただの料理好きの男」が、最強の仲間を率いて大迷宮を完全踏破し、世界中の国々を「絶対同盟」として統一し、ついに創造神から世界の平和を祝福されたことを。
そして、他の転生者たち(太一やケンタ、カイト、さらには非戦闘員のシュンまでも)が、トウヤの作った『神バハムートのシャトーブリアンステーキ』を食べながら、至福の涙を流して大宴会を楽しんでいることを。
「あぁ……なんか、すげえ良い匂いが降ってくる……。肉だ……極上の肉を焼く匂いと、焦がしニンニク醤油の匂いが……」
換気扇のダクトを通じて、宴会場から漂ってきた【世界最高の飯テロの匂い】が、シオンの鼻腔を容赦なく直撃する。
「うぅ……ぐすっ……肉、食いてぇ……。毒なんかもうどうでもいいから、俺も、そっちの宴会に混ぜてくれよぉぉぉ……」
チキュウからの六人の転生者たち。
五人が極上の美食と仲間に囲まれて異世界ライフの頂点を極める中。
ただ一人、自らの悪意と傲慢さゆえに敗北し、バルロワ帝国と共に完全に存在を忘れ去られた六人目の転生者・シオンは、カチカチの黒パンを塩辛い涙で濡らしながら、永遠に来ることのない出前を待ち続けるのであった。




